ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
17-147.お前にも、今に分かる
――リーファ神殿。
ホール脇通路の階段を登った突き当り。木製の頑丈な扉を開けると、ベッドが並ぶ部屋があった。大きなダブルのベットに二人ないし三人が寝ている。いくつかのベットでは半身を起こしている者もいた。
天気の良い今日は、換気の為、窓が開け放たれ、いつもなら部屋一杯に充満しているアルコールの匂いを外へと押し流している。神殿付の病室だ。
臙脂色のローブを着た精霊少女が、シーツを両手に抱えて走り回っている。大理石の床には塵一つなく、掃除が行き届いている。
リーファ神殿には三つの病室があり、それぞれ重病人用、中程度の病人用、回復期にある病人用と、それぞれ使い分けられていた。
重病人用の病室の入室には神官の許可が必要になるが、中程度用の病室と回復期用の病室は、病室の管理人のチェックを受けてパスすれば自由に入室できる。勿論衛生的に問題あると見做されたものは入室できない。
その中程度用の病室に、一人の魔法使いが友人の見舞いに訪れていた。彼の名はロンボク。昨日、スティール・メイデンの三人が重病人用の病室から中程度用の病室に移ったと聞いて、ロッケンを見舞いに来たのだ。
重病人用の病室では一人に一つのベッドが当てがわれるが、こちらの病室では一つのベッドを二、三人で共有している。
ロッケンはハーバーと同じベッドだ。ミカキーノは相方の患者がおらず、贅沢にもダブルベッドを独り占めしていた。
ロッケンは枕として使っている藁束の詰まった革袋を背中に当てて、上半身を起こしていた。隣ではハーバーが寝息を立てている。
「調子はどうだい、ロキ」
「また死に損なったな……」
そう答えるロッケンの指には髑髏の指輪が光っていた。マナの流れが落ち着いたので元に戻したのだと、ロンボクは看護を担当する赤ローブの精霊から説明を受けている。
ロンボクは指輪を填めたロッケンの手にそっと自分の手を重ねた。
「無茶が過ぎるよ、ロッケン。一度ならず二度までも。運良く助かったからいいようなものの、もう二度とやらないと約束してくれないか」
ロンボクは心底、ロッケンを案じていた。
体内マナを使っての魔法発動はリスクが伴う。王国でも有数の大魔導士フォルブスの数少ない弟子の一人であり、将来を有望視されていたロッケンが、師の下を去らなければならなかったのは、体内マナを使って最上位魔法を発動し、自身の体内マナの流れに異常をきたしたからだ。
その後幸運にも体内マナの流れを制御する髑髏の指輪を手に入れた御蔭で、魔法使いとして再び活動できるようになったが、体内マナによる魔法発動を繰り返せばいつかは命を落とす時がくる。ロンボクは自分の命の恩人でもあるロッケンを失いたくないという気持ちで溢れていた。
「……お前にも、今に分かる」
ロッケンはロンボクの依頼には答えず、話題を変えた。
  
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