異世界から「こんにちは」
茂みの中で
目の前のイケメン男は口を開く。
「わたくしの名前は……秘密です」
途中口ごもり、結局名前を教えてくれなかった。
俺は目を細めて凝視する。
「本当に秘密なんですよ」
「何名前が?」
イケメン男は辺りを見回しだす、何か探しているのだろうか?
「じゃあ改めて……」
この人怪しい、こんな山の中で、運動には向かない服を着ている。
「ええ、わたくしの名前は漢字で表すとこおりで氷、おのれで己、津市の津で氷己津です」
「……」
「何か返してくださいよ!」
無言で氷己津を見つめた。
氷己津も無言になり、音はなびく葉だけになった。
「……あーもう限界。では本題に入っていいですか?」
「本題?」
氷己津は持っていた懐中電灯を地面に置き、ズボンのポケットから何かを取り出した。
暗くてはっきりと物が見えない。
もう一つ何かを取り出す、同じような形をしている。
そして置いていた懐中電灯を再び手に持つと、取り出した物の二つを地面に置き懐中電灯で照らす。
「赤い缶と青い缶、君ならどちらを選ぶ?」
唐突に質問されても選びようがない。
氷己津は微笑んで言う。
「見た直感でいいよ」
この質問にいったい何の意味があるのだろうか?
う~ん見た直感ねぇ。
「青ですかね」
なんとなく青の缶に少し気を引かれた……気がする。
「青か……そうだね君は、いつも泰然としているけど実は臆病者で、自分の無力さを認めない欺瞞に溢れたただのクズ虫だ」
なんだよ唐突に、青の缶と何の関係もないだろ!
「騙すことを悪とも思わない、周りを騙して、自分も騙して、何が楽しいんだい?」
「うるせぇよ……」
「はい? 何か間違ったことでも言いました?」
いきり立つ感情が歯を食いしばっていることから自分でわかる。
「うるせぇよって言ったんだよ!」
その場から威勢良く立ち上がり、激怒する。
しかし氷己津は驚きも見せずこちらを見つめる。
そして鼻で笑った。
「なんだよ、占い師か? 俺の本心を見抜いたみたいに喋りやがって……」
次が出てこない、思い付かない。
「言いたいことはそれだけか?」
嘲笑い気味にそうほざく。
「……お前は何がしたいんだ」
何も返してこない。
俺の顔をじっーと見つめてくるだけ。しかし何故か圧力を芯に感じる。
なんか見つめてくる目に引き込まれる感覚が……
頭がボッーとしてきた……ヤバいクラクラする。
血の気が引く、それに力も抜けていく。
誰かそいつを……
猫神様は茂みの中にもう居ないのかもしれない。
そう思い始めてきた時、何かに足がつまづき、うつ伏せに倒れてしまった。
服が汚れちゃったなぁ。
何につまづいたのだろうか、と肩越しに見てみると誰かがうつ伏せに倒れていた。
その顔には見覚えどころか親しみまであった。
服が汚れたとか、どうでもいい!
なんで太刀先輩がこんなところで倒れてるんだ!
微動だにしない太刀先輩におずおずと歩み寄る。
「どっどうしたんです……か」
声が震えているのを自分で感じる。
歩み寄って見てみると、目を開けそうな様子はない。
ただ呼吸だけを閑静な暗闇の中でしているだけの植物状態、いや植物の方がまだ生き物として成り立っているかもしれない。
体を激しく揺らして叫んだ。
「起きてください!」
外傷も無さそうだ。
この状況を一度体験したことがある。それはワコーが一人で市場の道路脇で意識を失っていたときだ。
でもなんで?
