転生先は現人神の女神様

リアフィス

45 魔法とギルドとダンジョン

『そこそこ前から考えてた魔法システムね』

創造神様が言うそこそこが何百年前か何千年前か知らんが、魔法システムはかなり変わるようだ。
人類共通だった<Index>を廃止し、魔法図書マギライブラリとして個人用に変更。
よって<Index>魔法、アレンジ魔法、オリジナル魔法と今まで言っていた事が意味をなくし、全てオリジナルになる。
魔法使用時、自動的に魔法陣が生成、マギライブラリに記録される。
魔法陣のサイズは効果が複雑ならより細かく、効果範囲が広いなら大きくなる。
初めて使用する際はオリジナルと同じイメージから使用し、マギライブラリに記録させる。それ以降はマギライブラリから魔法陣を展開し使用すれば、同じ物が使える。
魔導文字は不要には為らず、自動生成された魔法陣をより最適化、アレンジするのは手動。
自動生成の魔法陣は効率がいい……とはいい難い。
マギライブラリに記録された魔法は自分で名前を付けられる。それがそのまま発動キーとなる。
初めての魔法を使うのに十分じゃないと判断された場合、魔法陣は記録されるが発動しない。
例外として《回復魔法》《生活魔法》は今までと同じ仕様。

つまり……。

『めっちゃ変わりますね?』
『うん、変わるけどこっちの方が良いと思うの』
『魔法陣の自動生成と言うことは暴走防止機能付きですか。使い勝手は格段に上がるでしょうね』
『そうね。その代わりその分魔法陣が大きくなるし、どうしても効率が下がるけどね』
『弄り甲斐がありそうですね』
『如何に効率よく魔法陣を圧縮するか、腕の見せどころね。魔法陣が小さければ小さい程沢山魔法を覚えられる。覚えなくても使えはするけどねー』

マギライブラリに沢山保存して置いた方が、発動は遥かに楽だ。
しかしマギライブラリがいっぱいの場合でも新しい魔法を使用することは可能である。
基本は手書きした物をマギライブラリに保存して、以降そこからコピーして使う。
マギライブラリが一杯で保存できない場合、毎回手書きする必要があるが、その魔法は発動する。

どっちらが早いかは当然前者だろう。発動までの手順が減るのだ。
実践で使うなら記録された魔法使用一択だろう。早い方がいいに決っている。

そして魔法陣の自動生成だが、同じ魔法を望んだとしてもイメージの仕方で効率が変わる。
例えば拳大の水を生成する魔法を使用したい。
1.ただ水を思い浮かべた方法。
2.空気中から水を集めるイメージの方法。
この場合……2の方が効率の良い魔法陣が生成される事になる。
問題は、この際下手に『海!』とかイメージしてしまうと、とんでもない事になる。曖昧すぎて効率が極端に落ちるのだ。
『海? 塩辛いのが良いの? それとも海並の水が欲しいの? もっと細かく!』となってしまうのでそれらに対応できるよう、非常に効率の悪い巨大な魔法陣が生成されてしまう。生成されればまだ良い方で『こんなでかいのお前じゃ使えないよ』とかなれば生成すらされない。

とは言え、今までのよりは安全に使用できるのは確かである。失敗で腕が吹き飛んだりしないよ!

『それじゃあ、生成するわよ?』

ギルドは職員会議に忙しそうだし、少しいなくても大丈夫そうか。

『ええ、お願いします』
『ちなみに見た目は神殿だから』
『……まあ、別に問題は無いでしょう』
『普通に住めるから好きに使って』
『冒険者ギルドにでも使わせますかねぇ? 分かりました』

「アストレートとマハ、3人を頼むわ。用事ができた」
「「畏まりました」」

分身体のいる土地へ転移して待機する。


再び世界に『変化の時』が現れる。前回からそう経っていない『人類にとっては』異例の変化である。
しかも、今回は魔法の扱いがガラッと変わることになる。しばらく人類は変更の把握に大慌てだろう。前回と違い今回は全員が気づく事だろう。<Index>がマギライブラリと変わるのだ。


トンネルを抜けるとそこは……じゃないが、神力が通った後、そこには神殿が建っていました。
分身体と並んでしみじみと見てしまった。いいね、ファンタジーだねぇ……。うんうん。

