転生先は現人神の女神様

リアフィス

36 収穫祭 1

収穫祭当日。
暑くもなく、寒くもなく。運動するには丁度いい、そんな天気。絶好のお祭り日和。
普段から観光客の多い王都だが、普段以上の賑わいを見せ、比較的広く取られている道も人でびっしりしており、歩くのに苦労する。
歩いている人類は様々で、人間のみならず、獣人はもちろん魔人やドワーフ、更にエルフやドラゴニュートまで混じっている。

ただ、エルフが来た際、軽い騒ぎが起こった。なぜなら、エルフは生まれつき精霊が見えるからだ。
この王都、精霊の数が尋常じゃない。この付近の精霊が多い場所と言えば、王都北にある聖域の森。もしくは、エルフは全員が《精霊魔法》持ちの為、エルフの里は精霊が多い。
エルフの数だけ精霊がいると言っていいわけだが、この王都はエルフの里より遥かに精霊多い。
その騒ぎを収めるのに苦労したようだ。騎士達が。

そんなこんなで、ファーサイスは賑わいを見せている。



いつも通り庭でティータイムを楽しんでいる、ルナフェリア一行。
結界内部はいつも通りだが、結界の外がいつも通りではなかった。
祭りで人が増えた。つまり、見慣れてない人が増えた。
そして、聖域は簡単に行けるところにはなく、精霊の姿を見ること無く生涯を終える人も珍しくない。
そんな聖域が、王都の中にあるというじゃないか。というわけで、見学者が大量発生していた。

「なんとかならない?」
「聖域ですからね……」
「いったい何が楽しいのか。せめて結界叩くのやめて欲しいものだわ」

結界によりマナ濃度が一定以上保たれている為、ぽつぽつとその辺に魔晶石が転がったりしている。魔晶石は主に特異点でしか採れない為、非常に高価である。そんな物が庭にぽつぽつ転がっている。1個手に入れるだけでも当分は困らないお金になるが、結界があるため入れない。

「グノーム、魔晶石奥の方に集めといて」
「分かりました」

ルナフェリアのお願いにより、グノームがツルハシを担いでとことこ歩いて行き、ツルハシを振り回し魔晶石を弾き飛ばしていく。当然魔晶石が欠けたりはしない。
見ていた者達は、色々な意味で『ああっ!』となっていた。

「そもそも私の敷地にある物を持ってこうなんざいい度胸してるわね」
「ルナ様の事知らないんでしょうね」
「どっか行ってくれないと私が食べれないんだけど」

エブリンが食べたそうな目で呟き、テーブルの上を眺めている。
テーブルの上では大小、色様々な精霊達がフルーツポンチを頬張っていた。とても幸せそうな顔で。
敷地で収穫された果実からできた果汁をブレンドし、そこに炭酸を追加。
更に、同じく敷地で収穫された果実をその中に漬ける。美味しくない訳がない。

このフルーツポンチ、実は魔道具が複数合わさりできていた。
1つは果実を入れると、食べられる部分だけをかなり細かく刻む魔道具。
更に、二酸化炭素を抽出する魔道具。そして、果汁を絞る魔道具。
それらでできた物を受け取る魔道具は冷やす機能がついている。
つまり、精霊達だけで作れるようになっており、その為果実もかなり細かく刻まれている。

その隣に人類用の大きめにカットされたフルーツポンチがあるのだが、こちらは極普通であり、魔道具ではない。つまり、フルーツポンチ製造機は精霊達専用である。
刻まれた果実、絞られた果汁が冷やす器形の魔道具で受け止められ、そこに二酸化炭素を注入する。無駄に良くできた魔道具であった。ちなみに、夜にこっそり部屋で作られていた。
契約精霊には口止めしていたので、サプライズである。
更に、精霊達専用の小さい食器各種がルナフェリアの手により作られていた。
貰った食器類で嬉しそうに、幸せそうに頬張っている精霊達を眺めるルナフェリアの顔は、見かけは少女のはずなのに、母親のような柔和な微笑みを浮かべていた。
体が最適化されたことによって、表情もちゃんと動くようになっていたのだ。
慈愛あふれる女神の微笑みに見惚れているのが外に沢山いるが、本人は気づいていない。
気にかけてすらいない。

