のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第31話:到着!学園都市アルカディア


翌朝、興奮していたのかカルはいつもより随分早くに目が醒めてしまった。

「ふぁああ………うわ、まだちょっと暗いじゃん」
伸びをしながらテントから出て辺りを見渡すと、未だ太陽は登っていなかった。
だが、そんな中でカルは場違いな音が聞こえることに気がつく。鳥もまだ起きていないような時間なのにもかかわらず、一定のリズムで聞こえてくるその音は、なんだか懐かしいようでもありなんだか胸の奥に仕舞い込み封じ込めた何かを思い出しそうな音だった。

「剣を振る音………オルトさんか?いや、でもこの音は………」
ウォーレスの持っている短剣やオルトの持っている幅広の剣で出す音とは違う、聴いたことのない音………馬車の背後からずっと響いてくるそれに興味を持ったカルは、こっそりと馬車の背後に回ることにした。








「フッ!フッ!フッ!………」
そこには上着を脱ぎ、幼子のようなキメ細やかな肌わ晒しながらその下にある筋肉をしなやかに動かして、カルが見たことのない形状の剣を振るっているクロウの姿があった。
銀色に輝く髪を頭の後ろで纏め、前後に一歩づつ移動しながら、一定のテンポで剣を振り続ける。その姿は、どこか神秘的な輝きを持っているように感じたカルであった…

「ッッッ!!!」
が、なんだかいけないようなものを見てしまったような気がして目を背けるが、良く考えなくてもクロウは男なのだ。『大丈夫だ、問題ない』と心の中で念じ、再びクロウに目を向けると…


カチャ…………

死んだ魚のようなハイライトの消えた目で、クロウが変わった形の剣の切っ先を………

「待て待て待て!!!俺だ!カルだって!」
「ん?ああ、カルか………」
目の前まで迫っていた切っ先を[ストレージ]から取り出したであろう筒状の箱にしまいながら光の宿った目をこちらに向けているクロウがそう返してくるが、何故かいつものクロウとは少し違う感じがした。






その後、起きて来たククルがクロウの姿を見て一悶着あったが、そんなこんなで早朝から騒がしい1日が始まったのだった。




クロウが服を着た所で、起きて着たウォーレス達が、パパパッとテント諸々を片付けて、朝食を取ることになった。

朝食を済ませ、馬車に全員乗り込んだのを見届けてから
「さて、あとちょっとだ!のんびり行こうか!」
今日はおとなしく馬車の中で何かの本を読んでいるクロウに苦笑いして、ウォーレスは主発の合図をして歩み始める。











学園に近づくにつれてさまざまな服装の人を見る事が多くなった。
オルトの様な甲冑に身を包んだ人達や武器のみを大量に背負っている人、屋台の様なものを手押し車で運んでいる人と非常に色々な人がいてカルもククルも目が右往左往している。

しかし、それよりも眼を引くのは、やはりアルカディア全域を取り囲む高さ50メートルほどの城壁と、その周囲に掘られているかなりの深さと水が張られている掘りだろう。
カルとククルはそれらを交互に見てはお互いに顔を見合わせ、喜びをあらわにしている。
一方、その横で本を読むのを止め、城壁に下から上へと眼を走らせていたクロウがかなり上の方で眼を止め、かなり小さな声で「…凄い」と呟いた。

かなり小さい声の呟きをその地獄耳を盛って聞きつけたククルがアルカディアに向けていた眼をクロウへと移し、フッと微笑むと何事もなかったかの様に再びアルカディアに眼を向け…

『やっぱり、笑ってた方が良いな…』
と、心の中で誰にも聞こえないように呟いたのだった。











「…はい、次の方…ってウォーレスじゃないか!お前らどこいってたんだよ!って、何だ依頼か……まぁいい、早いとこ冒険者ギルドに行ってくれ、お前ら宛の依頼が溜まってるみたいだぞ」
ウォーレス達の顔見知りなのか、城門の前で検問している甲冑姿の男性がそう声を上げると、辺りで屋台を出していた人たちが一斉に顔をこちらに向ける。

そして…
「なに!?ウォーレスだって?」
「なんだと!?やっと帰って来やがったのか!」
「帰って来たのかい!あんたらに依頼したいことがたくさんあんだよ!」
「そうだそうだ!早く引き受けてくれ!」
と、朝の仕込みをしていたのおじさんおばさんから、散歩をしているお爺さん、子犬を連れて走り回っていた子供まで【スクエア】のメンバーの元に集まってくる。



「案外、人気というか…切望が「人望な」そう!それがあるんだな」
なにを強く望むんだよとクロウにツッコミを入れられながらカルがそう呟く。
ツッコミを入れたクロウもクロウで、あたりの状況を見て、苦笑いを浮かべたまま固まってしまっていた。