木洩れ日が降り注ぎ、淡く輝く水が流れ、様々な瑞々しい実を付ける木々の中に、ぽつんと佇む厳かな雰囲気を持った神殿。

むふふ~と神殿に突撃。
エントランスは広々としており、入ってすぐの左右の方に扉があり、先は通路となっている。入って正面に2階へと行く大階段があり、その階段の左側に通路がある。
大浴場もあれば、大食堂もあり、部屋も沢山存在し、3階建てとなっている。
大階段は登っていくと踊り場があり、右手は2階、左手は3階へと向かう階段になっている。
中は豪華すぎず、寂しすぎず……程よく装飾されており、どう見ても神殿と言う名の屋敷だった。

ダンジョンへと向かうには大階段左手にある通路を通ると礼拝堂の様な場所へ出る。
そこの奥の床に20人ほどは乗れそうな巨大な魔法陣があり、魔法陣の正面には……創造神様の立像りゅうぞうがあった。

……良いのか? これ。いや、まあ自分で作ったんだろうしいいか。
早速魔法陣の上に乗ってみると、どうすれば良いのか頭に浮かんだ。

「転移、1階層」

"ジャンプ"や"テレポーテーション"と同じように視界が切り替わり、森にいた。

「ほほーん?」

どれ、少しぶらついてみるかね。香辛料と鉱物系の大体の位置は調査しときたいな。後それまでの魔物の種類だな。

魔眼使えばぶらつく必要も無かった。でかいフロアのようだし。
広さはそこそこ……さすがダンジョンと言うべきか、エンカウント率はそれなりに高いと思うが、他のダンジョンに行ったこと無いので分からん。
スライムは兎も角、フォレストウルフが多いと言うのは食料になるから良いことだな。問題はリポップがどのぐらいか、か。

敵を倒すついでに、端の方の森を一角吹き飛ばしてみた。再生されるんですかね? 放置しとこう。リポップはそれなりに早く、人のいない方に湧くのかな? 私の真逆に湧いたようだし。
敵は湧いたが、森は直らず……2層目行くか。

2層目も敵は変化なし、採れる物が変化あり……と。ふむふむ。
3層目は敵が増えたな。スライムとフォレストウルフに加え、ジャイアントアントとか言うでかい蟻に、バルサウッドとか言う丸太の木人が微妙にいるな。
4層目はスライムとフォレストウルフ、ジャイアントアントとバルサウッドが半々だ。
5層目は3層目と逆転し、ジャイアントアントとバルサウッドが大半、スライムとフォレストウルフがおまけ程度にいる……と。

香辛料はこの1~5層で一通り採れるな。下級レシピのポーション類の材料も集まりそうだ。なんと素晴らしきかなダンジョン。

6層目は……洞窟か?

「グノーム、鉱石あるか分かる?」

グノームがツルハシを地面にカツンと当てる。

「スズの鉱脈」
「となると、6~10層は鉱石か……鉄と銅が出れば上々ね。それ以上は流石にもっと奥だろう。ありがとうグノーム」
「あい」

では引き返して1層目を見てみるか。
吹き飛ばした森は……ふむ、修復されてるな。人がいると再生されないパターンかな。

ダンジョンからの脱出は……5層毎にある脱出陣か自前の"テレポーテーション"か。後は……敵がたまに持っている転移石。ふむ、ギルド本部に帰るか。

「我、帰還せり」
「あ、おかえりなさい」
「ただいま。まだ職員会議してるの?」
「してますね」
「まあ、いきなり国から追い出される可能性が出たわけだし当然か。我々はどうしようかね……」
「と言うかルナ様? 魔法の扱い方が変わりましたよね?」
「だいぶ変わったわね。最適化するか……」

ルナが自分の魔法陣を最適化しながら、ジェシカやエブリンに仕様変更された魔法の説明をしている最中……「国の上層部は馬鹿ばっかで、知らない間にSSSトリプルエスの話が出て当人が来てるわ、挙句に魔法が大幅な変化……勘弁してくれー」ギルドマスターは死にそうだった。


