異世界から「こんにちは」
粉惨事
玲がこっちの世界に戻ってきて、一週間が経った。
久しぶりの学校に玲は、次世代の能力者を集めた養成所、と例えていたがあながち間違ってはいない気がしたので、突っ込みも入れずスルーした。
痛い比喩は置いといて、玲の汚名が校内で蔓延しているのが気がかりだ__その名も。
ヨーロッパ風ヒッキー。
そして今日も、爽やかだが暑さがある通学路にて俺の隣を歩くヨーロッパ風ヒッキーは見ていて痛い。
「ついに来たり、我が天賦の才能を見せつける時がぁ!」
「要するにテストだろ」
大振りに体を使って低音で叫んだ玲に、俺は簡潔に突っ込む。
するとなんとも悪役らしき不気味な笑い声を漏らし始めたので、俺は一歩横に離れた。
「フフフフフフ、燃え盛る太陽の下で汗し者達は魔法書に文字を羅列させていくのだ」
「要するに夏の筆記テストってことだろ」
いちいち回りくどい。
まぁ元気でなによりだ。
初夏の何気ない一日、俺達は校門を潜った。質問だらけの用紙と対する日、負ければ補習授業という過酷な修行が待っている。絶対に負けない。
そしてテストから数日が経った。
俺は難なく、用紙に打ち勝った。
しかし俺の隣に一人、敗北を喫した者が。
「無理に決まってるだろ! 授業受けてないんだから!」
後の祭りとはこいつのためにあるのか?
俺はオレンジに染まる通学路にて必死に慰める。
「赤点が全教科でないだけ良いと思う」
「うわぁ~泣きすがっていい?」
そう涙目で言って、俺に両手を伸ばしてくる玲。
「やめろ気持ち悪い」
伸ばされた手を軽く片手で弾きながら、拒否する。
そうこうしていると、別れ道まで来ていた。
すると何故か玲は拝むように合掌した。
「神様、仏様、太刀様!」
「俺は何の連勝もしてねぇよ!」
俺が途端に突っ込むと、ニヒヒとわざとらしく白い歯を見せた。いや白くなかった、犬歯に青海苔が付着していた。
吹き出しそうになるのを堪えて、じゃあなと別れを告げた。
フッくれぐれも魔物に襲われぬようにな、とあり得もしない事態を心配してくれた。
アイツは根はすごく優しいのだ。最近は言動が痛いけど__
オレンジに染まった住宅街、その中に俺の自宅はある。
「ただいまー」
家で待つ二人の魔法使いに、聴こえるように声を出す。
一度ドアを開ければ、そこはプライベート空間が広がっているはずだ__え?
リビングの入り口から廊下にかけて、白い粉が埋め尽くしていた。
おいおいおいおい、ほんとに魔物が出ちゃったのか?
「太刀さ~ん、助けてくださ~い」
照明の灯りが廊下まで伸びるリビングから、リアンの救助を求める声が聞こえる。
「今行くから、動くな!」
急いで靴を脱ぎ捨て、リビングに駆け込んだ。
そこで目にしたもの、それは__。
「何やっとんじゃあ!」
床一面真っ白な粉世界。
叫びと共に粉の正体も察する。多分これは小麦粉。
そしてキッチンで杖を片手に持った魔法使い姿のまま、リアンがガタガタ震えていた。
俺は呆れ顔で尋ねる。
「どうしてこうなった?」
「へへへんな、くく黒い、六本足の虫が」
怯えるように震えた声でリアンは答えた。
説明不足だな。
もう一人の魔法使いに事情を聞こうと、リビング内を見渡すが姿もこっけもない。
「うおーすごいことになってるねぇ」
入り口から他人事のように言うシャマの声が聞こえて、そちらを見る。
風呂上がりなのか血色のいい顔をして、大判タオルを巻いただけの姿で、入り口の縁に片手をついてもたれ掛かっている。
「爆発音がすると思って来てみたら、リアン先輩のドジだったか」
「今回はドジじゃありません! 事故です事故です! へんな虫が……」
シャマの何気ない発言が、リアンの癇に触っ障ったらしく異議を唱え出した。
シャマ検察官は、裸足のまま屈んで床を見ながら数歩歩き、あれれれと目敏く何かを発見して白い粉に手を突っ込んでブツを提示した。
シャマ検察官が提示したものそれは、真ん中に丸く大きな穴の空いた小麦粉の袋だ。
それを突き出し見せつけて論じ始める。
「この袋には大量の小麦粉が入っていました。そして、この穴! 魔法以外で穿つのは不可能。よって……」
「よって?」
シャマ検察官は息を吸い込み、間を置いて叫んだ。
「リアン先輩は有罪とする」
ドーーーーン!