エブリンは食べる許可が欲しそうにブリュンヒルデを見たが、『ダメです。人目がある時は従者に徹しなさい』と一刀両断されてガックシしていた。

ちなみに、ポテトチップスも山積みで置かれていて、精霊からしたら大きいそれを抱えてぽりぽり食べてるのもいる。
そんな中、ルナフェリアは熟成肉1ブロックを取り出し、周りをカットしてフライパンで焼き目を付け、オーブンに野菜を敷いて肉を置き、1時間セットする。これで放置。
前世とは時間が約倍程違うので、2時間オーブンで焼くことになる。
朝からやっているので、既に4個完成した熟成肉ローストビーフが"ストレージ"に入っている。



「パーティーはお昼からだったわね。貴女達はどうする?」
「私は侍女としてお仕事あるのでご一緒します」
「私達はお留守番ですかね。顔知られてるのがいたら面倒ですし」
「うんうん」
「それもそうね。じゃあお昼からは好きにしていいわよ。お金はあるわね?」
「はい。私達もお給料貰っているので」
「ここに来てから貯まる一方です!」
「ああ、そうだ。新作で美味しそうなやつ、美味しかったやつ買ってきて。何個でも良いから。はいお金」
「分かりました」
「ベアテにも買ってきてあげてちょうだい。流石に外歩けないしね」
「了解です!」

これでよし。今日1日は城のパーティーで動けなそうだし。
流石に2メートル半程のベアテを敷地から出したら大騒ぎになりそうだしな……。お留守番ですね。


「私は一足先にお城へ行ってきます。会場の最終チェックもありますので」
「今から?」
「いえ、9時頃ですかね」
「じゃあまだあるわね。私は何時頃行けばいいの?」
「そうですね……基本的に12時前に会場入りしていればいいのですが……。ルナフェリア様がどの立場で参加するかによりますね」

むむむ……。そう言えば立場によって入場タイミングが違ったりする可能性もあるのか。

「皇族でしたら他の王族の皆様と一緒になりますし、Cランク冒険者や魔道具などの技術者でしたら少し早めと変わるのですが……そういえば、ルナフェリア様は国王様に呼ばれたのでいつでもいいですね」
「王様に呼ばれたから扱いが特殊なのね」
「はい。聖域に暮らしたりでかなり特殊な立場なので、前例がないんですよね……」
「そりゃそうよね。私も9時に行って、大人しくしてましょうか」
「では会場近くの一室でお待ち下さい」
「ええ」


時間になった為ブリュンヒルデと"ゲート"で移動し、城の中を歩いていると国王と宰相と鉢合わせた。当然国王は護衛として近衛を連れている。自国の城の中だろうと護衛なしで歩くことはない。

「なんだ、もう来たのか。丁度いいからちょっと来てくれ」

断る理由も特に無いし、どちらかと言うと好都合なのでブリュンヒルデと分かれて2人に付いていく。
ブリュンヒルデはこのままお城のお仕事へ。我々は執務室に移動する。

「祭りだろうが仕事はなくならないわけだ。むしろ増える」

そうボヤきつつも机に向かい、書類をチェックしている。
ルナフェリアは国王が座っているところの前に置かれている、長机の方に座る。来客用だろう。

「急にお呼び立てして申し訳ない。どうにも抑えられなくなりまして」

宰相さんから聞いた話によると、流石に貴族達を抑えられなくなったそうだ。
今回は他国の王族達がいるのもあって、その人達からも言われてしまうとどうしようもないと。

「まあ、風の精霊達がはしゃいだ結果、あの台風の規模だからねぇ。誰かに頼まれたわけでもなし、謝る必要はないのだけれど」

誰かに頼まれてやった訳でもなく、風の精霊達がはしゃいでああなったから私が防いだだけだし。

「我が国は貴女様から多大な恩恵を受けております。にも関わらず……」
「それは仕方ないでしょう。私が女神だと知っているのは極一部だし、私と関わりがあるのは大体が騎士達のみだもの。別に気にしないでいいのよ」

