異世界から「こんにちは」

青キング

微笑みの裏側は

 強い日差しが俺の眼を刺激する。
 眼から脳へ刺激が移ると、朝だぞと脳から全身に通達される。
 通達を受け体は行動を起こした。
 俺、ただいま起床。
 おもむろに身を起こし寝ぼけ眼をこすりながらベッドから降りると傍に置いておいたバッグから一枚、衣服を取り出した。
 俺が取り出したのは、動きやすさと軽さを兼ね備えた不思議な肌触りの上下同素材で安く手にいれた服だ。
 俺のお気に入りでもある。気に入っている部分は胸元から上だけ白ということだ。胸元から下の灰色との対照がグッド!
 俺はそれに着替え先程まで着ていた服をベッドの上に不整に置き、外の空気を肺に取り込もうと部屋を出た。
 長い廊下を抜け庭に出ると少女がせこせこと作業していた。
 小さなバケツをもった少女はこちらに気づいたようだが、そっぽを向いて通りすぎてしまう。俺気に障ることしたかな?
 少女に駆け寄って「俺何か悪いことしたならごめん」と合掌して謝ると、怪訝な表情で俺を睨んでいた。
 そして少女は口を開いた。
「悪いこと? 私はされた覚えないけど?」
「じゃあなんで怒って……」
「怒ってないわ、あと手伝いとか必要ないから部屋に戻ってて……邪魔だから」
 俺の質問は遮断され拒絶になって俺に返ってきた。
 完全に胸懐を見透かされている。
 少女は二の句が継げないを一瞥してバケツを持ったまま歩き出した。
 その時バケツからヒラヒラと何かが芝生に落ちた。
 落ちたのに気づかなかったのか少女は歩みを止めなかった。
 俺は落ちたものを拾い上げる。逆三角の淡いピンク生地、中央より少し上には小さな赤色リボンが施してある。初見だな。
 何かわからないが少女の元へ淡いピンク生地の布を手に持って駆け寄る。
「なぁこれ落としたぞ」
「えっ」
 声に反応して振り返り淡いピンク生地の布を確認した途端、顔が赤みを帯びていき全面にまで広がった。
「なんであなたがそれを持ってるんですかぁ!!」
 世界中に響きそうなくらいの大声で怒鳴られた。ううう耳が痛い……
 俺から淡いピンク生地の布を音速にも匹敵するほどのスピードでかっさらうと、顔を伏せたままどこかへ走り出した。
 しかも走る速度が人間を凌駕していた。
 それを立ち尽くし呆然と眺める。
 館の角を曲がっていったぞ。あちらに何かあるのだろうか?
 ゆっくりと徒歩で倣うように辿ることにした。
 角を曲がると少女の後ろ姿を発見した。何してるのだろうか?
 角に隠れて様子を伺う。
 バケツの前に立って片手をバケツに向かってつき出している。
 バケツから水の大玉とその中に入った数々の衣服、少女のつき出した手が上へ上へゆっくりと向きを変えていくのに連動し水の大玉もゆっくり上昇していく。
 なんだあれは魔法の一種か?
 そんな疑問はさらに難を極める。少女は上げていた片手を握り締めると、水の大玉が回転しながら音を立てて破裂した……というよりは物体がねじられて細くなった部分がちぎれるイメージに近いだろうか、とにかく水の大玉は無くなり衣服だけが少女に向かって落ちていく。
 もう片方の手で落ちてくる衣服を掴み取り抱え込んだ少女。
 唖然、圧巻。ここまでの高等魔法を平然と使えるなんて……もう地球滅亡も一瞬で行えそうな……想像するだけで恐ろしい。
 もしも地球滅亡が実際に起こったら人類も滅亡するのだろうか? それとも別の星へ避難するのだろうか?
 驚きから思考が逸れていると、少女が身を翻した。あっ! バ・レ・ル……
「あっ」
 少女はこちらの存在に気づくなりそう溢した。
 何を言い返そうか?
 思案していると俺より先に少女が予想外の言葉を発した。
「お腹空いたなら少しだけ待ってて、準備するから」
「……へ?」
 怒ってないのか? 
 度肝を抜かれて二の句も継げない。
「洗濯済んだし中に入りましょう。私空腹状態だから今」
 俺の腕を取った。引っ張らないで!
 強引に俺を引っ張って館の中を歩き回る。
 やはり力が強くて逆らえないのであった。