「あ、そうだ。ブノワ……殿?」
「む? なんですかな?」
「生産ギルドに登録するって言ったら、何かすることあるの?」
「む、そうですね。本来は作品を持ち込んで貰っての検査、更にセザールに鑑定して貰いちゃんと本人の作品かなどの確認ですね。最終的に数人の目の前で何かしら作って貰い、ランクを決めます。複数の部門にも登録が可能ですが、それぞれの部門でも同じ検査をしてもらう事になります」
「ふんふん……」
「生産ギルドに登録することにより、ランクによって素材を優先的に回したり、安く買えたりします。基本的に冒険者ギルドの生産版と思って頂ければ。指名してある物を作ってもらう指名依頼制度もあります」
「ふむ……」
「商人との取引の仲介をすることも我々ギルドの仕事ですね。自分で作った物を捌くルートがあるなら結構ですが、ない場合ギルドに売り、ギルドが適切な商人へと売る。そこから直接商人と繋がる場合もありますね。逆に、商人からこんなの作れる人を紹介してくれ、とか。職人同士であの人に弟子入りしたいから紹介状書いてくれ! とかなんかもありますね。ランクによっては研究に投資したりもします」
「なるほどねぇ。特許の制度は無いの?」
「ありますよ。迷い人が過去に提案していった制度ですね」
「ナイス迷い人。じゃあ《魔導工学》に関するある技術を提供をしてあげましょう。技術というか、私が作製、調整した魔法の1つだけれど」
「本当ですか! それはもう是非! ……おっと、その前に登録しないとなりませんな」
「ああ、後今後必要になる魔法紙の作り方も提供した方が楽か……」
「一度帰って手続きしましょう! バルド! 俺は一旦帰るぞ!」
「お? おう、何かすまねぇ。落ち着いたら連絡を……ってあいつら放置してきちまったな」

とりあえず生産ギルド本部の方へ"ゲート"を繋げる。魔法が変わった挙句にギルマスがいなくなってバタバタしていた事件はあったが、冒険者ギルドのギルマスと一緒に来ていた冒険者達をベリアドースへ返した。
テクノスに来るのに私一人と言う訳にもいかないので、全員連れてきた。

こちらに来る際、冒険者ギルドのギルマスにシロニャンぬいぐるみを渡しておいた。
このシロニャンぬいぐるみ、魔道具である。"テレパス"を"エンチャント"した宝石を中に入れておいたのさ。シロニャンぬいぐるみを握ると私に繋がるようにしてある。魔力消費削減の為私のみだ。傍から見るとシュールな光景だな。おっちゃんがハリネズミのぬいぐるみ握ってるの。
中々可愛く出来てるベアテ渾身の作品である。

生産ギルドにある一室でソファーに座っているルナとセラフィーナ。他4人は後ろに立っている。
無駄に気合が入りどこかの水族館か? 並の魚達が空を泳いでいた。

「また無駄に超高等魔法技術を……」
「素晴らしい魔力制御……!」
「うぅむ……」

苦笑して呟くエブリンと、絶賛するマハ。そしてしみじみと眺めている生産ギルド本部のギルドマスター、ブノワである。
ルナとセラフィーナは2人揃って楽しそうにしていた。傍から見るとただ仲のいい少女2人に見えるが、月神とハイエルフである。
やってる本人であるルナが何故そんな楽しそうなんだ? という状態だが、鱗の1枚まで再現してたら楽しくなっちゃっただけである。
そんな光景が生産ギルド本部のサブマスター、セザールが来るまで続いた。

セザールが来た際、大きい魚が小さい魚をパクパクして行き、水なのですぐ様大きい魚になっていく。そして全部食べ終わり大きくなった魚は、そのままシードラゴンに姿を変え、セラフィーナの頭に齧り付いた。

「きゃ~♪」
「楽しそうでなによりです……」

何回かハムハムしてから水は消えた。色んな意味でちょっと呆れ気味のジェシカであった。
なお、セラフィーナの頭は当然濡れたので、乾かした模様。

「さて、真面目な話に移りましょうか」
「お、おう」

そしてこの切り替えの速さである。

「登録するには完成品と目の前での作製が必要だったわね?」
「う、うむ。しかし、完成品は既に見ているからな……」
「ぎ、ギルドマスター……」
「どうしたセザール?」
「あの……後ろに浮いている杖が……杖が……」

水面に口を出してパクパクする魚のような状態で、セザール君が後ろにある月杖を指差している。

「おおっと?」
「ああ、あれな。気になっていたんだ。どういう原理なんだあれ」

月杖・エーレンベルクは神器であり、セザール君は《解析の魔眼》を持っている。
みぃ~た~なぁ~? んまあ、私のミスだが。とは言え、正直隠すつもりはそんな無い。だって面倒だし……武器は使ってこそである。魔導銃とか魔導剣とか作るだけ作って満足した悲しい奴らが"ストレージ"で眠っているが。
魔導剣は兎も角、魔導銃は無粋よね。ファンタジーに銃火器はねぇ……。
いや、火薬使ってないし火器とは言わないのか? んまあ、どうでもいいか……。

「別に口止めはしないから、良いわよ。言いふらすつもりは無いけど、隠すつもりもないし。鑑定のスキルは兎も角、魔眼ばっかりはねぇ……」
「月杖・エーレンベルク……神器ですよ! 神器!」
「……は? はぁ!?」