 
それからしばらくして、やっと騒動が収まりクロウ達は無事(?)にアルカディアの中に入ることができた。


城門を潜るとまず、まっすぐに伸びた道が目に付く。
馬車が2〜3台並んで通れそうなほど広い道は、この都市の中心にある【騎士魔術学校メルティア】へとつながっているようで目を凝らして見ると道のずっと先に門があるのが見えた。そして、その奥にはまるで某魔法魔術学校のような建造物が見る事が出来る。

クロウ達は【スクエア】と共に一度冒険者ギルドへと向かい、そこで依頼の達成を申請しなければならないらしく、カルとククルは、はやる気持ちを抑えてクロウと【スクエア】一同が帰ってくるのを待っていた。


「なぁなぁ!やっぱりウーガルとは全然違って、ここはすっげぇな!俺、こんなにたくさんの人を見るの始めるだぜ!」
「そうね。あぁ、たのしみ!綺麗なアクセサリーとかあるんだろうなぁ〜」
10個ほどあった麻袋を全て持ち出して、すっからかんになった馬車の荷台を背後に、カルとククルはまるで都会に出て来たばかりの若者のようにまだ見ぬものを思いはしゃいでいる。ちなみに10個ほどあった麻袋は全て依頼の達成申請と共に売却してくるらしい。そして、そのついでにジン達召喚獣をクロウの従魔登録もしてくるようだ。
『なんだか嫌な予感がする』とカル、ククル両名が顔を見合わせていると…

「ーー!ーーーーー!!!」
と冒険者ギルドの中から怒号とも歓声ともわからない声が響いてきた。声を出した人物は、とても興奮しているみたいでカルとククルにはなんと言っているのか聞き取ることが出来なかった。


カルとククルが冒険者ギルドの前で未だ続いている声に耳をすませていると、同じようにその声を聞きつけた人達がギルドの前に集まって来た。

「なぁ、今の声って……」
「あぁ、おやっさんの声だな」
「マジかよ………あのおやっさんがここまで叫ぶとなると…」
集まって来た野次馬の中には、この声の主を知っている人たちがいるみたいで、あたりからボソボソといろんな声が聞こえてくる。中には「ヤベェよ、ヤベェよ」などと言うと声も聞こえてきた。


「あのー…」
そこで、なにやら色々と知っていそうな女の人に話を聞く事にし、恐る恐る話しかける。

「ん?どうしたの嬢ちゃん。迷子?」
「いえ、迷子ではなくて………今の声って誰のなのかなって」
ククルのことを迷子の子供だと思ったのか、優しくそう返してくれた女性にそう言うと「知らないってことは…今年の入学希望者か!」と返されてしまい、どう返答していいのか困ってしまった。

「あぁ、ごめんね。今の声はね、ここのギルド長のだよ〜。滅多に怒らないんだけど、怒ったらとっても怖くてね……おやっさんの逆鱗に触れでもしたら…おお、こわ。と言うわけ………って、どしたの」
女性は、自分の話を聞くにつれてどんどん呆れた顔になっていくカルとククルを見て首を傾げる。

「いえ………多分、私たちの幼馴染が今回の原因だと思うので、ちょっと………」
そこまで言うと、女性は何かを察したようで「そんな歳で苦労してるんだね…」とククルの肩に手を置いて励ましてくれた。

「あっはい。ガンハリマス………って、お話ありがとうございました!私たちはちょっと様子見て来ます!」 
「頑張れ〜若者よ〜」
ふらふらと手を振りながら、女性はバックから取り出した“何かのエンブレム”が刺繍されたローブを纏い、城門より続く道を真っ直ぐ歩いていくのだった。




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一方、ギルドの中に入ったカルとククルは…

「ぬぁにをやっとたんだぁ!こぉんの阿呆がぁあ!!!」
と、顔に傷痕のある大柄な男に大声とともに拳骨を貰っているウォーレスと、

「・・・・・・」
ゴゴゴゴゴ…と背後から般若のようなオーラを放っている耳の長い女性に無言の圧力をかけられて幅広の帽子をより深く被って顔を逸らしているフィヤ、

「ふむふむ………馬車の業者をしていて?ほう…なるほどなるほど」
手帳のようなものに何かを書き留めながら土下座しながらプルプルと震えているシリルを睨みつけている背広を着込み、眼鏡をかけている男性、

「自分の任務は遂行したようだな。うむ、良くやった」
と、敬礼の格好をしているオルトに告げるナックルガードとレガースを身に付けた筋骨隆々な“女”と



その後ろでその様子を見ながらケラケラと笑い麻袋を次々と渡しては、受付の人らしき女性の顔を引きつらせているクロウがいた。








「「こ…この惨状は一体………?」」
この時、カルとククルの心は今までにないほどの同調を示したのだった………

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