のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第21話:契約と名付

「なるほどね………感じのいい子達ばっかりだね」
クロウは、ジンにべた褒めされてモジモジしている子たちを見てそう呟く。そして、スッとしゃがみこみ動物たちに目線を合わせて
「君たちは、僕に付いてくるかい?」
と問いかけた。



「ニャ!『うん!』」
クロウの問いかけに最初に返事をしたのは、真っ黒で滑らかな毛並みを持ち濃いマリンブルーの瞳の【グリムガット】の子だった。
そして、それに続くように【シャドウウォーカー】が1鳴きし、その後に【キラーホーク】と【九尾狐】の子が答える。
どの子も元気に返事をしてくれた。

その様子を横で胸を貼り、耳と尻尾を振りまくっているジンと、その様子を見て、赤熊とクロウは和やかな笑みを浮かべていた。






「おっと、付いてきてくれるんだから名前、付けないとね」

『『『『おお〜!!!』』』』
クロウの言葉に目をキラキラさせながら、魔獣たちは歓声を上げる。

「うーんと、そうだな。1匹ずつ前に来てくれ。名付けと契約をいっべんにするから。………じゃあ、【ナイトメアキャッツ】の子から。こっちおいで〜」

『ハイにゃ!』

「よーしよしよし、じゃあ、お前の名前は………」

『にゃ?どうしたにゃん?』

「………な、名前は…………」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜10分ほど後〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『ご、ご主人………まだなの?』
クロウが【グリムガット】の名前を考え始めてからもうすでに10分ほど経過しようとしていた。
未だに地面に名前を書き連ねながらあーでもないこーでもないと唸り続けているクロウにジンは、ため息混じりに聞く。

「待って!もうちょいで出来るから!ここまで出て来てるの!」
自分の喉元を指しながら答えるクロウに、ジンは再び溜息をつき、待ちきれずに遊び始めた魔獣の子供たちを見てもう1度溜息をつく。






「よし!これダァ!!」
ジンの名前を決めた時のようにガッツポーズをするクロウをジンは、今日何度目になるかわからない溜息をついて、言う。

『…はぁ〜、ご主人…ボクの名前をつけるときもそうだったけど………長くない!?』

「なにを言う!生涯共にするかもしれない名前だぞ?カッコいい物の方がいいだろう!」

『まぁ、そうですけど………って、今の時間でみんなの名前、決められたんじゃないですか?というか、みんなの待ちきれずに遊んじゃってますよ』 
空で追いかけっこしている【シャドウウォーカー】と【キラーホーク】の子と、同じように地面でも追いかけっこしている【グリムガット】と【九尾狐】の子を見る。ジンよりも少し幼いのか、キャッキャ、キャッキャと楽しそうに駆け回っている。

「あー、ごめんごめん。一応全員分出来たからこの子が納得すればその名前にするよー。………よっしゃ!おーーい!!【ナイトメアキャッツ】ー!」

『ニャ!ニャニャニャ!!!』
クロウの呼び声に反応して顔をパッとこちらに向け、猛ダッシュでやってくる【グリムガット】を撫でながらクロウは問いかける。

「さて、おまえの名前だが………[イザナミ]だ!闇と水を合わせた感じの名前だったからこれしか浮かばなかったんだよね。どう?この名前でいい?」

『イザナミ………うん!カッコいいニャ!』
自分の名前を呟き、その響きに1つ頷くとピンッと尻尾を立て、背筋を伸ばし座る。そして、顔を引き締めてクロウに答える。
『えーっと………ごほん。はい、私[イザナミ]は、貴方を主人とし、この身を捧げることをここ、この場を持って誓います』

「り、了承した。……………あー、ダメダメ!こんなかたっ苦しい感じは嫌いだ!普通にしよう、普通に。イザナミ、今から魔法陣て契約したいんだけど。イザナミはどこに描く?」

『はいニャ!イザナミは、頭!おでこが良い!』
ピンッと伸ばしていた尻尾を今度は勢いよく左右にフリフリと動かしながら言う。

「なるほどね。まぁ、魔力を意識して流さなきゃ浮かび上がらないから、あんまり目立たないよ?それで良いなら、こっちおいで〜」
『うん!』と元気に頷きクロウの前まで来ると、先程よりも激しく尻尾を振る。

「じゃあ、いくよ〜」
そんな気の抜けるような掛け声と共に、ジンの時と同様に指先を少し切って、滲み出す血液でイザナミの額に召喚陣を描く。今回は、“JIN”ではなく、“IZANAMI”と描く。
そして、タイミングを合わせてイザナミとクロウ、それぞれが同時に魔力を流す。ジンの時同様、召喚陣によって従魔と召喚主との繋がりが確立される。

『おお〜、ニャんかすごい感じだニャ!』
額の魔法陣に自らの魔力を通して魔法陣を光らせたり、魔法陣にだけ魔力を通さないように身体に魔力を流す練習をしてみたりと大分はしゃいでいたが、ジンが小さく一鳴きすると、すぐさまジンの横まで駆けていき、そこに座る。尻尾がピーン!となっているのでまだ興奮は抜けきっていないようだ。そして、ジンはこの子たちの中では1番偉い?慕われている?ようだ。
それを見ているクロウも自然と目尻が下がっていた。

