二つの異世界で努力無双 ~いつの間にかハーレム闇魔法使いに成り上がってました~
【転章】 高城絵美
逃げていた。
急いで背後を振り返る。
得体の知れない黒い物体が、おそろしいスピードでこちらに迫ってくる。
あれの正体がなんなのか、私もよくわかっていない。今朝から私の周囲に身を潜めているようになり、時折こうして襲いかかってくる。
奴に捕らわれたら、いったいどうなるのか……
それを考えるだけで身の毛がよだつ。
黒いガスのような塊。その中央部分に、眼球らしき赤い光点が二つ。口らしきものは見当たらないが、今朝から何事かを呟いているように聞こえるのは気のせいではないだろう。
足の腱の悲鳴すらいとわず、私は無我夢中で走り続けた。
時刻は夜八時。
恐怖心をまぎらわすために友人と駄弁っていたら、思いがけず遅くなってしまった。
誰もいない暗い路地を、私だけが懸命に駆けていた。そうしないと殺される気がした。
「ネ……」
ふいに、背後の呟き声がボリュームを増した。
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!」
思いがけず鳥肌が立った。
まさに死霊の胴間声。やはりあいつは私を殺す気だ。
瞬間。
恐怖のあまり冷静さを失ってしまった。
地面に落ちていた空き缶を踏んでしまい、一気に体勢が崩れる。
「あーー」
嫌だ。
いま転びたくない。
ーー死にたくない。
しかし現実は残酷だった。うまく姿勢を立て直すことができず、私は膝から盛大に転んだ。
「シネシネシネ!」
奴の声が興奮の色合いを帯びた。
黒いガスの下部分に、口と思わしき赤い空洞が発生した。まさか生物のような器官を持っているのか、巨大な涎が、奴の進行方向とは逆向きに飛んでいく。
食われるーー!
私はぎゅっと目を閉じた。
もう暴れても仕方ない。死ぬのならせめて人間らしく逝きたいーー
そこまで覚悟を決めた。 
のだが。
目と鼻の先にまで「奴」が迫ってきたはずなのに、これ以上なにも起こらない。痛みが発生しないどころか、さきほどまで聞こえた呟きさえ聞こえなくなっている。
どうなってるーー? 
おそるおそる目を開けた瞬間、私は信じられないものを見た。
吉岡勇樹。
私のクラスメイトーー根暗だしあまり話したことはないがーーが、私と化け物の間に立ちふさがっていた。
吉岡は情けなく膝をついた私をちらと見やると、いつになく頼もしい声で言った。
「下がってろ高城」
「え……?」
私が問い返すよりも早く。
吉岡の周囲に、いくつもの光の粒子が発生した。
それらは吸い込まれるかのように吉岡の右腕に集まっていく。
あまりの輝かしさに、私はいまの状況をも忘れて見取れてしまった。
「はっ!」
かけ声とともに吉岡が右腕を突き出すと、突如放たれた光の可視放射が、黒い化け物を丸ごと呑み込んだ。
急いで背後を振り返る。
得体の知れない黒い物体が、おそろしいスピードでこちらに迫ってくる。
あれの正体がなんなのか、私もよくわかっていない。今朝から私の周囲に身を潜めているようになり、時折こうして襲いかかってくる。
奴に捕らわれたら、いったいどうなるのか……
それを考えるだけで身の毛がよだつ。
黒いガスのような塊。その中央部分に、眼球らしき赤い光点が二つ。口らしきものは見当たらないが、今朝から何事かを呟いているように聞こえるのは気のせいではないだろう。
足の腱の悲鳴すらいとわず、私は無我夢中で走り続けた。
時刻は夜八時。
恐怖心をまぎらわすために友人と駄弁っていたら、思いがけず遅くなってしまった。
誰もいない暗い路地を、私だけが懸命に駆けていた。そうしないと殺される気がした。
「ネ……」
ふいに、背後の呟き声がボリュームを増した。
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ!」
思いがけず鳥肌が立った。
まさに死霊の胴間声。やはりあいつは私を殺す気だ。
瞬間。
恐怖のあまり冷静さを失ってしまった。
地面に落ちていた空き缶を踏んでしまい、一気に体勢が崩れる。
「あーー」
嫌だ。
いま転びたくない。
ーー死にたくない。
しかし現実は残酷だった。うまく姿勢を立て直すことができず、私は膝から盛大に転んだ。
「シネシネシネ!」
奴の声が興奮の色合いを帯びた。
黒いガスの下部分に、口と思わしき赤い空洞が発生した。まさか生物のような器官を持っているのか、巨大な涎が、奴の進行方向とは逆向きに飛んでいく。
食われるーー!
私はぎゅっと目を閉じた。
もう暴れても仕方ない。死ぬのならせめて人間らしく逝きたいーー
そこまで覚悟を決めた。 
のだが。
目と鼻の先にまで「奴」が迫ってきたはずなのに、これ以上なにも起こらない。痛みが発生しないどころか、さきほどまで聞こえた呟きさえ聞こえなくなっている。
どうなってるーー? 
おそるおそる目を開けた瞬間、私は信じられないものを見た。
吉岡勇樹。
私のクラスメイトーー根暗だしあまり話したことはないがーーが、私と化け物の間に立ちふさがっていた。
吉岡は情けなく膝をついた私をちらと見やると、いつになく頼もしい声で言った。
「下がってろ高城」
「え……?」
私が問い返すよりも早く。
吉岡の周囲に、いくつもの光の粒子が発生した。
それらは吸い込まれるかのように吉岡の右腕に集まっていく。
あまりの輝かしさに、私はいまの状況をも忘れて見取れてしまった。
「はっ!」
かけ声とともに吉岡が右腕を突き出すと、突如放たれた光の可視放射が、黒い化け物を丸ごと呑み込んだ。
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