のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第17話:VS蟷螂①[回想編]

クロウの刃と蟷螂の鎌が瞬間せめぎ合い、次の瞬間にはお互いに地面を蹴り、距離を取る。
蟷螂はその巨体からは想像出来ないほどの速度で飛び下がった。その時に一瞬だけ羽が開きその周りが、揺らいだような気がした。

『魔法で補助でもしているのか?』
クロウは頭の片隅でふとそう思った。
それによって、ほんの少しだがクロウは隙を作ってしまう。

1秒にも満たない、ごく僅かな心の揺らぎ。
蟷螂はクロウのその隙を見逃さず、8つの足全てに力を込め、羽根を広げて飛びかかる。


お互いがお互いに距離を取ったため、クロウと蟷螂の間には10メートルほどの空間がある。
しかし、蟷螂はそんなものは無かったかのように、クロウの目の前に迫り、全ての腕を振りかぶる。

「…!!!、チッ!」
クロウは咄嗟に反応し、迫り来る両手の大鎌のうちの1つを弾いて起動をずらし、もう1つの大鎌をなんとか防ぐ。
だが、1つ目の大鎌を弾いたことによって不安定な体勢になり、その状態でもう1つの大鎌を受けてしまった。
そのため、[ブースト]を発動させているはずなのに、蟷螂の力に押され、クロウは片膝をついてしまう。
完全に身動きが取れなくなったクロウに、蟷螂の小さな腕が襲いかかる。

「くっ!」
やってくる痛みを目を固く閉じ、歯をくいしばることで備える。

しかし
「………ん?」
その痛みはやっては来なかった。
クロウは薄っすらと目を開けて、今の現状を確認する。

「なっ!?」
驚くことに、蟷螂の小さな腕はクロウを包んでいた影に阻まれてクロウの身体へと達することができていなかったのだ。

蟷螂は、小さな腕を何度も何度も繰り返し突き出しては、クロウにまとわりつく影に阻まれて止まってしまう。

そのまましばらくの間、巨大な蟷螂に抑え込まめた薄っすらと輝く剣をもっている真っ黒な子供が蟷螂の小さな腕を防ぎ続けるという、なんとも言えない光景が続くが、蟷螂が不意に「キャシャア!」と叫ぶと、口を大きく開け「シャァ!」という声 (?)と共に何かを射出する。
蟷螂の射出したものは、クロウを包んでいる切り裂き、クロウの肌に到達して血を滲ませる。

「痛った?!」
今クロウが発動させている魔法は、闇属性5階の中級魔法[シャドウスケイル]。
この魔法はその名のとうりの魔法で、自分の身体に影を纏って、硬質化させて相手の攻撃を防く鎧にしたり、圧縮させてクッションのようなものにすることができる。というものだ。ただし、自力で影の硬さや密度を調整・制御しなければいけないため、5階と中級魔法の中でも比較的に難易度が高い。

「チッ…風魔法か?。なんとなくの魔法じゃ受け切れ無かったか…」
そう言ってクロウは、傷口に[キュア]を発動して傷を治し、改めて[シャドウスケイル]を発動させる。

「………なるほど、影を圧縮・硬質化できるのか………。そんなら、森の影を圧縮して纏い、さらにとことん硬質化だぁ!!!」
そう言うとクロウは森の影が伸びているところまでダッシュし、「圧縮、圧縮〜!」とどこぞの一方通行のようなセリフをつぶやきながら影を圧縮し纏い、それをさらに硬質化させる。
それによってクロウを包んでいる影は、黒曜石のような鈍い輝きを放ちはじめる。見る限りかなりの硬度をもっているようだ。

だが………
「よっしゃ!いくでぇ!?………って、なんじゃこりぇ!重すぎて動かん!!!」
それなりにデメリットがあるようだ………



「し、仕方ない。圧縮量半減しよう」
なかりしょんぼりしつつ、影の密度を半分まで減らす。それによって重さは幾分かマシになる。

「よ、よっしゃ。改めていくでぇ!?………って、なんじゃこれぇ!関節が動かん!!!」

当たり前のことだが、一般的な【鎧】と言うものは、動かせるように重ね合わせたり関節を設けたりするわけだが、多くのパーツはリベットで留められる。一部には皮革などが皮バンドとして用いられ、これを使って体に固定する。
だがクロウの[シャドウスケイル]は全体を1つの影で覆い固めている。
当たり前のごとく、こんなのでは動くわけが無いのだ。

「く、くそ!どうすれば………」
クロウが影の鎧を纏ってグダグダしている間、蟷螂はずっと風の刃のようなものを射出し続けている。…が、クロウの未完成な[シャドウスケイル]で全て防がれてしまっている。

「はっ!そうだ…関節だけを柔らかくする?…いや、それだったら防御面が………」
そう言いつつもクロウは、思考を止めずに考え続ける。

「向こう《地球》の博物館で見たやつは………ダメだ、思い出せない。戦闘に有効な鎧は………ん?戦闘?」
【戦闘】と言う単語を呟いた瞬間、クロウの脳は《地球》の鎧ではなく、とある《世界》の鎧を思い出した。

「ふ、ふふふ。戦闘、すなわち戦い。【戦い】とは、すなわち【狩り】!。何も《地球》じゃなくていいんだ…【鎧】だったらなんでもいい」
そして、その考えはクロウの[シャドウスケイル]をある姿へと変える。



「行くぞ、蟷螂![シャドウスケイル]!」




クロウの未完成で防御力もそれほどたかくなかった[シャドウスケイル]を、クロウは[頭]・[胴]・[腕]・[腰]・[脚]の5つの部位に分割し、それぞれを別々の[シャドウスケイル]として発動し、それらを密度やや高めの影でつなぎ、つないだ部分をにそれぞれの[シャドウスケイル]を延長して覆い被せる。さらにそれを1つの魔法として統合し、自動的に修復するようにした。
これによって、5つの部位をそれぞれ別々に発動しているため、もし[腕]の部位がダメージによって破壊されても、魔法が解けるのは[腕]だけになり、さらにその部位を自動的に修復するようになった。
ちなみに、本来の[シャドウスケイル]ならば、どこかがダメージなどによって破壊されてしまったら、魔法として成り立たなくなり、全体の[シャドウスケイル]が解けてしまう。
[シャドウスケイル]が5階中級魔法なのは、これも理由だったりする。



「おぉ!動く、動くぞぉ!!!」
クロウは、その場でジャンプしたり、横にステップしたり、バク転、飛び前転周りまどをして、[シャドウスケイル]の関節部の動きを確認する。

それを蟷螂は、首を傾げてケタケタ笑って(?)いる。
どうやら、クロウのわけのわからないステップを見て、面白がって(?)いるようだ。
だが、クロウが[シャドウスケイル]の性能を試すのに夢中になって、「後方伸身こうほうしんしん2回宙返り3回ひねり」までしだすと、さすがに焦れたのか「スタッ」と効果音(自分で言う)をつけながら着地したクロウに突撃し始めた。

蟷螂の紫色の鎌が着地して動きの止まったクロウを横から薙ぐ。
鎌にも風魔法を発動させているのか、一度だけしか鎌がクロウの[シャドウスケイル]に当たっていないのにも関わらず、最低でも5回ほど金属同士をぶつけたような音が響いた。

「うおっ!衝撃までは殺しきれなかったか!」
ダメージを完全に防いだため擦り傷すら負わなかったが、足を揃えてY字のポーズをとっていたため、横に吹っ飛ばされるクロウ。
吹っ飛ばされながら「今日は飛んでばっかな気がする!」と叫んでいた。

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