「おっと、次の子は………【シャドウウォーカー】!。よし、おいでー」

『っ!はっ!』
【シャドウウォーカー】の子は鋭い目つきをしているが、性格は決して悪くない。なんというか、武士の子供のような感じがしないでもない。
………だが、やはり子供のようだ。クロウが見つめているだけで、モジモジが止まらなくなっている。嬉しいと恥ずかいが半々くらいなのだろうか。

「ん、お前の名前は[サクヤ]だ」

『サクヤ………はい!承りました!』
名前を貰うと、一瞬だけウットリとするような雰囲気を出したが、次の瞬間には、直立不動?の姿勢で立っている。

「さてサクヤ、お前はどこに書く?」

『はっ、私は胴体…首と胸の間に書いて頂きたく』
事前に決めてあったのだろう箇所をクロウへ告げる。
この言葉遣いに、『やっぱり、武士っ子なのだろうか』と思ってしまうクロウであった。

「うん、じゃあいくよ………あっ!」
サクヤに陣を書こうと指を伸ばした瞬間、クロウは何かを閃いたのか突然、動きを止める。そして伸ばした指を引っ込め、指先に魔法陣を展開した。
薄く青く光る魔法陣は、傷がついている指先からクロウの血液を薄く細く糸状にして放出する。しかし、放出された血液は地面に落ちることなくサクヤの胸部へと到達し、まるで意思を持っているかのように魔法陣を描く。

「よし、サクヤー。それに魔力を流してみて」

『は、はい』
何がどうなっているの?という感じのサクヤだが、クロウの言葉に従い、魔力を流す。すると、いつも通りに魔法陣(召喚陣)がサクヤの胸部に定着する。

『ご主人!今のはなんなのニャ?』
自分の持っている属性の見たこともない魔法にテンションが上がりまくっているイザナミ。

「うん?何って、[アクアコントロール]と[エアロコントロール]の併用だけど?」

==========================

[アクアコントロール]
水属性魔法、第12階級の最下位魔法。
水属性に少しでもてきせいが有り、魔力を持っている者なら誰でも使うことの出来る魔法。全ての水属性魔法使いが1番最初に使えるようになると言われるほど、使えて当たり前の魔法。
ちなみに、クロウ封印(3段階で封印の強さを変える事が出来る内の最も制限したもの)中でも制限なく使える数少ない魔法



[エアロコントロール]
風属性魔法、第12階級の最下位魔法。
風属性に少しでもてきせいが有り、魔力を持っている者なら誰でも使うことの出来る魔法。全ての風属性魔法使いが1番最初に使えるようになると言われるほど、使えて当たり前の魔法。
ちなみに、クロウ封印(3段階で封印の強さを変える事が出来る内の最も制限したもの)中でも制限なく使える数少ない魔法

==========================

『………それだけじゃない……』
クロウが当たり前みたいな感じで言った言葉に、【九尾狐】が口を開く。

『どうしてニャ?』

『…私も水属性と風属性は持ってるけど、最下位の魔法であんな事がするとしたら、とてつもない集中力と魔力操作か出来なきゃムリ』

『………つまり?』

『ご主人は通常では有り得ないような事が出来るって事だね。今更のような感じもするけど………ご主人、よくそんな事が出来るね』
ジンがそう締めくくると、ジンと【九尾狐】以外の子がさらに瞳を輝かせてクロウを見つめる。
ジンは呆れたような目で見てくるが、【九尾狐】の子は、有り得ないものを見るような目で見てくる。

「まぁ、そんなことはいいから、後の2匹はいっぺんにするよ。2匹ともどこがいい?」

『俺は、サクヤと同じどこがいい!』と、【キラーホーク】の子が言い。
『………おでこ』と【九尾狐】の子が言う。

「オーケー分かった。【キラーホーク】の名前は[フレイヤ]、【九尾狐】の名前は[ツクモ]だ。……………よし。お前たち、よろしく頼むぞ」
魔法陣を定着させた後、クロウは新しく自分の召喚獣となった子たちにそう言う。

『『『『はい!(ニャ!)(はっ!)(うん)』』』』





返事の仕方も、それぞれの性格もバラバラで、元気な子もいればおとなしい子もいる。だけど、これから先、この子たちがどんな風に成長していくのか、もうすでに楽しみになっていたクロウであった。








「あ、そう言えば」
クロウはそう呟いて、空を見上げ。
「おーい!今から戻るってお父様に伝えておいてー」
と大きな声で叫ぶ。

赤熊以外の子達が不思議そうに首を傾げていたが、空から響く「ガァッ!」と言う声に驚き飛び上がってしまった。

空を見上げ召喚獣たちは、次々と顔を青ざめさせて行く。



なぜなら、クロウの言葉に返事をしたのは、





漆黒の鱗を持ち、蝙蝠のような翼で音を立てずにクロウたちを見下ろしている、騎乗蔵をつけた【飛竜】がいたのだから。

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