2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

108話 「もう1人の転生者」

「ここが中等部風紀委員会の部室だよ! まぁ、風紀委員はここにいる人だけだけどね…」

セレナ達に連れられ、俺は部室棟の2階にある「中等部風紀委員会」と書かれた教室に入った。
今日の授業は昼までだったらしく、午後は自由にしていていいらしい。

風紀委員会の部室…長机が3つ"コの字"型に並べられており、椅子が壁側に沢山置かれている。

俺たちは壁側から椅子を運び、長机を囲んで向かい合うように座った。

俺の右隣にクリスが座り、俺の前がセレナ、俺の右斜め前がアリスだ。

「まずはルージュ、おかえり!」

「あぁ、ただいま」

「3年間お疲れ様でした。 ルージュさん、とても強くなってましたね」

「まぁ…みっちり修行してたからなぁ」

「魔剣使いを倒したという知らせを聞いた時は本当に驚いたぞ」

「ははは…まぁ驚くよな。 すまん、ちょっと質問していいか?」

俺は、先程からずっと気になっていることが2つある。
まず1つ目だ。

「フィリアはいないのか?」

フィリア・ジュエル。 3年前俺たちとよく一緒にいた女の子だ。 大人びたクールな毒舌少女。
フィリアはいつもセレナ達と一緒にいた。
なのに何故…今この場にいないんだ…?

「フィリアはね、無所属なんだ。 風紀委員に誘ったんだけど、断られちゃって…」

なるほど、断ったのか。 もしかして俺みたいに旅に出たのかと思ったが、違うらしい。
…なら、2つ目だ。

「んじゃ次の質問だ。 …この風紀委員会って名前、誰が考えたんだ?」

3年前、風紀委員会なんてのは無かった。 つまり、これはゼロから作られた団体だという事だ。
風紀委員会なんて言葉を知っている奴は、転生者か召喚者くらいだ。

今、この学園には確実に日本人がいるはずなんだ。

「あ、それはね! フィリアだよ! フィリアが名前を考えてくれたんだー!」

「……え…?」

フィリア…だと…? フィリアが風紀委員会って名前を考えたってのか…?

「名前を付けた本人だから入ってくれると思ったんだけどなぁ…」

待て…頭が追いつかない…フィリアが俺と同じ転生者だってのか…?
いや…なら何故今まで気づかなかった…? 

「…フィリアは何処だ?」

「フィリアさんですか? 今日は学園の商店街で買い物をすると言っていましたが…」

「…分かった。 ちょっとフィリアに挨拶してくるよ」

俺はセレナ達に笑顔でそう言い、教室を出た。 教室を出た瞬間、目の前にあった窓を開け、風加速を使って飛び出した。

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あっという間に商店街に着いたが、フィリアが見つからない。 それもそのはずだ。 商店街は馬鹿みたいに規模が大きい。
その中からフィリアを見つけるのは至難の技だ。

…くそ…アリスに何を買いに行くか聞いとくんだったな…

そんな事を思いながら歩いていると、商店街の中心の方から大きな衝撃音が聞こえてきた。
この音は魔術同士がぶつかる音だ。

「…はぁ…なんでこんなに治安悪くなったんかねぇ…風加速ウィンド・アクセル

風加速を使い、音が聞こえた場所に走ると、そこには人だかりが出来ていた。

そして、その中心に居たのは4人の男女だ。
2人の男子生徒…高等部の男子生徒が戦闘態勢に入っており、その先には2人の女子生徒。
1人は初等部の女子生徒で、凄く怯えている。 そして、その女子を守るように立っているのは銀髪の中等部の女子生徒。

…銀髪…まさかフィリアか!?

「おいどけよ! 」

「てめぇは無所属の部外者だろうが!」

2人の男子生徒が銀髪の女子に言うが、銀髪の女子生徒は2人の男子を睨みつける。

「ちょっとぶつかっただけでしょう? それだけでこんな小さな子を責めるなんて、先輩達は心が狭いんですね」

…声もフィリアにそっくりだ。 もうフィリアで確定だろう。

ただ、あんな言い方をしたら相手を怒らせるだけだ。
しかもフィリアの後ろには女の子がいる。 そんな状態でもし相手が魔術を撃ってきたら…

「ちょっと痛い目を見てもらうぜ! 喰らえぇ!」

「調子乗ってんじゃねぇ!」

2人の男子生徒が巨大な岩をフィリアに向かって連続で撃ちだした。
1発1発が威力高そうだし、女の子を守りながら防ぐのは無理だ。

大氷壁だいひょうへき!」

俺はフィリアの前に飛び出し、巨大な氷の壁を作って岩を全て凍らせる。
4人は急に出てきた俺を見て目を見開いている。 周りにいる人達はザワザワしだす。

…初日から目立ちすぎだろ俺…

「先輩方。 いくらなんでも女子に遠慮なさすぎじゃないですか?」

大氷壁を消し、男子生徒2人に言う。
念の為にすぐに魔術は撃てるようにしている。

「あぁ? なんだお前」

「これでも手加減してやったんだ! 本気だったらお前、怪我してたぜ?」

男子生徒2人はゲラゲラと笑いだす。

「良かった、あれが本気だったらこっちが爆笑してましたよ」

俺がそう言うと、男子生徒2人は笑うのをやめ、俺の事を睨む。
俺は背中から青龍刀を抜き、フィリアをチラッと見る。
フィリアは俺の事をジッと見つめながら、女の子を庇っている。

