転生先は現人神の女神様

リアフィス

64 神としての仕事

スライムは商人によって商業ギルドに知らされ、冒険者ギルドへと伝えられた。
が、冒険者ギルドも他の支部に連絡はするが『ふーん』で流した。
国から追い出されたのだ。助けに行く義理もない。そもそも入れん。

当然アトランティス帝国にある冒険者ギルド本部にも話は入ってくる。
と言うか、ギルド本部だけあって各地の支部の情報が入ってくる。通信機など無いのでだいぶ遅いが。中央に来ただけあってベリアドースにあった頃よりはマシだ。

「―――と言う特性のスライムが猛威を奮っているらしいですが、どうします?」
「どうするも何も、出禁くらってるんだから無理だろう?」
「まあ、そうなんですけどね」

ベリアドース大国の領土に入んな! 言われているので、冒険者ギルド側は何もできない。情報だけ集めておくぐらいだ。
少なくとも過去に似たようなのが出た記録は残っていない。



「ヴルカン、ドラゴンの肉を炎で炙るのは止めなさい……」
「あー! 焦げたー!」
「だろうな!」

家の元裏庭、大神殿にしてからは一応中庭でバーベキュー中のルナフェリア一行。
焦げた肉をシルヴェストルの口に放り込もうとするヴルカンと、入れられまいとするバトルを尻目にモグモグしていた。精霊達は勿論、騎士達や吸血鬼組もいる。
訳ありの《神聖魔法》持ちもやって来たので、ジェシカとエブリンも休みが取れるようになっていた。

「うむ、切るだけでいいから楽だな」
「タレは作らないとですけどね」
「唯一の不満はタレのバリエーションの少なさか」
「香辛料が使えるだけいいですよ」
「ふむ……」

焼肉のタレが欲しい。
肉を食べようと手を伸ばしたら、エマニュエルが飛んできて掻っ攫っていった。

「…………」

エマニュエルを見送りつつ、横からブリュンヒルデに差し出された肉を受け取る。

「おっと、忘れていた」
「何かお持ちしますか?」
「いや、わらわにしか無理だろう」

用があるのは御神木だからな。
木の元へ行って見上げながら話しかける。

「神霊樹よ、セラフィーナに杖を作りたい。練習用だから端の方で構わない。枝をくれないか?」
「……言葉、通じるのですか?」

少し離れた所に枝と言うか、丸太が降ってきた。
御神木のサイズがサイズだ。枝と言ってもかなりのサイズである。
落ちてきた物を魔法で受け止める。

「うむ、助かる」
「……通じるのですね」
「伊達に樹齢万近くないってな。フィーナ、7歳のプレゼントだ」

ぱたぱたやって来たセラフィーナは『持てないよ?』と首を傾げていた。
魔法触媒の杖は持ち主に合わせるのが1番だからな。これから加工するのだ。

「木に触れて魔力を流す」
「あい」

セラフィーナの流す魔力を観察して、さくっと長さを決める。
当然セラフィーナの保有魔力、魔力濃度も考えた長さにだ。じゃないと砕け散る。
大体2メートル手前、1メートル80センチぐらいかな?
更に魔力の流れが良かった部分も記憶し、その部分を残すように加工する。
最後に仕上げにルナクォーツを先端に埋め込む。

「トレニスース、これ先端に付けれる?」
「任せてー」

森の妖精ドライアドに先端に埋め込んでもらう。
《魔導工学》よりその方がいいのだ。
先端がルナクォーツに絡まり固定される。
本来ならこれで完成なのだが、どうしてもやりたい事がある。
変形機構……ロマン構造をな!