そこから盛り上がり話にならなそうなので、奴らが落ち着くまでのんびりと紅茶を飲んでいよう。
そう言えば、セラフィーナと果実を食べてて思ったが、ドライフルーツなんてものもあったな……保存食になるんじゃないか? まあ、聖域の果実を使うのは勿体無いか。

「落ち着いた?」
「お、おう……すまん」
「それで、作るものは何でも良いの?」
「ああ、いいぞ。見るのは手際だからな」
「ふぅん……そう言えば作ってみたいのあったしやってみましょうかね」
「おう! って、ここで良いのか?」
「素材は"ストレージ"に入ってるし、良いでしょう?」
「そうか、ならいい」


では、作ろうと思う。取り出したるわー、ルナクォーツとマナタイトクォーツ。
いや、ちょっと作ってみたいロマン武器を思い出しましてね。そう、ロマン武器。こういうファンタジーだからこその武器だよ。
デュランダルと同じように1メートル程の刃渡りにしよう。ただし、刃は潰しておく。なぜかって? デュランダル作って思ったけど、切れ味良すぎよな。迂闊に使えんわ。
という事で、魔導剣作りますよ。
マナタイトクォーツを柄の部分にし、ルナクォーツを埋め込みコアとする訳だが、埋め込みは最後だ。まずは加工から。
さて、あのロマン武器を作るにはどういう魔法が必要だ……?
まず伸縮自在の必要がある……が、ニョイボウが作りたい訳じゃないので……ただ伸びるだけじゃ意味がないと……。
私が作りたいロマン武器……それは蛇腹剣だ!
蛇腹剣は強度や構造的にどう考えても架空武器でしかないが、ファンタジーなこの世界なら問題ないだろう。強度に関しては私の魔力使うんだし、構造に関しても魔法がある。
使い勝手に関しては魔力操作で自由自在に動かせるはずだ。更に言えば斬る斬らないは魔力の形を変えれば自由自在。なんの問題も無い。


素材を"ストレージ"から出したルナは素材を持ったまましばらくフリーズしていた。
ジェシカやエブリンはいつもの事なのであれだが、ブノワやセザールは初めてなのでどうしたのかと怪訝な顔をしていた。
「ふむ……」と呟かれた直後に動き出し、瞬きの間に取り出された素材は形を剣の柄へと形を変えており、驚く間もなく魔導文字が空中に散る。《魔導工学》超級に位置していた"ルーン"だ。

ブノワとセザールは息をするのも忘れたかのように、ただ静かに見つめていた。目が離せないのだ。職人が目の前で黙々と作るその様は、あまり詳しくない人ですら魅了する。知識があり、経験もあったら余計に目を奪われる。一目で、どれだけ凄いことをしているかが分かるのだ。
生産ギルドのギルマスとサブマスであるブノワとセザールはまさにその状態だった。
2人はその地位に就いてからそれなりに長いのだ。当然色々な職人を見てきた。それこそ稀に見る天才と言われる者達だって見てきた。
それでもなお、ルナの魔導技術には目を奪われる。いや、だからこそ……他と比べるのすらおこがましい手際の良さに、卓越した技術に……目を奪われる。

ルナは小さな左手で柄を持ち、小さな右人差し指を這わす。すると空中に散らばっていた魔導文字が這わした指に吸い込まれるように消え、指が通った後には文字が浮かび上がっていた。
しばらくしてその作業を止め、柄を膝の上に置き、膝の上にあった素材を持つ。
右手をお盆を持つようにしたと思ったら巨大な魔法陣が展開され、部屋に収まっていなかった。
「ふむ……非効率ね……」と呟きしばらく止まっていたが……。
「立体……球体か」と呟いた後、巨大な魔法陣が消え光る球体が現れた。
先程の巨大な魔法陣を、アストレートとマハを召喚した時の立体型魔法陣の様に作り変えているのだ。平べったい魔法陣より若干効率が良くなる為だ。最適化すると同時に立体型へと変更する。
完成したらルナクォーツに"エンチャント"をかけ、魔法の受け入れ状態にしてから作ったばっかの魔法を組み込む。

そしたら核となるルナクォーツが刃となる部分を生成し、柄の部分のマナタイトクォーツが制御装置として、形を維持する。《魔力操作》がダメダメだとただのロングソードの形をした魔力剣だ。

核となるルナクォーツには触手……魔力鞭のような魔法を組み込んで、柄に埋め込む。
柄となるマナタイトクォーツはそのしょく……魔力鞭を剣の形とする制御装置の役割を。
ただグネングネンしながら伸び縮み可能な核の魔力鞭を、剣の形にする柄の制御装置と組み合わせて蛇腹剣とする。


