転生先は現人神の女神様
25 第一従魔とその能力
そして、朝がやってくる。
群がっていた精霊達に退いてもらい、起きる。
毎回ゴロゴロしている私に群がってくるのは何なんだ？ 添い寝か？
重さは無いんだけど。
「おはよう。城ではいつもこの時間？」
「おはようございます。大体この時間です」
付いて来た侍女の先生はブリュンヒルデ・ディーボルト。
王族周りも担当しているため、それなりに重要人物である。
流石に隠すのは無理になって来たため――私が好き勝手するから――重要人物を貸し出し、アピールすることにしたようだ。と言うか、既に上級貴族などは私の情報をある程度は入手しているだろうと。いや、入手してないはずがない。
この国は世界の胃袋とか言われているが、上層部は実力主義だ。
実力主義だからこそ、豊かにも関わらず攻めこまれないのだから。
貴族に無能は必要ない。当然、貴族の一部である騎士達とて例外ではない。
私自身、シードラゴン単騎討伐やファーサイス魔導城壁の作成をしているため、上位貴族はスルーするだろう。問題は、情報収集能力に貧しい者達だ。
シードラゴンも、魔導城壁も『誰が』とは公開していないため、自分達で調べる必要がある。
貴族の武器は権力となりがちだが、１番重要なのは情報だ。ただ権力のみを振るっているのはただの間抜けだろう。どの時代も、どんな世界も、情報というのは重要。情報を集められない貴族は、他の貴族に蹴落とされ勝手に潰れるだろう。
まあ、貴族の話は置いておいて。
ブリュンヒルデさんは初めて王城に行った時に案内してくれた人だ。
この人、戦えるメイドさんである。いざという時は王族の盾にならないといけないからね。ぶっちゃけ、近衛達と渡り合うぐらいには強い。
ディーボルト家は武闘派家系らしく、近衛に兄がいるらしい。
「申し訳ありませんが、一度彼女達の服を取りに、お城に戻らせていただきたく」
「ああ、じゃあゲートで繋ぐわね」
「ありがとうございます。自分で戻ってくるので、閉じてしまって構いません」
「分かったわ。今から行く？」
「はい、正門で構いません」
「"ゲート"」
「では、行って参ります」
手をフリフリ送り出し、"ゲート"を閉じる。
さて、今日は何をしようか？ 精霊達は今日も元気だ。ベアテ、起きないかなー。
ドッパァ！
突然右側からやってきたプチ津波を"リフレクション"で跳ね返す。
「……何をするの、ウンディーネ」
「ご、ごめんなさ～い」
精霊達の方に目を向けると、池の上で５人集まって何やらしている。
「契約により急激に強くなったため、少々手加減が……」
「ああ、なるほど。でもこっちに向けるのはやめてちょうだい」
「……向こう何もない」
あの子達なら数十分もすればマスターするだろう。そっとしておこう。
足元に鍬を担いだグノームが現れた。
鍬を担いでいるが、当然作業は魔法なので持っているだけである。
気分的な問題らしいよ？ 尚、服装はドレスな模様。
その辺りは拘らないのか……。
「ルナ様」
「なに？」
「サトウキビが収穫時です」
「砂糖にしようか」
グノームとサトウキビの方へ移動し、収穫をする。
ついでに塩も作っとこうかな？
さくっと海へ"ジャンプ"して海水を入れていく。
ああー、魚かー。お刺身食べたいですねぇ……。
ビンチョウマグロいないかなー。カツオのたたきもいいなぁ。
こっちじゃ魔物になってんのかな？ ……ちょっと探してみるか。
水自体は非常に綺麗だから、《月の魔眼》でもある程度は探せる。
流石にある程度、だが。まあ、潜ってもいいか。
朝ご飯はお刺身を所望する。
・・・・・・
・・・
・
いねぇ！ くそっ！ 私の朝ご飯が！
よし……潜るしか無いようだな。
・・・・・・
・・・
・
やっぱいないじゃないか！
……と言うか、冷静に考えてみるとだ。
生息場所が分からないやつを海で探すとかただの馬鹿だな？
しかもこの世界、元の世界よりでかいから海も広いし。
あー……帰るか……。周りの奴らは食べる気がしない。と言うか、私はマグロかカツオが食べたいんだ。後で情報を集めるか。港街で聞き込みか？
チラッ…………ん？ チラッ…………んん！？
種族：グロマグロ
分類：魚
動いてないと死ぬと言う何とも言えない奴。非常に素早く、獰猛。
体は美味。
名前の由来は…………。
いた！ マグロいた！ 黒マグロか！ 神様ありがとう！
あ、自分か。いや、そんなことはどうでもいい。早速ハイエースだ。
あ？ いや、何かこっち来てるぞ？ めっちゃ早いな？ は、でかいなおい！
ん？ 口を開け……開け…………おい、やめろ！ B連打だB連打！
ああ！顔が！顔が！
割りと普通に巨大化したマグロな感じだった顔があら不思議、大変身。
開いた口から触手が出てきた……と思いきやその触手達が更に分裂。
徐々に徐々に細い大量の触手へと変身？ いや、分裂していく。
