転生先は現人神の女神様

リアフィス

22 不死者の森

そしていつも通り、テアさんが呼びに行った。
ふむ、治安部隊の人か。

「おや、ルナフェリア様。おはようございます」
「ええ、おはよう」
「で、この人はなんです?」

と、床で寝ている男を見ている。

「私を見て発情した欲望に忠実な犯罪者予備軍よ」
「……なるほど。生きてるんですか?」
「生きてるわよ。気絶させただけ」
「……ふむ。今のうちにとどめ刺しましょうか」

めっちゃストレートだし、にっこりしてるけど目が笑ってないな。

「扱いに関しては任せるけど殺すのはやめなさい?」

一応止めておく。一応。騎士はしぶしぶながらも従っている。

「待たせたな」

相変わらずな強面のギルマスがやってきた。ほいほい変わられても困るが。

「いえ、わざわざ申し訳ありません」
「なに、構わんさ。で、なんだ?」
「森の方はどうなりました?」
「ああ、あれな……」

どうやら東にある森の調査依頼の話みたいだ。進捗どうですかって事だな。
答えとしては進捗ダメです。らしいが。

「昨日の朝早くに出て行ったが、まだ戻ってないんだよなぁ」
「そうですか。実は東門にスケルトンが6匹程現れまして、我々で排除済みです」
「東門にか!」
「ええ。正確には東門の城壁上から見える所に、ですが」
「うーむ……」
「東門の我々の考えでは、白依頼のあれではないか? と」
「……だろうなぁ。俺もそう思う。あれどのぐらい前だったか」
「あれはー……」
「大体1年ちょっと前よ。さっき見たわ」
「……そうか。どうすっかなぁ」
「我が国の教会は精霊信仰ですからね……」


どうもこの世界は『神』と『精霊』の信仰で分かれているようだ。
このファーサイスは、どちらかと言えば精霊の信仰。農国だからね。
精霊達の加護を果実として受け取っているからよく分かる。
そして、対アンデッドのセントクルセイダーズは神様側であると。
神様側は人間至上主義であり、ファーサイスは普通に人間以外もいるため、アクウェス法国との仲は微妙。『神』の信仰も『精霊』の信仰も元は法国だ。

ここで問題になるのが、対アンデッドで頼りになると思われる教会が、少なくとも今回は何の役にも立たないということだ。
教会と言うか法国が『神の奇跡』と言われる《回復魔法》を使える者を抱え込み、その中でも優秀な者は、国の待遇が良い神様側へと流れて行ってしまう。
ファーサイスの上層部、貴族なんかは実力主義だ。だが、実力の物は問わない。
騎士だったり、内政だったり、外交だったり、とにかく優秀ならば問題ない国だ。
それに比べ、アクウェス法国は《回復魔法》が何よりも大事だ。
《回復魔法》をうまく扱える者達は待遇が良い。
よって、精霊側の国はこういう時に苦労するという訳だ。

《回復魔法》は神の力の一片の為『神の奇跡』と言うのは間違えじゃない。
間違えじゃないが、ぶっちゃけ信仰自体はどっちでもよかったりする。
精霊達はどの神の子? って聞かれたら間違いなく私だが、精霊達の力自体は豊穣と大地の神の劣化版だ。つまり、精霊の信仰=豊穣と大地の神を信仰しているとも言えるため、どちらかを信仰している時点で《回復魔法》取得がワンチャンある。
祈りが、想いが強ければ強いほど、気になった神が目をつける可能性はある。
神の誰かに気に入られるかどうか、の方が大きいな?

《回復魔法》は他の魔法とだいぶ違うからな……。使えるようになるのが非常に大変だが、上級まで使えるようになったもんなら欠損まで治せてしまう。
この世界で欠損治療となれば引っ張りだこだろう。
魔獣や魔物に襲われて腕や足を……なんてことは珍しくないようだからな。

アンデッドにも光より《回復魔法》の方が効くし。属性を言うなら《回復魔法》は聖。光にあるターンアンデッドは、使い手の少ない《回復魔法》に変わる魔法だ。


と、様々な意味で《回復魔法》は特別なんだ。
国の有権者、国王だって《回復魔法》で治せてしまう可能性があるのだから。
そしてその《回復魔法》持ちを沢山抱える教会、法国の力は絶大だ。
どこの国にも教会はあるからな。

まあ、私からしたら法国なんかどうでもいい。法国の天敵は間違いなく私。
《回復魔法》没収できるからね……。直接喧嘩売ってこない限りはスルーの予定。
私の邪魔しなければ好きにしてくれ。
そんなことよりアンデッドだ。

「あー、どーすっかなぁ。やっぱ偵察出して一斉討伐か……」
「白依頼は東森奥の洞窟でしたよね?」
「ああ、そうだな。結局森の調査に行った奴らの帰りを待つしか無いな……」

東の森ねぇ……《月の魔眼》は森とか洞窟は苦手なのよねぇ。上から見えないし……。
多少角度が変えられるぐらいだからなー。隙間から辛うじて見え……見え……。
……アンデッドがちらちら見えるなぁ。おお、沢山いるぞ! 死霊の森かよ。
そんな事を考えていると……。

バァン!

