それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~
第七十二話 大人げなさすぎるです
勇者様が対戦フィールドに現れると、向こうもやっぱりリーダーの大男が大剣を担いで出て来たです。
下卑た気持ち悪い笑み。この前は勇者様に文字通り歯が立たなかったですのに、今回はなにか秘策でもあるですかね? まあ、なにが来ようと勇者様なら大丈夫だとは思うですが……。
「もうてめえが出てくるたぁな。大将じゃねえのか? ああ、先鋒が無様に負けちまったから一番強えてめえが勝ち星を取らねえと後がねえもんなぁ!」
あの人いきなり勇者様にメンチを切って絡んできたです。それから担いでいた大剣を鞘から抜き放ち、勇者様の目の前で寸止めしたです。
「こいつはミスリルと鋼竜の鱗から鍛えられた鉄でも斬れる剣だ。この前てめえがどんな手品で俺の剣を砕いたのかは知らねえが、今回も同じように行くと思うなよ?」
確かに物凄い名剣だと思うです。流石は元星六つの冒険者チームですね。装備の格がわたしたちとは全然違うですよ。
ですが――
「帰りたい」
勇者様は心底どうでもよさそうに呟いて空を見上げていたです。
「おっと、ビビッちまったか? だがタダで帰してやるわけねえだろ? てめえは俺に恥をかかせたからなぁ。この剣の錆になってから帰るんだな」
「いや、ならないから。俺を斬りたいなら伝説級の剣でも用意するんだな」
煽りに屈さない勇者様。たぶん既に魔眼で〈解析〉してるですね。あの剣じゃ〈古竜の模倣〉に傷一つつけられないことを知っている顔です。
「チッ、その余裕な面がいつまで続くかな」
勇者様に脅しが通じないって理解したのか(内心ではかなりビビッてるですよー)、大男は忌々しげに舌打ちをして唾を吐いたです。
『それでは第二決闘を始めますわ! 現役五つ星冒険者チームはここでリーダーを投入! 冒険者イマキ・タク! 東方人のようにファミリーネームが先ですわ!』
勇者様が有名ならここで歓声が湧いて盛り上がりそうなところですが……あの人自分がドラゴンを退けたことを一般に公開しないようにと王女様に言っていたですからね。知っているのはギルドと王族と王国軍の人たちと上位貴族様たちだけです。
その理由が有名になったら帰れなくなるってだけですから格好悪すぎるです。
『対する元六つ星冒険者チームもリーダーを出してきましたわ。〝剛剣〟と名高い大陸指折りの狂戦士――ドゥーガルド・ダンブレッグ!』
わっと歓声が上がったです。やっぱり元とはいえ星六つの冒険者となれば有名なんですね。いえ、本来は星五つでも充分なはずなんですがね……。
「言っておくが、俺は早く帰りたい。だから遊びはなしだ」
「あぁ?」
淡々と告げる勇者様に大男――ドゥーガルドさんは意味がわからないと言った様子で眉を顰めたです。
でも、その意味はすぐに嫌というほど理解させられるです。
『それでは――決闘開始ですわ!』
瞬間。
ニヤリとどこか凶悪に嗤った勇者様の両隣に、巨大な影が出現したです。燃えるような赤い鱗とサファイアの瞳。蝙蝠のような巨翼を背中から生やした大トカゲ――ドラゴンです。それも二体。
「……へ?」
ドゥーガルドさんはポカーン。観客たちも突然召喚されたように見えるドラゴンを認識するのに時間がかかっているようで、ただただ沈黙しているです。
『こ、これはどういうことですの!? イマキ・タクがドラゴンを召喚しましたわ!?』
『召喚とは違いますね。兄貴は自分が想像できるものならなんでも生み出せる力があるのです』
『さらっと言ってますけどそれ凄まじい魔法ですわよ!?』
この場で冷静なのはわたしとヘクターくんだけですね。ヴァネッサさんも勇者様の力はある程度知っているですが――
「ふぉおおおっ!? ドラゴンなのじゃ!? 凄いのじゃイの字!? 凄いのじゃ!? ふぉおおおおおおっ!?」
とわたしの隣で興奮していてとても冷静とは言えないです。
「おやおや、どうしたのかな? もう決闘は始まってるんだけど?」
ニヤニヤしている勇者様はさらに〈古竜の模倣〉を纏い、二体のドラゴンの中間にふわりと浮き上がったです。
「浮い……浮遊魔法だと……え?」
「だから俺は早く帰りたいんだってばよ。そっちが来ないならこっちから行くぞ?」
すぅ、と大きく息を吸い込むと――轟ッ!! 勇者様の口から火山の噴火にも匹敵しそうな灼熱のブレスが放射されたです。それはドゥーガルドさんの脇を掠り、後ろの壁をドロドロに熔解させたです。
アレでも威力はかなり抑えているです。
抑えているですが――
「お、大人げなさすぎるです、勇者様」
いつもなら敵を〈模倣〉して、同じ戦い方で超越して打ちのめすですのに……あれ? よく考えたらそれはそれでかなり外道な気がしてきたです。
「ふ、ふふふふふざけんな! こ、こんなのはどうせ幻惑魔法かなにかだ!」
やっと動けるようになったドゥーガルドさんは大剣を大上段に構えて突撃。勇者様から見て左側のドラゴンの足に叩きつけたです。
ポキッ。
ミスリルと鋼竜の鱗から作られたらしい名剣が、細枝のように簡単に折れてしまったです。古竜は竜種の中でも最強ですから、当然と言えば当然の結果ですね。
「あひっ!?」
現実に理解が追いつかず変な悲鳴を上げるドゥーガルドさん。左のドラゴンは窮屈そうに身じろぎすると、鋭い牙の並んだ大口を開いて――グォオオオオオオッ!! とドゥーガルドさんの眼前で咆哮したです。
音だけで凄まじい衝撃波。ドゥーガルドさんは紙切れのように吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がっていったです。
「どうした? そんなゴミみたいに転がってないでかかって来いよ? 俺を剣の錆にするんだろ? あっ、もう剣折れちまってたな。悪い悪い。弁償はしないから」
勇者様が悪人顔すぎるです!?