考えても答えは出ないと、堂々巡りになるのを知っている。だから……
「早く帰ろう」
今の私にはそこまでしか思案が至らなかった。
太刀先輩の体に魔法をかける、山まで来るのに使ったあの魔法だ。
途端に太刀先輩の体はうつ伏せのまま、私の膝の高さまで浮き上がる。
浮き上がった体を両腕で抱え込み、重力が働かないので私でも太刀先輩を抱えていられる。
そして自分にも杖をかざし魔法をかけた。
浮き上がる体を見て、その場からリアン先輩の待機している家へと、即座に向かった。
空中を移動するスピードが今までで最速だった。
「どうしたものかなぁ?」
デスクに広げた地図や書類を目の前に苦悶する。
山中にも山頂にも猫たちの足跡すら発見できなかった。
街には姿を目撃したものはゼロ。
山を越えると隣町の住居が広がっている。
しかし猫だけではあの山を越えることは不可能だ、なにより猫の足では山を越えるのに十日はかかる、それに猫が食べれそうな植物も野獣も生息していない。そのため餓死を避けられない。
「ナレク様?」
ならば何者かが意図的に猫を集め、運んだとなれば状況とは合致するが、その動機が全くもって未知なのだ。
「聞いておりますかナレク様?」
そして一番の問題は、山頂にある教会の猫神様の行方だ。街の飼い猫とともに足取りも不明のままである。
当分昔の話だが、とある田舎に物騒な館が一軒あったそうだ。
そこの館に住んでいたのは一人の魔女、そして相棒の黒猫。
当時誰も暗さや物騒さから近寄る者は居らず詳細は知らないのだった。しかし転機が。
とある勇者たちが館へ押し掛けたのだ、理由は館から放たれる悪臭という。
一人の勇者が門に立つとこう叫んだ『どなたか住んでおられますかー』とそして門が自動で開かれる。
そしてどこからか声がする『どうぞーお入りくださぁーい♪』と何故か嬉しそうな声だったようだ。
勇者たちは怪訝に思いながらも、立ち入ってみる。罠などは仕掛けられておらず正面のドアまで容易くたどり着いたそうだ。
突入するかどうか話し合っていると、ドアが突然素早く開いた。
『初めてのお客様です、ありがとうございます!』
勇者たちは唖然した。
『さぁー早く早く』
勇者の一人が館の住人と思しきとんがり帽子を被った少女に腕を引っ張られていく。
それを見て他の勇者はめいめいに用意しておいた武器を手に持ち少女を警戒する。
『なんでそんなに怖い目してるんですかー?』
少女は首をかしげて聞いてきた。勇者は聞き返す。
『お前は何者だ?』
無表情で勇者たちを見つめる、そして数秒の沈黙のあと口を開いた。
『私は一人の魔女ですよ』
それを聞いた瞬間、勇者たちは魔女にめいめいの武器で切りつけた。
最初に切りつけた勇者の武器は短いナイフで距離が足りなかったのか、魔女の服が少し切れただけになった。
しかし束の間剣を持った勇者が驚いて混乱している魔女を肩から切り裂いた。
壁やドアには真っ赤な血が飛び散ったが、それだけだった。
それはそれは容赦のない残虐、そして嫌悪の末にたどり着いた……惨劇だった。
__そんな昔話を街の人から語ってもらったことがある。
その魔女の黒猫は不老不死という説が有力で人間への恨みを持っているらしい。
しかし封印していたので惨事になることはなかったのだが、封印していた猫像が三日前なくなっていたのだ。
黒猫は飼い猫や野良猫たちを導いて自身の力のために生け贄にするというおっかない能力があるという噂もある。
その猫は自分の駒になるそうだ。黒猫は生け贄を兵のように扱い人を……
冷たいい!
「無視しないでくださいナレク様」
だからってグラスに注いでおいた冷水を顔にかけることないだろう……おかげで高価な黒服も濡れてしまったではないか。
まぁ黒服は置いといて結局、この昔話は関係あるのだろうか?
きっとあるはずと心の中で自問自答した。
「わたくしの名前は……秘密です」
途中口ごもり、結局名前を教えてくれなかった。
俺は目を細めて凝視する。
「本当に秘密なんですよ」
「何名前が?」
イケメン男は辺りを見回しだす、何か探しているのだろうか?
「じゃあ改めて……」
この人怪しい、こんな山の中で、運動には向かない服を着ている。
「ええ、わたくしの名前は漢字で表すとこおりで氷、おのれで己、津市の津で氷己津です」
「……」
「何か返してくださいよ!」
無言で氷己津を見つめた。
氷己津も無言になり、音はなびく葉だけになった。
「……あーもう限界。では本題に入っていいですか?」
「本題?」
氷己津は持っていた懐中電灯を地面に置き、ズボンのポケットから何かを取り出した。
暗くてはっきりと物が見えない。
もう一つ何かを取り出す、同じような形をしている。
そして置いていた懐中電灯を再び手に持つと、取り出した物の二つを地面に置き懐中電灯で照らす。
「赤い缶と青い缶、君ならどちらを選ぶ?」
唐突に質問されても選びようがない。
氷己津は微笑んで言う。
「見た直感でいいよ」
この質問にいったい何の意味があるのだろうか?
う~ん見た直感ねぇ。
「青ですかね」
なんとなく青の缶に少し気を引かれた……気がする。
「青か……そうだね君は、いつも泰然としているけど実は臆病者で、自分の無力さを認めない欺瞞に溢れたただのクズ虫だ」
なんだよ唐突に、青の缶と何の関係もないだろ!
「騙すことを悪とも思わない、周りを騙して、自分も騙して、何が楽しいんだい?」
「うるせぇよ……」
「はい? 何か間違ったことでも言いました?」
いきり立つ感情が歯を食いしばっていることから自分でわかる。
「うるせぇよって言ったんだよ!」
その場から威勢良く立ち上がり、激怒する。
しかし氷己津は驚きも見せずこちらを見つめる。
そして鼻で笑った。
「なんだよ、占い師か? 俺の本心を見抜いたみたいに喋りやがって……」
次が出てこない、思い付かない。
「言いたいことはそれだけか?」
嘲笑い気味にそうほざく。
「……お前は何がしたいんだ」
何も返してこない。
俺の顔をじっーと見つめてくるだけ。しかし何故か圧力を芯に感じる。
なんか見つめてくる目に引き込まれる感覚が……
頭がボッーとしてきた……ヤバいクラクラする。
血の気が引く、それに力も抜けていく。
誰かそいつを……
猫神様は茂みの中にもう居ないのかもしれない。
そう思い始めてきた時、何かに足がつまづき、うつ伏せに倒れてしまった。
服が汚れちゃったなぁ。
何につまづいたのだろうか、と肩越しに見てみると誰かがうつ伏せに倒れていた。
その顔には見覚えどころか親しみまであった。
服が汚れたとか、どうでもいい!
