のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第28話:学園までの道のり③

森の中を1つの影が駆け抜ける。
樹々の作り出す影に溶け込むように、漆黒の影を纏っているそれは、風がなびく様な音を立てているが足音は全くと言っていいほど聞こえない。
その影は、樹々の隙間を縫って進む。黒き一陣の風となって。











「…………見つけた……………」
クロウは、森の中を少しの迂回するように進み、ようやく馬車を見つけることができた。

『周りにいる奴らは………どっかの兵士かなにかな?』
しかし、その馬車を取り囲んでいる者達は、クロウの…いや、くろうとの中の知識としての“盗賊”とは全くと違う姿をしていた。

身に纏っているのは、黒に統一された服。動物の皮で作られた胸当てのようなものをしているのが何人かいるが、特殊な処置をしているのか、全くと言っていいほど光を反射しない。腰に携えているのは、これまた黒塗りされた短剣。胸当てをつけている奴らは、小さなナイフも数本持っている…おそらく投擲用のものだろう。
そう、盗賊の持つ装備としては、あまりにも整いすぎなのだ。



『これがこの世界の盗賊なのか?………まるで、ゲーム終盤に出てきそうな奴らだな』
この世界の基準を知らないクロウにとっては、これを盗賊の基準として考えることにした。













それからしばらく、クロウは木々の枝を飛び移りながら盗賊の後を追っていた。


『うーん………こいつらほんとに盗賊なのか?【スクエア】とは別個に雇われた奴等とかじゃないよな?』
全く怪しい行動(今している尾行もどきを除く)はせず、常に1人は馬車を目視しているという徹底振り、しかも、いつでも掛け出せるように前傾姿勢で森の中を移動しているのに、殺意のようなものは感じない。
はっきり言って、わけがわからない連中だ。そのため、クロウは盗賊では無いのではないかという考えすら覚え始めている。

『でもなぁ〜、明らかに怪しいんだよな』
しかし、結局は怪しいという所に落ち着いてしまう。
そうして、考えたのちに出た答えが………

『なんかあるまで待機しよう!』
だった。いや、この考えに至ったのは決して面倒くさいからなどでは無い、決してだ。







 







クロウが賊(?)に対しての考えを放棄してからかなりの時間が過ぎた。相手に大きな行動は無いが、目配せやハンドサインをする回数が増えているように思える。そして、心なしか疲労が出てきているようだ。小枝を踏み折ったり、木の根に躓くといったミスが増えてきているのだ。まぁ、そういったミスをしているのは胸当てをしていないと連中ばかりだが………



そんなことを思っていると、賊(?)では無く馬車の方で動きがあった。どうやら、早めに野営の準備を始めるようだ。

「さて…今のうちにちょっと動きますか………」
クロウは木々の隙間を通る風にも溶け込むようなほど小さく呟くと、枝の上から飛び降り、音も無く着地する。そして、森の中へ集まってきた賊(?)たちの方へ歩みを進めた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「目標は野営の準備に移るようだ。今のうちに此方も集まって情報をまとめるぞ」
クロウは気がつかなかったが、唯一武器に紋章が彫られている人物が小声で周りの人間にそう指示をだす。

指示を受けた周りの人間の1人が、立ち上がって草原の方へ懐から取り出した道具を使って何かの光信号を送る。どうやら光を放つ魔道具を使って意志を伝達しているようだ。


「リーダー、草原チームはもう時期此方に合流するそうです」
草原の方から帰ってきた光信号をみて、先ほどの人間が指示を出していた男にそう伝える。




『なるほど、あいつがリーダーですか………それにしても、都合よく集まってくれますね。ちょっとお話でもしましょかね………』
黒服たちの会話をすぐ近くの木の陰で聞いていたクロウは、薄っすらと笑みを浮かべる。


それから数分後に4人の黒服がリーダーの元へとやってきた。これで合計8人となったわけだ。10人前後だと思っていたが、どうやら8人だったようだ。まぁ、少なければ少ないほど“話し合い”が簡単になるだろうから構わないのだが………








その後しばらくの間黒服たちの話を聞いていたが後ろから後頭部を殴られることもなく、と言うかクロウに気付く様子もなく普通(普通がどう言うものか知らないが)に情報をまとめていた。
だが、黒服たちの話の中に“任務”や“ランク”、“ボス”といったクロウの興味を引くものがいくつかあった。………そう、あってしまったのだ。



「その話、ボクにも詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」
「だっ誰だ!?」
リーダーは、突如として響く鈴のように澄んだ声がなぜかとてつもなく不気味に聞こえたような気がした………

