「……」
壁に背中から激突したドゥーガルドさんは……ぶくぶく。口から泡を吐いて気絶していたです。
『き、気絶!? 第二決闘の勝者は――現役五つ星冒険者チーム、イマキ・タクですわ!』
『兄貴なら当然ですね』
爆発するように歓声が上がったです。その熱気は二体のドラゴンが消えた後も冷めることなく、仕事を終えたような顔の勇者様が控室に戻ってからも続いていたです。
「ハッ! やべえ!? こんな大勢の前であんなことしたら有名になっちまう帰りたい!?」
「今後はお仕事引っ張りだこですね、勇者様。一日中大忙しの日々がわたしたちを待っているです」
「定時の設定を要求する!? ノー残業ノー休日出勤!? 一日八時間働いたら絶対帰るからな!?」
決闘には圧勝したですのに、勇者様は両手と両膝を床についた敗北のポーズをしていたです。勝ったのか負けたのかよくわからないですね。ついでにテージというのもヨクワカラナイデスネ。
「イの字! ドラゴンの召喚はどうやるのじゃ教えるのじゃ!」
ヴァネッサさんが目をキラキラさせて勇者様をぐわんぐわん揺さぶり始めたのは置いといて……さて、次はわたしの番です。
せっかく勇者様が繋いでくれたです。ここで勝たなければ、わたしたちは今住んでいる場所すら失ってしまうです。
恐いですが、絶対に負けられない戦いです。
下卑た気持ち悪い笑み。この前は勇者様に文字通り歯が立たなかったですのに、今回はなにか秘策でもあるですかね? まあ、なにが来ようと勇者様なら大丈夫だとは思うですが……。
「もうてめえが出てくるたぁな。大将じゃねえのか? ああ、先鋒が無様に負けちまったから一番強えてめえが勝ち星を取らねえと後がねえもんなぁ!」
あの人いきなり勇者様にメンチを切って絡んできたです。それから担いでいた大剣を鞘から抜き放ち、勇者様の目の前で寸止めしたです。
「こいつはミスリルと鋼竜の鱗から鍛えられた鉄でも斬れる剣だ。この前てめえがどんな手品で俺の剣を砕いたのかは知らねえが、今回も同じように行くと思うなよ?」
確かに物凄い名剣だと思うです。流石は元星六つの冒険者チームですね。装備の格がわたしたちとは全然違うですよ。
ですが――
「帰りたい」
勇者様は心底どうでもよさそうに呟いて空を見上げていたです。
「おっと、ビビッちまったか? だがタダで帰してやるわけねえだろ? てめえは俺に恥をかかせたからなぁ。この剣の錆になってから帰るんだな」
「いや、ならないから。俺を斬りたいなら伝説級の剣でも用意するんだな」
煽りに屈さない勇者様。たぶん既に魔眼で〈解析〉してるですね。あの剣じゃ〈古竜の模倣〉に傷一つつけられないことを知っている顔です。
「チッ、その余裕な面がいつまで続くかな」
勇者様に脅しが通じないって理解したのか(内心ではかなりビビッてるですよー)、大男は忌々しげに舌打ちをして唾を吐いたです。
『それでは第二決闘を始めますわ! 現役五つ星冒険者チームはここでリーダーを投入! 冒険者イマキ・タク! 東方人のようにファミリーネームが先ですわ!』
勇者様が有名ならここで歓声が湧いて盛り上がりそうなところですが……あの人自分がドラゴンを退けたことを一般に公開しないようにと王女様に言っていたですからね。知っているのはギルドと王族と王国軍の人たちと上位貴族様たちだけです。
その理由が有名になったら帰れなくなるってだけですから格好悪すぎるです。
『対する元六つ星冒険者チームもリーダーを出してきましたわ。〝剛剣〟と名高い大陸指折りの狂戦士――ドゥーガルド・ダンブレッグ!』
わっと歓声が上がったです。やっぱり元とはいえ星六つの冒険者となれば有名なんですね。いえ、本来は星五つでも充分なはずなんですがね……。
「言っておくが、俺は早く帰りたい。だから遊びはなしだ」
「あぁ?」
淡々と告げる勇者様に大男――ドゥーガルドさんは意味がわからないと言った様子で眉を顰めたです。
でも、その意味はすぐに嫌というほど理解させられるです。
『それでは――決闘開始ですわ!』
瞬間。
ニヤリとどこか凶悪に嗤った勇者様の両隣に、巨大な影が出現したです。燃えるような赤い鱗とサファイアの瞳。蝙蝠のような巨翼を背中から生やした大トカゲ――ドラゴンです。それも二体。
