ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
13-097.絶対防御との遭遇
――!
何の前触れもなく、ヒロの三十歩程手前で、旋風が巻き起こった。ゴオッツという音と共に、白い渦が垂直に立ち上り、土埃や小石、木の葉を巻き上げていく。
巻き込まれると危ないかもしれないと、ヒロは思わず腕で顔を庇ったが、風の渦は急速にその勢いを失っていく。
大したことなかったかと警戒を解いたヒロが戦慄したのはその直後の事だった。
風が収まると、ゆったりとした黒いローブで全身を覆い隠した人物が立っていた。頭からすっぽりとフードを被り、目と口元に三日月型の穴が空いた白い仮面を付けている。
――まさか!?
ヒロはその場に立ち止まった。否、硬直した。
――忘れる筈がない。
遠目だったがその姿ははっきりと目に焼き付いている。
あの時、正にこの場所に現れ、スティール・メイデンを完膚無きまでに叩きのめした魔法使い。
――絶対防御の風魔法の使い手。
――黒衣の不可触。
恐るべき存在が、ヒロの行く手を阻んでいた。
◇◇◇
黒衣の不可触は、固まったまま動けないヒロに向かって、ゆっくりと右手を上げ指さした。
――ビュゴッ。
ヒロの顔を掠めるように風が吹き抜ける。それは風というよりは、強力に圧縮された空気の塊。風の刃とでもいうべきものだった。風の刃はヒロの脇を抜け、藪を切り裂き、更に後ろの木の幹に突き刺さる。一抱え程もある幹は、バターでも切るかのように斜めにカットされ、ゆっくりと滑り落ちて倒れた。
――!
バサバサと木の枝が擦れる音を背中に受けながら、やや正気を取り戻したヒロは必死に思考を巡らせる。
この魔法には見覚えがある。此処で小悪鬼達の襲撃を受け、スティール・メイデンが掃討した後、ミカキーノと自分の間に割って入ったそれとよく似ている。
大木を容易く切り裂く風の太刀。あんな魔法の直撃を喰らったら唯では済まない。
バリアを張らなくては。ゴブリンの矢を防ぐ程度の強度はあった筈だ。ヒロは咄嗟にそう思ったが、黒衣の不可触の魔法にも通じるかどうかは分からない。
いや、さっきの風魔法だって、俺に対する攻撃ではないかもしれないじゃないか。よしんば攻撃だったとしても俺を他の誰かと勘違いした可能性だって考えられなくもない。
ヒロはバリアを張りたい誘惑をぐっと抑え、黒衣の不可触に向かって語り掛けた。
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