分かってはいるのだろうが、それでも済まなそうな顔をしている宰相さん。

「この見た目だから、侮る者が大半でしょう。私も基本神力や魔力は隠しているしね。ある程度力を持った者じゃないと分からないと思うわ。見かけ上活発とは思えないでしょうし?」
「まあ、良いとこのお嬢様とか、どこかしらの王族だろうな」
「売られた喧嘩は喜んで買うとは思わないでしょうね」

国王と総隊長の言葉である。総隊長は苦笑していた。
ええ、売られた喧嘩は買いますとも。どちらかと言うと脳筋寄りだからな!
無意味に喧嘩を売っていくタイプは大嫌いだしな。喜んで買うとも。

「ま、別に気にしないでいいわよ。こっちでさっくりあしらうし。……そのうちここを出て、国建てた時かしらね……正体明かすのは」
「ん? 国建てるのか?」
「ええ、そのうちね。この間の森辺りがどこのものでもないから、あの辺りがいいわねぇ」
「そうですか……出て行かれるのですね……」
「そのうちね。できるだけファーサイスとマーストの近くがいいのよね。交易的に考えて」
「ほう……我が国を気に入ってくれてるようで嬉しいものだな」
「ま、いつになるかは分からないけどね」
「そうか、分かった」

一応伝えておかないとね。いつになるか分からないけど。いや、ほんとまじで。
国作るのはダンジョンできてからだし。創造神様の時間間隔次第だよ、うん。
下手したら数千年後とかもあり得るからな……。

「ま、そんなことより。ブリュンヒルデに聞いて私も新作料理を用意しているの」
「ほう?」
「そんなこと……」

国王と宰相の反応の違いに突っ込むことはせず、"インベントリ"からオーブンを取り出す。
"インベントリ"は《空間魔法》の初級。"ストレージ"は中級。この違いは主に時間経過だ。
丁度オーブンで焼いていたローストビーフの出来上がり時なのである。
まあ、オーブンから取り出してすぐ熱を奪い、時間経過の無い"ストレージ"に放り込むから、どれもできたてと言えばできたてなのだが。
熟成肉の方は焼いてステーキにするだけだし、ローストビーフだけでいいかな。

オーブンを開け、肉を取り出しまな板に置く。
そのままオーブンには新しい熟成肉をセットして、"インベントリ"に放り込む。
まな板に置いたお肉から熱を奪い《風魔法》で薄くカットしていき、4皿に10枚ずつ、1皿に薄くカットしたのを皿に細かめに切る。
それにローストビーフ用の特製タレをかけて、国王と宰相と総隊長に渡す。
後は自分の分と精霊達の分だ。皿を囲むように精霊達が出てきて、フォークを持っている。

「美味い!」

真っ先に食ったのが国王というのには触れないでおこうと思う。
宰相と総隊長が何とも言えない顔をしている。

「ああ、美味しいですね」
「これは何の肉ですか?」
「シードラゴンの肉を熟成させたやつ」
「……熟成?」
「やっぱ熟成肉はないのね? 燻製は作られてたわね?」
「燻製肉は過去にこの国に来た迷い人からと言われていますね」
「熟成肉はこの世界には向かないと思うわ。保存食じゃないから。そのくせ手間がかかる」
「ああ、そうなんですか……」
「温度に湿度を一定に保ち、なおかつ常に新鮮な空気を循環させる。それを14日から35日……この世界だと7日から17日程放置するの。この温度や湿度がズレるともれなく腐る。成功するとどんどん肉が縮んで行き、その分旨味や風味が増す。で、食べる時に周りを削って残った部分を使うの」

この世界で真空包装は無理だろうから、やるとしたらこの方法だろう。
そもそもこの熟成肉は燻製肉と違って、普通個人でやるような物じゃない。

「ううーむ……」
「魔道具や魔導装置を作ったとしても、メンテナンスや魔石の交換などのコストがかかるし、魔導装置なら場所も取る。だから贅沢品でしか無いわね。熟成肉が、であってローストビーフは違うけど」

そんな事を宰相さんと軽く話していたわけだが……。

「なくなってしまった……」
「「国王様……」」

そうな、パクパク食べてたもんな。おっさん、そんな悲しい顔するな。子供か!
精霊達が、おかわりを欲しそうに、こちらを見ている。
そこにおっさんも加わった。こいつら……。
……仕方ない、今でてる奴全部食べるか。"ストレージ"内のストックはやらんがな!
全部切り分け、お酒ではなくジュースも付ける。お酒はこの後パーティーで出るだろうし……。