なんで太刀先輩がこんなところで倒れてるんだ!
微動だにしない太刀先輩におずおずと歩み寄る。
「どっどうしたんです……か」
声が震えているのを自分で感じる。
歩み寄って見てみると、目を開けそうな様子はない。
ただ呼吸だけを閑静な暗闇の中でしているだけの植物状態、いや植物の方がまだ生き物として成り立っているかもしれない。
体を激しく揺らして叫んだ。
「起きてください!」
外傷も無さそうだ。
この状況を一度体験したことがある。それはワコーが一人で市場の道路脇で意識を失っていたときだ。
でもなんで?
考えても答えは出ないと、堂々巡りになるのを知っている。だから……
「早く帰ろう」
今の私にはそこまでしか思案が至らなかった。
太刀先輩の体に魔法をかける、山まで来るのに使ったあの魔法だ。
途端に太刀先輩の体はうつ伏せのまま、私の膝の高さまで浮き上がる。
浮き上がった体を両腕で抱え込み、重力が働かないので私でも太刀先輩を抱えていられる。
そして自分にも杖をかざし魔法をかけた。
浮き上がる体を見て、その場からリアン先輩の待機している家へと、即座に向かった。
空中を移動するスピードが今までで最速だった。
「どうしたものかなぁ?」
デスクに広げた地図や書類を目の前に苦悶する。
山中にも山頂にも猫たちの足跡すら発見できなかった。
街には姿を目撃したものはゼロ。
山を越えると隣町の住居が広がっている。
しかし猫だけではあの山を越えることは不可能だ、なにより猫の足では山を越えるのに十日はかかる、それに猫が食べれそうな植物も野獣も生息していない。そのため餓死を避けられない。
「ナレク様?」
ならば何者かが意図的に猫を集め、運んだとなれば状況とは合致するが、その動機が全くもって未知なのだ。
「聞いておりますかナレク様?」
そして一番の問題は、山頂にある教会の猫神様の行方だ。街の飼い猫とともに足取りも不明のままである。
当分昔の話だが、とある田舎に物騒な館が一軒あったそうだ。
そこの館に住んでいたのは一人の魔女、そして相棒の黒猫。
当時誰も暗さや物騒さから近寄る者は居らず詳細は知らないのだった。しかし転機が。
とある勇者たちが館へ押し掛けたのだ、理由は館から放たれる悪臭という。
一人の勇者が門に立つとこう叫んだ『どなたか住んでおられますかー』とそして門が自動で開かれる。
そしてどこからか声がする『どうぞーお入りくださぁーい♪』と何故か嬉しそうな声だったようだ。
勇者たちは怪訝に思いながらも、立ち入ってみる。罠などは仕掛けられておらず正面のドアまで容易くたどり着いたそうだ。
突入するかどうか話し合っていると、ドアが突然素早く開いた。
『初めてのお客様です、ありがとうございます!』
勇者たちは唖然した。
『さぁー早く早く』
勇者の一人が館の住人と思しきとんがり帽子を被った少女に腕を引っ張られていく。
それを見て他の勇者はめいめいに用意しておいた武器を手に持ち少女を警戒する。
『なんでそんなに怖い目してるんですかー?』
少女は首をかしげて聞いてきた。勇者は聞き返す。
『お前は何者だ?』
無表情で勇者たちを見つめる、そして数秒の沈黙のあと口を開いた。
『私は一人の魔女ですよ』
それを聞いた瞬間、勇者たちは魔女にめいめいの武器で切りつけた。
最初に切りつけた勇者の武器は短いナイフで距離が足りなかったのか、魔女の服が少し切れただけになった。
しかし束の間剣を持った勇者が驚いて混乱している魔女を肩から切り裂いた。
壁やドアには真っ赤な血が飛び散ったが、それだけだった。
それはそれは容赦のない残虐、そして嫌悪の末にたどり着いた……惨劇だった。
__そんな昔話を街の人から語ってもらったことがある。
その魔女の黒猫は不老不死という説が有力で人間への恨みを持っているらしい。
しかし封印していたので惨事になることはなかったのだが、封印していた猫像が三日前なくなっていたのだ。
黒猫は飼い猫や野良猫たちを導いて自身の力のために生け贄にするというおっかない能力があるという噂もある。
その猫は自分の駒になるそうだ。黒猫は生け贄を兵のように扱い人を……
冷たいい!
「無視しないでくださいナレク様」
だからってグラスに注いでおいた冷水を顔にかけることないだろう……おかげで高価な黒服も濡れてしまったではないか。
まぁ黒服は置いといて結局、この昔話は関係あるのだろうか?
きっとあるはずと心の中で自問自答した。
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