今まで顔だった部分が全て触手になった。
『顔』だと思っていた部分は、全て大量の触手が集まり、そのように見せかけていたようだ。
うわぁ…………。
もう名前通りグロマグロだったわ。誰だ？ クロマグロとか思ったやつ。
体は美味。体『は』美味。つまり、あの触手部分はダメなんだな？
突っ込んでくるし、さっさと切り落として体だけ持ち帰るか。
地味に感心するのが、何気泳ぐのに《液体操作》かなんかしてるな？
身体強化された泳ぎに加え、魔法が乗るから速度がヤバい。
普通の人はどうしてるんだろうなー、とか思いつつ、すれ違いざまに切り落とす。
そのまま進んで行く体の方だけ"プレスティージオ"で捕まえ引き寄せる。
すると首がパージされるが、ガン無視して体を"ストレージ"に仕舞う。
顔部分は見なかったことにしよう。地味に構造が気になるが、気色悪いからいいや。よし、帰ろうか。
塩製造装置の前に"ジャンプ"して、海水をセット。
「あ！ どこ行ってたんですかルナフェリア様！」
「ん？ ああ、エブリン。ちょっと海の方にね」
「……海、ですか？」
「これを動かすために行ったのだけど、朝ご飯も確保してきたわ」
エブリンは動いている製造機２つをポカンと眺めている。そっとしておこう。
魚といえば捌かないとダメだな……。マグロの解体なんかしたこと無いぞ？
しかもだ、醤油無いよね。はて、どうしたものか。
「ただ今戻りました」
「……ブリュンヒルデさん、いいところに」
「侍女は呼び捨てが普通ですよ。なんでしょう？」
「ふむ。……このマグロ、捌けない？」
"ストレージ"からグロマグロの体を取り出す。
「これは……。まさか、グロマグロですか？」
「そうそう。頭部分は気色悪かったから切り捨てて来た」
「なるほど。頭部分は食べれませんし、正解ですね。捌くのでしたら解体ナイフを突き立てれば」
「……存在忘れてたわ。そう言えば便利なものがあったわね」
早速ナイフを取り出し、ズブリ。
骨、皮、身と分離される。それらをストレージに仕舞う。
骨は……ダシ？ もしくはグノームに渡して肥料行きか。
そういえば、シードラゴンの肉を熟成させてもいいな。
また魔道具が必要になるか。１キロブロックが２個入る程度でいいかね。
温度は２度、湿度は７５ぐらいを維持させようか。
１キロブロックを２個入れても、多少余裕がある入れ物を作成。
まず"クール"で温度を一定に。結界で内部湿度を一定に。
埃などは結界で弾いてしまい、"ブリーズ"でそよ風を作り、空気を常に新鮮に。
これで３５日以上放置してみようか。
熟成肉製造箱 アーティファクト
ルナフェリアの作品。
熟成肉を作るのに適した入れ物。
１キロブロックが２個入る。
早速シードラゴンの肉を２ブロック入れておく。
「なんですか？ それ」
「お肉を更に美味しくする箱。当分の間はこれで放置ね」
？？？状態だが、それは後のお楽しみだ。完成するのはだいぶ先だし。
「さて、朝ご飯と行きたいが、醤油がないのよね。どうしようかな」
「お醤油ですか？ お城に行けばあるのですが……」
「……え？ 醤油あるの？」
「あまり量はありませんが、ありますよ。昔迷い人が教えてくれた物ですね。なんでも、魚には醤油だろう！ とかなんとか」
「ほうほう。同じ世界だった可能性があるわね。前世の世界も魚と言えば醤油」
「流石にそこまでは分かりませんが、探せば記録が出てくるかもしれませんね」
「まあ、その辺りはどうでもいいわ。でも量産はできなかったの？」
「土地の問題で量産はできませんでしたが、今回広がったので増やすか？ と言う話が出てたかと？」
「ちょっと果実持って素材と現物交換して貰ってくるわ。醤油が確保できれば料理の幅が広がる！」
さくっと転移して状況を説明し、物を交換して貰おう。
「……行っちゃいました」
「……行っちゃったよ」
ルナが転移していなくなった場所を眺めながら２人が呟く。
「あの方はいつもあんな感じだから、慣れなさい」
お城勤め、かつ王族も担当しているブリュンヒルデはそれなりに付き合いが長い。
その為、そこそこルナについては知っている。
「改めて観察して思いますが、やはりあの方は難易度が高いですね……」
侍女は主人の微かな表情や動作、更に長年の経験から行動を予測し、常に１歩先の行動を補助するのが仕事である。ベテラン侍女の場合は、これまでの経験に加え、《奉仕学》スキルもあり、対象の求めている事がほぼ確実に分かる。
しかし、ルナフェリアの場合、表情がほぼ動かず、座ってじっとしている時などは、言葉通り人形のようにピクリとも動かない。
つまり、長年の勘や、《奉仕学》の効きがいまいちである。
更に『転生者』と言うのも問題だ。世界が変われば前世の常識なんて役に立たない。だが、無意識に前世の記憶を元にしてしまうだろう。
そうなるともう、長年の経験からの部分も頼れるか怪しくなる。
