ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

19-159.フォーの迷宮

 
「着いたぜ」
「此処がフォーの迷宮ですわ、ヒロさん」

 翌日の正午少し前に、ヒロ達はフォーの迷宮についた。山肌を背にした五角形の屋根を頂く円形の建物。白い壁の回りを薄緑の円柱が取り囲んでいる。ウオバルの神殿には及ばないが意外と大きい。ここに来るまでの険しい道のりを考えるとそれなりに労力を掛けて建設されたと分かる。

 しかし、かつては立派だったであろう元神殿は、壁の一部が剥がれ落ち、柱も所々が崩れ、往時の面影は見る影もない。ただ正面の大きな入り口の上にある翼を象った二翼の彫刻が、ここが女神リーファの神殿であることを告げていた。

「モンスターの住処という割には静かだな」
モンスター奴らは、地下迷宮の中さ。こんなところにノコノコ出てこないさ」
「隠し通路は分かるのか?」

 ヒロはソラリスに確認する。昨日の夜、ソラリスから地下へは隠し通路から入ると聞いていたからだ。エルテに説明して貰った地図には隠し通路を示すような記載は無い。

「入りゃ分かるよ」

 少々ぶっきら棒な口調でソラリスが行こうぜと顎をしゃくる。朽ち果ててて扉がなくなった建物の入り口に足を踏み入れたヒロは、その理由が直ぐに分かった。

 建物入ってすぐのホールの奥に、白い大理石調の大きな台座だけが残されていた。元はその上に女神像か何かがあったに違いない。ヒロはウオバルのリーファ神殿を思い起こしながらそう推測した。

 その台座の奥に、人が入れそうな入口が黒い口を開けている。ヒロはそれを指さした。

「あれか?」
「そうさ。あれが隠し通路の入り口さ。昔は隠し扉か何かあったのかもしんねぇけど、あたいが初めてここに来たときにはもうああなってたよ」

 ヒロはソラリスの声を耳にしながら、慎重に左右と上に注意を向けた。崩れた天井の一部と、吹き晒しの窓枠から、明るい陽の光が差し込んでいる。人気ひとけのない殿は、まるで永遠の昔からそうであったかのように静まりかえっていた。ここには外敵は居なさそうだ。

「リム、明かりを」
「はい。ヒロ様」

 リムが呪文を唱えて光の精霊魔法を発動する。リムの手から発した小さな四つの光の珠が白い光でヒロ達を包む。精霊魔法は大気のマナや術者の体内マナオドを殆ど使わないことは、昨晩確認済みだ。

 ヒロ達は迷宮探索の明かりにリムの魔法を使うと決めていた。ヒロの炎魔法は体内マナオドを消費する。かと言って、松明などの類を使ったとしても、持った人の片手を塞いでしまう。その点、リムの精霊魔法で作り出した光の珠は、宙に浮かんで手を塞ぐことはないし、術者の動きに合わせてひとりでに付いて来る。格好の照明だ。

 ソラリスによると、隠し通路を通り抜けた迷宮の各階層には所々に明かりが灯っているのだが、万一消えた時を考えると、自前の明かりを用意しておくべきだろう。ヒロの提案にリムは勿論、ソラリスもエルテも賛同した。

 ヒロはリムの光の珠が十分な光量を持っていることを確認して小さく頷いた。

「じゃあ、行こうか」

 ヒロは、パーティの面々を見渡してから、迷宮探索の開始を告げた。
 

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