ロシアンルーレットで異世界へ行ったら頭脳派の魔法使いになっていた件【三部作】
2-018.認められたのさ、あいつに
先程まで商談が行われていたテーブルに戻ったヒロとリムの目の前にエールが入った杯が三つ置かれた。
「シャロームの野郎からのだ。遅れて悪かったな。お前達の商談の証人になっちまったもんだからよ。離れることが出来なかったんだ。許せよ。俺の名はアルバトロス・スタイル。アルバでいいぜ。ここでもう二十年も店をやってる」
アルバと名乗った店主は豪快に笑った。鼓膜が破れるかと思う程の大声だが、不思議と不快には感じない。気持ちのいい笑い声だ。それでもリムは耳を塞いでいたが。
「アルバ。さっきの彼が帰ったから、一つ余ってる。証人になってくれたお礼だ。飲んでくれないか?」
ヒロがエールをアルバに渡した。
「乾杯するか、兄ちゃん。あぁ、ヒロだっけか」
エールを受け取ったアルバがにやりとして杯を高々と掲げる。
「シャロームの野郎から金を分捕ったヒロに」
「証人アルバに」
「あ、あの、なんか頑張った私に」
アルバとヒロの音頭にリムが割り込む。
「「「乾杯!」」」
ヒロは杯を傾けた。麦酒というからどんな酒かと思ったが、その名から予想した通り、やはりビールだ。色は赤褐色で泡は少な目。麦だけでなく、柑橘類のようなフルーティな香りが立ち上っている。口当たりは甘く、凄くマイルドだ。キレに欠けるものの物凄くコクがある。結構いける。それ程アルコール度数は高くなさそうだ。
リムもエールをちびっと飲んでいる。この世界では子供もビールを飲んでいいのか。リムは、ビールなんて当たり前だという顔をしている。ヒロは、そういう世界なのだと思うことにした。
杯を空けたヒロはもう一杯エールを注文した。代金を払おうと、ナップサックをごそごそやったヒロをアルバが止める。
「そんなのは後だ。今は呑もうぜ。ハンラ! ブラウンを持ってこい」
アルバは店の小間使いに麦酒を持って来させた。それを見たヒロはおや、という顔をした。店員がいるのなら、アルバが商談の証人をしていても、麦酒を持ってくることは出来た筈だ。そうしなかったのは、おそらく商談の成り行きを見極めてからにしようと思ったからに違いない。シャロームはシャロームで抜け目のない商人だが、このアルバも中々に強かだ。二十年も店を構えているというのもさもありなん、とヒロは納得した。
ヒロはアルバと杯を重ねた。もう何杯空けたろうか。流石に酔いが回ってきた。リムは一杯飲んだところでうつらうつらしている。それに引き替えアルバは水でも飲むかのように、全くペースが落ちない。まさにウワバミだ。
「ヒロ、泊まるところがないなら、ここに泊まっていけ」
アルバが申し出る。
「いいのか」
ぼんやりした頭でヒロが問い返す。
「こんな小さな村で宿屋だけで食っていけると思ってんのか。うちは酒場だが、寝床も貸してんだよ。屋根裏で良けりゃだけどな」
「ありがとう。助かるよ。アルバ」
感謝の言葉を口にしたヒロの顔に疑問の色が浮かんだ。それに気づいたアルバが補足する。
「シャロームの野郎は特別だ。あいつはここの村長の家に泊めて貰ってる。大事な商談があるんだとよ」
「そうか。彼はやり手だね」
「やはり、そう思うか。あいつはあの若さで自前の商会を持つくらいの才覚の持ち主だ。敵に回すより味方にした方が絶対得だ。まぁ、お前はあいつに気に入られたようだから、心配ないがな」
「何故、気に入られたなんて分かるんだ?」
「あいつは、一目置く相手に会うと、帽子を直す癖があるんだよ。さっき帰るとき帽子を直したろ。認められたのさ。あいつに」
アルバがエールをぐいとあおる。どうやら相当な相手と交渉していたようだ。ヒロは今になって背中に冷や汗をかいていることに気がついた。
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