それでも俺は帰りたい~最強勇者は重度の帰りたい病~

夙多史

第六十一話 俺が代わりに捕まっていたら!

 そうと決まれば善は急げってやつだ。
 行きと同様に馬車に乗り、南区画のギルド付近の大通りで下車する。宿の前まで行けたらよかったんだが、市街になると馬車が通行できる道ってある程度決まってるらしいんだよ。まあ、仕方ないか。

「待ってろよエヴリル。オフトゥン。今帰るからな!」
「兄貴、そこはエヴリルさんだけにしときましょうよ」

 おうちに帰る時の俺の速度舐めんなよ。後ろから「速い速い速いもっとゆっくり歩くのじゃ!?」と悲鳴が聞こえるくらいだからな。
 そうして俺たちの暮らすボロ宿に帰り着いた頃には、ヴァネッサはぜーはーと肩で息をしていた。運動不足なんじゃないのん?

「エヴリル、入るぞ」

 念のため断ってから、俺は〈創造〉した鍵を使って部屋に入る。するとエヴリルさんがお着換え中でした! なんていうラッキーハプニングなどは残念ながらなく、エヴリルはベッドで苦しそうな寝息を立てていた。

「こやつ、今、鍵を作ったように見えたのじゃが?」
「兄貴の能力の一つです」
「鍵を作ることがかや?」
「〈強欲の創造アワリティア・クリエイト〉――俺がイメージできるものならなんでも三分間だけ〈創造〉できる力だ」
「まさか、そんな神のような力……一体どこの魔法じゃ!? 属性は!? 所属教会はどこじゃ!?」

 目を輝かせたヴァネッサが鼻息を荒くして俺に掴みかかってきた。興味を持ってくれるなら鼻を高くして自慢してやりたいところだが、中二病の相手とか帰りたいからご遠慮したいです。

「俺のことはいいから、早くエヴリルを診てくれ」

 ぐわんぐわん揺さぶられるのも気持ち悪くなってきたので、俺はヴァネッサを引き剥がしてベッドを指差した。
 ヴァネッサもようやくエヴリルの方を見てくれて――すっと、表情を引き締めた。ふざけている場合じゃないって悟ってくれたらしいな。

「そうじゃな。話はまた今度じゃ」

 今度も嫌ですが。

「どれ」

 ヴァネッサは家から持ってきた鞄に手を突っ込み、聴診器みたいなものを取り出した。俺の知ってる向こうの世界のものとは形から違う。耳管部があって耳に挿すところまでは同じだが、そこから先はチューブではなく糸が伸びている。患者の体にあてる部分――チェストピースって言うんだっけ――の代わりに黄色い宝石が取りつけられていて、その少し手前にある金属の輪を左手の中指に入れた。
 アレだ。聴診器と言うより、ペンデュラムを使ったダウジングに近い図だ。

 ヴァネッサはエヴリルの胸の上に宝石を持って行く。すると宝石が淡く明滅して、なにやらその場で独りでにくるくると回転を始めた。
 空いている左手をエヴリルのおでこに添える。

「……熱がかなり高いの。ヘの字、水とタオル、それとできれば氷も欲しいのじゃ」
「わかりました。確か商店街に海洋神教会の氷屋があったはず」

 ヘクターは洗面所から水を汲んだ桶とタオルを持ってくると、そのまま氷を買い出しに部屋を出ていった。氷くらい俺が〈創造〉してもよかったが、三分で消えるから本物の方がいいだろうね。
 と――

「――母なる大地よ、彼の者に安息を与えるのじゃ」

 石の杖を握ったヴァネッサがなんか呪文を唱えた。

「魔法?」

 エヴリルのベッドを中心に黄色に輝く魔法陣が展開する。優しく包み込むような光。苦しく呻いていたエヴリルの表情が少し和らいだぞ。呼吸もさっきより落ち着いた気がする。
 治癒魔法……じゃなさそうだな。〈解析〉してみるか。

「……なるほど、症状を抑える薬みたいな効果か」
「えっ? なんでわかったのじゃ? まさかイの字も地母神教会? となると先程の創造する魔法も地属性……うぇへへ♪」
「違うからニヤけるな中二病患者!?」

 中二病なら闇属性でも信仰してろ! と言いたいが、なんかヴァネッサは地属性が大好きっぽいな。地味なのに。地属性なだけに。上手いこと言った気がします。
 コホンと可愛く咳払いをして意識を診察に戻したヴァネッサは、ふと、訝しそうに眉を顰めた。

