死霊術師は笑わない

神城玖謡

6話

 ぬらりと照る焚き火を背に、木に括りつけてられた少女を囲む冒険者達。その間には、重たい空気が満ちていた。
 少女は十にもいかない幼子で、色が抜けた金髪に、有明の空の様に青い瞳を持ち、血の気のない青白い肌で、大きな布──ボロボロのカーテン──を身に巻き付けただけの簡素な格好をしている。
 その綺麗な顔……口周りや、カーテンも今は赤い血で汚れており、一種の凄惨さを醸し出している。


「……特に特別な動きはないから、死霊術の類いではなさそうだな」

「ってことは、原因不明のアンデッド……ってことになるのか」


 パーティリーダーのギルと、もう一人の男がそう話していると、座って塞ぎ込んでいない方の女が、待ったをかけた。


「ちょっと……私アンデッドと戦った事何回かあるけど、もっと腐ってたり、骨だけだったり……少なくともこんな綺麗な状態のは見た事ないわ」

「けどよう、死んでるのに生き肉喰らおうと襲ってくるんだぞ。アンデッドでない訳がないだろう? アンデッドになるまでが短いのか、アンデッドになってからが短いのかは知らないけど、こいつは間違いなく魔物だよ」

「そう、よね……」


 女達がこうもやりきれなさそうにするのは、少女があまりにも綺麗な状態で、とても死体に見えず、アンデッド特有のおどろおどろしさがないからだ。

 しかし、ここで事態は急変する。


「……え、わたしは……なに、を──」

「「!?」」


 全員が、声にならない悲鳴をあげた。

 意識を持たないはずのアンデッドが、普通に話し始めたのだ。


「あれ……なんで、しばら、れて……」

「お、おいお前っ!」


 怯えの色が混じった声をかけたのは、ギルでない方の男だ。


「なん、だ……おまえら、の、しわざか……?」

「うるせえ黙れぇ!!」

「ちょっ、クレイ、そんな強く言わなくても……」

「お前も黙れ! さっきコイツがギルに噛み付いていたのを見ただろ!?」


 クレイと呼ばれた男の言ったセリフを聞いて、ようやくアガミは先程までの出来事を思い出していた。


(そうか、すっかり忘れていた。アンデッド特有の食人衝動か……)


「おい……お前は質問されたことだけ答えろ……」

「──ああ」


 全く物怖じしない様子の少女に底知れなさを感じ、クレイは余計に恐怖を感じた────もっともアガミ本人にそんなつもりなど到底なかったが。


「まず……お前は何もんだ? ただのアンデッドじゃねえよな……」

「──わた、し、は、アガミ。せい、は……アディ、クト」

「アガミ・アディクト……生前の名前か? いやでも、アンデッドで生前の記憶や意識があるなんて、聞いたこともないぞ……」


 ギルが手を顎に当て考え込むが、クレイは続けて質問した。


「お前……アンデッドの一種、なのか……?」


 おそらくこの質問は、クレイという男の中に芽生えた、少女の見た目の存在に対する良心から来たものなのかも知れない。
 もしそこでアガミがノーと言えば、クレイはキツい態度を改めたかも知れない。

 しかし、アガミが冷然と口にしたのは────


「そう、だ……」


 ────肯定の言葉だった。

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