2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

98話 「準備万端」

あれから数日が経ち、ついに明日、ローガと戦う事になる。
……なのに…

「いくぞ、アクア・マシンガン!」

「双龍乱舞っ!」

「ダメだダメだ! 全然氷の力を使えてないぞ!」

俺はまだ双龍乱舞をマスターしていなかった。
二刀流自体には慣れた。 どうやら俺には二刀流の方があっていたらしく、自分の思うように動く事が出来た。

だからレイニクスのアクア・マシンガンを全て落とす事は簡単になった。 だが、肝心の氷の力を使えていないのだ。

「ん〜…なんでできねぇんだろ…」

「落ち着けルージュ。 剣だけに意識を集中させるんだ。 …少し休憩にしよう。 俺様は少し部屋で休んでくる 」

って言われてもなぁ…炎斬とかとはまた違うんだよなぁ…

「クゥ?」

「グル…」

俺の視界の奥で、レイニクスが凍らせた石連弾でルナ・ウルフとソル・ウルフが遊んでいる。

「…ん…? ……あっ」

俺は、とんでもない間違いをしていた。 俺は、対象を凍らせる事を目標としていたが、それは違う。 凍らせる事が目的じゃなんだ。 
問題は、剣を”どうするか”だ。

ただ氷魔法を剣に纏わせるだけじゃダメだ。 そもそも、双龍乱舞は剣に魔法を纏わせてない。
まるで、剣自体が氷そのものみたいだった。

「……待てよ…? 剣自体が氷…って事は、剣の温度はマイナスな訳だ…」

俺は、レイニクスのアクア・マシンガンで出来た水溜りに剣先をつける。 そして、ひたすらイメージする。

剣の温度を下げる。 熱手ヒートハンドの逆……

パキッ

そんな音が聞こえ、目を開ける。 すると…
俺の剣が”半分だけ”凍っていた。 凍っていない部分からは冷気が出ている。

「…なるほど…後は制御するだけだ」

剣を凍らせるんじゃない。 剣自体を冷たくするんだ。
だから今のは半分成功、半分失敗だ。

「次の水溜りは…」

そうやって、水溜りに剣を突き刺してイメージ、突き刺してイメージを繰り返した。

…そしてついに…

「出来た!」

ついに、剣を変化させずに水溜りを凍らせる事が出来た。

あとは実験だ!

「おーいグリムー!」

俺は、遠くでセレスに龍化のコツを教えているグリムを呼ぶ。
グリムは俺の方を向き

「なんだい? ルージュくん」

「俺にロック・マシンガンを撃ってほしい」

「…え…じゃあ、出来たのかい!?」

「いや、まだ分からない。 だから確認したいんだ」

そう言うと、グリムは龍化し、俺から距離を取る。
……いや、なにも龍化しなくてもいいんだけど…

龍化したグリムの左右に、なぜかソル・ウルフとルナ・ウルフがやって来た。
…あの2匹はなにがしたいんだ?

「行くよルージュ君。 土竜魔術・ロックマシンガン!」

「「ッッ!!」」

グリムがロックマシンガンを撃ち、ルナ・ウルフが黒い球、ソル・ウルフが白い球を撃ってくる。
…え、あの2匹って魔術使えたのか!?

いや、今はそんな事はどうでもいい。

「…行くぜ! 双龍乱舞!」

両腕を龍化させ、二本の剣の温度を急激に下げる。 
二本同時はかなり集中力がいるな……

だが、不可能ではない。

まずは1つ目の石を落とす。 …よし、凍っているな。

その調子で他のものも落としていく。

右からくる石は右手の剣で、左からくる石は左手の剣で。
二本の剣を最大限に使い、1つ残らず凍らせる。

グリムのロックマシンガンはすべて落とし終え、あとはルナ・ウルフの黒い球とソル・ウルフの白い球だけになった。

「おぉっ!? 威力…! 強すぎだろ…!?」

あまりの威力に、俺が飛ばされそうになった。 龍化しててこれなら、なにもしなかったら普通に飛ばされていただろう。

「ふっ! ぬううううぅぅっ!!」

なんとか力を振り絞り、2つの球を同時に凍らせる事が出来た。

俺は、その場に座り込み、自分の剣を見る。

「…やっと…出来た…俺の剣術だ!」

これで魔術だけに頼らずに、剣術でも戦える。 二刀流は相当厄介だろうからな。

それから、レイニクスが戻ってきて、完成した俺の双龍乱舞を見て驚いていた。 そして、俺たち3人は、最後の調整を行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