「すまん! 通してくれ!」

バタバタと4人の男が入ってきた。
まず武器を複数持った男、扉を開け叫んだ男だろう。
そして、すぐ後ろで男2人に支えられた、血だらけの男。
右腕の『あった』部分から血を流し、支えられ辛うじて立っている。

状態が大量出血に右腕欠損、更に意識混濁か。まさしく瀕死だな。
更に全員呪い付きか。
まさかとは思うがこいつらって……。

「お前達! 森で何があった!? テア! ポーション持って来い!」

ああ、うん。ですよね。そんな気はしてた。森の偵察組か。
言われるより早くテアさんは行動開始していたが……。
呪い付きだ、恐らくポーションじゃ間に合わんだろうな。

呪い アンデッド系が使用。
    《強化魔法》や《回復魔法》、アイテムの効きが悪くなる。

バタバタ治療室に入っていくのを見送る。……正直見ず知らずの男共だ。
わざわざ助ける理由も義理も無い。無いんだが……まあ、助けてやるか。
女神の気まぐれというやつだ。恩を仇で返すようなやつなら、直接消し飛ばしてやればいいだけだしな。深く考える必要もあるまい。

トコトコついていき、治療室に入る。

「どきなさい。ポーションじゃ間に合わないわよ」
「なに!?」
「"エクステントキュアカース"」

男達4人の足元から虹色に輝く光の球が渦を巻くように登って行った。
これで呪い状態を解除。

「"ハイヒール"」

そして瀕死の男の傷口に虹色の光が吸い込まれていく。
これで怪我は治るだろう。欠損は治らないけど。
今の状態は右腕欠損に貧血だ。

「これで死にはしないでしょ。休んだら沢山食べて血を作らせなさい」
「「「ありがとう!」」」

見事に揃って3人頭を下げてきた。

「俺からも言わせてくれ、ありがとうな。こいつらとはそれなりに付き合いが長いからよ、そう言う職業とは言えやっぱな」

昨日まで話していた者が突然……なんてことは、冒険者じゃ日常茶飯事だろう。
それに、ステータスを見る限り、この4人はAランクだ。このギルマスは顔に似合わずお節介焼きのようだから、高ランク共なれば当然付き合いも長くなる。
戦力的にも、Aを失うのはギルマスとしての立場から考えても惜しいだろう。

とは言え厚かましくする気は毛頭ないので。

「別に構わないわ。完全に気まぐれだから。そんなことより何があったか、の方が気になるわ」
「ああ、そうだな。Aのお前達がそんな状態だ。何があった?」
「ああ、実は……」



まず、アンデッドの目撃情報が出た森の調査という事で、対アンデッド用の武器はもちろん、呪い対策アイテムも調達して、ポーション類の確認もして出発した。
ファーサイスを拠点としているため、白依頼の存在もバッチリ知っている。そのため準備はしっかりして行った。

森へ到着後、すぐに入らず周囲の調査を軽く行った。
これといって気になる物は発見できなかったが、どことなく空気が重い気がする。
斥候を先頭に、森へ突入。空気が重い感じがするのを除けば、普段の森と変わらず。だが、しばらく進み、どうも違和感を感じる。少し集まり話し合った結果……それなりに歩いたが、魔物達を見ていないという答えが出た。この森は静か過ぎる。

更にしばらく歩いて、ある時。
突然先行していた斥候が下がってきた。ついに魔物かと全員が武器に手を伸ばすが、そうではないと。そうじゃないが、この先はヤバいと。
行けば分かるというので、全員で進んでいった。

斥候が下がってきた場所まで行ったが……。
あれは、ヤバい。
空気が重い感じがする、なんてもんじゃ無い。纏わり付いてくるんだ。
全身の毛が逆立つと言うか、ゾワゾワっとするんだ。
そりゃあもう全員で下がった。満場一致だった。
これは、ヤバい。

だが、何の魔物とも合わず、ヤバイ感じがしたから下がってきた。
と報告するのも如何なものかと言う結論が出て、呪い対策をしっかりしてから、突入した。今思えばあそこで下がるのが正解だった気がする。

突入してしばらく……いや、すぐだな。数分進んだところでスケルトンと遭遇した。
数は6体で、問題なく撃破。更に少し進むと、ゾンビとグールに遭遇。
特に問題はないが数が多い。撃破して進むとスケルトンにスケルトンウルフ。
森の中でのスケルトンウルフは非常に厄介だった。

