希望と夢は同じようで違う。
ボッコボコの将軍とちょこんとした軍師
7歳で重たいローブを着て、兄が遺して行った書簡と参謀としての書物を抱き締め軍に入ったクリスには、徹底的に欠如しているものがあった。
軍は当然男性が多い。
だが、女性がいることはいる。
戦場の近隣の村の人間が、作った作物や仕立てた服といった日用品や食料を持ってくる。
その中には女性がいて、特に服を注文を受けて仕立てたり、調理場に通い食事を作る。
実際、本来こういうものは軍の中で行われる。
でなければ兵の数が何人で、もしくは武器などをチェックされては間者だったら困るからである。
しかし、日々戦場に立ち、交代で警備等につく者に余計な負担になってはいけないと、決められた地域の村の人々が出入りをすることが認められた。
これは、クリスが決めた訳ではなく、もう、合計30年余りもの間繰り返された長期の隣国との紛争でいつのまにか決まっていたのである。
ここで何組かのカップルが生まれ、兵役を終えてもこの地に留まり、そして軍の為にと作ったものなどを届けに来る元兵士も少なくなかった。
その中でも、彼らの奥さんである料理を作るおばさんや仕立てた服を持ってくる女性は知っているが、クリスは一応高位の立場だと言うことで、彼女らに直接会うことはなかった。
だが、着のみ着のままで突撃……いや、着任したクリスにはお金もなければ着替えもない為に、即ダークに引き取られ、まずは着替えを数着とパジャマ、下着を用意して貰った。
しかし……、
「困ったのぉ……娘だったとは」
ダークは眉をひそめる。
クリスはモゾモゾと着替えをし、
「あの、女が駄目ですか?」
「いや、そうではなく、いやそうと言えばいいのか……。よいか?クリス。男の前では……わしの前以外では服は脱いではならぬ」
「水浴びも駄目ですか?」
「……わし一人では困るの。うーん……ドファーグとボルドーに頼むとするか」
着替えたのを確認し、二人に来てもらうように兵に頼む。
しばらくして、二人がやって来る。
すると、無表情で無口なボルドーですら、唖然とする光景が広がっていた。
「イタ、イタ、イタタ‼」
「馬鹿者。髪の毛を綺麗に梳かすのは最低限の身だしなみじゃ。ほら、絡まってしまったではないか」
「切っちゃいます‼」
「ならぬ。毎日、キャメリア油をぬって、丁寧にブラッシングをせよ。そして、伸ばしておくのだ」
「ですが、邪魔になる……」
キャメリア油を手に塗り、それを銀色の髪に伸ばし、もう一度丁寧に梳かす。
そして、左側に寄せて三つ編みを作り、下はリボンできつく止める。
「良いか?これで眼鏡をかけてローブを羽織るのだ。髪を出すことでそなたが何者か解る」
「はい……」
ドファーグとボルドーにも可愛がられたクリスだが、如何せん男親3人に育てられたようなものであり、女性に必要な羞恥心が欠けている。
その為、
「あの、将軍大丈夫ですか?」
晒しを巻いたままで、将軍に近づこうとしたクリスを慌てて捕まえる。
「こりゃ‼クリス‼そんな格好でうろうろするでない‼この男はスケベ野郎じゃ‼変態じゃ‼けだものじゃ‼ドファーグ、絞めてこい‼」
「了解です。ウィルヘルム」
言葉もなく痛みに悶絶するウィルヘルムを引きずって去っていった。
「あの、将軍は何で……」
「おかしな妄想をせんように眠らせるゆえ、安心するがよい」
「妄想……えっと、何を妄想するんでしょう?」
入れ替わりに戻ってきたボルドーは淡々と、
「ここは男ばかりだ。クリスは気を付けろ」
「ボルドー隊長?」
「ドファーグが泣く」
「えっと、えっと……何か解りませんが、ドファーグ隊長が泣くのは困るのでちゃんとします‼」
就任して一年もせずに、歩兵隊と弓兵が混ざっており、訓練も纏まりも良くなかったのに気がついたクリスがドファーグに相談したのである。
そこで、歩兵と弓兵等、特殊武器を扱う部隊を完全に分け、歩兵隊はボルドー。
残りはドファーグが隊長になった。
飛距離のある武器を扱うため後方支援と、クリスを守る役はドファーグが必然的に増えていった。
そして、王都を襲った流行病で、奥方に子供を失ったドファーグを慰めたのは、クリスである。
愛妻を失い、クリスと年の変わらぬ子供たちを亡くし、嘆き、落ち込むドファーグに下手ではあるものの、
「ドファーグさま。そんなに泣いていては、天国に召された奥方とお子さまが泣かれますよ。心配です……えと、私は、いなくなったあ……兄弟が、とても心配でした」
元軍師を輩出する一族……特に直系だった為、物心つく頃には絵本の代わりに兵法書を読まされていた人間である。
特に15歳だった兄は、恋人がいた。
行方不明になる前に、一度だけ、
「家族は大事だ。でも、アナが……」
そう、白いローブを握りしめ呟いていた。
アナは隣の村の娘で、商人の娘である。
