異世界から「こんにちは」
シャマの兄の謎
目覚めたシャマは紺之崎さんから、この場所がどこなのかとここ来ているあらましを聞かされて大きな衝撃を表情に浮かべた。
話の中でシャマが最も驚いていたのは、お兄さんの存在だった。
「おに、兄が私を誘拐してこの宿屋に運んできたの? 一族から追放されたっきり、なんの音沙汰もなかったのに」
「やっぱりびっくりした?」
紺之崎さんが気遣わしげに、シャマの顔を覗き込んで尋ねる。
信じられないと言った呆然ぶりで、シャマは顔を下に向けた。
「真相も謎のまま両親殺しとして追放されて私達の一族とは関わりをなくしたはずなのに、今になって私を……何がどうなってるの」
シャマのお兄さんはかなり辛い人生を送ったに違いない。
でも確かに、何故今になって同じ一族でかつ妹のシャマを誘拐する必要があったのか? 俺たちでは知り得ない事情でもあるのだろう。
「藤田さんの部屋に戻って、本人から聞きましょう紺之崎さん」
「そう、私が行ってくる。剣志くんはここで待ってて」
俺に待っているよう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。
まぁ、二人で行っても意味ないか。
「太刀先輩、兄は両親殺しなんかじゃないと私は思ってます。でも証明してくれる人がいなくて、やむを得ず罪を被ったんです」
「じゃあ、本当の犯人は誰なんだ?」
「それがわからないから、いつまでも村に帰ってこられなかったんです」
「まだ犯人が見つからないのか。だからといって理不尽な決め付けだよな、それ」
「見つからないんじゃなくて、見つけられないんです。突然苦しみだしてそのままぱったりと……」
その時のことを思い出したのか、段々と話す声が弱くなった。
人の死を身近に感じたことのない俺からしても、想像だけで胸を締め付けられる。大切な人の死を身をもって感じたことのあるシャマの気持ちは、俺の理解は及ばないだろう。
それにしても抽象的に聞いただけでさえ不可解な死に方だ。
でもシャマに詮索するにはいかない。
「太刀先輩」
「ん、なんだ?」
シャマの話したことにいろいろ思い巡らしていると、シャマが不安そうに声をかけてきた。
「この前みたいな嫌な感じがします」
「嫌な感じか。俺もだ」
この先どうなるのか予想もつかないけど、シャマを連れもどすだけでは終わりそうにない。
「誰だ、なんだ青春か。どうしたんだ?」
ベッド脇に置かれていた傷だらけのスツールに腰掛け監視していた藤田は、部屋に入ってきた紺之崎に微笑み混じりで来た理由を聞く。
紺之崎はすぐさま答える。
「そのシャマちゃんのお兄さんに、聞きたいことがあって来た」
「聞きたいこと? あいにく寝てしまった」
藤田はベッドの縁にもたれ掛かってすうすう寝息を立てているピンク髪の青年を指差して言った。
紺之崎は毅然とした口調で、藤田に尋ねる。
「起こしていい?」
「ダメだ、今日はもう寝かせてあげろ。明日でもいろいろ聞きただす時間はある」
「今すぐ聞きたい」
「お前も頑固だな」
冷然とそれだけ口にして、藤田は黙った。
藤田の急な態度の変化に、紺之崎はむっとして何か言い返したくなった。
しかし無駄な会話だとぐっと情動を抑え込んで、短く去り際の言葉をかける。
「彼のことは任せる」
そうして部屋を後にしようとした寸前、藤田が彼女に一言頼み事を話す。
「三人のことは任せる」
その言葉を聞いて、紺之崎はごくごく微かに口元を笑ませた。閉まるドア越しに藤田も同じ笑みを浮かべた。二人の意志が疎通した。
戻ってきた紺之崎さんは、部屋に行ってきた結果を話してくれた。
藤田さんに聞くことを止められた、という。
「なぜなんです?」
「藤田らしい」
「いや、意味がわかんないです」
「藤田は常に先のことに思考を伸ばしてる。この宿を選んだのも襲撃を想定してのことだった」
「……それと聞くことを止められたことに関係があるんですか?」
「多分、シャマちゃんのお兄さんの眠りを邪魔したくなかったから」
「うーん、藤田さんもよくわからない人だな」
「お人好しなだけ」
紺之崎さんは微かに笑う。
そうなんですか、と俺は他に言葉が見つからなかった。なんて返せばいいんだろうか?
「剣志くん」
「はい?」
「シャマちゃん」
「なに?」
突然、表情を引き締めた紺之崎さんは俺とシャマを交互に見つめて首を傾げる。
「二人は付き合ってる?」
ははははは、はい!?
思わず目が点になる。
横になっているリアンの傍にいたシャマも、紺之崎さんの突飛な質問に絶句している。
「違った? じゃあリアンちゃんと剣志くん?」
尚も事も無げに聞いてくる紺之崎さん。
俺は全力で否定する。
「何を言うんですか紺之崎さん! 俺達はそういう恋愛的な関係は一切ありません!」
「話の話題が無くて、聞いてみた」
「それだけの理由で聞かないでくださいよ……」
無神経なのか?