それから数分後、黒服のリーダーは困惑していた。

それはなぜか?実に簡単だ。なぜなら、突如として現れた(すごい怪しい)少女が自分たちの話に割り込んで、なぜかそのまま部下たちが丸め込まれていったからだ。

「へぇ…じゃあ嬢ちゃんは俺らの監視してる馬車と一緒に学園に行ってるのか」
部下の1人が少女がくれた干し肉のようなものを同じように少女がくれたお茶の肴としてつまみながらそう言う。

「そんなちっこいのに偉いねぇ〜」
本来ならメンバー以外には教えてはいけない内容に口走っているはずなのに、他の奴らは注意するどころか干し肉にパクつきながら「偉いねぇ」だとか「凄いねぇ」など孫に対する爺いのようなことを呟いているのだ。困惑しないわけがない。

「ところで、嬢ちゃんは何もんなんだい?」
そこで、リーダーは思い切ってそう少女に尋ねた。

「そうですねぇ………強いて言うなら、馬車に乗っている双子の監視役でしょうか」
1人だけの[監視役]それは即ち、それができるだけの実力があると言うこと。

「この街道には、ウーガルの村にあるあの[魔の森]と同じくらいの化け物が出るってのに、1人で監視役とはな。嬢ちゃんはエルフかなんかかい?」
リーダーはこの少女が[エルフ]ではないかと疑う。


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[エルフ]
それは、森の種族とも呼ばれ、森に住み森と生きる種族。森の奥地に集落を作り狩猟や農業で生計を立てている者達。
その見た目は美しく、物語でも度々登場する有名な種族だ。
だが、この種族の持っている最も有名な特徴………それは、人間と比べて遥かに寿命が永く、成長速度も遅いというところだろう。
昔は、この特徴の所為もあってか、エルフ狩りと言われるものがあったそうだ。エルフたちが山奥の秘境に住まうのもそんな世のしがらみから逃れ、種族を守ろうとしたからではないかと言われている。

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リーダーは、この少女が[エルフ]だからこんなに幼く見えるのではないかと疑っているのだ。

しかし、少女から帰ってきたのは
「ボクは、エルフじゃあないですよ。列記とした9歳の人間ですよ」
といった驚きの内容だった。



驚くところは[エルフ]ではないというところでは無く、[9歳の人間]というところだ。

「き、9歳の子供が、に、20年間この仕事をやってきたこ、この俺よりも、上手だと……………!?」
そう、リーダーは20年間こういった仕事を生業としてきた現在42歳の男。一種のベテランなのだ。それなりの実力を持っており、それに見合ったプライドというものも持ち合わせている。それが、自分よりも33歳も年下の少女に越されては、心の中は言葉にできないほど悲しいことになっているだろう。

「お、俺………この仕事終わったら…こんな仕事辞めて畑いじりでも始めようかな…」
チームのメンバーもオロオロし出すほど、どんよりと黒いオーラを放ち、徐々に前のめりになって行く。そして、リーダーがorzポーズになろうとしている時………



「おじさんは凄いよ。ボクみたいに魔法を使ってじゃ無くて、おじさんの実力だけであんなに隠れてたんだもん。おじさんはすっごい人だよ!」
少女はリーダーの前にしゃがみ込み、リーダーの眼を見てしっかりとそう言い切る。
その姿は、リーダーからは天使のように見えたのだった。

「あ、ありがとうな、嬢ちゃん…こんなおっさんをなぐさめてくれてよぉ」
リーダーは瞳を潤ませ、少女の頭を撫でながらそう応えたのだった。


「リーダー!自分は最後までリーダーについて行きますからね!」
外野で涙ぐみ、鼻をすすりながら見守っていた20代後半くらいの青年が、リーダーへ向かって強くそう言い切る。
すると、周りのメンバーも次々と「自分も!」と言い出し始めた。

「………お、お前ら…ありがとうな…こんなおっさんについて来てくれるなんてよぉ」
そう切れ切れに言うと、リーダーは顔を背け肩を揺らし始める。そして、その様子を見た黒服の部下たちは、次々とリーダーの元へ集まり、その絆を強固なものへとしていったのだった。














『………魔物の肉って、魔力酔いみたいの起こすんだ…………どうしてこうなった?』
男たちのむさ苦しい友情を側で感じながら、クロウは静かにフレイヤを呼び出し、カルとククルに警戒を解くように伝え、そっと空へ送り出すのだった。

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