外はもう夜。 もう少しで寝る時間だが、レイニクスが話があるらしく、俺たち3人は広場に集まった。

「7日間という短い間で、よくここまで強くなったな。 単純に驚いたぜ、明日はようやく、ルージュの大事な人を助けに行く日だ。 覚悟は出来てるか?」

覚悟。 そんなもの、とっくに出来ている。 ローガを倒す事だけを考えて、ここまで修行してきたんだから。

俺たち3人は無言で頷く。

「よし。 明日はお前達以外にも龍族が来るが、メインはお前達3人だ。 他の龍族はあくまでサポート。 ローガは、お前達3人で倒せ」

当たり前だ。 ローガを他の人に任すなど、絶対にしたくない。
それじゃあ、強くなった意味がない。

「ルージュ。 一度負けた相手に、強くなったお前を見せてやれ!」

「はい!!」

俺は力強く返事をした。 レイニクスには感謝しか出来ない。

そんな俺の両肩に、ソル・ウルフとルナ・ウルフが乗ってくる。

「あ、この2匹どうしよう…」

流石に戦場には連れていけない。 危険すぎる。 かと言ってここで待たせるのもかわいそうだ。

「あぁ、それなら心配するな」

レイニクスは、ポケットから2つの水晶がついたネックレスを取り出した。
黒い水晶と白い水晶だ。

そして、レイニクスは黒い水晶をルナ・ウルフの額に、白い水晶をソル・ウルフの額につけた。 すると…

「…えぇっ!?」

突然。 ソル・ウルフとルナ・ウルフが消えた。
辺りを見渡すが、何処にもいない。

レイニクスはそのネックレスを俺に渡してくる。

「その水晶を握って、2匹を呼んでみろ」

「…え、あ、はい」

俺は言われた通りに水晶を握り、心の中で2匹を呼ぶ。

来い! ソル・ウルフ、ルナ・ウルフ!

すると、2つの水晶が光り、俺の目の前に突然2匹の子郎が現れた。

「な、なんだこれ…」

「その水晶は特殊でな、生物を持ち運べるんだ。 まぁ、懐いてなきゃ無理だけどな。 あ、そうだ。 いい機会だから名前をつけてやれよ」

「へ? 名前?」

名前か…んー…どうするか…

2匹が俺をジッと見てくる。

……よし、決めた。

「ソルとルナ。 …うん、ソルとルナにしよう!」

シンプルだが、分かりやすい。 2匹はぴょんぴょん飛び跳ねているので、気に入ってくれたんだろう。

「ソルとルナ、いい名前じゃない 」

そう言って、セレスは2匹の頭を撫でる。 そういえば、セレスはよくこの2匹と遊んでたな。 動物が好きなのか?

「ルージュ。 この2匹は魔力が大好物だ。 普段は森の中に流れる自然の魔力があったが、これからはそんなものはない。
つまり、お前が2匹に魔力をあげる事になる」

ほう、魔力がエサなのか。 だが肉も食っていたし、他のものもたべれるのだろう。

まぁ、魔力がエサだというなら、存分に与えてやろう。 俺は魔力が多いらしいし、何も困る事はないはずだ。

「分かりました。 どうやって魔力をあげればいいんですか?」

「この水晶に入ってる間は、勝手に魔力を吸っているから、ルージュは何もしなくていいぞ」

なるほど、それは便利だ。 ペットが出入り禁止の所もあるだろうしな。
俺は水晶を握る。

「それで、この水晶に戻す時はどうするんですか?」

「水晶を2匹の額につければいいだけだ」

なるほど。 それだけなら簡単だな。

「さて、明日は戦いだ。 もう寝るぞ」

レイニクスがそう言う。 明日はローガとの戦い。 少しでも体を休めるべきだ。

俺は水晶を握り、2匹を見る。

「ソル、ルナ。 暇だと思うけど、明日はこの水晶の中で見ててくれ」

そう言って、2匹を水晶の中に入れる。

そして、レイニクスと別れ、部屋に戻ると…

「ルージュ、グリム! 」

セレスが突然俺とグリムの肩を掴んだ。

そして、3人で円を作る。 ……なんだ?

「どうしたの? セレス」

グリムも分からないみたいだ。

「明日は私達、聖龍連合の初任務よ! パーティーメンバーの大事な人を救出する大事な任務。 絶対に成功させるわよ!」

セレスがそう言って笑顔で微笑む。 俺の事なのに、セレスとグリムは自分の事のように考えてくれた。

俺は改めて、この2人に出会えてよかったと思えた。

…ローガ。 待ってろよ。 明日、俺がお前を倒す。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーローガ視点ーー

「…ルージュ君。 全然助けに来ないねぇ。 君達、見捨てられたんじゃないかい?」

「はっ! ルージュがそんな事する訳ないわ。 今頃きっと、あんたを倒すために強くなってるはずよ」

「レーラ。 随分と反抗的だねぇ、”沈め”」

「うぐっ…!」

僕の前で、レーラが無様に膝をつく。 カノンとケイプは別の部屋に監禁している。

いろいろお仕置きしたけど、全然態度を改めてくれないな。

「無様だねぇレーラ」

「…はっ、数日前からコソコソと外に出て何かやってるの、私知ってるわよ。 あんた、ルージュが怖いんでしょ? だから何か対策をしている。 違う?」

「………」

まさかバレていたとはね。 確かに、僕はルージュ君が怖い。 子供なのに、油断すれば負けてしまいそうだった。

そんなルージュ君が、今僕を倒す為に動いているときた。 怖くないわけがない。

ルージュ君は必ず逃げずに僕の前に現れる。 ルージュ君が僕を倒す為に動いているなら、僕はルージュ君を再び捕まえる為に動こう。

次に会った時、お互い最大限の力をぶつけ合う。 

「正解だよレーラ。 ご褒美に、見せてあげよう」

僕は、空間魔術を使い、何もない場所を歪ませる。 そして、その歪んだ場所から次々と、”武器を持った人間”が現れる。

「なっ…!? 何よそれ…」

レーラが驚きで顔を歪める。 ふふふ、驚くだろうねぇ。 だって、この人間達は生きてないんだから。

「これが魔剣グラビのもう1つの能力。 死者を操る事が出来るんだ。 僕がこれまでに殺した人間達の中から、強さ順に20体選んで軍隊を作ったんだ」

この20体は、全員指名手配されていた強者たちだ。
僕が作ったこの最強の軍隊で、ルージュ君、君を出迎えてあげよう。

ルージュ君、いつでも来なよ。 また、君を捕まえてあげよう。

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