流石に連戦に連戦を重ね、疲れ始めたので撤退する事を決める。
これだけアンデッドがいて、証拠となるドロップ品もある為、調査としては十分だろうと判断。時間的にも夜になるとアンデッドは活発化する。森の中で薄暗いとは言え、昼間でこの数だ。夜になると手に負えない可能性が高い。
即座に撤退を開始。

問題は帰りだった。
そのまま来た道を引き返す途中で、斥候が囲まれていると言う。
周りにアンデッドがウジャウジャと大量に彷徨いていた。
恐らく俺達の生命に釣られてきたのだろう。そりゃもう大量にいた。

包囲の薄い部分を突破することに決め、突っ込んだが、それにより別のところからワラワラと集まってきた。周囲はゾンビ、グール、ゴースト、スケルトンにスケルトンウルフ。更にはワイトまで。椀飯振舞だった。

ズルズル、ズルズルと来た道から逸れてしまった。
気づいた時には結構奥へ入ってしまい、夜になる前に森を抜けるのは絶望的。
かと言って昼間であの数のアンデッドだ、夜を無事に過ごせるとは思えない。
呪い避けが無くなっても不味い。正直このアンデッド地帯さえ抜けられれば良い。
それに関しては、この纏わりつく嫌な感じから逃げるように動けばいいから、ある意味楽だった。暗闇は奴らの独壇場だ、暗くても向こうは関係なく襲ってくる。
だから躊躇いもなく明かりを付け、とにかく離れることを目的とした。

しばらく何事も無く進むことができた。
『何故か』アンデッド達が周囲にいないんだ。あれだけの数が居たのに、ここの辺りだけぽつんと居ないんだ。当然気になった。気になったが、行くしかなかった。

しばらく進んだら、戦闘音が聞こえたんだ。森の中でな……。
当然気になって見に行ったさ。そしたら……何だと思う?
3メートルぐらいか……そのぐらいの蜘蛛がいてな? その蜘蛛の上に女性の上半身が見えたんだ。アラクネだろう……。そのアラクネがアンデッドと戦ってたんだ。
この辺りにアンデッドが居ないのは、アラクネに群がっては殺られてたんだろう。
しかもレッドスケルトンやメタルスケルトン。スケルトンヘビーアーマーなどの中位から上位アンデッドがウジャウジャ居たんだ。
にも関わらずそのアラクネ、押されるどころか薙ぎ払ってたんだよな……。
なりたてじゃなく、間違いなく上位爵位持ちだ。じゃないとあり得ない……。

その時にアンデッドに見つかってな……。恐らくアラクネにもバレていただろう。
そこからがもう地獄だった。ただ逃げることだけに集中した。
アラクネは狙ってこないが、巻き込もうが関係ないとばかりに戦っていた。
周りは骨! 骨! 骨! 死体! たまに霊体! 更に上位爵位持ちのアラクネ!
ゾンビにグール、ゴーストにスケルトン、スケルトンアーチャーにスケルトンウルフ。ワイトはもちろんレッドやメタルスケルトンまで。言葉通り地獄のようだった……。俺らは本当に生きているのかと……。

それでも走ってもう少し、もう少しと言うところで、スケルトンウルフの不意打ちを貰ったんだ。そいつにこいつの腕を持ってかれた。
『俺を置いて先に行け!』とかふざけたこと言ってたが、そんなことできるわけがない。それからはもう、ほとんど覚えてないな……。
死に物狂いでアンデッドを潰して走って、森から抜け出し、こいつを担いで出来る限り急いで帰ってきた。



「というのが今までの出来事だ……」
「……予想以上だな。これは……騎士達と総出で片付ける必要があるか……」

私は爵位持ちのアラクネが気になる。従魔……従魔……。

「魔物にも爵位あるの?」
「ん? ああ、あるぞ。基本的な魔物は平民でコモナーだ。だが、稀に爵位持ちと言われる強い個体が出るんだ。騎士種、将軍種、魔王種となる」
「魔王!」

魔王いるのか、魔王。勇者と魔王とかでは無さそうだが。

「魔王種は格が違うらしいなぁ。俺も見たことはないな。と言うか数十年とか数百年単位で人前に出てくるかどうか、らしいぞ?」
「鑑定系で分かる?」
「ああ、分かる。身分って項目があるはずだ。無ければ平民。と言うか、アラクネな時点で爵位持ち確定だ。蜘蛛系の魔物が爵位持ってアラクネになるはず」
「種族変わるんだ?」
「変わる奴もいれば、変わらんものいる。アラクネは蜘蛛系と分かっているが、分かってる方がレアだな……。ちなみに爵位持ちとなった時点で知能は人間並みだ」
「……従魔狙うか……」
「本気か!? ……いや、そうだな。魔物は自分より強い者に付くらしいからな……。爵位持ちを従魔にするのも不可能ではないな、うん」