「で、話は終わったの?」

もぐもぐしながら国王がこっちを見て……スッと宰相に視線を向けた。
こいつ投げやがったぞ……。宰相さんもなんとも言えない顔してるわ。

「……えっとですね、ルナフェリア様は国王様と同じ、つまり王族の方々と同じところで、と思っているのですがよろしいですか?」
「何が違うの?」
「会場は同じですが、王族の方々は席を用意します。それ以外は少し離れた所で立食パーティーですね」
「ふむ。席ある方が有り難いわね。この子達は食べまくるでしょうし」

そう言って精霊達を見ると、リュミエールとウンディーネは苦笑。オスクリタとグノームはいつも通り。ヴルカンとシルヴェストルは超笑顔だった。
まあ、私達からしたら食べ物にしか興味ない訳だし、当然か。

「ではそのようにしましょう」

宰相がそう言うと、総隊長が外に待機している近衛に伝える。
話すことは話したので、後はもう始まるまでのんびりしている。

「そう言えば、私服だけどこれでいい?」
「私服と言っても、その格好だろ?」
「ええ」
「普段からドレスみたいなもんじゃないか。問題無いだろ。素材も謎素材だしな」
「素材はアラクネの従魔が精霊の力を借りて作った『聖魔糸』からできてるわ」
「……ほう、つまり他の者には入手はほぼ不可能か」
「精霊によって糸の属性も変わるのよ。全属性自家生産するのはほぼ無理でしょうね。アラクネを従魔にして、全属性の精霊と契約が必要。しかも『聖魔糸』の発生条件もよく分からないしね」
「それだけ良い物でしたら、自分に正直な方々は献上品として持ってくるのですがね」
「ええ、間違いなく持ってくるでしょうね」

自分に正直な方々=出世欲などが高い者達。ということだろうか。
残念ながら、私には無縁である。と言うか、私に欲って残ってるんですかね。
人間の三大欲求は確実にないな。
睡眠は必要ない。寝ることができなくもないが……どちらかと言えばスリープモードに近いか? 基本、夜は寝っ転がって魔眼で世界を眺めて暇つぶしをしている。
性欲はそもそも性がない。ステータスに書いてあるように、無性女性型だ。
女性っぽい形をしているだけ。胸の頂も無ければ、穴もないよ。
食欲も無い。食べてるのは完全に『趣味』と言えるだろう。
あ、知識欲とかはあるかな? 結構魔法の検証したりしてる。
いや、まあ趣味と言えば趣味なんだが。一応知識欲とも言えるだろうか。
……まあ、この辺りのことはどうでもいいか。この思考は投げ捨てよう。

「『聖魔布』は精霊達の協力が必須だからね。精霊達に気に入られないとまず無理。よって売ることはほぼ不可能。優秀すぎて値段もいくらになるやら」
「ああ、そっちの問題があるんですね……」
「ブリュンヒルデとジェシカとエブリンの服の内側に『風の聖魔布』が仕込まれてるわね」
「……属性によって何か特性でも?」
「騎士としてはやっぱそこが気になる?」
「ええ、気になりますね。ルナフェリア様のは光と風と水ですか?」
「私のは全属性よ。この布はすごい薄いから1枚では透けるのよ。だから重ね合わせて、表にくる色を調整してこの色合にしたみたい。全属性混ぜないと拗ねるのよね……」
「ああ、なるほど……」
「『風の聖魔布』には体温調整機能があるわ。つまり、ある程度の温度変化を無視できるわけね。風の精霊の力が入ってるから、周囲の空気を適温に変える。流石に火とか水中とかは無意味ね。あくまでも風の精霊の力だから。だた、爆発等による熱風とか、衝撃はかなり軽減されるはず。後は《風魔法》の強化と軽減が付いて、属性関係なしに『聖魔布』は皺防止と形状記憶があるようね」
「流石精霊様の力の一部と言うか……優秀ですね……」
「どのぐらいの効果を発揮するかは、どのぐらいの力を注いだかと、布の使用量次第というところね。魔法に対する耐性や増幅は使用した『聖魔布』の属性次第だけど、『聖魔布』は物理攻撃にも強いらしく、かなり薄いくせにかなり丈夫」
「物理もですか!」
「これは謎ね。精霊達が物理無効を持っているからかって可能性もあるし、ベアテ側の力の影響の可能性もあるし。まあ、丈夫に越したことは無いわ。表の服はボロボロになるでしょうけど、裏地の『風の聖魔布』が耐えるでしょうから、そういう分にはブリュンヒルデはかなり安全ね」
「あの人は盾になる事もあるからって、私達に頼み込んで全属性入ってますよ?」
「……まじ?」
「……うん、逆にジェシカやエブリンは誰かしらついてるから、風だけ」

