死霊術師は笑わない
4話
「はぁ……これか、どうする、か……」
それから数分後、大きな瓦礫に腰掛けるアガミの姿があった。
しんみりとした時間が過ぎ、カーテンを身体に巻き付けたアガミは、たどたどしく呟く。
とにかく、ミナの為に生きるという目的がある。しかし、これからどうするか、どうして生きていくかが決まらない。
決まらない以上、下手に動くことはできない。
この男、頭でグチグチと考える。考えないでとにかく動くという事ができない人間なのである。
考えに詰まったアガミが瓦礫に腰掛けぼんやりしていると、目の前の森の中から複数の視線がこちらを向いているのに気が付いた。
そして、腹の底に響く様な雷の音──唸り声が遅れて聞こえて来る。
そうしてゆっくりと姿を現したのは、森のハンター、フォレストウルフであった。
薄汚れた灰色の毛の中から、妙にギラついた、月の様な金色の瞳がアガミを伺っている。
「ふぉれ、すと……るふ」
これは……マズイぞ。アガミは心の中で呟きながら立ち上がる。
近くに死体がないアガミに、戦う能力はない。
(どうする……)
ジリジリと後ずさるアガミに、粘っこい笑みを浮かべて近付くフォレストウルフ──その顔が、不意に歪んだ。
風向きが、変わった。
それまで肉の匂いを感じていたフォレストウルフ達に、より匂いが届き、そこに含まれる濃密な“死臭”を感じさせたのである。
腐敗臭とは違う、生きている者は発する事の出来ない、忌々しい匂いだ。
それに気付いたフォレストウルフ達は、一転。苛立たしげにひと吠えすると森の中へ戻って行ったのである。
「……なん、で?」
後には、ただ困惑する少女が残された。
時は過ぎ、艶めかしい曲線を描く月が星々の真ん中に浮かんでいる。
アガミが、魔物に襲われた時のために廃材から武器になりそうな物を探したり、組み合わせたりしていると、どこからともなく香ばしい“肉”の匂いが漂って来る事に気が付いた。
(だれか、人が……?)
すっかりお腹が空いていたアガミは、ふらふらと吸い寄せられる様に匂いを辿った。
深い、深海の様な森に身を滑り込ませ、干からびた死体の様なヒビの入った幹に手をかけ、蛇のように地を這う根っこを跨ぎながら、アガミは匂いがどんどん濃くなって行くことを感じていた。
そして、一方から赤い光が漏れているのを見付け、そこの木から覗き込む──。
──焚き火を囲み、フォレストウルフであろう魔物の肉を食べているのは、男二人、女二人の冒険者パーティであった。
「おなか──へった」
気付けば、アガミの目は肉にクギ付けになっていた。
自分でも気付かない内に歩き出し、パーティに近づく。その際小枝を踏んだのか、パキッと音が鳴り、一気に警戒態勢に入る冒険者達。
しかし暗闇から現れたのが年端も行かない少女である事に驚いた様だった。
「お、おい──きみ、大丈夫か……?」
恐る恐る、といった感じでリーダーらしい筋骨隆々な男が歩み寄り、手を差し出す──
「にく──」
「えっ…………うわぁっ!?」
次の瞬間、アガミは男の手に齧り付いていた。
それから数分後、大きな瓦礫に腰掛けるアガミの姿があった。
しんみりとした時間が過ぎ、カーテンを身体に巻き付けたアガミは、たどたどしく呟く。
とにかく、ミナの為に生きるという目的がある。しかし、これからどうするか、どうして生きていくかが決まらない。
決まらない以上、下手に動くことはできない。
この男、頭でグチグチと考える。考えないでとにかく動くという事ができない人間なのである。
考えに詰まったアガミが瓦礫に腰掛けぼんやりしていると、目の前の森の中から複数の視線がこちらを向いているのに気が付いた。
そして、腹の底に響く様な雷の音──唸り声が遅れて聞こえて来る。
そうしてゆっくりと姿を現したのは、森のハンター、フォレストウルフであった。
薄汚れた灰色の毛の中から、妙にギラついた、月の様な金色の瞳がアガミを伺っている。
「ふぉれ、すと……るふ」
これは……マズイぞ。アガミは心の中で呟きながら立ち上がる。
近くに死体がないアガミに、戦う能力はない。
(どうする……)
ジリジリと後ずさるアガミに、粘っこい笑みを浮かべて近付くフォレストウルフ──その顔が、不意に歪んだ。
風向きが、変わった。
それまで肉の匂いを感じていたフォレストウルフ達に、より匂いが届き、そこに含まれる濃密な“死臭”を感じさせたのである。
腐敗臭とは違う、生きている者は発する事の出来ない、忌々しい匂いだ。
それに気付いたフォレストウルフ達は、一転。苛立たしげにひと吠えすると森の中へ戻って行ったのである。
「……なん、で?」
後には、ただ困惑する少女が残された。
時は過ぎ、艶めかしい曲線を描く月が星々の真ん中に浮かんでいる。
アガミが、魔物に襲われた時のために廃材から武器になりそうな物を探したり、組み合わせたりしていると、どこからともなく香ばしい“肉”の匂いが漂って来る事に気が付いた。
(だれか、人が……?)
すっかりお腹が空いていたアガミは、ふらふらと吸い寄せられる様に匂いを辿った。
深い、深海の様な森に身を滑り込ませ、干からびた死体の様なヒビの入った幹に手をかけ、蛇のように地を這う根っこを跨ぎながら、アガミは匂いがどんどん濃くなって行くことを感じていた。
そして、一方から赤い光が漏れているのを見付け、そこの木から覗き込む──。
──焚き火を囲み、フォレストウルフであろう魔物の肉を食べているのは、男二人、女二人の冒険者パーティであった。
「おなか──へった」
気付けば、アガミの目は肉にクギ付けになっていた。
自分でも気付かない内に歩き出し、パーティに近づく。その際小枝を踏んだのか、パキッと音が鳴り、一気に警戒態勢に入る冒険者達。
しかし暗闇から現れたのが年端も行かない少女である事に驚いた様だった。
「お、おい──きみ、大丈夫か……?」
恐る恐る、といった感じでリーダーらしい筋骨隆々な男が歩み寄り、手を差し出す──
「にく──」
「えっ…………うわぁっ!?」
次の瞬間、アガミは男の手に齧り付いていた。
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