「話題がない、剣志くん何か団欒できる話ないの?」
「知りませんよ、言われても」
「私もないよ、青春さんが出してください」
「じゃあ、しりとり」
定番のしりとりとは、行き着く所に行き着いたな。
その後はなんやかんや話が弾んで、俺が眠気でダウンするまでしりとりもといお喋りに没頭した。
話の中でシャマが最も驚いていたのは、お兄さんの存在だった。
「おに、兄が私を誘拐してこの宿屋に運んできたの? 一族から追放されたっきり、なんの音沙汰もなかったのに」
「やっぱりびっくりした?」
紺之崎さんが気遣わしげに、シャマの顔を覗き込んで尋ねる。
信じられないと言った呆然ぶりで、シャマは顔を下に向けた。
「真相も謎のまま両親殺しとして追放されて私達の一族とは関わりをなくしたはずなのに、今になって私を……何がどうなってるの」
シャマのお兄さんはかなり辛い人生を送ったに違いない。
でも確かに、何故今になって同じ一族でかつ妹のシャマを誘拐する必要があったのか? 俺たちでは知り得ない事情でもあるのだろう。
「藤田さんの部屋に戻って、本人から聞きましょう紺之崎さん」
「そう、私が行ってくる。剣志くんはここで待ってて」
俺に待っているよう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。
まぁ、二人で行っても意味ないか。
「太刀先輩、兄は両親殺しなんかじゃないと私は思ってます。でも証明してくれる人がいなくて、やむを得ず罪を被ったんです」
「じゃあ、本当の犯人は誰なんだ?」
「それがわからないから、いつまでも村に帰ってこられなかったんです」
「まだ犯人が見つからないのか。だからといって理不尽な決め付けだよな、それ」
「見つからないんじゃなくて、見つけられないんです。突然苦しみだしてそのままぱったりと……」
その時のことを思い出したのか、段々と話す声が弱くなった。
人の死を身近に感じたことのない俺からしても、想像だけで胸を締め付けられる。大切な人の死を身をもって感じたことのあるシャマの気持ちは、俺の理解は及ばないだろう。
それにしても抽象的に聞いただけでさえ不可解な死に方だ。
でもシャマに詮索するにはいかない。
「太刀先輩」
「ん、なんだ?」
シャマの話したことにいろいろ思い巡らしていると、シャマが不安そうに声をかけてきた。
「この前みたいな嫌な感じがします」
「嫌な感じか。俺もだ」
この先どうなるのか予想もつかないけど、シャマを連れもどすだけでは終わりそうにない。
「誰だ、なんだ青春か。どうしたんだ?」
ベッド脇に置かれていた傷だらけのスツールに腰掛け監視していた藤田は、部屋に入ってきた紺之崎に微笑み混じりで来た理由を聞く。
紺之崎はすぐさま答える。
「そのシャマちゃんのお兄さんに、聞きたいことがあって来た」
「聞きたいこと? あいにく寝てしまった」
藤田はベッドの縁にもたれ掛かってすうすう寝息を立てているピンク髪の青年を指差して言った。
紺之崎は毅然とした口調で、藤田に尋ねる。
「起こしていい?」
「ダメだ、今日はもう寝かせてあげろ。明日でもいろいろ聞きただす時間はある」
「今すぐ聞きたい」
「お前も頑固だな」
冷然とそれだけ口にして、藤田は黙った。
藤田の急な態度の変化に、紺之崎はむっとして何か言い返したくなった。
しかし無駄な会話だとぐっと情動を抑え込んで、短く去り際の言葉をかける。
「彼のことは任せる」
そうして部屋を後にしようとした寸前、藤田が彼女に一言頼み事を話す。
「三人のことは任せる」
その言葉を聞いて、紺之崎はごくごく微かに口元を笑ませた。閉まるドア越しに藤田も同じ笑みを浮かべた。二人の意志が疎通した。
戻ってきた紺之崎さんは、部屋に行ってきた結果を話してくれた。
藤田さんに聞くことを止められた、という。
「なぜなんです?」
「藤田らしい」
「いや、意味がわかんないです」
「藤田は常に先のことに思考を伸ばしてる。この宿を選んだのも襲撃を想定してのことだった」
「……それと聞くことを止められたことに関係があるんですか?」
「多分、シャマちゃんのお兄さんの眠りを邪魔したくなかったから」
「うーん、藤田さんもよくわからない人だな」
「お人好しなだけ」
紺之崎さんは微かに笑う。
そうなんですか、と俺は他に言葉が見つからなかった。なんて返せばいいんだろうか?
「剣志くん」
「はい?」
「シャマちゃん」
「なに?」
突然、表情を引き締めた紺之崎さんは俺とシャマを交互に見つめて首を傾げる。
「二人は付き合ってる?」
ははははは、はい!?
思わず目が点になる。
横になっているリアンの傍にいたシャマも、紺之崎さんの突飛な質問に絶句している。
「違った? じゃあリアンちゃんと剣志くん?」
尚も事も無げに聞いてくる紺之崎さん。
俺は全力で否定する。
「何を言うんですか紺之崎さん! 俺達はそういう恋愛的な関係は一切ありません!」
「話の話題が無くて、聞いてみた」
「それだけの理由で聞かないでくださいよ……」
無神経なのか?
「話題がない、剣志くん何か団欒できる話ないの?」
「知りませんよ、言われても」
「私もないよ、青春さんが出してください」
「じゃあ、しりとり」
定番のしりとりとは、行き着く所に行き着いたな。
その後はなんやかんや話が弾んで、俺が眠気でダウンするまでしりとりもといお喋りに没頭した。
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