という事で完成だ。該当スキルは《剣術》と《鞭術》だろうな。


蛇腹剣じゃばらけん・試作品 アーティファクト
 ルナフェリアの作品。
 片手剣と鞭を兼ね備えた特殊な魔装具……の試作品。
 魔力操作で鞭のように刀身が伸びる。扱いが難しいが、使いこなせれば便利。
 未熟者が使うと刃のない片手剣でしかない。


ちゃんと鑑定結果が出たって事は一応問題なくできてるという事だ。さて、そうとなれば試運転だ。テストだテスト。

「さて、流石にこの中じゃあれだし外で試してみますかねぇ」
「「ぜ、是非見学を!」」

まあ、いいけど。"ゲート"をギルド本部の敷地内にあるスペースに繋げ、ぞろぞろと通る。
外に出たら早速しゃがみ込み、試作品でガスガス殴ったり突き刺してみたりと試してみる。

「うんうん、ちゃんと刃は無いわね。そしたら形を変え……」

地面に突き刺すとストンと根本まで入り込む。そのまま引き抜かずスライドさせて抜く。

「うむ、上々。後は肝心の鞭の方ね……」

見学組を少し離し、念のため結界を張ってから蛇腹剣と呼ばれる機能を試す。これがなかったらただの魔導剣だからな!
左から右に横薙ぎに振るうと同時に伸ばし……たは良いがそのまま制御できずに結界にぶち当たり、金属同士が当たったようなどでかい音をたてて地面に転がった。
ルナフェリア組は苦笑、ギルド組は顔が引き攣っていた。

「まあ、鞭なんか使ったこと無いし? そんな気はしてた」

そのまま子供がちゃんばらで遊ぶかの如くブンブン振り回し、ガンガン結界にぶち当たって心底ビビらせていた。
尚、ぶん回しているルナは早く《鞭術》生えないかなーとか思いながらブンブンしていた。

しばらくぶん回し、しこたまギルド勢をビビらせた頃、やっと? ぶん回すのを止めた。

「《鞭術》生えたわー」

そしてまたぶん回し始めた。ただ、さっきとは違い結界に当たることが無くなった。
スキルを覚えたことにより、アシストが入るようになった。腕を、手をどう動かせば狙い通りの場所に持っていけるか、感覚的に分かるようになったのだ。スキルレベルが上がればその精度が上がっていく。《鞭術》スキルとはこういう効果だ。

そして、人より遥かに早い思考速度と、遥かに優れた肉体性能を持っているルナにはそれだけのアシストで十分に操れる様になる。その微かなアシストに従い、完璧な動きをすることによりスキルレベルが上がる速度に補正がかかる。才能がある、とされるのだ。
《鞭術》による微かなアシストに加え、武器特有の《魔力操作》による制御でかなりの精度を誇るようになる。

「ふむ、予想より遥かに良い精度。離れたところから斬撃と、刃を無くせば打撃も可能か……。私の魔法は環境に優しくないからな……蛇腹剣重宝しそうね。……また作ったばっかのデュランダル倉庫の肥やしか。こればっかりはしょうがないと言えばしょうがないか? 使ってみん事にはねぇ」

とか呟きながらもブンブン振り回し、ビュンビュン風切音がなっている。
鞭の先端は予想より早くなるのだ。

ぶん回していた刀身? をすぐに戻し、普通のロングソードとなる。
戻ったらマナタイトクォーツに書き込んである魔導文字少し弄って、デザインちゃんとやるか。

「戻るわよー。十分と言うことが分かったので、デザイン部分を弄ってそのまま完成よ」

あからさまにホッとしたようなギルド勢は見なかった事にして、さっきの部屋に戻る。
早速ソファーを陣取り、書き換え刀身のデザインに合わせて柄の部分も少し変える……んだが、マナタイトクォーツからルミナイトに変えようかなぁ? ちょっと禍々しい感じにしたいなぁ?
マナタイトクォーツは見た目白い水晶だし……ルミナイトは黒で、魔力流すとサイバーチックに魔力光がラインとして出るんだよねぇ……。
杖にするわけじゃないから強度は平気なはずだし、魔力適正もピカイチ……変えるか。

さっくりと柄の部分をルミナイトに変え同じ物を書き込み、マナタイトクォーツは文字を消して形を戻して"ストレージ"に放り込む。
少し禍々しく、無駄に鍔の部分がちょっとトゲトゲしてたりする。尚、刀身は魔力光なので暗い紫色をしており、刃の部分は弄る訳にはいかないので、平らなお腹の部分をデザイン。
如何にも分裂します的なラインを入れる。ちょっと魔力消費が増えるが、誤差だ誤差。デザインは重要だろう? どうせ私が使うんだ、関係ねぇ。
そして、完成。