リアン被告に刑が課されることになった。
納得いかないのか、ドンとまな板を叩いてリアン被告は抗議する。
「この小麦粉散乱事件の真の犯人は、黒い虫です!」
顔以外真っ白になっているリアン被告は、犯人は私ではないと主張した__って。
「裁判みたいなことしてないで、掃除しろーーーー!」
我慢できずに俺は吐き出した。
対峙する二人は突然、キョトンと肩の力を抜かして俺を見る。
四つの眼差しが俺に集中する。
「サイバン? 何ですかそれ?」
「うわー、太刀先輩幻見てたわー」
今まで俺が見ていた論争は裁判みたいなものじゃなかったのか?
急に恥ずかしくなって、表情を繕うように逸らして俺は命令する。
「ほら、リアン掃除しろ」
命令した後、二人は互いに見つめ合ってクス、と笑いを溢す。
そしてリアンが俺の背後に回り服を掴み、シャマが真正面の至近に立って袖を掴んだ。
「「そおれっ!」」
体の浮遊感と二人の掛け声の次の瞬間、俺は小麦粉まみれの床に顔をぶつけてうつ伏せに倒れた。
久しぶりの学校に玲は、次世代の能力者を集めた養成所、と例えていたがあながち間違ってはいない気がしたので、突っ込みも入れずスルーした。
痛い比喩は置いといて、玲の汚名が校内で蔓延しているのが気がかりだ__その名も。
ヨーロッパ風ヒッキー。
そして今日も、爽やかだが暑さがある通学路にて俺の隣を歩くヨーロッパ風ヒッキーは見ていて痛い。
「ついに来たり、我が天賦の才能を見せつける時がぁ!」
「要するにテストだろ」
大振りに体を使って低音で叫んだ玲に、俺は簡潔に突っ込む。
するとなんとも悪役らしき不気味な笑い声を漏らし始めたので、俺は一歩横に離れた。
「フフフフフフ、燃え盛る太陽の下で汗し者達は魔法書に文字を羅列させていくのだ」
「要するに夏の筆記テストってことだろ」
いちいち回りくどい。
まぁ元気でなによりだ。
初夏の何気ない一日、俺達は校門を潜った。質問だらけの用紙と対する日、負ければ補習授業という過酷な修行が待っている。絶対に負けない。
そしてテストから数日が経った。
俺は難なく、用紙に打ち勝った。
しかし俺の隣に一人、敗北を喫した者が。
「無理に決まってるだろ! 授業受けてないんだから!」
後の祭りとはこいつのためにあるのか?