その二日後、兄とアナは行方不明になった。
クリスは兄のクリスがアナと出ていったのだと思っていた。
しかし、その事を知らない二つの村は大騒ぎになり、そして特にクリスの村は真っ青になった。
軍に着任したと告げる日までに、兄が戻ってくるかは解らない。
他の少年に一時期頼んでおいて、見つかったら入れ替わると言う方法も考えたものの、クリスの容姿は珍しすぎた。
「私が行きます‼」
「止めなさい‼私が説明をして、待ってもらおう‼」
「無理です。お父さん。もし、その日までに着任しなければ、お兄ちゃんやお父さんだけでなく、この村も罰を与えられます。だから……私が行きます」
「駄目だ‼駄目だ駄目だ‼戦いが終わればどうなるか‼それに女の子のしかも15に満たぬ子供に何ができるのだ‼」
「なら他にどんな方法があるんですか‼」
幼い名前を失った少女は食って掛かる。
「解りました‼私は、クリスと名乗りますが、この村とは関係ない‼兄だった人が見つかっても軍に着任せずとも結構です‼私が戦場を平穏の地にして見せましょう‼」
「……っ‼」
「……誰でしょう?私はクリスですが?では失礼‼」
大きなローブを羽織、荷物は兵法書。
お金はないが代わりに送り届けられた封書にはネックレスが一緒にあり、それを行く先々の町の城やギルドに見せると、部屋を用意してもらえ、食事もクリスが持てるぶんをリュックザックにいれてもらえた。
そして、着任日の3日前に転がり込んだクリスは、軍師としては最高の才能を開花させるように成長したが、女性としては全く残念さんに育ったのである。
服装も脱がなかったらいいだろうと肩を出し、ダークに叱られる。
暑いので半ズボン姿になり、川でバシャバシャ遊んでいたら、ドファーグが、
「何をしている‼そのような格好をしてはいけない‼」
と叱られる。
しかし本人に叱られる意味が解らないた為、隙をみては出ていくので、ボルドーがローブでくるんで抱えて帰ってくることが数えられないほ程あった。
しかし本人は、隔離されたところで育てられたも同然で、男女の違いも知らないのである。
「スケベ親父、変態、けだもの……ダーク隊長。将軍は沢山のあだ名をお持ちなのですね。さすが……慕われていらっしゃる」
「……そう思っとればよい。傷の手当てをせんといかん。傷を見せなさい」
「はい」
無邪気な少女の一言に、普段は無口なボルドーも、
「クリスにかかると、ウィルヘルムは聖人君子だな」
と呟いた位である。
軍は当然男性が多い。
だが、女性がいることはいる。
戦場の近隣の村の人間が、作った作物や仕立てた服といった日用品や食料を持ってくる。
その中には女性がいて、特に服を注文を受けて仕立てたり、調理場に通い食事を作る。
実際、本来こういうものは軍の中で行われる。
でなければ兵の数が何人で、もしくは武器などをチェックされては間者だったら困るからである。
しかし、日々戦場に立ち、交代で警備等につく者に余計な負担になってはいけないと、決められた地域の村の人々が出入りをすることが認められた。
これは、クリスが決めた訳ではなく、もう、合計30年余りもの間繰り返された長期の隣国との紛争でいつのまにか決まっていたのである。
ここで何組かのカップルが生まれ、兵役を終えてもこの地に留まり、そして軍の為にと作ったものなどを届けに来る元兵士も少なくなかった。
その中でも、彼らの奥さんである料理を作るおばさんや仕立てた服を持ってくる女性は知っているが、クリスは一応高位の立場だと言うことで、彼女らに直接会うことはなかった。
だが、着のみ着のままで突撃……いや、着任したクリスにはお金もなければ着替えもない為に、即ダークに引き取られ、まずは着替えを数着とパジャマ、下着を用意して貰った。
しかし……、
「困ったのぉ……娘だったとは」
ダークは眉をひそめる。
クリスはモゾモゾと着替えをし、
「あの、女が駄目ですか?」
「いや、そうではなく、いやそうと言えばいいのか……。よいか?クリス。男の前では……わしの前以外では服は脱いではならぬ」
「水浴びも駄目ですか?」
「……わし一人では困るの。うーん……ドファーグとボルドーに頼むとするか」
着替えたのを確認し、二人に来てもらうように兵に頼む。
しばらくして、二人がやって来る。
すると、無表情で無口なボルドーですら、唖然とする光景が広がっていた。
「イタ、イタ、イタタ‼」
「馬鹿者。髪の毛を綺麗に梳かすのは最低限の身だしなみじゃ。ほら、絡まってしまったではないか」
「切っちゃいます‼」
「ならぬ。毎日、キャメリア油をぬって、丁寧にブラッシングをせよ。そして、伸ばしておくのだ」
「ですが、邪魔になる……」
キャメリア油を手に塗り、それを銀色の髪に伸ばし、もう一度丁寧に梳かす。
そして、左側に寄せて三つ編みを作り、下はリボンできつく止める。
