のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第48話:閑話 週末の冒険者ギルド

「オラァ!さっさと運べぇ!」

 野太い声がガチャガチャと金属音の響く部屋に響き渡る。

「親方!次が来ました!ワイルドボアの雄!結構でかいです!!!」
「滑車回せ!そいつは俺が捌く!お前はこれの後処理をやれ!」
「はい!了解しました!!!」

 親方と呼ばれた筋骨隆々な男は、腰に下げられた数々の包丁に手を掛けながら、滑車に取り付けられた巨大な釣針にぶら下がっている体長3メートルはあろうかと言うイノシシに対峙する。

「ふんっ」と一つ気合を入れた男は、腰にある包丁の中から特に大きく目を引く包丁を抜き放つ。

 鋭い輝きからその包丁が相当な切れ味を持っているのが見てとれる。
 普通の包丁と比べたらかなりの大きさをもっているそれを男はまるで手足のように扱い、瞬く間にそのイノシシを解体していった。

 五分とかからずにその巨体の解体を終えた男に、周りで作業している人たちは感嘆の声を上げるが、直ぐさま自分の任された仕事に戻る。

「親方ー!終わったー!」
「俺もー!」

 男が次の仕事に移ろうとした時、男だらけで血生臭いこの空間には似つかない若い、少年と少女の声が部屋に響いた。


 そう、その少年少女とは、騎士魔術学校メルティア初等部の一年生主席と次席の、カレア・クルスとクレア・クルスの二人だ。

「おう!相変わらず飲み込みが早く助かるぜ!次はこれを捌いてくれや。手順はその本に載ってるからな」
 男は、その厳つい顔に似合わない笑顔を浮かべて二人に指示を出す。
  
「はーい!」と元気よく返事した二人は、男が指差した魔物を一匹ずつ取っていき、黙々と本を開きながら解体を始めた。

 そんな二人の様子に男は満足そうに頷くと、再び作業を再開するのだった。





 少し変わって、冒険者ギルドの解体場からほど近くの部屋。大きな扉に選別室と書かれた場所では、女性の職員たちが額に汗をにじませながら走り回っていた。

「ヒトツメクサの選別終わりました!小さい方の袋がダメなものです!」
「分かったわ、大丈夫な方は調薬ギルド薬剤師どもに卸すから纏めておいてちょうだい」
「主任!マダラダケの選別も完了しました!こっちは全て大丈夫です!」
「そっちも同じようにお願い。あと「主任!この小瓶に入ってる物の鑑定お願いします!」またですか・・・いいわ。すぐ持ってきてちょうだい」

 軽く頭を押さえつつも、主任と呼ばれた女性職員は運ばれてきた小瓶をしげしげと見つめる。
 運ばれてきた小瓶は全部で五つあった。

『これは・・・また珍しい物を取ってきましたね。[樹木の火種]モリトウロウ[森の揺り籠]ネムリカゴの種が数個と、[森亀の背苔]チユゴケ[岩塩鹿の結晶角片]シオジカの削り塩が小瓶一つ。そして・・・これは[一角獣ユニコーンの馬毛]?この長さと量だと木に引っかかって抜け落ちたものかしら。やっぱり運がいいのね、あのお得意様ギルマスのお気に入りは』
「これとこれ。後これは調薬ギルド薬剤師どもに卸して。ぼったくれるだけぼったくるように」

 女性職員は、[森の揺り籠]ネムリカゴ[森亀の背苔]チユゴケが入った二つの小瓶を指さして周りに指示を出すと、残った三つの小瓶を手に取ると「ギルマスのところ行ってくるから少し任せるわよ」と言い残して部屋を出て行った。




 コンコンコン・・・と軽くドアがノックされる。

「ん?入れ」
 大きな机の上に積み上げられた書類の山と格闘していたアンドリューが顔を上げてそう言うと同時に部屋に入ってきたのは、選別室の主任を任せているエルフ族の女性、エールリッヒ・クレルスリエだった。

「失礼しますよ、ギルマス。ちょっとお話が」
「あー・・・あいつか、今度は何拾ってきた?」
[樹木の火種]モリトウロウ[岩塩鹿の結晶角片]シオジカの削り塩[一角獣の馬毛] ユニコーン     ですね。後ろ二つはどっちもAランク相当の魔獣の素材ですね。人前には滅多に出てこない魔獣の代名詞のような奴らの素材を二つ同時に・・・しかも、この岩塩鹿シオジカの角はかなりの年代物ですよ」
「うーむ・・・[一角獣の馬毛]ユニコーン     の方も色々と処理が面倒だが、あいつに聞いてもはぐらかされるだけなんだよなぁ。無理に聞き出そうとすると拗ねちまうし・・・まぁ、いつもどうりにオークションに出してくれ。落札価格の二割をあいつのギルド口座に振り込んどけばいいだろ」
「そんな適当でいいんですか?二割はちょっと少ないんじゃ、卸してもらえなくなりますよ?」
「あいつがお金はそこそこでいいって言ってたんだし構わんだろ」

 はぁ・・・と呆れたようにため息を吐くエールリッヒは、「何か機嫌取っといてくださいよ」と言うと呆れた表情のまま書類を取って部屋を出ていった。


 アンドリューはその後ろ姿を見送ると、再び書類との戦いを始めるのだった。











 その頃、話題の本人はと言うと・・・

「ねぇみんな、これ食べたら美味しいやつだよ。食べるー?」
 普段屋敷内で着ているゆったりとした服とは全く違う種類の角ばった感じのする暗い紺色の服を着こんで、表裏で迷彩柄と茶色に色が違うコートに身を包んで山菜やらキノコやらを採取していた。

『主ーここにいい匂いのするのが埋まってるよー』
「んー?ちょっと待ってね・・・おっ!これは、トリュフかな?」

 毒々しい赤色をしたキノコを[ストレージ]に放り込んでジンの方に歩み寄ってきたクロウは、慎重に地面を掘り返すと黒くごつごつとしたモノを取りだしてそう呟く。

『トリュフ?またそれかぁ』
「さぁ?ボクは食べないからわかんないけど、おじい様にでも上げればいいかな」

 クロウはそう言って立ち上がると、再び[ストレージ]を開いてトリュフらしき何かを放り込み、「さ、今日はまだまだ時間があるんだからもっと探してみよ。アリシアさんにそれで美味しいものでも作ってもらおっか」と、散策に戻るのだった。





『あるじー!こんなの見つけたー!』
「イザナミ!それだめ!毒あるやつ!!!」
『ニャ、ニャンですとー!?』
『フッ、イザナミはまだまだだな。主!これを見るがよい!』
「うっわ!なんでツチノコなんて持ってくんだよ!返してきなさい!そいつは食べたらダメなやつなの!」
『な、なんだと・・・!?』
『ニャハハハ!やーいやーいフレイヤも駄目だったなー』
『な、なにおう!?ふ、ふん!毒よりはいいだろうけどな』

『はぁ・・・今日も大変そうだなぁ』

 お互いに威嚇し合っている二匹とその隣でカラカラと笑い声を上げているクロウに、ジンはいつもどうり疲れた声でそう呟くのだった。




 そんなこんなで、週末の一日は過ぎていくのだった。

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