「難敵ですねぇ……。下手したら王族の方々より難しいかもしれません」
ブリュンヒルデはディーボルト侯爵家の４女として生まれ、幼い時から侍女の道に生き、今や王族の対応もするベテランである。
そのブリュンヒルデが出した結論は『永くお仕えしてこの方を理解するしか無い』
「２人には侍女としての基本のみを教えましょう。コツなんかは逆に邪魔になりそうですね」
侍女見習いの２人を改めて観察する。
多少変える所があるが、大きな問題は無さそうだ。
聖女としての立ち振舞、エブリンは元々貴族の令嬢。
そのまま使える所は使い、侍女として使えない部分を変える必要がある。
武闘の家系であるディーボルト家、その血はしっかりと流れている。
対象の動きを見るのは非常に得意で、侍女としてその力を活かしている。
この仕事に関しては手は抜きません。それはもうみっちりと仕込みます。
おっと……。
「お帰りなさいませ。確保できましたか？」
「ええ。ただ、たしかに少ないわね」
醤油はブリュンヒルデの言うようにそんなになかった。
まあ、朝ご飯食べる分には足りるから、あるだけいいとしよう。
今日の朝ご飯はマグロの刺身と炙りよー。贅沢な奴め。
・・・・・・
・・・
・
飯テロキャンセル。
ごちそうさまでした。
昼はシードラゴンの肉でハンバーガーでも作ろう。
朝ご飯を食べた後は、早速指導される２人を横目にのんびり寛ぐ。
冒険者活動といきたかったのだが、不死者の森と化しているところで一悶着ありそうだからな。しばらく待機するかね……。冒険者活動をする、とはいったい……。
……精霊達と池で遊んでよう。
・・・・・・
・・・
・
さて、そろそろお昼でも……む？
この感じは……ベアテか？ ああ、精霊達が群がってる。そうっぽいな。
さあ、従魔はどうなっていることやら。
お、ベアテの卵が光りだした。だが、これは……。
「すぐに離れなさい。すぐに！」
卵に群がっていた妖精や精霊が離れていく。
マナを操り、卵の周囲へと密集させる。
それと同時に卵が目に見えてマナを吸い込み始め、輝きが強くなっていく。
精霊達が吸い込まれないように周囲のマナをかき集め、卵に引っ張られてる力の弱い妖精を引き寄せる。
妖精や精霊の体はマナの塊だ。こういったものにはとことん弱い。
力の弱い妖精の場合、下手したら維持できず消滅する可能性もある。
吸引力はそれほど強くはない。生まれたての妖精でも無い限りは大丈夫だろうが、ここには生まれたても結構いるんだ。
最適化の最終段階だろう。魔物もマナを好むようだし、周囲のマナを求めたか。
精霊達や魔物の成長には必須だろうからな……。
これは、ここに置いた私が悪いな。まあ、やっちまったもんはしょうがない。
終わるまで周囲のマナをかき集め、妖精が吸われないように見ているとしよう。
と思ったが……光が収まると同時に卵が消え、ベアテが出てきた。
「おはよう、ベアテ。ちょっと縮んだかしら？」
「おはようございます。……確かに……ちょっと縮みましたか？」
それでも３メートル強から２メートル中盤？、と言うところか。
まあ、でかい事には変わりないわな。
名前：ベアテ
種族：リーサルアサシンアラクネ
性別：女性
身分：皇帝種
称号：忠実なる従魔
年齢：74
スキル
【武闘】
《暗器術 Lv10》 《鞭術 Lv9》
【魔法】
《水魔法 Lv8》 《土魔法 Lv7》 《闇魔法 Lv6》 《妨害魔法 Lv10》
《生活魔法》
【生産】
《裁縫 Lv6》
【身体】
《体力強化 Lv10》 《魔力強化 Lv10》 《身体制御 Lv10》
《痛覚耐性》 《状態異常無効 毒・麻痺》
【その他】
《跳躍 Lv9》
【種族】
《隠密 Lv10》 《万能感知 Lv10》
【固有】
《死毒攻撃》 《魔力糸》 《聖魔糸》
【所持称号】
一般
固有
[至高を知る者] [忠実なる従魔]
契約によりスキルレベルが２ずつ上がったようだ。うん、強いな。
せっかくだから話を聞いておこう。まず、種族。
暗殺蜘蛛から、暗殺毒蜘蛛。
その後魔王種となり、暗殺猛毒蜘蛛。
そして皇帝種となった今が、暗殺死毒蜘蛛か。
【固有】が《毒攻撃》《猛毒攻撃》《死毒攻撃》と上がっていったようだ。
平民、騎士とアサシンスパイダーのままだったが、将軍からアラクネになったようだ。
毒を持ったのも将軍からと。
《暗器》は爪などで、《鞭術》は糸で攻撃する時に補正が入るようだ。
普段は《隠密》と《万能感知》と《妨害魔法》を駆使し、狩ってたようだな。
新しく増えたスキルは《聖魔糸》か。
どうも、精霊と自分の力を組み合わせた糸が作れるようだ。精霊の協力が必須のようだが……卵の時に精霊達が群がってたからか？ それで適正得ちゃったかね。
とりあえず……。
「リュミエール。ベアテに力を貸して《聖魔糸》使ってみてくれる？」
「分かりました」
ベアテがリュミエールを蜘蛛のお尻に乗せ、スキルを使う。
