ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
20-174.また来やがった
「小悪鬼だ。また来やがった」
ソラリスが顔を歪める。ヒロの視界に、先程、自分達が入ってきた通路から、小悪鬼達が次々と入ってくるのが見えた。先程とは数が違う。三十、否、五十匹はいるか。小悪鬼達は、ホールに入ると、左右に大きく三列に散開した。前列は盾を構え、中列は剣を抜いた。最後列の小悪鬼は、弓に矢をつがえて弦を引き絞り、ヒロ達に狙いを絞る。
小悪鬼達は、半円型の三列陣を敷いて、じりじりとヒロ達に近づいてくる。ヒロは皆に通路に入るよう指示する。ヒロは皆が萌葱色の石で出来た通路に入ったことを確認すると、小悪鬼達に向き直り、前面と頭上にだけバリアを張った。先程、そのバリアは小悪鬼の矢に貫かれかけた。今度も同じだろうか。それでも、多少の時間稼ぎにはなるはずだ。
ヒロは顔を上げ天井をぐるりと見渡す。幸いそちらには小悪鬼の姿は見えない。ヒロには、承認クエストで小悪鬼達に襲われた時、前方の小悪鬼を囮にして、頭上から矢を見舞われた苦い経験を思い出していた。頭上にもバリアを張り、天井を確認したのもその為だ。
ヒロ達はガーゴイルの彫像に挟まれた通路の入り口に陣取った。四方八方から狙われるよりも、少しでも盾になるものがあったほうがいい。
盾役のソラリスが、自分の番とばかり、ずいと前に出る。ヒロもその横に並んだ。リムとエルテは後ろに下がったが、エルテは詠唱を始めた。
「ヒロさん、大して威力も出ないでしょうけど、迎撃魔法を発動させます。少し時間を……」
「分かった」
マナを集めにくい迷宮内での魔法発動には時間が掛かる上に威力も激減するという。それがどの程度のものかヒロにはピンとこなかった。
ヒロは自身が持つ膨大な体内マナを使って魔法を発動させることができる。だがこの世界ではそれが異常なのだ。
ヒロは右手を出して炎粒を発動させる。
「ソラリス、さっきみたいにゴブリンを片づけられそうかい?」
ヒロは、この階層に落ちる前の通路で、自分の炎魔法とソラリスの剣撃で六匹の小悪鬼のうち五匹を一息に片づけたようにいかないかと尋ねたのだが、ソラリスはあっさりと否定した。
「無理だね。数が多すぎるし、距離も遠い。カラスマルの衝撃波も届かないね。もっと引きつけないと……」
「そいつは厳しいな」
ヒロは前を向いたまま呟いた。引きつけることで目の前の小悪鬼を全部退けることが出来るのならそうしたい。だが今度は五十匹からが相手だ。そう上手くいく筈がない。モンスターの数が多いと剣士一人二人では捌ききれないことがあるとはこういうことか。ヒロはシャロームから説明されたことを思い出した。
キィキキキ。
隊列を組んだ小悪鬼達の中の一匹が鳴き声をあげる。先程、通路で撃退した小悪鬼の中で唯一逃げおおせた一匹だった。鳴き声はヒロ達に警戒を促すものであったのだが、小悪鬼語などを知るはずもないヒロ達にはそうとは分からなかった。
ヒロ達は戦闘体勢を取ったまま小悪鬼達と対峙する。だが小悪鬼達は一気に攻め掛かるような事はせず、ゆっくりと包囲を狭めてくる。
「ゲームのような訳にはいかないな……」
ヒロは思わず漏らした。ゲームの中の勇者なら、突撃してモンスターを蹴散らし、無双する場面だ。確かに乱戦に持ち込むことで活路を見いだすという作戦もないこともない。だが、それは一対多の近接戦闘でも負けない技量があることが前提だ。剣の達人でもあるソラリスならともかく、自分を含めて、エルテやリムにそれを求めるのは荷が重すぎる。
何か使えそうなものがないかと目線を左右に配ってみたが、特に何もない。後ろのエルテにも注意を向ける。エルテの詠唱は続いていた。直ぐに終わる気配はない。ヒロはギッと奥歯を噛んだ。
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