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月曜日、俺は命を落とした

通行人C「左目が疼く…!」

黒い影

どうするか…、往来を避け大きなビルの陰に足を進める。
こうがやがやとうるさいよりはそちらの方が思考が落ち着いて進むと思ったのだ。
はあっと息をついて額にかかる前髪を掻き上げた。その時だった。



突然、肩に重みを感じた。



ひゅっと喉が鳴って大きく体が跳ねる。
ちらりと目をやると厚みのある丸い指が見えた。
…肩に手を置かれたのだ。



その意味に気が付くまで数秒かかった。
俺は今、半透明な体だ。周りの人も俺なんか通り抜けていくじゃないか、俺なんか存在しないかのように…さっきだって山田も係長も全然気が付かなくてだから自由にやりたい放題だったわけであれ?気が付かないなら見えてないからだすり抜けるのは触れないからだえ?あれおかしいぞじゃあこの手は何



「あなた、死んでいますね?」



背後から放たれたのは低めの女性の声。
瞬間、背筋に何かがぞわぞわと這い上がるのを感じた。
血の気が引く思いだった。ドクドクと今はない心臓が脈打つ妄想が頭をよぎる。
生身だったら厭な汗が噴き出て頬を伝っていたことだろう。今は何にも感じないけど。
恐る恐る振り返る、するとそこには真っ黒い影が広がっていた。



そう「広がっていた」のだ。
肩口から胸元がぱっくり空いた真っ黒いロングドレス。その生地にはきらきらとラメが混じっていることが確認できる。あんまり品の良くないドレスは体の線をなぞるようで、はっきりとその形を映し出している。



丸々と広がった巨体を。
ワックスでガチガチに固められた黒髪を夜交会のように結い上げて、分厚い化粧で顔を覆ったその人。
俺の目玉よりもでかいんじゃないかと思うくらいの宝石を指に首にあちこちに光らせているのだった。
悠然と立つ姿はどこかの童話で出てくる魔女を連想させる。
その人の真っ赤な口がぱっくりと開いた。



「あなた、死んでいますね。」


先ほどと同じ問いだ。俺は勢いよく首を横に振る。


「いや、死んではいないです。生きてます。」


するとその人は大仰に悲しそうな身振りをしてぷっくり膨らんだ顔をくしゃくしゃにした。
さきほど童話のような、と表現したが撤回する。子供が見たら泣くぞ、こりゃ。


「わかりますわかります、自分の死を受け入れられないんですよね。そういう方はよくいるんですよ、お気持ちお察しいたします。」



うっと片手で顔を覆って泣くような仕草。さっきから身振り手振りの大きな人だ。
なんか妖しいぞ、テレビでこんな詐欺師見たことある気がする。
テレビドラマの中の詐欺師と影が重なって、なんだか変な壺とか売ってそうな印象を受けた。


「生きてます生きてます。命をちょっと落としちゃっただけ…あれ?命を、失くした?んん?」


なんて言えばいいんだ?
思いつくまま今の状況を言葉にしてみたが、どれもこれもこの怪しげな人の言うことを肯定するようにとることができるものだ。
どうしたら伝わるんだろうか、ええっと俺は命を落として今…。



「命を捜してるんです!!俺の命見ませんでしたかっ!!!」




いきなり怒鳴ったからか、黒服の人はピタリと動きを止める。
半場逆ギレのように放った言葉。
それは、





「………は?」




うまく伝わらなかったようだ。          

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