二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~

魔法少女どま子

簡単に死ぬなんて言うな

 周囲では何人かの警察官が徘徊を始めていた。

 手にライトを持ち、無線機で連絡を取り合いながら、高城絵美を発見せんと警戒を張っている。 

 俺と高城は物陰で息を殺しながら、奴らが去るのを待った。

 住居と住居の間、かなり狭いスペースではあるが、ここなら多少の時間稼ぎができるはずだ。それまでに安全な場所に行かなければならない。

「ね……ねえ」

 俺に手を繋がれたままの高城が、きょとんとしなかまら訊ねてくる。

「なんで逃げたの? いまの人って警察じゃないの?」

「たしかに警察だが……。落ち着いて聞いてくれ。おまえは今後、奴らに見つかったら殺されると思ってほしい」

「え……?」

 高城の目が大きく見開かれる。

 そう。
 警察組織はすでに、古山率いる「リベリオン」によって支配されている。

 それがここの地域のみなのか、はたまた全国の警察まで掌握されているのか……。そこまでは不明なるも、かなり逼迫していることに変わりない。

 思わず下唇を噛んだ。

 どうりでいつまでも事件が解決されないわけだ。本来一番に動くべきはずの警察がこの有様では、日本はもはや古山章三の思うままだ。

 その警察はいま、高城絵美を探すべく躍起になっている。おそらく彼女の死体処理を命じられていたのだろうが、その死体が見つからないために大慌てしているのだと思われる。

 高城はしばらくなにも言わなかった。あまりにも常識を外れた状況ではあるが、彼女もたしかに見たはずだ。あの黒い化け物を。そして、虚ろな表情で目を半開きにしている警官を。

「それって……私がいじめをしていたことと、関係あるのかな……?」

 もはや取り繕っても仕方あるまい。俺は無言で首肯すると、高城はきつく顔を歪め、
「そんな……」
 と呟いた。

 そこで俺は簡単に状況を説明した。リベリオンなる組織のこと、魔法のこと、次のターゲットが高城であること。

 ひとりの女子高生が背負うにはあまりにも残酷すぎる運命。
 リベリオンはやりすぎだ。
 これが奴らの望んでいることなのか。

 このままではーー高城絵美は確実に殺される。異世界の古山章三も早めに対処しておきたいところだが、死の恐怖に震えている高城を、冷たく突き放すわけにはいかない。実際にも彼女はいま、俺の手をきつく握りしめ、蒼白な表情できょろきょろと周囲を見渡している。

「安心してくれ。さっきも言っただろ? 俺が必ず守ってやるってよ」

「で……でも!」

 高城が小さいながらも張り詰めた声を発する。

「そんなことしたら、あなたも危ないでしょ。これ以上、誰にも迷惑かけられない。私、このまま死……」

 次の言葉を予期した俺は、きっと高城の目を見つめ返した。

「簡単に死ぬなんて言うな」

 思わず語気が強くなってしまった。高城がびくっと身を震わせる。

「おまえには罪がある。それを償わないといけない。このまますべてを投げ出して死ぬなんて、俺は許さない」

 重たい沈黙。

「だから……死ぬなんて、言わないでくれ」

 俺の手に繋がれたままの高城は、またもぶるぶると身を震わせーーやがて、瞳から一滴の滴を流した。

「……ありがとう。『吉岡くん』」

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