すると、半透明の白い糸が出てきた。
次はオスクリタにやってもらったが、半透明の黒い糸が出てきた。
どうも色は精霊の影響を受けるようだ。
火は赤、水は青、風は緑、土は黄、光は白、闇は黒。
《聖魔糸》と言うだけあって、精霊の力と魔物の力の配分を変えると微妙に色合いが変わるようだ。
精霊の力を多くすると明るい色になり、魔物の力を多くすると暗くなるみたいだ。
そしてもう１つ、この『聖魔糸』を使用し、《裁縫》で生地を作った。
《聖魔糸》スキルで作られた『聖魔糸』、から作られた布だから『聖魔布』だな。
これがもう、不思議物質としか言いようがない。
火精霊の力から作られた赤い『聖魔布』は、普通に『火の聖魔布』としておこう。
この『火の聖魔布』だが、薄く平べったい火を見ているような感じだ。
『水の聖魔布』も同じく、川の流れている表面だけを切り取ったような状態と、動きがあるように見える布が完成した。
『精霊の力の一部を切り取った』と言っていいかもしれないな。
『火の聖魔布』で作った服なら常に暖かい。
『水の聖魔布』で作ったなら常にひんやり。
『風の精霊布』で作ったなら常に適温。
土、光、闇はちゃんと確かめないと効果は分からないな。
恐らくだが、一致する属性布を使っていれば、魔法も強化されるんじゃないかな？
まあ、最強の布であることには間違いないだろう。
最大の問題は、派手すぎる事。
確実に目立つ。そりゃもう目立つ。
いくら強いからと言って、現実でビキニアーマーを装備するか？ と言えば分かるだろうか？
いくら最強の布だろうが、透け透けの服を着るのはちょっと……。
「あ、数枚重ねれば透けませんよ？」
「なるほど！ それなら問題ないね！ 作ろう！」
ジェシカが重ねれば透けない事を発見した。
「エブリン、問題大ありでしょう？ どう考えても目立つ」
「……その容姿の時点で目立つんですから、いいじゃないですか！」
……おっとー？ 言い返せないぞ？
「そこで黙らないで下さい、ルナフェリア様。流石に悪目立ちします。服装は重要ですよ？」
「まあ、そうね」
「とは言え、身分ある方はそれに相応しい格好を。と言うことで、この布を使うこと自体は賛成です。使うのは、そうですね……白、青、緑……でしょうか？ 半透明ですし、この辺りを使えば…………」
ブリュンヒルデが精霊達にめっちゃ見つめられている。
主に、今出なかった赤、黄、黒の３人に。これが、無言の圧力か……。
「……黒と赤の組み合わせもいいですね」
そして青、緑、黄、白に見つめられるブリュンヒルデであった。
「（このプレッシャーはヤバいですね。いやしかし、赤、青、緑、黄、白、黒を全部使って服を作るって無理でしょう？ 無理ですよね？ どう考えてもバランスが……どう考えても悪趣味な服に……）」
が、頑張れブリュンヒルデ！
「（……無理だと思われる事をこなしてこその侍女？ 今、試されてますか？ 一旦落ち着きましょう……）」
お、おい！ そっちの方向に頑張るな！
「（この『聖魔布』は１枚では透け透けで、服としては使えない。そこで数枚重ねて透けないようにする必要があるわけですが……。あ、違う色を重ねれば違う色合いになりますね！ これは素晴らしい。これを上手く利用すれば全色使えそうですね……）」
ぶ、ブリュンヒルデー！
「えっと、ベアテ様？ 全色それぞれ、それなりの大きさを作れますか？」
「うん、可能」
「でしたらお願いします。多少時間掛かりそうですが、重ね方次第で全色使えそうです」
「だって、皆」
「「わーい！」」
わー、ヴルカンとシルヴェストルが嬉しそう。他の奴らも声は出さないが嬉しそうだし。これはもうダメだな。もう、好きにしてくれ。
「ルナフェリア様？ ドレスをお作りいたしますが、何かご希望はありますか？」
「地味なやつ」
「……どう足掻いても無理です」
「……動きやすいやつ」
「ふむ……」
さて、私の服はどうなるのか。
「背中開けよう！ 翼用！」
「胸も大きいからちゃんとアピールしないとね！」
誰にだ、誰に。
……私の服はいったいどうなってしまうのか。
「下半身もあれだね！ ２個ともあれだったし！」
「なるほど！ ならあれでもっと豪華にしよう！ 端っこの方はあえて１枚とかで透けさせてさ！」
……仲いいなぁ！ ヴルカンとエブリン！ いつの間にそんなになったんだ！
「もういっそのことさ、こことここをこうして……」
「おお……！」
「……ベアテ、エブリンにも同じの作ってあげなさい」
「ちょっ！ そ、それは……！」
ジトー…………。
「……ごめんなさい。すみませんでした」
見事な土下座である。
「エブリン？ 侍女になったのですから、自重しなさい。自分の仕える主様の服装です。命懸けなさい」
そして、ブリュンヒルデにも怒られるエブリンであった。
……命懸けるのは……どうだろ。
