二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~
ちょっと待てこれは明らかにやばいぞ
目の前で女の子が泣いている。
いくらコミュニケーション能力が向上したといえど、こういう場面に疎い俺はあたふたするしかなかった。俺はどうすればいい……?
ーーあのバケモンが現れたことに心当たりはないか?
俺のこの質問が涙のきっかけだった。
やはり思い当たる節があったのだろう。高城絵美はなにも答えないまま、ひたすら無言で涙を流し続けている。
だが。
それを言うならば、彼女に虐げられ、時にはむせび泣いた女子生徒だっているはずだ。異世界での彩坂育美のように。
ある意味では当然の報いなのだ。高城を憎んでいる人からすれば、まだまだ彼女を苦しめないと気が済まないという人もいるかもしれない。その気持ちは俺にもわかる。
けれど。
やはり、だからといって殺される理由にはならない。彼女の哀惜の涙は本物だ。
放課後、俺が訓練に行こうとする前に、古山章三は言っていた。次のターゲットは高城絵美であると。今日中には始末すると。
警察なんかにはなにもできないよーーと不気味に笑う古山が嫌に印象に残っている。俺が動かなければ、高城絵美は今日にも殺される。それではあまりに寝覚めが悪い。
だから少々早めに訓練を済ませ、レベルが3になったところで戻ってきた。レベルが上がるシステムはごく簡単で、魔法を使用するか、同じ異能者に勝利することにより経験値が加算していくらしい。
「高城」
と俺は相手の目を見て言った。
「いままでおまえがやってきたことは、もちろん許されることじゃないし、あとできちんと謝罪してもらう。これで……すこしは弱い者の気持ちがわかったんじゃないか?」
こくりと頷く高城に、俺は続けて言った。
「なら、俺だけはおまえの味方だ。おまえが過去の過ちを認めて、きちんと謝るっていうんなら、俺はおまえを守る。絶対に死なせやしない」
しばらく沈黙が流れた。
ややあって、高城がうつむいたままぽつりと言った。
「私、許されるかな……」
「それは俺が決められることじゃないさ。けど、たとえ許されなかったとしても、俺だけはその気持ちを知ってる」
少々突き放した言い方だが、実際にも、高城はそれだけのことをしてきたのだ。ここはきっちり区別しておきたい。
「……ありがとう」
ささやくように呟かれた感謝の言葉。
俺はしっかりと頷いてみせると、人差し指を差しだし、彼女の目元から涙を拭ってやった。
「あ……」
わずかばかり頬を桜色に染めあげながら、高城はまたもうつむく。すこしは気持ちが落ち着いたようだ。
ーーそれにしても、だ。
勢いに任せて守ってやるなんて言ってしまったが、本当に俺にできるだろうか。
こうしている間にも、異世界での古山章三は刻一刻と強くなっている。早めに対処しないと、それこそ取り返しのつかないことになりかねない。だが、このまま高城を放って異世界に行ってしまえば、確実に殺される。
やっぱり、警察にでも保護してもらうのが一番だろうか。 
古山は警察にはなにもできない、なんて言っていたが、さすがに国全体の秩序を維持してきた組織には敵うまい。繰り返される失踪事件に関して、警察も神経を尖らせているはずだ。
ーーん?
瞬間、俺は言いようのない寒気に襲われた。あまりにもおぞましい予感が頭のなかを駆けめぐる。
そうだ。
失踪事件は連日のように発生しているにも関わらず、警察はほとんど動いていない。
ほとんど事件究明に至っていないというならば、現場周辺に厳戒態勢でも敷くのが当然の措置ではないのか。
それなのに俺は警察が学校周辺にいるのを見たことがないし、高城だって殺されるところだった。こんなときに奴らはなにをしているのか。
あまりにも巨大な事件に対して、ほとんどなにもしていない警察。そして、不気味に笑う古山の表情。
「なあ」
と俺は高城に問いかけた。
「あの化け物に追い回されて、警察には相談しなかったのか」
「……したよ。だけど、ほとんど聞いてもらえなかった。ずっと笑ってる感じで」
笑っているだと? 失踪事件が大きく取りざたされているのに?
「おーい、君たち、なにをしている」 
ふいに声が聞こえ、俺は思わずびくりとした。
振り向くと、そこには制服を着た警察官。
だが、ようすが尋常ではない。目を半開きにし、口から涎を垂らしているその姿は、どこかで見たことがある。
そう、まるで闇魔法に操られているかのようなーー
「ついてこい!」
瞬間、俺は高城の手を握り、走り出した。
かつての彩坂育美の言葉を思い出す。
ーーあなたは全人類の希望だったの。でも古山に殺されて……そこから先の未来は、もう思い出したくもないわーー
そこから先の未来。
まだ全貌は見えないものの、最悪の結末へ向けて、世界が音を立ててまわりはじめている気がした。
いくらコミュニケーション能力が向上したといえど、こういう場面に疎い俺はあたふたするしかなかった。俺はどうすればいい……?
