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月曜日、俺は命を落とした

通行人C「左目が疼く…!」

病院

ようやく見覚えのある真っ白な建物が見えた。
もはや目をつぶってでも書ける地域名とその下の「総合病院」の文字。
それを大きく掲げる入口に車椅子の老人から幼子までまさに老若男女違わず出たり入ったりを繰り返している。



たしか、ここだったはずだ。
記憶の中の山田君の声と照らし合わせる。
確かにここだ。そう、この名前を言っていたはずだ。
山田、全部終わったら焼き肉奢ってやる絶対にだ。



そう決意して自動ドアの奥に足を踏み入れる。
外側と同じく真っ白な内装をした外来の受付。まばらに賑わうそこを走り抜けた。
壁にかかっている院内マップが示す手術室とやらに向かう。



途中何度も誰かとすれ違った。
でも、もうこの体にも慣れたもので、向かいからやってくる人に迷わず突っ込んで行く。
そうやって先を急いだ。
占い師の声が脳裏で何度も木霊になって反復していたのだ。
『このままではあなたは…。』
胸を焼く不安をどうにか振り払い、足を動かす力に変える。




廊下を走り抜けて目的地へ徐々に近づいてゆく。
そのたびに、少しずつ聞き慣れた声が大きくなっていくのがわかった。
…愛海だ。



「うええええおとおさん、おとおさんっ!ひぐっ…うえぇ…うぅ…。」


明らかにそれは泣き声だった。
平日のこの時間愛海はいるはずがないと思っていたのだが、肉親の危篤となれば早退してくるのも当たり前か。
真っ赤なランプがついた手術室の前。
そこにある簡素な青いソファーの上、そこに座った二つの影に身が凍る。



「大丈夫、大丈夫だから。」


ぐしゃぐしゃに顔をゆがめる愛海とその肩を支える恵理子だった。
泣きじゃくる愛海を穏やかになだめている恵理子。
その表情は言葉とは裏腹にひどく歪んでいた。
無理やりに笑顔を作ったその顔に力はなく、青ざめた肌がその弱弱しさをさらに顕著にしている。
恵理子のこんな顔、初めて見たなあ。真っ青になって肩を小刻みに震わせて。
その姿に普段の豪気な面影はない。



わんわんとなく愛海と耐えるような恵理子の姿に、居た堪れなくなって俺はその肩に手を伸ばす。
当然その指はすり抜けて何も伝えられないのだけど。
俺は喉の奥から声を絞り出した。



「大丈夫だ。」



何の根拠もない言葉だ。…何の根拠も持たせられない俺だ。
それでも俺は絶対に、死んだりしないから。


「俺は帰る…。帰るからな。」



一週間後に愛海の誕生日を控えているのに死ねるわけがないだろ?
大丈夫、大丈夫だから。
二人に、俺自身に言い聞かせるようにその言葉を口の中で繰り返した。



恵理子と同じように無理やりに口の端を持ち上げてみる。
誰に見られるわけでもないから意味はないんだけど。
自分を奮い立たせるぐらいの効果はあるはずだ。



俺の指が恵理子の肩を離れる。
すっとその前を通り過ぎて、固く閉ざされた扉の前まで足を進めた。
ぴったりと閉じたそこも、今の俺なら通り抜けることができるのだ。



最後に一度だけ家族を振り返る。
変わらず聞こえる泣き声に胸を痛めながら、俺はやっぱりへたくそに笑った。




「ありがとう、ちょっと待っててくれ。」          

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