群がっていた精霊達に退いてもらい、起きる。
毎回ゴロゴロしている私に群がってくるのは何なんだ？ 添い寝か？
重さは無いんだけど。
「おはよう。城ではいつもこの時間？」
「おはようございます。大体この時間です」
付いて来た侍女の先生はブリュンヒルデ・ディーボルト。
王族周りも担当しているため、それなりに重要人物である。
流石に隠すのは無理になって来たため――私が好き勝手するから――重要人物を貸し出し、アピールすることにしたようだ。と言うか、既に上級貴族などは私の情報をある程度は入手しているだろうと。いや、入手してないはずがない。
この国は世界の胃袋とか言われているが、上層部は実力主義だ。
実力主義だからこそ、豊かにも関わらず攻めこまれないのだから。
貴族に無能は必要ない。当然、貴族の一部である騎士達とて例外ではない。
私自身、シードラゴン単騎討伐やファーサイス魔導城壁の作成をしているため、上位貴族はスルーするだろう。問題は、情報収集能力に貧しい者達だ。
シードラゴンも、魔導城壁も『誰が』とは公開していないため、自分達で調べる必要がある。
貴族の武器は権力となりがちだが、１番重要なのは情報だ。ただ権力のみを振るっているのはただの間抜けだろう。どの時代も、どんな世界も、情報というのは重要。情報を集められない貴族は、他の貴族に蹴落とされ勝手に潰れるだろう。
まあ、貴族の話は置いておいて。
ブリュンヒルデさんは初めて王城に行った時に案内してくれた人だ。
この人、戦えるメイドさんである。いざという時は王族の盾にならないといけないからね。ぶっちゃけ、近衛達と渡り合うぐらいには強い。
ディーボルト家は武闘派家系らしく、近衛に兄がいるらしい。
「申し訳ありませんが、一度彼女達の服を取りに、お城に戻らせていただきたく」
「ああ、じゃあゲートで繋ぐわね」
「ありがとうございます。自分で戻ってくるので、閉じてしまって構いません」
「分かったわ。今から行く？」
「はい、正門で構いません」
「"ゲート"」
「では、行って参ります」
手をフリフリ送り出し、"ゲート"を閉じる。
さて、今日は何をしようか？ 精霊達は今日も元気だ。ベアテ、起きないかなー。
ドッパァ！
突然右側からやってきたプチ津波を"リフレクション"で跳ね返す。
「……何をするの、ウンディーネ」
「ご、ごめんなさ～い」
精霊達の方に目を向けると、池の上で５人集まって何やらしている。
「契約により急激に強くなったため、少々手加減が……」
「ああ、なるほど。でもこっちに向けるのはやめてちょうだい」
「……向こう何もない」
あの子達なら数十分もすればマスターするだろう。そっとしておこう。
足元に鍬を担いだグノームが現れた。
鍬を担いでいるが、当然作業は魔法なので持っているだけである。
気分的な問題らしいよ？ 尚、服装はドレスな模様。
その辺りは拘らないのか……。
「ルナ様」
「なに？」
「サトウキビが収穫時です」
「砂糖にしようか」
グノームとサトウキビの方へ移動し、収穫をする。
ついでに塩も作っとこうかな？
さくっと海へ"ジャンプ"して海水を入れていく。
ああー、魚かー。お刺身食べたいですねぇ……。
ビンチョウマグロいないかなー。カツオのたたきもいいなぁ。
こっちじゃ魔物になってんのかな？ ……ちょっと探してみるか。
水自体は非常に綺麗だから、《月の魔眼》でもある程度は探せる。
流石にある程度、だが。まあ、潜ってもいいか。
朝ご飯はお刺身を所望する。
・・・・・・
・・・
・
いねぇ！ くそっ！ 私の朝ご飯が！
よし……潜るしか無いようだな。
・・・・・・
・・・
・
やっぱいないじゃないか！
……と言うか、冷静に考えてみるとだ。
生息場所が分からないやつを海で探すとかただの馬鹿だな？
しかもこの世界、元の世界よりでかいから海も広いし。
あー……帰るか……。周りの奴らは食べる気がしない。と言うか、私はマグロかカツオが食べたいんだ。後で情報を集めるか。港街で聞き込みか？
チラッ…………ん？ チラッ…………んん！？
種族：グロマグロ
分類：魚
動いてないと死ぬと言う何とも言えない奴。非常に素早く、獰猛。
体は美味。
名前の由来は…………。
いた！ マグロいた！ 黒マグロか！ 神様ありがとう！
あ、自分か。いや、そんなことはどうでもいい。早速ハイエースだ。
あ？ いや、何かこっち来てるぞ？ めっちゃ早いな？ は、でかいなおい！
ん？ 口を開け……開け…………おい、やめろ！ B連打だB連打！
ああ！顔が！顔が！
割りと普通に巨大化したマグロな感じだった顔があら不思議、大変身。
開いた口から触手が出てきた……と思いきやその触手達が更に分裂。
徐々に徐々に細い大量の触手へと変身？ いや、分裂していく。
今まで顔だった部分が全て触手になった。
『顔』だと思っていた部分は、全て大量の触手が集まり、そのように見せかけていたようだ。
