月曜日、俺は命を落とした

通行人C「左目が疼く…!」

体と魂

部屋に入るとそこは張り詰めたような空気をしていた。
執刀医が眉間にしわを寄せながら無言で手を動かし、その周りを幾人もの看護師が取り囲んでいる。



映画やドラマでしか見たことのなかった光景だ。
まさか自分のそれを見ることになるだなんて誰が思うことだろう。



ゆっくりとその輪に近づいてみる。
自分の腹の中なんか見たくもないが、何か引き寄せられる感覚があった。
赤い色が鮮明になった。



「うっわ。こりゃひでえや。」


その一言しか出てこなかった。
医学なんてかじった覚えさえないが、自分がいかにひどい状況かは理解できる。
真っ赤な色と肉の香り、生々しい現場にふと目がくらみそうになった。



崩れ落ちそうになるのを両足で何とか支え、俺は自らの横に立った。
死にかけてるそいつなんか見たくなくて目を泳がせるけど、どこに視線をやったらいいのかわからない。
結局は自分のすり傷だらけの顔に視線をとどめたのだった。
するり、ほおに右手を寄せる。温度は感じないが、きっと冷たいんだろうと思った。


「この中に入るのかあ、痛くねえかなあ。痛いんだろうなあ…。」


ぱっくりと腹の空いた今だ。麻酔がかかっていることなんてわかってはいるが、その痛みを想像すると、身が自然と縮こまる。
それでもこれが俺の体なんだから、そう思って中に戻ることを決意する。
しかし…、



大体、中で待ってれば『命』は来るのか?そんな保証どこにもないじゃないか。



そんな考えが俺の動きを止めた。
まるで蝋人形になったかのようだ。指一本も動かせなくなる。
早く中に入らなきゃ、でも命が来なかったら?



俺の命は今どこにいるんだろう?
恵理子たちのそばにはいなかったな。家族のそばに寄り添っていたいとか思わないんだろうか、俺の癖に。
家に帰ってるんだろうか?それとも別の場所に?



考えれば考えるほどわからない。
そもそもその『命』に意思があるかなんて知らないんだから、どこでどうしてるかなんて考えるだけ無駄だ。
どちらにせよこの状況ではまた探しに行く余裕はないのだ。
俺にできることなんてここで「そいつ」の到着を待つことぐらい。



でも、体の中に入ってしまえば麻酔の影響できっと何もわからなくなる。
命がちゃんと戻ってきたことも確認できないのだ。
もしも命が通り過ぎてしまったらどうしよう。
ちょっとのぞいただけですぐどっかに行ってしまったら?
俺は…どうしたらいいんだろう。



何の気なしに天井を見上げてみる。
煌々と光を放つライトに肉眼だったら目がくらんでいたことだろうと思う。
しかし、今の俺の目はしっかりとその光の中を捉えることができた。          

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