のらりくらりと異世界遊覧

霧ヶ峰

第01話 異世界転生

ふと気が付くと、俺はあたり一面真っ白な空間の中に立っていた。

「俺は、死んだのかな・・・」
そう呟く俺に

『はい。八神様、貴方は我々、神の間違いにより通常よりもずっと早くに亡くなってしまいました』
と、どこからか鈴の鳴るような綺麗な声が聞こえた。

俺が後ろを振り返ると、そこには未だかつて見たこともないような美少女が静かに佇んでいた。その姿に目を奪われながらも、俺は口を開く。

「神の間違い?普通なら俺はもっと長く生きてたって事?」
と、口を突いて出たのは自分でも不思議なくらいに冷静な声だった。

声に髪を自称した少女は、とても申し訳なさそうに口を開く。

『ええ、貴方の担当の死神がD☆E☆S☆Uノートに名前を書いてしまいまして・・・寿命がほとんど残ったまま死んでしまいました』
「連載版使用だったのか・・・ん?俺って死んだんですよね?じゃあなんで俺は此処に?」
『怒らないんですね・・・』
「まぁ、我々って言ってましたし、個人の責任じゃないんでしょ?それならあなた一人に怒ってもしょうがないですしね。それで、俺が此処にいるのはなんでか教えてくれるんですか?」
『はいっ!八神様、我々神のミスにより死んでしまった貴方に対し、我々神は、ある一つの提案を差し出します。それを飲むかは貴方次第ですが・・・ごほん、私”女神 アスタルテ"より貴殿、八神 鴉に提示します。異世界で初めから人生を送ってみませんか?』

「えーっと・・・どういう事?」
正直言って、俺はなにを言っているのか一瞬わからなかった。自分が死んだ理由が分かればそれでよかったのだが、知らぬ間によくわからない方向に話が進んでいる。

『もう少し詳しく説明すると、貴方様にこの地球とは異なる世界に赴いてもらい、そこで新たに人生を始めてもらう。ということですね』
「異世界に?」
『はい。訳があってその世界の真名を申し上げることは出来ないのですが、地球で言う所のゲームの世界といったようなところですね。この世界では見られなくなった魔法の類がある世界。魔法関連の以外の技術力は中世ヨーロッパくらいしかない世界ではありますが』
「なるほど・・・魔法ですか。なるほどなるほど、俺は構いませんよ。元々この世界に心残りなんてありませんし」
『そう・・・なんですか?』
「ええ、まあ。両親も物心つく前に他界して国に育てられたっていう感じでしたし、それが理由で特に親しくしてくれる人も数えるくらいしか居ませんでしたしね」
『えっと、なんだか申し訳ありませんでした。お辛い記憶を思い出させてしまったようで・・・』
「いいんですよ。それよりも、転生についてもっと教えていただけませんか?」
非常に申し訳なさそうに身を縮めているアスタルテを宥めるように出来るだけ優しく声をかける。











「なるほど・・・大体の内容は理解しました」

アスタルテから異世界転生についての説明を聞いた後、数分間頭の中で整理していた八神はそう口を開く。その表情からは何を考えているのか全く読み取ることが出来ない。

『それで・・・どうでしょう?』
「転生自体に文句などはありませんが、祝福ギフトを三つも頂いていいのでしょうか」
『三つと言ったら多く感じるでしょうが、実際は二つだけなのです。三つの内の一つはどんな転生者の方も[言語理解]の祝福ギフトになっていまして、ご自身で選択していただくものは二つなのです。八神様は私たちからの謝罪の意味も込めて二つにさせていただきましたけど、他の転生者の皆さんは[言語理解]を含めて二つの祝福ギフトが与えられます。祝福ギフトが一つ増えたくらいならば転生後の努力次第で覆すことが出来ますので、八神様が気になさるほどのことは起こらないと思われますよ』
「それなら遠慮なく頂いておきますね。祝福ギフトは先ほどの話で出ていた[空間魔法]と、あったらでいいのですが[召喚魔法]のようなものがあればソレでお願いしますね」

『・・・本当によろしいのですね?先ほども申し上げましたが[空間魔法]は一種のカルマ。使い方を誤れば貴方は・・・』
「ええ、構いません。この世界で息苦しい生活を送っていた分、彼方の世界ではのんびりと生きるつもりですので、滅多な気は起こしませんよ」
『・・・わかりました。元々私たちは貴方の決められたことに忠告以上の口を出すことが出来ませんしね。ですが、心の片隅にでもいいので私の言葉を留めておいたください』
アスタルテは、八神ののらりくらりとした態度に小さく溜息を溢して諦めたようにそう言うと、キッと表情を正す。


『八神様、私の役目はここまでです。ここから先は貴方の人生を貴方の手で切り開いていってください。私たちは、いつもいつまでも貴方を見守っています。彼方の世界で息詰まるようなことがございましたら、ぜひ協会へ赴いてみてくださいね』
「はい、覚えていましたらそのようにさせていただきます。何から何までありがとうございました、女神アスタルテ」
『いえ、これも罪滅ぼしのようなものですので、お顔を上げてください。それでは、貴方の新しい人生が幸せであることを願っています』

意識が次第に薄れ、目の前がぼんやりと暗くなっていく。
アスタルテの声が頭の中で反響し、小さくなっていく。







そして、八神の意識が途切れる直前、

『いってらっしゃいませ。貴方に世界の植福を』

というアスタルテの声がハッキリと八神の頭に響いてきた。

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