という事で、先端のルナクォーツに少々細工をする。
普段は指輪、展開時は杖……だ。"インベントリ"もまだ使えないからな。
それに空間収納から取り出すより早いだろう。
木のリングにルナクォーツが付いた指輪。
これをセラフィーナにプレゼント。

「一生物だから大事にしなさい」
「あい!」

騎士とかにもできたわけだが、あいつらは武装している事に意味があるからな。
武器持ってるぞー? 余計なことするなよーという意味がな。
その点セラフィーナはああしないと無理だろう。私のより短いとは言え、自分の身長より長い物を振り回す力や技術は持ってないからな。

7歳……7歳かぁ。
今は私がよくやる魔法での遊びを教え、《魔力操作》のスキルをとにかく上げてる最中だが……そろそろ教えていこうかねぇ?
おっと、もう1個あったな。

「フィーナ、もう1個ある。これをあげよう」
「わー……なにこれ?」
「部屋着、もしくはパジャマ」

"ストレージ"から取り出されたそれは、ベアテに頼んで作って貰った物である。
広げられたそれは、ペンギンパジャマだった。

「これは……斬新ですね」
「わりと一般的だったぞ、発想自体は。子供用パジャマ」

股下は短く、フード部分がペンギンの頭になっている。
という事で、セラフィーナにはペグーパジャマと神霊樹の杖がプレゼントされた。


『ルナ』

おや、創造神様だ。

『スライムですか?』
『うん、あれ倒しといて。越えてはならないラインを超えてしまったの』
『……ああ、遂に土も食べ始めましたか』
『一気に火力でゴリ押すように』
『分かりました』

この世界に来て初めての『仕事』だ。
そう、『神』としての。
スライムの事は認識していたし、魔眼で監視してはいた。手を出さなかったのは人類の問題は人類が解決するべきだろうからだ。
しかし、土を食べるようにもなったのなら話は少々変わってくる。
あの能力で際限なく地面を食べ始めたらどうなるか……。
既にサイズは某スライムの王様のような感じになっている。人が見上げるレベルだ。世界がスライムになってしまうだろう。それは流石に少々問題である。
こうなる前に爵位を持ち……個を持っていたらまた違ったのだろうが……。
何はともあれ、処分の判断が下された。

「さて、初仕事だ」
「……スライム、ですか?」
「うむ、少し空けるぞ」
「畏まりました」

シロニャンを頭に乗せたまま、スライムの方へ転移した。



「ええい! スライム如きまだ倒せんのか!」

ベリアドース大国のとある平原。なんとか王都から移動させ、復旧作業中だった。
その平原で騎士を指揮する男が声を荒げている。

後ろでふんぞり返り喚き散らす指揮官。
指揮官なんだから後ろにいるのは当たり前である。真っ先に死なれたら困る。
とは言えだ、状況を全く理解せずただただ叫ぶ指揮官は御免被りたいのが現場の総意だろう。

『触れたら金属だろうが食われ、金属食うんだから当然石も食う。投石も無駄。魔法は一応効いてるっぽいけど、即座に回復する。どうしろってんだ!』

前は馬鹿でかいスライム。後ろはお飾りのうるせぇ指揮官。八方塞がりである。
槍や弓はコアに届かず、するだけ無駄だった。
投石機を引っ張り出してみるが、そもそもスライムは打撃に強い。コア破壊ならず、飛ばした石が吸収された。石の用意が無理なため断念。
バリスタを引っ張りだすが、要するに弓なためコアを捉えられず現実的ではない。

今すぐどうこうと言う訳ではないが、今こうしている間にも大きくなっているスライムを放っておくという選択肢はなかった。ないのだが……現状どうしようもないのもまた事実である。

「近づきさえしなければ現状問題はないが……はぁ。せめて冒険者達がいればな」
「全くですね……」

城や屋敷でヌクヌクしている貴族達に比べ、現場へ行くことのある騎士達は冒険者達の必要性を理解していた。
しかし、上と下のすれ違い……管理職と現場の食い違いはよくあることだ。
下が言っても上が聞かなきゃ意味がない。所詮騎士達は命令されて動く側である。
後ろで早くしろと急かす無能と、騎士達を指揮する有能な隊長。
でも自分達の事を分かっている隊長だからこそ、今ある手段では無理だと分かってしまっている。

副隊長と共に頭を悩ませている時にそれはやってきた。
スライムとスライムを囲うようにいる騎士達の間。
そこに巨大な3対の翼を広げた者が現れ、スライムを見下ろしていた。