ーーあのバケモンが現れたことに心当たりはないか?
俺のこの質問が涙のきっかけだった。
やはり思い当たる節があったのだろう。高城絵美はなにも答えないまま、ひたすら無言で涙を流し続けている。
だが。
それを言うならば、彼女に虐げられ、時にはむせび泣いた女子生徒だっているはずだ。異世界での彩坂育美のように。
ある意味では当然の報いなのだ。高城を憎んでいる人からすれば、まだまだ彼女を苦しめないと気が済まないという人もいるかもしれない。その気持ちは俺にもわかる。
けれど。
やはり、だからといって殺される理由にはならない。彼女の哀惜の涙は本物だ。
放課後、俺が訓練に行こうとする前に、古山章三は言っていた。次のターゲットは高城絵美であると。今日中には始末すると。
警察なんかにはなにもできないよーーと不気味に笑う古山が嫌に印象に残っている。俺が動かなければ、高城絵美は今日にも殺される。それではあまりに寝覚めが悪い。
だから少々早めに訓練を済ませ、レベルが3になったところで戻ってきた。レベルが上がるシステムはごく簡単で、魔法を使用するか、同じ異能者に勝利することにより経験値が加算していくらしい。
「高城」
と俺は相手の目を見て言った。
「いままでおまえがやってきたことは、もちろん許されることじゃないし、あとできちんと謝罪してもらう。これで……すこしは弱い者の気持ちがわかったんじゃないか?」
こくりと頷く高城に、俺は続けて言った。
「なら、俺だけはおまえの味方だ。おまえが過去の過ちを認めて、きちんと謝るっていうんなら、俺はおまえを守る。絶対に死なせやしない」
しばらく沈黙が流れた。
ややあって、高城がうつむいたままぽつりと言った。
「私、許されるかな……」
「それは俺が決められることじゃないさ。けど、たとえ許されなかったとしても、俺だけはその気持ちを知ってる」
少々突き放した言い方だが、実際にも、高城はそれだけのことをしてきたのだ。ここはきっちり区別しておきたい。
「……ありがとう」
ささやくように呟かれた感謝の言葉。
俺はしっかりと頷いてみせると、人差し指を差しだし、彼女の目元から涙を拭ってやった。
「あ……」
わずかばかり頬を桜色に染めあげながら、高城はまたもうつむく。すこしは気持ちが落ち着いたようだ。
ーーそれにしても、だ。
勢いに任せて守ってやるなんて言ってしまったが、本当に俺にできるだろうか。
こうしている間にも、異世界での古山章三は刻一刻と強くなっている。早めに対処しないと、それこそ取り返しのつかないことになりかねない。だが、このまま高城を放って異世界に行ってしまえば、確実に殺される。
やっぱり、警察にでも保護してもらうのが一番だろうか。 
古山は警察にはなにもできない、なんて言っていたが、さすがに国全体の秩序を維持してきた組織には敵うまい。繰り返される失踪事件に関して、警察も神経を尖らせているはずだ。
ーーん?
瞬間、俺は言いようのない寒気に襲われた。あまりにもおぞましい予感が頭のなかを駆けめぐる。
そうだ。
失踪事件は連日のように発生しているにも関わらず、警察はほとんど動いていない。
ほとんど事件究明に至っていないというならば、現場周辺に厳戒態勢でも敷くのが当然の措置ではないのか。
それなのに俺は警察が学校周辺にいるのを見たことがないし、高城だって殺されるところだった。こんなときに奴らはなにをしているのか。
あまりにも巨大な事件に対して、ほとんどなにもしていない警察。そして、不気味に笑う古山の表情。
「なあ」
と俺は高城に問いかけた。
「あの化け物に追い回されて、警察には相談しなかったのか」
「……したよ。だけど、ほとんど聞いてもらえなかった。ずっと笑ってる感じで」
笑っているだと? 失踪事件が大きく取りざたされているのに?
「おーい、君たち、なにをしている」 
ふいに声が聞こえ、俺は思わずびくりとした。
振り向くと、そこには制服を着た警察官。
だが、ようすが尋常ではない。目を半開きにし、口から涎を垂らしているその姿は、どこかで見たことがある。
そう、まるで闇魔法に操られているかのようなーー
「ついてこい!」
瞬間、俺は高城の手を握り、走り出した。
かつての彩坂育美の言葉を思い出す。
ーーあなたは全人類の希望だったの。でも古山に殺されて……そこから先の未来は、もう思い出したくもないわーー
そこから先の未来。
まだ全貌は見えないものの、最悪の結末へ向けて、世界が音を立ててまわりはじめている気がした。
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