ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】

日比野庵

13-106.仕組まれていたのか

 
「シャローム!」

 振り向いたヒロにイケメン青年商人がニコニコと笑みを浮かべていた。

「お見事です。ヒロ。黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルを這い蹲ばらせたのは貴方だけです。流石、見込んだだけのことはあります」

 ヒロは混乱していた。

 冒険者仲間から一目置かれていた黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルの正体がエルテだったなんて信じられない。そもそも何故、シャロームが此処にいるんだ? 

(まさか……仕組まれていたのか……)

 ヒロは、あからさまに不審のまなざしをシャロームに向けた。

 シャロームはヒロの脇にくると、正体を表した黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルをそっと引っ張り起こした。煙を吸い込んだのだろうか、エルテは咳込んでいる。

「シャローム。事情を説明して貰おうか。今回のクエストに別の意図があったのなら、それもだ」

 少し落ち着きを取り戻したヒロはシャロームを詰問する。いいかげんな説明じゃないだろうな、という響きがあった。

「もちろんです。ヒロ。詳しくはウオバルに戻ってからお話しましょう。向こうに馬車を待たせてあります。ですが、その前に……」

 シャロームは丘の頂上を指し示し、困ったような顔をヒロに見せた。

「道を塞いでいる木を片づけていただけると有り難いのですが。このままだと人が通れないのでね。エルテも頼めますか?」
「え、えぇ。大丈夫よ。シャル、でも貴方にも手伝って欲しいわ。出来ればヒロさんにも……」

 エルテはそう言って、右手で天を指さした。ヒロが見上げると、さっきまで紫に染まっていた空が元の茜色に戻っている。困惑するヒロを余所目にエルテは、小さく呪文を唱えると、その右手をまるでタクトでも振るかのように踊らせた。

 ――ビュゴッ。

 エルテの手の動きに合わせて、無数の風の刃が飛び出し、山道を塞いでいる何本もの大木を切り刻み、瞬く間に棍棒サイズの木片に変えた。その数も威力もヒロと対決したときより数段勝っているように見えた。

 果たして、この攻撃を受けていたら、耐えることが出来たのだろうか。ヒロは、自分を攻撃した時のエルテは、力をかなりセーブしていたのだと推測した。

「私に出来るのは此処まで。木片を脇に寄せるお手伝いをお願いできますか」

 エルテは、済まなそうな眼差しをヒロに向けた。


◇◇◇


 ヒロとシャローム、エルテの三人は、エルテが木片にしたを道端に寄せて道を空けると、山道を登り始めた。

 頂上にある休憩所を通り過ぎ、丘を少し下った道端の空き地に二頭立ての馬車が見える。馬車はいわゆる幌馬車で、荷台を運ぶタイプだ。日没までは今暫く時間があったが、ランプが幌の両端に吊され、馬車の輪郭を映し出している。

 シャロームの案内で、ヒロ、エルテ、シャロームの順に荷台に乗る。中は荷台だけあって、床が木の板のシンプルなものだった。人が座る椅子を設えたタイプではないが、その床には厚手の赤い絨毯が敷かれ、隅には布袋に藁を詰め込んで口を閉じた、クッションのようなものが四つ置かれていた。反対側の隅には、弓矢が三張とロングソードが二本あった。

「こんな馬車で申し訳ない。座席タイプの馬車は目立つのでね。夜盗対策です。もっとも、黒衣の不可触ブラック・アンタッチャブルと彼女を破ったヒロを相手に勝てる相手がこの辺りにいるとは思いませんがね」

 シャロームはヒロとエルテに布袋のクッションを勧めた。ヒロが向かって右側に腰を下ろすと、反対の左側にシャロームとエルテが座る。

シャロームは皆が腰を下ろしたことを確認すると、御者に合図を送る。

 御者はシャローム商会で接客をしていた小男シープラだった。小男は振り向いてこちらに目礼をした後、一鞭当てる。馬車はするすると動き出した。
 

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