月曜日、俺は命を落とした

通行人C「左目が疼く…!」

占い師

「ふむふむ、なるほど理解しました。貴方はつまり生霊の類なのですね。」
「うーん、いろいろ突っ込みたいところはあるけど…まあそれに近い?のかな。」



ようやく説明を終えた俺はどこか疲労感を感じてため息を吐き出した。
「生霊」なのか?まあ本体は生きてるからそうなんだろうけど、そんなおどろおどろしい言い方をされるとちょっとなあ…。
頭をガシガシとかき回しながらビルの壁肌に背中を預けようとして、もたれかかることができないことに気づく。
心中で少しばかり舌打ちする俺の姿を隣にいる女性が眺めていた。



話を聞く限りどうやら目の前の黒服の女性は占い師のようだ。
ここら辺の近くで店を開いていて、先ほどの人ごみに悩まされていたらしい。
それで半透明な俺の姿を見つけて声をかけた、といったところなのだそうだ。



占い師ってことはやっぱり変な壺とか売ってるんだろうか…。なんて、我ながら偏見極まりない考えがよぎる。
あ、でも今の俺が見えるんだから本当に力のある人なのかも?
…この人の売る壺なら買ってもいいかもしれない。



人知ずそんなことを思っていると占い師の真っ赤な口が再び開いた。


「それにしても、『落とした』ねえ。」


それは、どこか難しそうな顔をして放たれた言葉だった。
考え込むような、頭を痛ませているような、そんな表情だ。


「なんか問題でも?」


なんだか不安になってそう聞いてみると、占い師はなんだか微妙な笑顔でこちらを向いた。
その笑顔がさらに不安にさせるんだけど…。


「いえいえ、命の捉え方は人それぞれですから。別段問題があるわけではありませんよ。」



命の捉え方ってなんだよ、今の状況に関係あるのか?ていうか問題がないならなんなんだ。
そう言おうと口を開いたのと同時に、占い師はでも…と言葉をつづけた。



「ただ…難儀だなあ、と思いましてね。」




「と、言いますと?」


俺の顔が今、訝し気な表情を作っていることが感覚で分かる。
いったいどういう意味だろう?
そんな顔を占い師に向けると、占い師は何やら神妙な顔でこう語った。


「問題はありません。ただ貴方のような人は初めてだったので。」
「そうなんですか?」



ますます意味を掴み兼ねる。俺のような人?俺なんかは一介のサラリーマンだ。どこにだっているだろう。
ほら、今目の前を通り過ぎたスーツの男だって似たようなものだろうに。
黙ってそのまま占い師の言葉を待つ。
占い師は目を伏せたまま静かにそれを吐き出した。


「多くの人は今の貴方のようなものを『魂』と呼んで、それと身体が重なって一つの『命』なのです。」



魂と体、二分割する。その二つがそろって命。
映画とかでもよく見るな。臨死体験したやつが体と重なって生き返るやつ。
俺もそうしたらいいというアドバイスだろうか?と、一瞬そう考えたがどうやら違うようだ。


「それを貴方は三分割にしてしまった。今私の目の前にいる『魂』と病院に運ばれていった『身体』。…そして姿かたちもわからない『命』。」


占い師はそこまで言ってようやく目を開けた。穏やかな水面のような、見透かすような目が俺を捉える。



俺は頬を掻いた。


「変、ですかね。」
「先ほども言った通り、命の捉え方は人それぞれです。私の例に出したような人がいれば、貴方のような人もいる。もっと複雑な人だってこの世にはいるのだと思いますよ。」
「そうですか…。」



その言葉に俺は記憶の中に思いをはせる。
遠い昔、またガキだったころ。
テレビのニュースだっただろうか?もしかしたら新聞とかだったかもしれない。
「○○の山奥で男性、命を落とす。」みたいな…よく覚えていないけど、そんな単語を耳にしたのだ。
その時からどうやら俺の中では「命は落ちるもの」だったのだ。
ポッケの中のビー玉みたいに、気を抜いて遊んでいるといつの間にかどこかに落として失くなってしまう。そんなイメージだった。



だったんだけど…。
そうか、こんな話今まで誰かとする機会もなかったからなあ。
これが変な捉え方だったなんて知らなかったし、気づかなかったよ。

          

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