美人に転生したけれど、悪役令嬢の私に彼は振り向いてくれなかった

魔法少女どま子

爽やかスマイルってなんかそれだけで憎い

 昔から自分の顔が嫌いだった。
 細い一重に、ふっくらと丸みを帯びた顔。
 高校二年にして肌も若干荒れてきており、我ながら色気の欠片もない。友達からは、幽霊みたいな女だと言われることもある。
 疑いようもない――私はいわゆるブスだ。

 いまでも覚えている。小学校高学年あたりから、男子の対応が冷たくなってきた。明確な差別を受けたことはないが、可愛い子とブスとでは、彼らの態度は明らかに違う。可愛い子には一生懸命に笑いを取ろうとするが、私にはそれすらもない。ただ、「うん」とか「あー」とか、反抗期の息子みたいな反応をされるのみだ。

 そのときからなんとなく気づいていた。男子は外見がすべてなのだと。私は醜く生まれてしまったために、彼らに気に入られることがないのだと。

 けれど、私だって現代を生きる女子高生だ。いままで誰とも付き合ったことはないが、一回くらい、好きな人と結ばれたい。好きだと言われたい。バレンタインには気合いを入れてチョコを作ったし、いいなと思える人には積極的に会話のきっかけを作った。

 でも、ブスに恋愛は許されないらしい。
 いくら話しかけても、結局は友達のまま終わる。たとえ一度も話したことがなくても、男子は奇麗な人を好きになる。私のあらゆる努力は、「ブサイク」という圧倒的なハンデによってなんの効果ももたらさなくなる。

「はあ……」
 夕焼けに染まる路地を、私はため息をついて歩く。

 泣かないと決めた。
 親から授かった大事な身体だ。もっと美人に産んでほしかったとは思いたくない。きっと、ありのままの私を好きになってくれる人が現れるはずだ。それまで耐えるのだ。

「可愛そうな子だ」

 ふとそんな声が聞こえて、私は顔をあげた。
 はっとした。目の前に男が立っていた。

 爽やかな短髪。女の私が引け目を感じるほど透き通った肌。
 おそらく百八十センチくらいあるだろうか、かなりの身長差があったが、不思議と怖いとは感じなかった。それどころか、すべての悩みさえも吹き飛ばしてしまいそうな美しい瞳に、私はしばし目を奪われた。なんだろう、あの瞳を見ているだけで心がとろけていくような。

「かっこいい……」

 思わずつぶやいてしまい、慌てて口をおさえた。まさか聞こえちゃった?

「ふふ」
 しかし男はそれには答えず、予想外の発言をした。
「久しぶりだね。葵ちゃん」

 ……え?
 私は思わずぽかんとした。

 こんなかっこいい人に会ったことはない。そもそも彼は大人だ、高校生の私と接点なんてあるわけがない。

 けれど、私のもうひとつの直観はまったく別のことを叫んでいた。

 彼とはどこかで会ったことがある。
 いまは忘れているだけで、以前見たことがあるような……

 そこまで考えて、私はぶんぶん首を振った。
 彼氏が欲しすぎてついにこじらせてしまったか。こんなイケメンと友達だったなんて、妄想もいいところだ。

 と――

「ひゃっ」
 思わず悲鳴をあげた。
 温かいものに包まれたと思ったら――彼が私の肩に手をまわしてきていたのだ。

「な、ななななにをするんですか!」

 驚愕のあまり噛みまくる私に対して、男は憎らしいまでの爽やかスマイルを浮かべてきた。

「決まってるじゃないか。君を素晴らしい世界へと招待するんだよ」
「す、素晴らしい世界……?」

 まったく意味が掴めなかった。これはなにかのアニメか?
 そのとき、彼がパチンと指を鳴らして――世界が変わった。

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