「…フィリア、流れ弾が来ると危ないから、すぐに防御出来るようにしとけよ?」

「…え? なんで私の名前…」

「さぁ先輩方。 本気で来いよ。 相手してやる」

男子生徒2人が先程よりも速く大きな岩を連続で撃ち出してくる。 その数は10個。
俺はその場で剣に炎を纏わせる。 そして魔力を貯め、更に炎を大きくする。

大炎斬だいえんざんッ!」

巨大な炎の斬撃を飛ばし、5個の岩を粉々に砕く。 そして青龍刀を鞘に納め、岩に向かって飛び上がる。

落雷らくらい!」

脚に雷を纏い、岩に踵落としをすると、岩は雷を纏いながら凄い勢いで地面に激突した。 
俺は岩に踵落としをした反動で更に上に飛び上がり、残り4個の岩に狙いを定める。

天雷てんらいッ!」

右手に雷を纏い、4個の岩全てを雷を纏った右手で貫く。
俺が地面に着地してから数秒遅れて4個の岩は粉々に砕け散った。

「ほら、まだ本気じゃないだろ? はやく次の技見せてくれよ」

俺が挑発して言うと、男子生徒2人は炎の魔術と風の魔術を撃ってきた。
炎に風が合わさり、さらに巨大な火炎が俺に向かってきた。

「へぇ…協力して威力を高めた訳か。 だけどな…」

俺は、右手に炎、左手に風を出す。 そして魔力を貯め、一気に放つ。

「そういうのは俺、めっちゃ得意なんだわ」

2人の火炎よりも更に巨大で威力の高い俺の火炎が、2人の火炎をジリジリと押していく。

「更に…突風ウィンド!」

突風を撃ち、更に火炎を巨大にすると、ようやく相手の火炎が消え、男子生徒2人を俺の火炎が包み込んだ。
男子生徒2人は丸焦げになって地面に膝をつき、怯えた目で俺を見る。

俺はゆっくり2人の元へ歩いていく。

「もう終わりか? まだやれるだろ?」

笑いながら言うと、男子生徒2人は叫びながら走って去っていってしまった。
俺は追いかけずにフィリアの元へ向かう。

「よっ、フィリア。 久しぶりだな、ルージュ・アルカディアだ」

「…はぁ…やっぱりそうだったのね…戦い方で分かったわ」

「戦い方って…俺そんなに外見変わったか? 」

「えぇ、別人レベルよ」

マジかよ。 自分じゃ分からないけどそうなのか…
…それよりも、目的のフィリアは見つけた。

「フィリア、話がある。 大事な話だ」

「何?」

「あ、いや…ここじゃちょっと…」

流石にこんな大勢の前で「あなた転生者ですか?」なんて聞けない。
フィリアは、後ろの女の子の前にしゃがみ、視線を合わせる。

「あなた、1人で帰れる?」

「は、はい! あ、ありがとうございます!」

女の子は俺とフィリアに頭を下げ、1人で歩いて行った。
フィリアは最後まで見送ると、俺の方を向く。

「…どこで話すの?」

「とりあえず、人がいない場所に行こうぜ」

俺は、商店街から少し離れた所にあるベンチに座った。 幸い周りには誰もいない。
もし来たとしても1人2人くらいだろう。

「それで? 話ってなにかしら。 言っとくけど、告白だったらやめときなさい」

「そんなんじゃねぇ! …いくつか質問していいか?」

「するだけならご自由に」

「まず1つ目。 風紀委員会っていう名前を考えたのはフィリアで間違いないか?」

ピクッとフィリアの眉が動いた。 そのあと、フィリアは俺の顔をジッと見つめる。

「そうだけど?」

「…そうか…んじゃ次の質問。 風紀委員会って言葉を誰から聞いた?」

「誰からも聞いてない。 生きてきて自然に知った言葉よ」

…確かに、日本の学校に通ってれば自然に覚える言葉だよな……
まさか…本当にそうなのか…? こんな身近に…転生者が居たなんて…

「それじゃあ次の…」

「待ちなさい。 次は私に質問させて」

フィリアが俺の言葉を遮る。 俺は黙って頷くと、フィリアは俺の目をジッと見つめる。

そして、ゆっくりと口を開いた。

「あなたも…私と同じなの…?」

瞳を揺らしながら、いつものクールなフィリアからは考えられない、弱々しい口調で言ってきた。

「…あぁ。 俺もお前と同じ、転生者だ」

そう言うと、フィリアは「…そう」と小さく言ってから、ポロポロと涙を流した。
俺は目を見開くが、フィリアの涙は止まらない。

「ごめんなさい…私以外に居るなんて思わなかったから…」

「…俺も、こんな近くに日本人が居るとは思ってなかったよ」

「…ずっと1人きりだって思ってたわ…どんなに仲良くなって話をしても、私は"フィリア・ジュエル"じゃない。 セレナ達が見てるのはフィリア・ジュエルで、"私"じゃないの…」

…確かにそうだ。 俺たちはこの身体を乗っ取って居るだけ。 俺は本当はルージュ・アルカディアじゃないんだ。
つまり、俺はこの世界で出会った全ての人間に嘘をついてきたわけだ。

フィリアが泣き止むのをジッと待ち続け、数十分後、フィリアが泣き止んだ。

「ごめんなさい。 もう大丈夫よ」

「よし。 んじゃフィリア! 同じ日本人同士、仲良くしようぜ?」

「え? 嫌に決まってるじゃない。 それとこれとは別よ。 私、男嫌いって言ったでしょう?」

お互いが転生者だと知っても、フィリアの態度は変わらなかった。
だが、近くに同じ転生者が居ると分かった事が、少しでもフィリアの心の支えになればいいと、俺は本気で思った。

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