 木のテーブルと、周りに二つ用意された木の椅子に座らされ、向かいにはこちらをまじまじと俺を見つめる少女。
「……何が起こるんだ?」
 そう溢すと、少女が微笑む。
「お腹空きましたね」
「あっああ」
 冷や汗だらだら俺は頷く。
「今から料理出しますね」
 微笑みながら言われると余計に恐怖なのだが。
 突然目の前に料理が現れる。テーブルに置かれた料理はサラダらしきもの。
「毒とか入れてないよね?」
 恐る恐る尋ねるとはい、と答えてくれて俺は……安堵できてねぇよ!
 黄色や赤、緑など色鮮やかなサラダを見据えて冷や汗は増大する。
 もしかして命狙われてる? 
 俺が思考を深くしていると、少女が口を開いて質問してきた。
「幸せってなんですか?」
 唐突に聞かれても……幸せ?
 答えあぐねてしまう。
 沈黙が生まれる、しかしそれは束の間少女が伏し目で言い出す。
「あなたは私に幸せをくれました……」
 もじもじ赤面し出す。
「あなたにも幸せをあげたいな、と」
 ただ少女を見つめた。その言葉にどんな意味がはらんでいるのか、それを探るため。
「あなたの幸せってなんですか?」
 聞かれても答えず少女を見つめ続けた。
 真っ直ぐにこちらを見る瞳、潤いを持ち微かに揺れている。
 そんな捨てられた子犬みたいな瞳で見ないでくれ!
「誰にだって言いたくないことはありますよね」
 悲しそうに俯いて悟ったように小声でそう呟いた。
「俺の……幸せかぁ」
 なんだろうか? 富豪になること? 最強の剣士になること? うーんどれも違う。
 腕組みをして考えてみた。しかしどれも幸せとは呼べないものばかりだ。
 少女をちらっと見てみると、太ももに視線を落としている。
 そうか、幸せとは笑顔なんだ。
「なぁわかったぞ、俺の幸せ」
 俺の声に顔を上げて反応した。
「俺の幸せは笑顔なんだ!」
「わかりました、私と一緒ですね」
 微笑みながら教えてくれた。
 つい笑いが溢れる、なぜだろう?
「心が温かいですね」
「そうだな、笑顔だな」
 俺達は揃って笑みを浮かべた。
 とても温かった。
「それでは本題に入っていいですか?」
「いいよ……はぁ?」
 短兵急に何かを切り出そうとしている。しかも剣幕の鋭い眼差しで。
「私のパンツをどこで拾ったんですか? 嘘偽りなく詳細で理屈に合うように白状してください!」
 怒りに満ちた眼差しを真っ直ぐに向けてきて早口で捲し立てる。
「言い開きがあるなら聞くだけ聞いてあげますけどどうします?」
 言い開きがある前提かよ!
「まぁ言い開きは無視して罪分の働きや仕打ちを受けてもらいますけどね」
 言い開きの意味がないじゃん!
 眼差しに恐怖して心臓が高鳴り、冷や汗はもっと増大する。
 えっ俺って何かした?
 思い当たることもないまま脳が脊髄に「逃げろ」と信号を送り脊髄が四肢に「動け」と漠然で簡単な信号を送った。
 体は椅子から立ち上がり扉に駆け出した。だが目の前に少女が一瞬で移動してきたため立ち止まる。
 少女は俺を見ながら微笑んで「食事中のランニングはやめてください、新鮮な食材がダメになってしまいますし行儀も悪いですから」と注意される。
 仰け反りながら後ずさる。
「談笑しながらの食事は楽しいですよ。ですから早くお座りください」
 足は否応なしに椅子へと歩んでいく。
「説明さえしてくれればすぐに終わりますから……ね」
「は、はい」
 そのあと散々聴取され、説得を試みてなんとか納得してもらえたのだった。

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