ほう、いいこと聞いた。つまり力を見せれば付いてくるわけだ。
嫌々従魔になられても役に立たんだろうしな、都合がいい。

「従う気があるなら契約、無ければ死んでもらうか……。面白そうな魔物がいたらこれからはそうしよう」
「ああ、従魔は冒険者ギルドに連れてくれば従魔用のステータスリングを渡すぞ」
「そんなのあるんだ?」
「おう、人類は教会。従魔は冒険者ギルドだ。強制じゃないがあった方が良いぞ。従魔言っても見た目は魔物だからな……」
「……誤解を防ぐためね」
「おう」
「分かったわ」

おっと、忘れてた。

「で、その人の欠損はどうする?」
「「「えっ?」」」
「欠損回復は教会の連中でも数人だぞ。かなり高い値段を取られるし、王都にはいねぇな。各地を転々としている聖女ならもしかしたら……ってところか」
「聖女いるの?」
「いるぞ。聖女ジェシカだな。《回復魔法》上級まで使えるな」
「聖女と言われる者でも上級か。超級は?」
「いないはずだ」
「じゃあ魔法名すら分かってない?」
「そのはずだな」

ふんふん。
聖女ジェシカ、覚えておこう。女神として聖女を気には掛けておいてやろう。
後は……。

「アラクネの大体の位置を教えてくれるかしら? 覚えてる?」
「……覚えてるか?」
「……こいつの血がまだ残っているはずだ。血がある所から入って真っ直ぐ進めば戦闘痕があるんじゃないかね。それなりに派手に戦ってたはずだから、木が結構折れてるはずだ……。分かるのはそれぐらいだな……」

王都から血を辿って……ここか。ここから直線に不自然に開けている所が……あった。

「うう~ん。……ん~、いないなぁ」

角度をグリグリ変えながら周囲を探す。
夜行性なのかなー?

「……! くっくっく」
「おう、無表情で笑うな」
「…………」

むにむに。
……女神になった代償か知らんが、表情筋が硬い。意識しないとな……。

「まあ、情報提供の礼をしようか。"リカバリー"」

虹色の光が寝ている男を包むように纏わりつき、欠損した腕の部分と集まる。
光が無くなった腕の代わりをするように、腕の形になったと思ったら光が収まる。
光が収まった部分には、無くなったはずの腕が存在していた。

「副作用としてもの凄い疲労感があるだろうから、そのまま寝かせておきなさい。失った血も戻らないから、しっかり食べるように」
「……アラクネの場所を教えた礼が欠損回復とか、椀飯振舞だな」
「そう? 私にとってアラクネの情報がそれだけの価値があった。それだけよ? だって、魔王種の従魔ができるかもしれないのだから」
「黒い笑顔してるな……。可愛い顔が台無しだ……邪悪過ぎる」
「……余計なお世話よ。早速会ってきましょう。……"ジャンプ"」



……と言うか、サラッと魔王種って言いやがったな?
そんな近くに魔王種のアラクネが居たのか? どっからか移動してきたのか?
どっちにしろあの人が向かったから、心配は無いが……。
静かに暮らしていた? アラクネからしたらどうなんだろうな。突然女神が従魔にしにやってくるとか。しかも拒否ったら殺されそうだし。
……魔物からしたら幸運なのか? 間違いなく最強クラスの従魔になれるわけだし?
どうなんだろうな……。

「……ギルマス?」
「なんだ?」
「あの子はいったい……」
「んー、見た目はあれだが、俺より強くて、俺より年上だ」
「「「えっ?」」」
「精神生命体なんだよ、あの人」
「あの歳……見た目で!?」
「ああ、そうだ。魔法のスペシャリストだと思っとけばいいぞ」
「は、はあ。教会の人なんですか?」
「他人の詮索はご法度だぞ? まあ、教会とは無関係だ。後ついでに、そこらの貴族が口出せない程度には身分高いから、余計なことはするなよ」
「げっ」
「まあ、舐めてかからない限り、口調とかはそんな気にするタイプじゃねぇがな。舐めてかかった瞬間床舐める事になるが。既にロビーで1人床ペロしてたな……」
「してましたねぇ……。では、私は戻りますが?」
「ああ、すまん。これに関しては総隊長と話すわ」
「ええ、ではこれで」
「おう」

実はいた治安部隊の騎士の人が帰って行った。

「さて……と、総隊長殿とお話だ、まったく。……テア。報酬少し多めにしてやれ」
「分かりました」

騎士団と冒険者達は、近いうちに森への大規模討伐を始めるだろう。

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