リュミエールとオスクリタにより、ブリュンヒルデの裏地には全属性含まれている事が判明した。裏地だけとは言え全属性。つまり、私の服の劣化品だ。

そして、3人は聖域に住んでるだけあって、お気に入りの精霊達が密かに憑いている。ブリュンヒルデはあくまで『お客さん』だから、実体化してまで助けるような事はしないだろう。

「……国宝級の侍女服か……」

私の呟きに、国王達がぽかんとしている。
が、宰相さんが再起動した。

「こ、国宝級ですか!?」
「『聖魔布』の時点でレジェンドなのよね……。私の服の劣化品だろうし、そうなると効果が……全属性軽減、魔力増幅、皺防止、清潔、体温調整、形状記憶かしら? 下手な金属鎧より丈夫よあれ。火が服に付いても体は無事でしょうし、水も弾かれ、風も軽減。土が入って物理防御も増々。侍女服と言う名の魔装具ね。完全に防具だわ」
「な、なんと……」
「まあ、ブリュンヒルデが死ぬまでは、専用品ね。ブリュンヒルデの魔力に馴染んでるでしょうし、別のが着たら力を貸したこの子達に集られそうね」
「裏地なんて気づかんだろ。それに、元々立場によって侍女服も微妙にデザインが違うからな。同じデザインは……ディートリンデか?」
「そうですね。【武闘】のブリュンヒルデと【魔法】のディートリンデだけです」

ブリュンヒルデは、魔法に目を瞑れは非常に優秀である。
身体強化は得意なようだが、<Index>のアクセスがダメらしい。
オリジナル魔法は使えるだろうが、魔法使用に慣れてないと危険。
更に近接戦闘が得意な為、オリジナル魔法で危険を冒すよりは、身体強化に特化した方が良い。と言う判断で、近衛クラスの近接戦闘ができる侍女になった。
隊長クラスが不在の場合は兵達への命令権も持つらしい。
正直、素手の戦闘だとヘルムート隊長よりブリュンヒルデの方が技量が上である。
まあ、立場の違いだろう。ヘルムート隊長は基本的に剣を持っているが、侍女であるブリュンヒルデは剣を持つことは許されていない。
短剣は仕込んでいるようだが、基本的には素手での戦闘訓練をするようだ。
『武器が無いので戦えません。は話になりません』とか言ってた。
大変逞しい。

逆に、魔法の使用に優れ、近接戦闘が死んでるのが、ディートリンデ。
稀にブリュンヒルデ&ディートリンデを相手に模擬戦をしている。
戦うメイドさん2人は馬鹿にできない強さである。
ちょっと特殊な位置にいる2人は伊達じゃなかった。


そんなこんな話していたら、時間である。
さくっと会場の方に移動する。
まずファーサイスの他の王族達と合流。
王妃に王太子、第一王女と第二王女だ。第二王子もいるようだが、王都にいないため不在。
そして、国王と王太子以外の王族に会うのは初めてである。なぜかって?
会う理由がないからな。更に活動範囲が違うから、会うことがない。
王妃がクリスティアーネ。王太子がフェルディナンド。
第一王女がフィーネで、第二王女がクラウディア。
名前も今日初めて知った。と言うか、王妃4人も産んだのか……。
王子2人に姫が2人。その為側室がいないようだ。

王様と王妃が話を始めた頃、少し後ろで王妃からは隠れていた。
しかし、第二王女のクラウディアに見つかり、見つめてくる。第二王女が一番下で8歳のようだ。つまり、身長が同じぐらいで、私の方が少し大きい。
とりあえず、見つめ返す事にした。もちろん魔眼を使うなんて鬼畜な事はしない。

