ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
15-120.それが本当なら、凄いお宝だね
「それが本当なら、凄いお宝だね……」
ヒロは思わず身を乗り出していた。先程までとは明らかに違ったヒロの態度にエルテは少し驚いたような顔をし、シャロームはおやとばかり眉根を上げた。
「ヒロ、貴方は先程、フォーの迷宮に行けない理由として確証に乏しいと仰ってましたね。ならば某かの確証が得られれば受けていただけるのですね」
シャロームが確認するかのようにヒロに問いかけた。ヒロはレーベの秘宝に興味を持った自分の心の内を見透かされたと焦った。相手はシャロームだ。当然、それくらいのことは見抜いているだろう。内心しまったと思ったが後の祭りだ。ヒロは素直に白状した。
「……そうだね。今話して貰った以上の情報は欲しい。フォーの迷宮がモンスターの住処になっているのなら、それなりのリスクを負わなくちゃいけない。闇雲に探索することは避けたい」
ヒロの返答にシャロームは少し黙り込んだ。顔を上げて天井を睨みながら何かを考えている。
「エルテ、この際、石板の写しをヒロに見せることは出来ませんか? おおっぴらに出来ない代物であることは理解していますが、我々の誠意を示すためにも……」
シャロームの提案にエルテは暫く俯き加減になった。沈黙の時が流れる。やがてエルテは顔を上げ、シャロームとヒロの顔を交互に見て、静かに告げた。
「分かりました。決して口外しないという約束をして下さるのなら、お見せしますわ」
エルテの答えにヒロは軽く頷いた。
「気持ちは分かった。だけど……」
ヒロはすっかり冷めてしまった茶を口に含んだ。しかし緑茶に似た香りは薄まることなく、鼻孔に抜けていく。
「エルテ、シャローム。この件は口外するなということだけど、俺のパーティにも話してはいけないのか?」
「どういうことです?」
「パーティのメンバーと相談したい。勿論、口外しないようにさせる。もしもエルテの依頼を受けることになったとしても、俺一人で受けるのは厳しいと思う」
ヒロは、エルテの依頼について、リムとソラリスに相談した方がよいと考えていた。この異世界に来て間もない自分では、勝手が分からない。フォーの迷宮とはどんな所なのか。レーベの秘宝とは何なのか。宝探しというクエストはよくある話なのか。ベテラン冒険者のソラリスならその辺りの事情も知っている筈だと思った。
そして、何千年も生きているであろう精霊のリムならば、件の石板の写しについて、某かのヒントを見つけてくれるのではないかという根拠のない期待を抱いていたことも事実だ。
「誰です?」
ヒロの提案にシャロームが眉根を上げる。
「精霊と冒険者だ。シャローム、精霊は、この間、古金貨を換金するときに連れてきた娘だよ」
「あぁ、あの小さなお嬢さんですか」
シャロームは、記憶を辿るかのように、少し顔を上げてうんうんと頷いた。
「もう一人は元剣士で、ソラリスというんだが……」
「え? もしかして『ギフトのソラリス』ですか? 赤髪赤目の……」
「知っているのか?」
「ウオバルで知らない者は居ませんよ。彼女の剣の腕はウオバルの冒険者達の中も別格だとよく耳にします。でも彼女は、パーティには入らないと聞いていましたが……」
「今は俺と一緒に行動している。実は俺に冒険者になるよう勧めたのは彼女なんだ」
「そうだったのですか。ヒロ、やはり貴方は只者ではありませんね。『ギフトのソラリス』を仲間にするとはね」
シャロームの興奮が伝わってくる。確かに闘技場で彼女が見せた剣技は凄まじかった。しかしそれ程、ソラリスが有名だったとはヒロは思っていなかった。
「成る程、『ギフトのソラリス』なら安心できますね。もう一人の精霊のお嬢さんもよく覚えていますよ。あの二人なら秘密が漏れる心配はないでしょう。エルテ、どうです?」
「えぇ。分かりましたわ」
「ありがとう。どっちにしても、この件は考える時間が欲しい。返事は……」
ヒロの言葉が終わらない内に、シャロームが口を開く。
「そうですね。ヒロ、明後日の朝であれば、私も時間が取れます。その時に皆さんで此処に来てお返事を聞かせていただくというのではどうです?」
「それで構わないよ」
「そうね。それがいいわ、シャル」
「では決まりです。今日はこれでお開きとしましょうか」
シャロームはそういって、テーブルに置かれた巾着袋を手にとると、ヒロに向かって微笑んだ。
「報酬を受け取っていただけますね? ヒロ」
「……そうだな。戴こう」
一拍おいてヒロは銀貨の入った巾着袋を受け取った。
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