「ふむ……"エクスプロージョン"」

スライムの上空に赤い光が集まった直後、大爆発し周囲を薙ぎ払う。
スライムのいる草原を瞬時に焼き野原へと変え、地面を抉る。
にも関わらず、周囲でスライムを囲んでいた騎士達には何事もなかった。ギョッとする騎士達だが、間に膜のようなものがあることに気づく。いつの間にか結界が張られ守られていたようだ。
肝心のスライムはと言うと体の半分ほどが消し飛んでいた。

「む……? これで半分しかいかんか」

明らかに火の中級と言われる"エクスプロージョン"の威力ではなく、上級や超級と言っていい代物だったが、半分しか削れとれなかった。
創造神様に言われた通り、一撃で消し飛ばすつもりで放たれたのだが。

「そこの貴様、スライムに土の魔法を撃ってみろ」

突然言われた騎士は隊長の方に向くが、隊長が頷いた為言われた通り土の魔法で一般的な"アースランス"でスライムを攻撃した。
それを魔眼を使用し見る事で情報を集める。自分でやらない理由は魔力濃度が濃いからだ。検証するなら人類にさせた方が都合がいい。

「ふーむ……そこの、"エクスプロージョン"を撃ってみろ」

ルナフェリアから放たれた"エクスプロージョン"より遥かに規模の小さい爆発がおき、スライムがプルプルと揺れる。

「"エクスプロージョン"自体が相性悪いようだな……。考えてもみれば当然か」

更に何個か使わせ、スライムの反応を魔眼を使いつつ反応を見る。
結果として、物質系……土や水、氷や風と言った物は相性が悪い。
更に"エクスプロージョン"などの爆発系もダメなようだ。
"エクスプロージョン"は熱と爆風でダメージを与える魔法だ。熱は効くがどちらかと言えば爆風によるダメージの方が大きい。よって、半分ほど散りはしたがすぐに元に戻った。水に石投げて飛び散らせても、集めたら元に戻る訳で。

「となると有効なのは純粋に焼くか、光か闇……後は雷か。人類には無理だな。《時空魔法》の空間と重量という手もあるが、余計人類には無理だな」

そして、火や雷の超級を使うには少々問題がある。
どでかいクレーターができるのはこの際置いとくとして、周囲にいる騎士達が間違いなく死ぬ事だ。
第二の太陽を発生させ周囲を焼き尽くす"プロミネンス"。結界で防ぐことはできるが……しばらく目が死ぬだろう。
ステータスリングで管理されるPTメンバーや術者は影響ないが、それ以外はそうとはいえない。

みるみる大きくなるスライム。
魔法で抉れたのもあるが、スライムに吸収され無くなっていく地面。
そこで最強の《攻撃魔法》の一角である"ブラックホール"の使用を決める。

「隊長、騎士達を下げろ。そして剣を地面に突き立て体勢を低くしろ。次使う魔法は結界じゃ安全とは言えんぞ」

当然結界の外でも"ブラックホール"に吸われる。そりゃもう問答無用で吸われる。結界があるため飲み込まれることはないが、万近い騎士達が結界にぶつかって行けば圧死ぐらいはするだろう。
防ぐことはできるが正直面倒だ。最強の攻撃魔法とされる一角は伊達じゃない。
1つは"特異点ブラックホール"もう1つは"空間崩壊ディメンションコラプス"。
これら2つは転移で即逃げるか、同じ魔法で対抗するしか無いのだ。故の最強。
ただでさえ制御の難しい《時空魔法》、空間と重力の攻撃がこの2つだ。
最高の攻撃魔法が《攻撃魔法》の枠組みではなく《時空魔法》の枠組みなのは何とも言えない気がするが、まあ分からなくはない。

とりあえず下げる時間ぐらいはあるから、そうした方が楽だと言うだけだ。

「はっ……! だ、誰だ貴様は!? 指揮官は私だぞ! 何故貴様が仕切っているのだ! 隊長ではなく私を通すべきだろうがぁ!」

漸く状況が飲み込めたのか、無能な指揮官が喚きだした。
どうせならもう少しアホ面を晒していればさっくり終わったと言うのに。
これには隊長も微妙な顔である。
こういった人間は無視されるのが大嫌いなのだ。無能なのに手を出そうとするから質が悪い。ぶっちゃけ邪魔でしか無い。
『黙ってみてろ!』が騎士達の本意するところだが、言えるはずもなく。
ただ、ここには言える存在もいたわけで。