蛇腹剣じゃばらけん・ウロボロス アーティファクト
 ルナフェリアの作品。
 片手剣と鞭を兼ね備えた特殊な魔装具。
 魔力操作で鞭のように刀身が伸びる。扱いが難しいが、使いこなせれば便利。
 未熟者が使うと刃のない片手剣でしかない。
 禍々しいが、別に呪われているわけではない。


大層な名前が付いたなぁ? ウロボロス、かっこいいけどね。
エーレンベルク、デュランダル、ウロボロスか……。前世からしたら大層な名前だが、この世界ではどうなんだろう。『世界』は何を思ってこの名前を付けたんじゃろな。別にどうでもいいけれど。
そう言えば、魔導弓には大層な名前が付いてないな。素材か? 素材の問題か? ミスリルとかカーボンだしな、あれ。でも作り直しても使わな……セラフィーナが使うかな? ハイエルフ、弓?
まあ、この思考は保留だな。まだ6歳だし、セラフィーナ。

「はい、完成。ちなみに鞘はない。逆に言うと《魔力操作》で刃を作らないと斬れない」
「お、おお……素晴らしい……是非ともギルドロビー飾りたい……」
「……これなら飾っていいわよ」

初代魔導剣をブノワに渡す。

「え、良いのですか!?」
「それならねぇ……。正直1番見劣りする奴。使う予定も一切ない」

と言いながら魔導弓、エーレンベルク、デュランダル、ウロボロスを並べる。魔導銃は……無かったことにしようと思う。銃火器ひゃっはー! やるなら64センチ三連装砲でも作るわ。ロマン。
核弾頭ミサイルでも良いぞ。"ノヴァエクスプロージョン"を頭に付けて飛ばせば十分だろ。放射能とか無いだけマシだろう。下手な核弾頭より爆発被害ヤバいだろうけどな! ハハハハ。
セントリーガンとかも面白そうだな。

「な、なるほど……確かにこう並べるとあれですな……」
「まあでも、その魔導剣はミスリルに"ルーン"して作っただけだから、常識的と言えば常識的?」
「エーレンベルクはルミナイト。デュランダルはマナタイトクォーツ。ウロボロスはルナクォーツとルミナイト。魔導弓は……そのうち素材変えて作り直そう……」
「聞いたことがない素材ですね……」
「でしょう? うちのダンジョンで採れるわよ。かなり上の方で?」
「疑問形……?」

『創造神様ー?』
『な~に~?』
『ルミナイトやルナクォーツ、マナタイトクォーツが採れるのって何層ですか?』
『ルミナイトとルナクォーツは大体60から上で条件付き、マナタイトは90台』
『えっと……何層まであるんです?』
『今の所100層ね』
『あ、はい。ありがとうございました』
『じゃあねー』

「60から上行けば出る。行ける冒険者がいるかは……知らん……」
「え、いったい何層……」
「サンプルで拳大ずつぐらいなら分けてあげなくもないけど……いくらになるやら? ちゃんとセキュリティ考えなさい?」

武器を回収しルミナイト、ルナクォーツ、マナタイトクォーツをテーブルに置く。
サイズは拳大で、ルナクォーツだけコロコロと数粒置いておく。いや塊はあるけど、ルナクォーツは立派な宝石ですよ、宝石。拳大の宝石ゴロッと出すわけにはいかんやろ……?
ああ、いや。もうケースもこっちで用意しよう。魔導剣用と3個の素材用。

「はい、貴重品。ギルマスとサブマスの両方の許可が出ない限り取り出し不可」

2人にそれぞれに触れさせ、認識させて完成。
魔導剣は、斜めに立て掛けて置く。こいつは魔力流さないと刀身出ないタイプだから、正直地味……なので『"アナライズ"状態』、固定された物が浮かび上がっている状態で固定した。
ルミナイトは延べ棒、所謂インゴット型。ゲームなどで見るあのアイコン系。
ルナクォーツはペアシェイプカット、ティアドロップとも言われる涙型。
マナタイトクォーツはポイント、単結晶と言われる形でどんっと配置。
完全に置物である。

「これでいいでしょう? ルナクォーツは宝石、ルミナイトとマナタイトクォーツは鉱物よ。ルミナイトはミスリル以上の魔力適正だから、加工はかなりしやすい。逆にマナタイトクォーツは…………頑張って」
「むむむ……!」
「私でも多少意識するレベル。他の鉱石は片手間でできるレベル。以上、後は頑張れ」
「うむ! こうして目標が目の前にあるというのはやはり良いな!」
「ですな!」