「良いか?これで眼鏡をかけてローブを羽織るのだ。髪を出すことでそなたが何者か解る」
「はい……」
ドファーグとボルドーにも可愛がられたクリスだが、如何せん男親3人に育てられたようなものであり、女性に必要な羞恥心が欠けている。
その為、
「あの、将軍大丈夫ですか?」
晒しを巻いたままで、将軍に近づこうとしたクリスを慌てて捕まえる。
「こりゃ‼クリス‼そんな格好でうろうろするでない‼この男はスケベ野郎じゃ‼変態じゃ‼けだものじゃ‼ドファーグ、絞めてこい‼」
「了解です。ウィルヘルム」
言葉もなく痛みに悶絶するウィルヘルムを引きずって去っていった。
「あの、将軍は何で……」
「おかしな妄想をせんように眠らせるゆえ、安心するがよい」
「妄想……えっと、何を妄想するんでしょう?」
入れ替わりに戻ってきたボルドーは淡々と、
「ここは男ばかりだ。クリスは気を付けろ」
「ボルドー隊長?」
「ドファーグが泣く」
「えっと、えっと……何か解りませんが、ドファーグ隊長が泣くのは困るのでちゃんとします‼」
就任して一年もせずに、歩兵隊と弓兵が混ざっており、訓練も纏まりも良くなかったのに気がついたクリスがドファーグに相談したのである。
そこで、歩兵と弓兵等、特殊武器を扱う部隊を完全に分け、歩兵隊はボルドー。
残りはドファーグが隊長になった。
飛距離のある武器を扱うため後方支援と、クリスを守る役はドファーグが必然的に増えていった。
そして、王都を襲った流行病で、奥方に子供を失ったドファーグを慰めたのは、クリスである。
愛妻を失い、クリスと年の変わらぬ子供たちを亡くし、嘆き、落ち込むドファーグに下手ではあるものの、
「ドファーグさま。そんなに泣いていては、天国に召された奥方とお子さまが泣かれますよ。心配です……えと、私は、いなくなったあ……兄弟が、とても心配でした」
元軍師を輩出する一族……特に直系だった為、物心つく頃には絵本の代わりに兵法書を読まされていた人間である。
特に15歳だった兄は、恋人がいた。
行方不明になる前に、一度だけ、
「家族は大事だ。でも、アナが……」
そう、白いローブを握りしめ呟いていた。
アナは隣の村の娘で、商人の娘である。
その二日後、兄とアナは行方不明になった。
クリスは兄のクリスがアナと出ていったのだと思っていた。
しかし、その事を知らない二つの村は大騒ぎになり、そして特にクリスの村は真っ青になった。
軍に着任したと告げる日までに、兄が戻ってくるかは解らない。
他の少年に一時期頼んでおいて、見つかったら入れ替わると言う方法も考えたものの、クリスの容姿は珍しすぎた。
「私が行きます‼」
「止めなさい‼私が説明をして、待ってもらおう‼」
「無理です。お父さん。もし、その日までに着任しなければ、お兄ちゃんやお父さんだけでなく、この村も罰を与えられます。だから……私が行きます」
「駄目だ‼駄目だ駄目だ‼戦いが終わればどうなるか‼それに女の子のしかも15に満たぬ子供に何ができるのだ‼」
「なら他にどんな方法があるんですか‼」
幼い名前を失った少女は食って掛かる。
「解りました‼私は、クリスと名乗りますが、この村とは関係ない‼兄だった人が見つかっても軍に着任せずとも結構です‼私が戦場を平穏の地にして見せましょう‼」
「……っ‼」
「……誰でしょう?私はクリスですが?では失礼‼」
大きなローブを羽織、荷物は兵法書。
お金はないが代わりに送り届けられた封書にはネックレスが一緒にあり、それを行く先々の町の城やギルドに見せると、部屋を用意してもらえ、食事もクリスが持てるぶんをリュックザックにいれてもらえた。
そして、着任日の3日前に転がり込んだクリスは、軍師としては最高の才能を開花させるように成長したが、女性としては全く残念さんに育ったのである。
服装も脱がなかったらいいだろうと肩を出し、ダークに叱られる。
暑いので半ズボン姿になり、川でバシャバシャ遊んでいたら、ドファーグが、
「何をしている‼そのような格好をしてはいけない‼」
と叱られる。
しかし本人に叱られる意味が解らないた為、隙をみては出ていくので、ボルドーがローブでくるんで抱えて帰ってくることが数えられないほ程あった。
しかし本人は、隔離されたところで育てられたも同然で、男女の違いも知らないのである。
「スケベ親父、変態、けだもの……ダーク隊長。将軍は沢山のあだ名をお持ちなのですね。さすが……慕われていらっしゃる」
「……そう思っとればよい。傷の手当てをせんといかん。傷を見せなさい」
「はい」
無邪気な少女の一言に、普段は無口なボルドーも、
「クリスにかかると、ウィルヘルムは聖人君子だな」
と呟いた位である。
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