じー……。
じー……。

しばらく見つめ合った所で、ふにゃっと変顔をする。

「ぷふっ……」
「どうしたのクラウディア?」

……勝ったな。
クラウディアが笑ったところで顔を戻しておく。

「同じぐらいの娘がいるの!」
「同じぐらい?」

そう言われて王妃の位置からは隠れていた私が見つかる。

「まあまあ! 可愛らし……い?」

最後の『い』の部分では国王の方にギギギギと顔が動いていた。
話で聞いていたんだろうかね。
それに国王が苦笑しながら答える。

「ああ、そうだ。話だけはしといただろう? この方がそうだ」

するとまたギギギギとこちらに向いた。

「ご機嫌ようクリスティアーネ王妃。お邪魔しているわ」
「お初にお目にかかります、ルナフェリア様。ベルンハルトの妻、クリスティアーネと申します」

こっちから軽い挨拶をするとぴくっとして、すぐに綺麗な動作で返してきた。
流石国のトップの1人。復帰が早い。ちなみにベルンハルトは国王の事。
王妃は私のことを知っているが、王女2人は知らないようだ。

「ご無沙汰しております。ルナフェリア様」

王太子も私の事を知っているので、普通に挨拶してきた。会うのは久しぶりである。私は城に来ても基本王の所か、騎士団の方に行くからね。騎士団8割王2割。
圧倒的騎士団率。訓練じっけん大事たのしい

念のため言うが、実用性のチェックだ! 決して人体実験じゃないぞ。

それはともかく、流れで王女2人も察したのかしっかりと挨拶をしてきた。
フィーネは16歳なのでしっかりと。
クラウディアは滑舌がちょっとあれだったが、動作はしっかりしていた。
さすが王族である。

挨拶が終わったので、クラウディアの頭上でイタズラしそうな奴を止めさせる。

「シルヴェストル。止めなさい」

他の連中が頭に?を浮かべている間に、私はシルヴェストルをガン見している。
シルヴェストルがギギギとこっちを向くが……あ、こいつ!
すっとイタズラに走ったやつを空中で鷲掴みにする。

急に目の前に移動してきた―――速度的に転移や瞬間移動に見えただろう―――クラウディアがびっくりしている。他の王族や近衛もびっくりしているが。
私の手はクラウディアの顔の横の空間でシルヴェストルを掴んでいる。

「む~」

鷲掴みにされた瞬間シルヴェストルが強制的に実体化して、他の物にも見えるようになる。そのシルヴェストルは手の中でバタバタしていた。


通常精霊は人体を通過できるが、私相手ではそれは不可能である。
非実体化状態でもバッチリ鷲掴み可能。これは私の体が神力の塊だから。
つまり精霊の性質と似ているため、干渉して通過ができない。
魔力を手に込めて鷲掴みにすれば強制的に精霊は実体化される。


「やめろと言っ……」

びたんっ!

お決まりのヴルカンである。
知ってた。うん、来るのは分かってたよ……。
でもこいつ、一回すって顔ずらして避けたら、ちょっと通過したところでギギギギって顔だけ向けたんだ。めっちゃ涙目で。それから避けるという選択肢が無くなった。うん、しょうがないね。我が娘だもん。可愛いよね。これでいいんだ、うん。
精霊って空気、気配と言うものに敏感で、真面目な時は絶対にしてこないから。
と言うか、こいつら精霊達も切り替えがすごい。
普段はきゃっきゃ、のほほんしてるくせに、突然キリッとするというか、あの教会事件のようになる。ヴルカンやシルヴェストルですら別人のようになる。


まあ、当然のように鷲掴みにして離す。

「まったく……」

私は苦笑して言うが、当の精霊達2人は手の中できゃっきゃしている。
ヴルカンが私の顔に張り付いた時に王族がぎょっとしてた。
さっきから忙しそうですね。こいつらのせいですが。

「精霊様?」

クラウディアが首をこてんっと傾げながら言っている。
その目はキラキラしていた。興味津々のご様子。

「私の契約精霊。火の精霊皇女ヴルカンと、風の精霊皇女シルヴェストルよ。見ての通りやんちゃでね」
「おおー!」

いつまでも話している訳にもいかないので、移動を開始する。
その際クラウディアが私の横に来てとことこ歩いており、クラウディアはヴルカンとシルヴェストルと遊んでいた。楽しそうだしそのままにしておこう。

