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月曜日、俺は命を落とした

通行人C「左目が疼く…!」

現場

さて、こんな話をしている間にいつもの通勤で通る交差点に来たわけだが。


「うわ、なんだこれ。」


見慣れたその道には、どうにも見慣れない人だかりができていて騒がしい。やっぱり俺は事故にあったんだろうか?
ここまで人が集まるほどの事故だったのか…?もしそうなら俺の命はもうとっくに三途の川を渡っているのかもしれない。
そんな恐ろしいことは考えたくないのだけど…。



俺は真相を確かめるためその波に飛び込む。
邪魔っけな人垣をすいすいと通り抜けられるのはこの体のいいところだな。実に便利だ。
人を押し分けて進まなくても通り抜けられるし、人ごみの中のむさ苦しい暑さも感じない。
…これは是非、命が戻ってきた後も使いたい能力だ。



俺はそんな半透明な体のおかげで、何の苦労もなく楽々と一番前に出ることができた。
駅の方面から伸びた方の道路を見ると、あちらこちらへ散らばる警察官たちが見えた。そしてそいつらがいるところを区切った黄色いテープ。テープをよけて走っていく車などだ。
そこで一つの勘違いに気づく。



別段へこみのひどいガードレールなどはない。標識が少し斜めに傾いている程度の現場。
そこまで凄い事故ではないようだ。ほら、道路に飛び散ったシミもそれほど量があるわけでもない。…まあブル―シートで隠された部分のことはわからないけれど。


とりあえず、この人だかりは交通事故の野次馬なんかじゃないことだけはわかった。あのテープが流れをせき止めて溜まっていった「なかなか道路を渡れない人」たちの群れなのだ。
ああよかった。いや、別に現状は少しも変わらないんだけど。兎に角、俺の命が現世にある可能性はまだあるようでよかった。



それにしても、この忙しい通勤時間に面倒なことを起こしちゃったようで悪いなあ。本当にご迷惑をおかけしてしまった様で申し訳ない。
…どうぞ彼らが遅刻などしないことを祈る。



そんなことを心中で呟きながら立ち入り禁止のテープの中に視線をやると警察が作業着の男に数人で囲っている。
そうかそいつが犯人か。
不自然に色の抜けた茶色い髪を頭に乗せたチャラそうな青年だ。20代前半くらいだろうか、随分と若い。
見た目だけで判断はしたくないが、耳にあけたピアスの穴とかだけで脳みそが軽い印象を受ける。


しかし、真っ青な顔で必死に警官に頭を下げている姿には不思議と可愛げすら感じるのだった。頬に冷や汗なんか浮かべながら見た目に似合わず気弱な様子で縮こまっている。
仕事で失敗した後輩がこんな風に謝ってきたら、先輩風に吹かれて大丈夫だ気にするなとか口走っちゃいそうだ。



「…言っちまうんだろうなあ。」


多分俺はそうするだろう。
今俺は死にかけている訳だけど同じようにされたらきっと後先なんか考えず。
生きてんだから大丈夫、今度は注意しろよ。とか、そういう風に。


別にそれは若者の為ではなく、こう…そう言った方が恰好が付くじゃあないか。
男ってやつは幾つになっても、そのためだけに命を張れる生き物なのだ。
その光景がありありと目に浮かんだ。
賠償金とかもらわないとこっちも大変なんだけど、相手が若いとどうも見栄を張ってしまう。
ほら、もう俺来年で30のおっさんだし。ついでに言えば父親だし。娘を持つ身として父性がくすぐられるというかなんというか…。




ようやく流れ始めた人ごみの真ん中でそんなことを詮無く考えていた。
見知らぬ誰かが何人も俺の体をすり抜けていく。その光景を見てようやく我に返った。
今の今まで人であふれていた狭い道はもうそれなりに人口密度も捌けて、普段通りに戻りつつあるようだ。
いかんいかん、ボーとしてた。そんな場合じゃないのに。



さっきの若者のほうを見ると、もはやテープの撤去作業が始まっている。そして、青年の姿はなかった。
仕事に戻った、ということではないだろうから警察に連れていかれたのかな?まあ大型トラックだし、いろいろあるのかもしれない。
重機械に乗ったことはないけれど、事の次第をなんとなく察すことができた。



さてさて、あの若者のことは目が覚めてから考えることにしよう。
これからどうするか…。


「事故現場には落ちてない。とすると家に帰ってる、とか?体のほうに行ったのかな、それとも別の…。」


頭の痛くなる話だ。ここから家までは電車を乗り継がないといけないし、別のところにいるなら思い当たる場所がごまんとある。
やっぱり一番近い病院かなあ、でもそこになかったら…。
俺にはとにかく時間がないのだ。自分が如何ほどの怪我を負っているのかわからないが早めに解決することが安全策であることは明らかだった。
どうすれば一番効率よく、命を回収してこれるだろうか          

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