ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-170.天井と床

 
――ガラガラ。ドシャ。

目の前の通路の奥。天井が割れ、一抱え程もある石の塊が落ちた。石は床に当たった二つに割れる。更に連鎖して、天井石が二個、三個と落下する。天井に入ったヒビがヒロ達の方に向かって走って来た。

「まずい! 下がるんだ!」

 思わず叫ぶ。迷宮の脆い天井が崩れだしたのだ。さっきの炎魔法の影響かと思ったが、後の祭りだ。

ヒロの声を合図に皆が後退し、後ろの壁にピタリと背を付けた。ヒロは両手を上にあげて、もう一度バリアを展開する。だが、矢は防ぐことは出来ても、質量物体にも通用するのだろうか。ヒロにはこのバリアで落下する石を食い止められるのかどうか自信がなかった。

 ――ゴン。

 ヒロから十数歩手前。交差路の手前で崩壊は止まった。良かった。帰り道が無くなるところだった。ヒロが一歩踏み出そうとしたとき、誰かが後ろの壁の古代文字が書いてある辺りを軽く蹴った。

 ――ピシリ。

 突如、ヒロ達がいる辺り一帯から、何かがひび割れるかのような音がした。次の瞬間、足下の床が一気に沈みこんだ。体が浮く感覚が襲う。

「何なの?」
「罠か?」

 エルテとソラリスの叫びに、ヒロはほぼ条件反射的に頭上のバリアを横方向にも展開した。ヒロを含めてパーティ全員を覆う程のバリアだ。取り敢えず皆を護る手段としては悪くない判断だ。だが、ヒロは直ぐにそれがミスであることに気づいた。

 沈んでいない元の通路にジャンプして逃げようにも、バリアが邪魔で出来ない。慌てて解除したのだが、時既に遅し。床はすっかり沈みこんでいた。もう届かない。

 ヒロ達を乗せた床はしばらく沈んで止まった。

「皆、無事か」
「えぇ、無事ですわ」
「大丈夫だ」
「平気です」

 ヒロに皆が無事を知らせる。仲間の身に何も無いことを確認して、ヒロはほっとした。咄嗟の事とはいえ、自分の判断ミスで脱出のチャンスを潰してしまった。これで仲間の誰かが怪我でもしたら申し訳ない。

 これでも十分に非常事態なのだが、取り敢えずは無事だ。考える時間があるだけでもよしとすべきかもしれない。ここは、未攻略の迷宮なのだ。

「よかった。リム、明かりを……」

 ヒロが言い終わる前に、リムが精霊の光の珠を四方に飛ばす。周囲は壁になっていた。

 天井を見上げる。ぼんやりと四角の穴が見える。見える穴の大きさからして二階層以上は沈んだだろう。ロープか何かでもないと脱出は不可能だ。ヒロがソラリス、エルテ、リムと順番に見たが、皆、無言で顔を横に振った。事実上、閉じこめられてしまったようだ。何故急に床が沈んでしまったのかは分からないが、ヒロはまず今の状況を受け入れることにした。

「まるで落とし穴だな……」

 ヒロはリムに顔を向けた。この世界にやってきて、初めてリムと出会ったのも、こんな落とし穴だった。ヒロはその時の事を思い出して苦笑した。

「ヒロ、お前、落ちるの好きなんだな」

 ソラリスが冗談めかしていった。こんな修羅場を何度も潜り抜けているのだろうか、彼女の表情は別段落ち込んでもいないように見えた。

「別に好きじゃないけどな」

 あの時は横穴からなんとか脱出できた。今度はどうだろうか。ヒロはあのときと同じように周囲の壁を慎重に探った。残念ながら横穴らしきものは見あたらない。

 次にヒロは指に唾をつけてかざしてみる。風の流れでどこかに隙間がないかを探るためだ。だが風の流れを感じる事はできなかった。

(……まいったな)

 自分の発した軽口とは裏腹に、ヒロはどうすればいいか考えあぐねた。
  

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