ちなみに、リュミエールとオスクリタは私の周りをふわふわと。
ウンディーネは私の肩に座りのんびりと。
グノームは床をとことこ歩いている。
グノームも当然飛べるけど、地の精霊だけあって基本的には地面がいいらしい。
相変わらずツルハシを持っている。気に入ったのか?
グノームだけドレスの装飾が少し控えめで、ツルハシにしたのだろう。
まあ、好きにすればいいさ……。

「精霊皇女って教えてもらってない」
「精霊王の上よ。精霊の皇族」
「すごい偉い?」

ヴルカンとシルヴェストルを抱えながらクラウディアが聞いてくる。

「精霊の中では偉いわね。自然に進化していくのは精霊王が限界。私との契約により最適化され、精霊皇女になったのよ」

無い胸を張ってふんぞり返っている2人は放っておいて……。

「精霊が世界に誕生した時より存在する最古参の精霊王。その火と風がその2人。原初の精霊。その中ではその2人は若い方よ」
「ま、待て! それは初耳だ! 偉いなんてもんじゃないぞ!」
「……という事は、残りの……精霊皇女の皆様は……」

にっこり返してあげる。

「そうよ。それぞれの属性最古参が私の契約精霊達。1番上が光のリュミエール。次が水のウンディーネ。続いて闇のオスクリタ。そして地のグノーム。後はシルヴェストル、ヴルカンね」

契約した順だ。
とは言え、誕生はほぼ同時だが、微妙にズレた結果この順だったようだ。
火、水、風、地、光、闇の6属性がそれぞれ数百体ずつが世界に誕生した。
それが、原初の精霊、6属性の精霊達。
その中の生き残りが私の契約精霊達で、既に同期はいないらしい。
と言うか、割と早々に同期はいなくなったらしい。
自分の力を制御できずに消滅してしまったとかなんとか。
創造神様が何世代かで調整した結果が今の精霊達。
だから契約精霊の6人と他精霊では結構離れている。
言ってしまえば奇跡的に制御できてしまった6人だ。
精霊に上下関係はほぼ無いが、言えば聞く程度の偉さ。

っていうのをクラウディアに教えてあげた。他の奴らも聞いてたが。
はるか昔、太古の精霊学が披露された事になる。
王女2人を除き、正体を知っているので、これが事実と認識されるだろう。
ルナフェリアも創造神様からの知識と、実際に6人から聞いた事で、これが事実と認識している。

「精霊様にお詳しいのですね……初めて聞いた内容です……」
「……まあ、私より精霊に詳しいのはいないでしょうね」

第一王女フィーネの言葉である。
きっと後で正体を教えられてあたふたすることでしょう。
と言うか、母である王妃は娘がしでかさないか内心ハラハラしている。
私とそれなりの付き合いがある、国王や宰相、騎士達はいつも通りである。
むしろ貴重な事を聞いたとしか思っていない。

そして、ぞろぞろと開場前で王族が集まる。


◇◇◇◇

フルーツポンチ製造機 アーティファクト
    ルナフェリアの作品。
    愛する精霊達の為に作られた魔道具の集合体。
    果実をカットする魔道具。
    果汁を絞る魔道具。
    二酸化炭素を抽出する魔道具。
    冷やす魔道具。

精霊の食器セット アーティファクト
    ルナフェリアの作品
    愛する精霊達の為に作られた食器の魔道具セット。
    フォーク、スプーン、コップ、平皿、茶碗などが入っている鞄。
    精霊が装備可能。

精霊の食器セットは『そういう物』として作られ、ルナフェリアが大量に作らずとも精霊が持って行ったら自動生成されるようになっている。その為、王都にいる精霊にはすぐに行き渡った模様。
ルナフェリアが作ったのは、どちらかと言うと精霊の食器セットを自動生成する『そういう物』を作ったという事。その小さい装置は敷地の一角に置かれている。
ちなみに、サイズは持ち主の精霊に合わせて自動調整されるし、手動調整も可能な高性能。

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