「……へ?」
ドゥーガルドさんはポカーン。観客たちも突然召喚されたように見えるドラゴンを認識するのに時間がかかっているようで、ただただ沈黙しているです。
『こ、これはどういうことですの!? イマキ・タクがドラゴンを召喚しましたわ!?』
『召喚とは違いますね。兄貴は自分が想像できるものならなんでも生み出せる力があるのです』
『さらっと言ってますけどそれ凄まじい魔法ですわよ!?』
この場で冷静なのはわたしとヘクターくんだけですね。ヴァネッサさんも勇者様の力はある程度知っているですが――
「ふぉおおおっ!? ドラゴンなのじゃ!? 凄いのじゃイの字!? 凄いのじゃ!? ふぉおおおおおおっ!?」
とわたしの隣で興奮していてとても冷静とは言えないです。
「おやおや、どうしたのかな? もう決闘は始まってるんだけど?」
ニヤニヤしている勇者様はさらに〈古竜の模倣〉を纏い、二体のドラゴンの中間にふわりと浮き上がったです。
「浮い……浮遊魔法だと……え?」
「だから俺は早く帰りたいんだってばよ。そっちが来ないならこっちから行くぞ?」
すぅ、と大きく息を吸い込むと――轟ッ!! 勇者様の口から火山の噴火にも匹敵しそうな灼熱のブレスが放射されたです。それはドゥーガルドさんの脇を掠り、後ろの壁をドロドロに熔解させたです。
アレでも威力はかなり抑えているです。
抑えているですが――
「お、大人げなさすぎるです、勇者様」
いつもなら敵を〈模倣〉して、同じ戦い方で超越して打ちのめすですのに……あれ? よく考えたらそれはそれでかなり外道な気がしてきたです。
「ふ、ふふふふふざけんな! こ、こんなのはどうせ幻惑魔法かなにかだ!」
やっと動けるようになったドゥーガルドさんは大剣を大上段に構えて突撃。勇者様から見て左側のドラゴンの足に叩きつけたです。
ポキッ。
ミスリルと鋼竜の鱗から作られたらしい名剣が、細枝のように簡単に折れてしまったです。古竜は竜種の中でも最強ですから、当然と言えば当然の結果ですね。
「あひっ!?」
現実に理解が追いつかず変な悲鳴を上げるドゥーガルドさん。左のドラゴンは窮屈そうに身じろぎすると、鋭い牙の並んだ大口を開いて――グォオオオオオオッ!! とドゥーガルドさんの眼前で咆哮したです。
音だけで凄まじい衝撃波。ドゥーガルドさんは紙切れのように吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がっていったです。
「どうした? そんなゴミみたいに転がってないでかかって来いよ? 俺を剣の錆にするんだろ? あっ、もう剣折れちまってたな。悪い悪い。弁償はしないから」
勇者様が悪人顔すぎるです!?
「……」
壁に背中から激突したドゥーガルドさんは……ぶくぶく。口から泡を吐いて気絶していたです。
『き、気絶!? 第二決闘の勝者は――現役五つ星冒険者チーム、イマキ・タクですわ!』
『兄貴なら当然ですね』
爆発するように歓声が上がったです。その熱気は二体のドラゴンが消えた後も冷めることなく、仕事を終えたような顔の勇者様が控室に戻ってからも続いていたです。
「ハッ! やべえ!? こんな大勢の前であんなことしたら有名になっちまう帰りたい!?」
「今後はお仕事引っ張りだこですね、勇者様。一日中大忙しの日々がわたしたちを待っているです」
「定時の設定を要求する!? ノー残業ノー休日出勤!? 一日八時間働いたら絶対帰るからな!?」
決闘には圧勝したですのに、勇者様は両手と両膝を床についた敗北のポーズをしていたです。勝ったのか負けたのかよくわからないですね。ついでにテージというのもヨクワカラナイデスネ。
「イの字! ドラゴンの召喚はどうやるのじゃ教えるのじゃ!」
ヴァネッサさんが目をキラキラさせて勇者様をぐわんぐわん揺さぶり始めたのは置いといて……さて、次はわたしの番です。
せっかく勇者様が繋いでくれたです。ここで勝たなければ、わたしたちは今住んでいる場所すら失ってしまうです。
恐いですが、絶対に負けられない戦いです。
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