そして生産ギルドに登録する際の条件にモリッとねじ込む。
弟子入りや紹介をギルドの方で拒否してもらい、指名依頼は面白そうなものなら受けても良いが、基本的には拒否。と言うかSSSの指名依頼がいくらになるやら。
まあ、庭に人が住み着き始めたらそんな余裕はない。代わりに、生産ギルドを置きたいなら土地と建物はこちらで用意するし、ある程度建物の要望は聞く。
更に技術提供として、"エンチャント"の魔法陣と今後必要になるだろう魔法紙の製造法。
技術提供は登録後、特許として登録する。
こんなところか。

しかし、それぞれの説明をしていないのでピンときていない。そりゃそうだ。
という事で説明をしておく。


まず、魔法紙の必要性について。
魔法の仕様が変わったことにより、確実に必要になるであろうこの魔法紙。
『魔法紙を使用し、魔法陣の受け渡しが可能』と言う事だ。更に、紙なので束ねて本にすれば魔導書として保存しておくこともできるし、それを弟子に渡しても良い。
魔法紙に移す時は"エクスポート"。魔法紙から覚える時は"インポート"がキーとなる。
魔法紙には2種類あり、作成手順が微妙に違う。
"インポート"した場合に魔法紙の魔法陣が消えるタイプ。
"インポート"しても魔法紙の魔法陣が消えないタイプ。
この2つが存在し、つまり考えようによっては販売が可能となる。
まあ、魔法紙に移すのも楽ではなく《魔力操作》が5以上必要。更に対応する魔法スキルも必要になる。攻撃系の魔法なら《攻撃魔法》、防御系なら《防御魔法》の高ランクが必要になる為、結構な難易度だ。
ちなみに《神聖魔法》は無理だった。"エクスポート"した瞬間魔法紙の方が燃え尽きた。

更に"エンチャント"について。
これは核となる宝石に魔法を封じる魔法だ。
ゲームなどでよく見る、火の弾を飛ばす指輪とか、シールドを発生させる指輪がこれに当たる。
まず宝石に"エンチャント"をかけ器とする。器とした宝石を持って魔法を使うとそれを取り込む。
この際、宝石が小さく容量が足りない場合など、宝石が砕け散る。この際ちゃんと魔法を飲み込み自壊する為、一応危険はない。強いて言うなら砕け散った宝石が地味に危ないぐらい。
この"エンチャント"された宝石は、取り込む魔法は当然術者によるし"エンチャント"の効率にも影響される。
取り込まれた魔法をそのまんま発生させる核が出来上がる。しょぼい結界を取り込ませればしょぼい結界が発動し、ルナが結界を取り込ませれば、ルナの張る結界が展開される。
良くも悪くも製作者によるのがこの魔法である。
ま、"エンチャント"を使い器を作る人間と、魔法を取り込ませる人間が同一である必要は無いが。

如何に効率の良い、圧縮率などが高い器を作るかは"エンチャント"の魔法次第。
如何に効率の良い、使い勝手が良い魔法を取り込ませるかは術者次第となる。

「魔法紙……まあ、スクロールとでも言おうかしらね。なんたらのスクロール。後、"エンチャント"については良いのを見せてあげましょう。私の馬車を見せてあげるわ。フフフフ」
「「馬車?」」

という事で、馬車はベリアドースの冒険者ギルドに置きっぱなので……持ってくるか。
とりあえず再び"ゲート"で蛇腹剣をぶん回した所へ移動する。その後再び"ゲート"を開く。

「ちょっと待っていたまえ」

"ゲート"を1人で潜り、馬などを繋ぐ部分を片手で掴み"ゲート"を潜って帰ってくる。

「これが馬車だ。ふふん……まあ、なにも言わずとりあえず入ってみると良い」

扉を開け、中に入らず見た瞬間騒ぎ出す。

「こ、ここここれは……!」
「どういうことです!?」
「オリジナルの《空間魔法》"空間拡張ディメンションエクステンション"と"エンチャント"の組み合わせよ。見ての通り馬車内部を拡張しているの。まあ、中見てきなさい」

ジェシカとエブリンがルナをガン見している。
それに気づいたルナがはて? と首をコテンとさせ……ああ! と2人が言いたい事に気づく。

「扉は1番左と右から2個以外は開けないように」
「む、ダメなのですか?」
「右から2個以外は寝室になってるのよ。1番左は私の部屋。デザインは残りも一緒よ」
「……なるほど。分かりました」