うわぁ…………。
もう名前通りグロマグロだったわ。誰だ？ クロマグロとか思ったやつ。
体は美味。体『は』美味。つまり、あの触手部分はダメなんだな？
突っ込んでくるし、さっさと切り落として体だけ持ち帰るか。
地味に感心するのが、何気泳ぐのに《液体操作》かなんかしてるな？
身体強化された泳ぎに加え、魔法が乗るから速度がヤバい。
普通の人はどうしてるんだろうなー、とか思いつつ、すれ違いざまに切り落とす。
そのまま進んで行く体の方だけ"プレスティージオ"で捕まえ引き寄せる。
すると首がパージされるが、ガン無視して体を"ストレージ"に仕舞う。
顔部分は見なかったことにしよう。地味に構造が気になるが、気色悪いからいいや。よし、帰ろうか。
塩製造装置の前に"ジャンプ"して、海水をセット。
「あ！ どこ行ってたんですかルナフェリア様！」
「ん？ ああ、エブリン。ちょっと海の方にね」
「……海、ですか？」
「これを動かすために行ったのだけど、朝ご飯も確保してきたわ」
エブリンは動いている製造機２つをポカンと眺めている。そっとしておこう。
魚といえば捌かないとダメだな……。マグロの解体なんかしたこと無いぞ？
しかもだ、醤油無いよね。はて、どうしたものか。
「ただ今戻りました」
「……ブリュンヒルデさん、いいところに」
「侍女は呼び捨てが普通ですよ。なんでしょう？」
「ふむ。……このマグロ、捌けない？」
"ストレージ"からグロマグロの体を取り出す。
「これは……。まさか、グロマグロですか？」
「そうそう。頭部分は気色悪かったから切り捨てて来た」
「なるほど。頭部分は食べれませんし、正解ですね。捌くのでしたら解体ナイフを突き立てれば」
「……存在忘れてたわ。そう言えば便利なものがあったわね」
早速ナイフを取り出し、ズブリ。
骨、皮、身と分離される。それらをストレージに仕舞う。
骨は……ダシ？ もしくはグノームに渡して肥料行きか。
そういえば、シードラゴンの肉を熟成させてもいいな。
また魔道具が必要になるか。１キロブロックが２個入る程度でいいかね。
温度は２度、湿度は７５ぐらいを維持させようか。
１キロブロックを２個入れても、多少余裕がある入れ物を作成。
まず"クール"で温度を一定に。結界で内部湿度を一定に。
埃などは結界で弾いてしまい、"ブリーズ"でそよ風を作り、空気を常に新鮮に。
これで３５日以上放置してみようか。
熟成肉製造箱 アーティファクト
ルナフェリアの作品。
熟成肉を作るのに適した入れ物。
１キロブロックが２個入る。
早速シードラゴンの肉を２ブロック入れておく。
「なんですか？ それ」
「お肉を更に美味しくする箱。当分の間はこれで放置ね」
？？？状態だが、それは後のお楽しみだ。完成するのはだいぶ先だし。
「さて、朝ご飯と行きたいが、醤油がないのよね。どうしようかな」
「お醤油ですか？ お城に行けばあるのですが……」
「……え？ 醤油あるの？」
「あまり量はありませんが、ありますよ。昔迷い人が教えてくれた物ですね。なんでも、魚には醤油だろう！ とかなんとか」
「ほうほう。同じ世界だった可能性があるわね。前世の世界も魚と言えば醤油」
「流石にそこまでは分かりませんが、探せば記録が出てくるかもしれませんね」
「まあ、その辺りはどうでもいいわ。でも量産はできなかったの？」
「土地の問題で量産はできませんでしたが、今回広がったので増やすか？ と言う話が出てたかと？」
「ちょっと果実持って素材と現物交換して貰ってくるわ。醤油が確保できれば料理の幅が広がる！」
さくっと転移して状況を説明し、物を交換して貰おう。
「……行っちゃいました」
「……行っちゃったよ」
ルナが転移していなくなった場所を眺めながら２人が呟く。
「あの方はいつもあんな感じだから、慣れなさい」
お城勤め、かつ王族も担当しているブリュンヒルデはそれなりに付き合いが長い。
その為、そこそこルナについては知っている。
「改めて観察して思いますが、やはりあの方は難易度が高いですね……」
侍女は主人の微かな表情や動作、更に長年の経験から行動を予測し、常に１歩先の行動を補助するのが仕事である。ベテラン侍女の場合は、これまでの経験に加え、《奉仕学》スキルもあり、対象の求めている事がほぼ確実に分かる。
しかし、ルナフェリアの場合、表情がほぼ動かず、座ってじっとしている時などは、言葉通り人形のようにピクリとも動かない。
つまり、長年の勘や、《奉仕学》の効きがいまいちである。
更に『転生者』と言うのも問題だ。世界が変われば前世の常識なんて役に立たない。だが、無意識に前世の記憶を元にしてしまうだろう。
そうなるともう、長年の経験からの部分も頼れるか怪しくなる。
「難敵ですねぇ……。下手したら王族の方々より難しいかもしれません」
