ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-168.六つの影

 
 ――フォーの迷宮の外。

ベスラーリとバレルは相変わらず、草むらに身を隠していた。

「あん?」

 ベスラーリが小さく声を上げる。

「どうした?」
傀儡くぐつのお仲間が来たようだぜ」
「呼んだのか?」
「そんな悪趣味は、とうに黒曜犬に喰わせてやったよ。残高はゼロだ」

 ベスラーリはバレルの意見を否定した。彼は傀儡くぐつと感覚共有しているとはいえ、それによって小悪鬼ゴブリンの言葉を解する事が出来る訳ではない。ベスラーリには傀儡くぐつが仲間を呼んだのか、それとも勝手にやってきたのか判断できなかった。

 ――余計な事は考えない程度には精神支配していた筈なんだがな。

 ベスラーリは一瞬だけそう考えると、傀儡くぐつに対する精神支配を必要最低限のみ残し、ほぼ五感共有だけにした。仲間の小悪鬼ゴブリンがそばにいる中、一匹だけ単独行動では怪しまれる可能性がある。人間臭い仕草も厳禁だ。ここは成り行きに任せる他ないだろう。

「バレルのおっさん。ここからは素敵なショータイムだ。お目当てが見れるよう女神リーファに祈るんだな。寄進をたっぷりと用意しときな」
「キヒヒヒヒヒヒ」

 ベスラーリの意図を察したバレルは薄気味悪く嗤った。


◇◇◇


 キキャー。

 かん高い鳴き声が迷宮に響く。人の可聴域ぎりぎりの高音が通路の壁や天井にぶつかり反響する。もしかしたら蝙蝠のような超音波成分も含まれていたのかもしれない。

 ヒロ達は今きた通路に注意を向けた。小さい影が五つ、少し遅れて一つ。全部で六つだ。

 ぎらりと光るぎょろ目に尖った鍵鼻。緑の肌に腰布を巻いたモンスター。小悪鬼ゴブリンだ。

 小悪鬼ゴブリン達は、二十数歩くらいの距離まで近づくと、手にした小弓に矢をつがえ、ヒロ達に狙いをつけた。その中には、ベスラーリが傀儡にして、感覚共有している一匹も含まれていた。

 ヒロ達の背後は行き止まりの壁。追いつめられた格好だ。

「ちっ」

 盾役タンクのソラリスが、ヒロ達の前に出た。小悪鬼ゴブリン達に正対し、カラスマルを正眼に構える。

「ソラリス、バリアを張るぞ」

 ヒロはソラリスの脇に歩み寄ると、そっと声を掛ける。続けて精神を集中し、自分達と小悪鬼ゴブリンとの丁度真ん中に魔法のバリアを展開した。高さは床から天井まで、横は両壁一杯までの板状のバリアだ。冒険者の承認クエストで小悪鬼ゴブリン達に襲われた時は、このバリアで小悪鬼ゴブリンの剣や矢を完全に防いだ。あれと同じなら、このバリアで保つ筈だ。

炎粒フレイ・ウム

 ヒロは両手を伸ばして手の平を小悪鬼ゴブリンに向けると、炎魔法を発動させた。無論、炎粒これはヒロが張ったバリアを貫通できないから、このまま攻撃できる訳ではない。ヒロはこれ見よがしに魔法を見せつけることで、小悪鬼ゴブリンが逃げてくれないかと計算したのだ。小悪鬼ゴブリンにハッタリが効くのかどうかは分からないが、無益な戦闘は避けたかった。

 ソラリスはカラスマルを自分の左脇に構え、少し腰を落とした姿勢を取っている。いつでも攻撃に移れる体勢に見えた。あの構えからして、横薙ぎで一気に小悪鬼ゴブリンを払う積もりなのだろう。

 だが、小悪鬼ゴブリンは一向に怯む様子を見せない。弓を引き絞り今にも矢を放たんとしている。どうやらハッタリは通用しそうにない。

 ――戦うしかないのか。

 ヒロがそう思った刹那。小悪鬼ゴブリン達の矢が放たれた。
 

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