既にこの馬車で一ヶ月ちょっとは旅をしていたのである。普通に部屋と変わらないため生活感が出始めている。ルナはベッドに飛び込んでゴロゴロするだけだが、人であるジェシカとエブリンはちゃんと着替えなども用意している為、できることなら部屋(しかも寝室)への侵入は拒みたいところだろう。
ジェシカとエブリンは満足そうにしていた。

結果的にSSSとして登録するようだ。まあ、向こうからしたら基本的に損はないしな。強いて言うなら弟子入り紹介お断りが面倒なぐらいか。それを考えても恩恵の方が多いんだろう。弟子入りは断るが、教えないとも言ってないし、私。

馬車から出て、ぞろぞろとそのままロビーへと向かう。

「セザール。あれを持ってきてくれ」

と一角を差しながらブノワが言い、セザールは向かっていった。
ブノワとそのまま受付へ向かい、受付嬢がブノワとチェンジ。どうやら彼が直接登録するようだ。

「魔導部門で良いですよね?」
「ええ」
「……よし、じゃあこれにリングを」

リングをかざそうとして……やめた。

「……ちょっと待って」

確認しておかねばなるまい?


名前:ルナフェリア
種族:女神
性別:無性女性形
職業:月の女神
身分:神
称号:夜と魔を司る者
年齢:90
スキル
【武闘】
 《剣術 Lv5》《槍術 Lv5》《弓術 Lv5》《棒術 Lv5》《刺突術 Lv5》《格闘術 Lv5》《鞭術 Lv2》
【魔法】
 《生活魔法》《魔導 Lv10》《神聖魔法 Lv10》
【生産】
 《料理 Lv6》《魔導工学》
【身体】
 《魔力強化 Lv10》《魔力操作 Lv10》《身体制御 Lv10》
【その他】
 《思考加速》《並列思考》《手加減》《魔導武装》
 《並列魔法 Lv10》《空適正 Lv10》《夜適正 Lv10》《魔法適正 Lv10》
【種族】
 《月の祝福》《月の魔導》《飛行 Lv10》《呪歌》
【固有】
 《森羅の魔眼》《神力体》《多重存在》《物質創造》
【所持称号】
 一般
  [ドラゴンキラー][魔導技師][精霊神都の女帝][創造のダンジョン発見者]
 固有
  [創造神の御使い][月の女神][現人神][夜と魔を司る者][転生者]


ふむ……久々にステータス見たが、今回のでちょいちょい変わってるな……。
《魔力操作》が【身体】に行ったか。いつの間にか【生産】に《料理》が生えてたんだな。
で、魔法欄スッキリしすぎじゃねぇ?
えーっと……《攻撃魔法》《防御魔法》《補助魔法》《時空魔法》《使役魔法》がLv10で《魔導》に統合……ですか。んで、それぞれの分類が……。

《攻撃魔法》
 《無 火 水 風 土 光 闇 氷 雷》《精霊魔法》
《防御魔法》
 《結界魔法》
《補助魔法》
 《強化魔法》《妨害魔法》
《時空魔法》
 《空間魔法》《重力魔法》
《使役魔法》
 《召喚魔法》《従魔魔法》《人形魔法》

となっているようだ。
今後攻撃系魔法と分類された物は《攻撃魔法》。防いだり守ったりする物は《防御魔法》と判断され、スキルが影響する様になったのか。
そんで《回復魔法》が《神聖魔法》になっている……と。これは、人類が作った物と分ける為かな?
《時空魔法》に時魔法はないのか……。

【その他】に増えてる《手加減》は、不思議な力が発生して全力で攻撃しても死なないらしいよ? 不思議な力と言っても、世界の法則が動くだけなんだが。
まあ、死なないだけで欠損はするし、流石に首斬り飛ばして《手加減》もないだろって奴は無理らしいが。ゲームとの違いか……《手加減》過信すると普通に殺しそうだな、私。

称号が[創造のダンジョン発見者]と[精霊神都の女帝]か……。あのダンジョンは創造のダンジョンって名前なんですね。創造神様が作ったダンジョンだからだろうな。
もしかして……ああ、やっぱ名前ついてるのか。創造神殿ね……中身どう見ても屋敷だが、まあ見た目は神殿だったな。
[精霊神都の女帝]は何でだ? 精霊お引っ越しさせた時に付いたのか……?


名前:ルナフェリア
種族:精神生命体
性別:無性女性形
職業:女帝
身分:皇族
称号:精霊神都の女帝
年齢:90


これで良しと。
確認が終わったので、これで登録をしておく。

「ようこそ、生産ギルドへ! 我々は貴女を歓迎します!」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品