ブリュンヒルデはディーボルト侯爵家の４女として生まれ、幼い時から侍女の道に生き、今や王族の対応もするベテランである。
そのブリュンヒルデが出した結論は『永くお仕えしてこの方を理解するしか無い』
「２人には侍女としての基本のみを教えましょう。コツなんかは逆に邪魔になりそうですね」
侍女見習いの２人を改めて観察する。
多少変える所があるが、大きな問題は無さそうだ。
聖女としての立ち振舞、エブリンは元々貴族の令嬢。
そのまま使える所は使い、侍女として使えない部分を変える必要がある。
武闘の家系であるディーボルト家、その血はしっかりと流れている。
対象の動きを見るのは非常に得意で、侍女としてその力を活かしている。
この仕事に関しては手は抜きません。それはもうみっちりと仕込みます。
おっと……。
「お帰りなさいませ。確保できましたか？」
「ええ。ただ、たしかに少ないわね」
醤油はブリュンヒルデの言うようにそんなになかった。
まあ、朝ご飯食べる分には足りるから、あるだけいいとしよう。
今日の朝ご飯はマグロの刺身と炙りよー。贅沢な奴め。
・・・・・・
・・・
・
飯テロキャンセル。
ごちそうさまでした。
昼はシードラゴンの肉でハンバーガーでも作ろう。
朝ご飯を食べた後は、早速指導される２人を横目にのんびり寛ぐ。
冒険者活動といきたかったのだが、不死者の森と化しているところで一悶着ありそうだからな。しばらく待機するかね……。冒険者活動をする、とはいったい……。
……精霊達と池で遊んでよう。
・・・・・・
・・・
・
さて、そろそろお昼でも……む？
この感じは……ベアテか？ ああ、精霊達が群がってる。そうっぽいな。
さあ、従魔はどうなっていることやら。
お、ベアテの卵が光りだした。だが、これは……。
「すぐに離れなさい。すぐに！」
卵に群がっていた妖精や精霊が離れていく。
マナを操り、卵の周囲へと密集させる。
それと同時に卵が目に見えてマナを吸い込み始め、輝きが強くなっていく。
精霊達が吸い込まれないように周囲のマナをかき集め、卵に引っ張られてる力の弱い妖精を引き寄せる。
妖精や精霊の体はマナの塊だ。こういったものにはとことん弱い。
力の弱い妖精の場合、下手したら維持できず消滅する可能性もある。
吸引力はそれほど強くはない。生まれたての妖精でも無い限りは大丈夫だろうが、ここには生まれたても結構いるんだ。
最適化の最終段階だろう。魔物もマナを好むようだし、周囲のマナを求めたか。
精霊達や魔物の成長には必須だろうからな……。
これは、ここに置いた私が悪いな。まあ、やっちまったもんはしょうがない。
終わるまで周囲のマナをかき集め、妖精が吸われないように見ているとしよう。
と思ったが……光が収まると同時に卵が消え、ベアテが出てきた。
「おはよう、ベアテ。ちょっと縮んだかしら？」
「おはようございます。……確かに……ちょっと縮みましたか？」
それでも３メートル強から２メートル中盤？、と言うところか。
まあ、でかい事には変わりないわな。
名前：ベアテ
種族：リーサルアサシンアラクネ
性別：女性
身分：皇帝種
称号：忠実なる従魔
年齢：74
スキル
【武闘】
《暗器術 Lv10》 《鞭術 Lv9》
【魔法】
《水魔法 Lv8》 《土魔法 Lv7》 《闇魔法 Lv6》 《妨害魔法 Lv10》
《生活魔法》
【生産】
《裁縫 Lv6》
【身体】
《体力強化 Lv10》 《魔力強化 Lv10》 《身体制御 Lv10》
《痛覚耐性》 《状態異常無効 毒・麻痺》
【その他】
《跳躍 Lv9》
【種族】
《隠密 Lv10》 《万能感知 Lv10》
【固有】
《死毒攻撃》 《魔力糸》 《聖魔糸》
【所持称号】
一般
固有
[至高を知る者] [忠実なる従魔]
契約によりスキルレベルが２ずつ上がったようだ。うん、強いな。
せっかくだから話を聞いておこう。まず、種族。
暗殺蜘蛛から、暗殺毒蜘蛛。
その後魔王種となり、暗殺猛毒蜘蛛。
そして皇帝種となった今が、暗殺死毒蜘蛛か。
【固有】が《毒攻撃》《猛毒攻撃》《死毒攻撃》と上がっていったようだ。
平民、騎士とアサシンスパイダーのままだったが、将軍からアラクネになったようだ。
毒を持ったのも将軍からと。
《暗器》は爪などで、《鞭術》は糸で攻撃する時に補正が入るようだ。
普段は《隠密》と《万能感知》と《妨害魔法》を駆使し、狩ってたようだな。
新しく増えたスキルは《聖魔糸》か。
どうも、精霊と自分の力を組み合わせた糸が作れるようだ。精霊の協力が必須のようだが……卵の時に精霊達が群がってたからか？ それで適正得ちゃったかね。
とりあえず……。
「リュミエール。ベアテに力を貸して《聖魔糸》使ってみてくれる？」
「分かりました」
ベアテがリュミエールを蜘蛛のお尻に乗せ、スキルを使う。
すると、半透明の白い糸が出てきた。
次はオスクリタにやってもらったが、半透明の黒い糸が出てきた。