俺はオレンジに染まる通学路にて必死に慰める。
「赤点が全教科でないだけ良いと思う」
「うわぁ~泣きすがっていい?」
そう涙目で言って、俺に両手を伸ばしてくる玲。
「やめろ気持ち悪い」
伸ばされた手を軽く片手で弾きながら、拒否する。
そうこうしていると、別れ道まで来ていた。
すると何故か玲は拝むように合掌した。
「神様、仏様、太刀様!」
「俺は何の連勝もしてねぇよ!」
俺が途端に突っ込むと、ニヒヒとわざとらしく白い歯を見せた。いや白くなかった、犬歯に青海苔が付着していた。
吹き出しそうになるのを堪えて、じゃあなと別れを告げた。
フッくれぐれも魔物に襲われぬようにな、とあり得もしない事態を心配してくれた。
アイツは根はすごく優しいのだ。最近は言動が痛いけど__
オレンジに染まった住宅街、その中に俺の自宅はある。
「ただいまー」
家で待つ二人の魔法使いに、聴こえるように声を出す。
一度ドアを開ければ、そこはプライベート空間が広がっているはずだ__え?
リビングの入り口から廊下にかけて、白い粉が埋め尽くしていた。
おいおいおいおい、ほんとに魔物が出ちゃったのか?
「太刀さ~ん、助けてくださ~い」
照明の灯りが廊下まで伸びるリビングから、リアンの救助を求める声が聞こえる。
「今行くから、動くな!」
急いで靴を脱ぎ捨て、リビングに駆け込んだ。
そこで目にしたもの、それは__。
「何やっとんじゃあ!」
床一面真っ白な粉世界。
叫びと共に粉の正体も察する。多分これは小麦粉。
そしてキッチンで杖を片手に持った魔法使い姿のまま、リアンがガタガタ震えていた。
俺は呆れ顔で尋ねる。
「どうしてこうなった?」
「へへへんな、くく黒い、六本足の虫が」
怯えるように震えた声でリアンは答えた。
説明不足だな。
もう一人の魔法使いに事情を聞こうと、リビング内を見渡すが姿もこっけもない。
「うおーすごいことになってるねぇ」
入り口から他人事のように言うシャマの声が聞こえて、そちらを見る。
風呂上がりなのか血色のいい顔をして、大判タオルを巻いただけの姿で、入り口の縁に片手をついてもたれ掛かっている。
「爆発音がすると思って来てみたら、リアン先輩のドジだったか」
「今回はドジじゃありません! 事故です事故です! へんな虫が……」
シャマの何気ない発言が、リアンの癇に触っ障ったらしく異議を唱え出した。
シャマ検察官は、裸足のまま屈んで床を見ながら数歩歩き、あれれれと目敏く何かを発見して白い粉に手を突っ込んでブツを提示した。
シャマ検察官が提示したものそれは、真ん中に丸く大きな穴の空いた小麦粉の袋だ。
それを突き出し見せつけて論じ始める。
「この袋には大量の小麦粉が入っていました。そして、この穴! 魔法以外で穿つのは不可能。よって……」
「よって?」
シャマ検察官は息を吸い込み、間を置いて叫んだ。
「リアン先輩は有罪とする」
ドーーーーン!
リアン被告に刑が課されることになった。
納得いかないのか、ドンとまな板を叩いてリアン被告は抗議する。
「この小麦粉散乱事件の真の犯人は、黒い虫です!」
顔以外真っ白になっているリアン被告は、犯人は私ではないと主張した__って。
「裁判みたいなことしてないで、掃除しろーーーー!」
我慢できずに俺は吐き出した。
対峙する二人は突然、キョトンと肩の力を抜かして俺を見る。
四つの眼差しが俺に集中する。
「サイバン? 何ですかそれ?」
「うわー、太刀先輩幻見てたわー」
今まで俺が見ていた論争は裁判みたいなものじゃなかったのか?
急に恥ずかしくなって、表情を繕うように逸らして俺は命令する。
「ほら、リアン掃除しろ」
命令した後、二人は互いに見つめ合ってクス、と笑いを溢す。
そしてリアンが俺の背後に回り服を掴み、シャマが真正面の至近に立って袖を掴んだ。
「「そおれっ!」」
体の浮遊感と二人の掛け声の次の瞬間、俺は小麦粉まみれの床に顔をぶつけてうつ伏せに倒れた。
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