「あまり効きがよくないのう。まさかこの者、天空神教会の魔導師かや?」
「そうだが、関係あるのか?」
「地母神と天空神は相反する属性じゃから効果が薄いのじゃ。神話では神様同士の仲も悪かったらしくての。教会もつまらんことで互いにいがみ合っとるのじゃ。全くくだらん」

 なるほど、その話が本当なら俺は地母神の味方になれそうだ。打倒天空神を掲げる俺としては是非ともお近づきになりたいです。冗談はさておき、とりあえずエヴリルには地属性の魔法に対する耐性があるってことだろう。

「お前は嫌ったりしてないんだな?」
「曾お婆ちゃんの教えでな。患者に教会は関係ないのじゃ」

 流石はテッサお婆ちゃん! 俺がこの世界で唯一尊敬できる人!

「で、どうだ? なんかわかったか?」

 再びエヴリルの上で聴診器(?)をくるくるさせ始めたヴァネッサに訊く。ヴァネッサは神妙な顔つきで聴診器(?)を耳から外し――

「ただの風邪ではないのじゃ。見よ、熱は高いのに指先から青紫色に変色し始めておる」
「インフエンザとか、そんな名前の病気らしいが」
「やはりか。……ん? イの字、なぜその病名を知っておる」
「ああ、ちょっと〈解析〉して知った」
「?」

 まだ俺のことをあんまり知らないヴァネッサは頭上に疑問符をいくつも浮かべていた。魔眼なんて教えたら超飛びついてきそうだから帰りたい。

「よくわからんが、これは主にスライム種の魔物が持っておる病原菌に感染すると発症する病気じゃ」
「え? スライム」
「粘液感染じゃから、思いっ切りスライムに触れるようなことがない限り感染することはないはずじゃが……お主ら、最近スライム討伐でもしたのかや?」
「……」

 うぇーい、心当たりありまくりだぜ☆

「したんじゃな?」
「昨日、王都の地下水道に巣食ってたスライムを駆逐したな。エヴリルは最初のスライムに捕まって首までどっぷり……くそっ! 俺が、俺が代わりに捕まっていたら!」
「イの字は仲間想いじゃの。気持ちは痛いほどわかるのじゃ」

 俺も初めてビョーキできてたかもしれないのに! 全く惜しいことをした。今度スライムと戦うことがあれば率先して飛び込もう。
 ……ちょっと待てよ。

「あ、そういえばラティーシャも捕まってたな。もしかしてあいつも発症して――」

 ドバン!

 隣の部屋の扉が蹴り破られたような音が響いた。

『勇者殿! 今日も城を抜け出してきたぞ! さあ、素晴らしい筋肉を育むための特訓に付き合ってくれ! む? 留守か?』
『王女殿下ぁあッ!? やはりここに来ましたな!? いつもいつも謎の小躍りをしてると思えば抜け出してからに!? 今日という今日は許しませんぞ!?』
『なっ!? サイラス!? 筋肉信号で伝えただろう!?』
『なんですかそれは!? とにかく帰って説教です!』
『ま、待てまだ特訓が――あ、隣から勇者殿の筋肉反応が!』
『またわけのわからないことを! とにかく城に帰りますよ!』
『勇者殿ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?』

 勇者を呼ぶ近所迷惑レベルの悲鳴が遠ざかっていく。勇者さんなら引っ越しましたよー。サイラス将軍グッジョブ!

「の、のう、イの字。い、今、『王女』と聞こえたような……?」
「キノセイだろ」

 心配は杞憂だったな。あの脳筋王女様にはウイルスも敵わなかったらしい。ピンピンしてましたよ。
 気を取り直すようにヴァネッサがもう一度咳払いをする。

「ま、まあ、とにかくインフエンザであれば話は速いのじゃ。わしなら特効薬を作れるでな」
「おお、ならさっそく頼む」
「――と言いたいところじゃが、材料が足りん」

 ヴァネッサは肩を竦めてお手上げのポーズ。おい、医者がそんな簡単に諦めんな。

「材料? 薬草か? その辺に生えてるなら取ってくるぞ」

 生えてなければヘクターに仕入れてもらおう。

「いや、薬草類なら持って来ておる」

 ヴァネッサは首を振り、窓の外の遠くへと視線を向けた。

「必要なのは、火山地帯に生息しておるサラマンダーという魔物――その尻尾じゃ」

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