どうも色は精霊の影響を受けるようだ。
火は赤、水は青、風は緑、土は黄、光は白、闇は黒。
《聖魔糸》と言うだけあって、精霊の力と魔物の力の配分を変えると微妙に色合いが変わるようだ。
精霊の力を多くすると明るい色になり、魔物の力を多くすると暗くなるみたいだ。
そしてもう１つ、この『聖魔糸』を使用し、《裁縫》で生地を作った。
《聖魔糸》スキルで作られた『聖魔糸』、から作られた布だから『聖魔布』だな。
これがもう、不思議物質としか言いようがない。
火精霊の力から作られた赤い『聖魔布』は、普通に『火の聖魔布』としておこう。
この『火の聖魔布』だが、薄く平べったい火を見ているような感じだ。
『水の聖魔布』も同じく、川の流れている表面だけを切り取ったような状態と、動きがあるように見える布が完成した。
『精霊の力の一部を切り取った』と言っていいかもしれないな。
『火の聖魔布』で作った服なら常に暖かい。
『水の聖魔布』で作ったなら常にひんやり。
『風の精霊布』で作ったなら常に適温。
土、光、闇はちゃんと確かめないと効果は分からないな。
恐らくだが、一致する属性布を使っていれば、魔法も強化されるんじゃないかな？
まあ、最強の布であることには間違いないだろう。
最大の問題は、派手すぎる事。
確実に目立つ。そりゃもう目立つ。
いくら強いからと言って、現実でビキニアーマーを装備するか？ と言えば分かるだろうか？
いくら最強の布だろうが、透け透けの服を着るのはちょっと……。
「あ、数枚重ねれば透けませんよ？」
「なるほど！ それなら問題ないね！ 作ろう！」
ジェシカが重ねれば透けない事を発見した。
「エブリン、問題大ありでしょう？ どう考えても目立つ」
「……その容姿の時点で目立つんですから、いいじゃないですか！」
……おっとー？ 言い返せないぞ？
「そこで黙らないで下さい、ルナフェリア様。流石に悪目立ちします。服装は重要ですよ？」
「まあ、そうね」
「とは言え、身分ある方はそれに相応しい格好を。と言うことで、この布を使うこと自体は賛成です。使うのは、そうですね……白、青、緑……でしょうか？ 半透明ですし、この辺りを使えば…………」
ブリュンヒルデが精霊達にめっちゃ見つめられている。
主に、今出なかった赤、黄、黒の３人に。これが、無言の圧力か……。
「……黒と赤の組み合わせもいいですね」
そして青、緑、黄、白に見つめられるブリュンヒルデであった。
「（このプレッシャーはヤバいですね。いやしかし、赤、青、緑、黄、白、黒を全部使って服を作るって無理でしょう？ 無理ですよね？ どう考えてもバランスが……どう考えても悪趣味な服に……）」
が、頑張れブリュンヒルデ！
「（……無理だと思われる事をこなしてこその侍女？ 今、試されてますか？ 一旦落ち着きましょう……）」
お、おい！ そっちの方向に頑張るな！
「（この『聖魔布』は１枚では透け透けで、服としては使えない。そこで数枚重ねて透けないようにする必要があるわけですが……。あ、違う色を重ねれば違う色合いになりますね！ これは素晴らしい。これを上手く利用すれば全色使えそうですね……）」
ぶ、ブリュンヒルデー！
「えっと、ベアテ様？ 全色それぞれ、それなりの大きさを作れますか？」
「うん、可能」
「でしたらお願いします。多少時間掛かりそうですが、重ね方次第で全色使えそうです」
「だって、皆」
「「わーい！」」
わー、ヴルカンとシルヴェストルが嬉しそう。他の奴らも声は出さないが嬉しそうだし。これはもうダメだな。もう、好きにしてくれ。
「ルナフェリア様？ ドレスをお作りいたしますが、何かご希望はありますか？」
「地味なやつ」
「……どう足掻いても無理です」
「……動きやすいやつ」
「ふむ……」
さて、私の服はどうなるのか。
「背中開けよう！ 翼用！」
「胸も大きいからちゃんとアピールしないとね！」
誰にだ、誰に。
……私の服はいったいどうなってしまうのか。
「下半身もあれだね！ ２個ともあれだったし！」
「なるほど！ ならあれでもっと豪華にしよう！ 端っこの方はあえて１枚とかで透けさせてさ！」
……仲いいなぁ！ ヴルカンとエブリン！ いつの間にそんなになったんだ！
「もういっそのことさ、こことここをこうして……」
「おお……！」
「……ベアテ、エブリンにも同じの作ってあげなさい」
「ちょっ！ そ、それは……！」
ジトー…………。
「……ごめんなさい。すみませんでした」
見事な土下座である。
「エブリン？ 侍女になったのですから、自重しなさい。自分の仕える主様の服装です。命懸けなさい」
そして、ブリュンヒルデにも怒られるエブリンであった。
……命懸けるのは……どうだろ。
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