「状況判断能力が死滅してる無能は黙ってみてろ。何でその地位にいるんだ? 状況判断できない指揮官とか致命的すぎるだろう」
「な、ななな……」
「いや、状況判断できてないからこそ冒険者を追い出したのか? じゃあ同類ばっかりか、恐ろしいな」
「き、貴様! 我が祖国を馬鹿にするか!」
「国なんかどうでもいい。貴様のような奴が国の政に携わっているのを馬鹿にしているだけだ」
「な、なん……!」

ヒソヒソと騎士達のところから……。
『……つまり何で馬鹿なのに国の政やってるの? ってことだよな……』
『だな……ストレートに突き刺してきたな』
『俺ら騎士達を動かしてる時点でそういう立場の者です。って言ってるようなもんだしな……』
『聞かれると後で面倒だぞ』
『うっす』
などという会話が聞こえて来るが、ルナフェリアは聞かなかった事にした。事実だから言うことはないし。

「構うと時間の無駄でしか無いか。"トランスファー"」

騎士達も纏めて後方へと転移させる。最初からこうした方が早かった。
そして騎士達は優秀だった。万近い数を一斉に転移させられ、驚かされるがすぐに状況を理解し言われた通り剣を突き立て体勢を低くする。
隊長からずらずらと横に広がっていき、全員が低くしたところで発動させる。

「"ブラックホール"」
『うわっ』

スライムの上空に黒点が出たと思ったら急速に広がり、真っ黒い円が出現。同時に周囲の物を吸い込み始める。
真上に出されたスライムは為す術無く地面と共に吸い込まれ、核ごと押しつぶされ消滅する。
そして役目を終えた"ブラックホール"を閉じる。

"ブラックホール"も"ディメンションコラプス"も撃ちっぱなしではなく、最後に閉じる必要がある。じゃないと際限なく吸い込み続けるし、崩壊は広がる。よってかなり危険な魔法だ。まあ、両方共人類には発動すら困難な魔法だが。

"ブラックホール"の発動により引っ張られた騎士達が驚いて声を上げるが、特に問題はおきなかった。だが、例外もいる。
吸い込みと同時にふんぞり返っていた椅子ごと引っ張られ、無様にゴロゴロ転がり、当然近くになるにつれ吸引力は強くなり、遂には浮き始める。小太りだろうが誤差だ誤差。
黒点に直進している最中、足をルナフェリアに捕まれ黒点が閉じる。そして、ぽいっと捨てられ「ぐえっ」と地面に落ちた。

「さて、役目は終わりか。帰ろう」

ルナフェリアは転移して国へと帰る。
残されたのは司令官と騎士達、それと焼けたり抉れたりとボコボコの地面だけ。

「なあ……今の魔法って……」
「ああ、聞いたことがあるな……今は《時空魔法》だっけか。旧重力魔法の唯一にして最強の一角"ブラックホール"だろ……」
「もう1つは空間魔法だったか?」
「"ディメンションコラプス"だな。"ブラックホール"が使えたんだ、使える可能性が高いぞ……」
「敵に回ったら……勝てると思うか?」
「馬鹿言え、分かりきった事を。何故そんなことを……まさか?」

何故そんな分かりきった事を聞くのか。それは……ぽいっと捨てられて指揮官が真っ赤な顔でプルプルしているからであった。

「おいおい、勘弁してくれよ……」

周囲の騎士達は天を仰ぐしか無かった。

スライムに王都の半分ほど持って行かれたベリアドース大国。
彼の国の受難は続く。
冒険者達を追い出した付けが回ってきた。


こうして密かに世界的危機、スライムの世界侵略は終わった。

コメント

  • スライム好きなスライム

    騎士が一番苦労してるw

    0
  • ノベルバユーザー284939

    騎士ドンマイ!

    0
コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品