2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

87話 「龍族の村」


黒龍の民。 そんな名前は聞いた事がない。

だがあいつらは俺の事を黒龍の民と言った。

黒龍の民は黒髪…確かに黒髪は珍しいらしいけど…流石に牢屋に打ち込むのはないだろ…

「…おーい!! 俺は本当に黒龍の民じゃないんだ!! 時間がないから早く出してくれよ!」

思い切り叫ぶが、誰も反応しない。

…早くトバーブルクに行かなきゃいけないのに…

「はっはっは、元気な子供じゃなぁ」

誰も開けなかった扉が開き、白髪の老人が入って来た。
老人の後ろにはさっきの青髪の男と、赤髪の少年と青髪の少女がいた。

老人は牢屋の前に立ち、俺をジッと見る。

俺は手を縛られている為、立つ事が出来ず座っている。

「ふむ…確かに黒髪じゃな…」

「俺は黒龍の民なんかじゃねぇ、信じてくれ、時間がないんだ…」

「じゃがのぅ…”もしお前が黒龍の民だったら”と思うと…」

「だったら! この首輪を壊してくれ!」

そう言うと、老人が牢屋の鍵を開けた。

「ヴルム村長⁉︎ 危険です!」

青髪の男が止めようとするが、ヴルムと呼ばれた老人は止まる気配はなく、俺の前にしゃがむ。

「…ふむ、これが首輪か」

「なんとかこの首輪を壊せないか? 首輪さえ壊れれば分かるはずだ」

黒龍の民は首に刻印があるらしい。

もちろん俺にそんなものはない。

だが今はローガにつけられた首輪のせいで分からないんだ。

「…見た感じ、魔術が掛かっておるな。 じゃが、こんな物…簡単に壊せる」

老人が俺の首輪に触れると、パキッという音と共に、首輪が綺麗に2つに割れた。

「お…おぉ! 壊れた!」

地面に落ちた首輪を見てから老人を見ると、老人は立ち上がり、頭を下げてきた。

「申し訳なかった。 ワシ達は勘違いをしていた。 お前は黒龍の民ではなかった」

謝罪をした老人は、俺の拘束を解いた後、青髪の男の元へ向かい

「きちんと謝っておくんじゃぞ。 セレスとグリムもな」

そう言って老人は去っていった。

俺は立ち上がり、牢屋を出て青髪の男の前に立った。

「その…ほ、本当にすまなかった! 完全に勘違いをしていた…!」

…まぁ、早く解決してよかった。

これがもし2、3日掛かっていたら流石に怒っていたが、今回は数時間程度だ。

「いや、分かってくれてよかったです。 それじゃあ、失礼しますね」

俺は丁寧にそう伝え、3人の間を通り抜け、部屋を出た。

…さて、まずは王都かドーラ村に向かうか。

そこで助けてくれる人を探そう。

「ま、待って!」

建物から出た俺を、青髪の少女が呼び止めた。

振り返ると、赤髪の少年も一緒にいた。

「なんだ? 別にもう怒ってないぞ?」

「でも…謝らないと…、疑ってごめんなさい!」

「僕も…もっと確認するべきだった。 ごめんなさい!」

2人は丁寧に頭を下げて謝罪してくる。

そして青髪の少女は顔を上げると

「その…何かお詫びがしたいんだけど…」

「お詫び…?」

別にお詫びとかいらないんだがな……

…あっ

「そうだ。 聞きたい事があるんだ」

「! なんでも聞いて! 知ってる事なら答えるわ!」

俺が聞きたい事。 それは1つだけだ。

「ここは何処だ?」

「「……えっ?」」

青髪の少女と赤髪の少年が、綺麗にハモった。

「あ、あんた…何言ってるの?」

「あー…いきなり聞いてもビックリするよな。 実は俺さ、この場所に転移して来たんだ。 空間を彷徨ってな」

「…空間…?」

少女が首を傾げるが、少年は分かったらしく、顎に手をやり

「空間魔術かい?」

「そうだ。 俺は空間に飛び出して逃げて来たんだ」

「…なるほど、空間を彷徨うと何処に転移するか分からない。 それで辿り着いたのここって事だね」

「大正解だ。 それで、質問には答えてくれるか?」

さて…ここは一体何処なんだ?

トバーブルクに近いのか遠いのか……

「ここは龍族の村よ」

「………ん?」

「龍族の村よ。 もしかして知らない? 結構有名な場所なんだけど…」

……え? 龍族の村って…えっ?

「ちょ! ちょっと何処行くのよ!」

俺は走り出した。

ここが龍族の村なら…明日、ローガがここに来る。

なら…ここでローガを迎え撃つ。

龍族の村で協力してくれる人を探すんだ。

「ちょっと! いきなり走り出してどうしたのよ!」

少女が俺の横を走りながら問いかけてくる。

…そうか、この2人に聞いた方が早いな。

「村長に会いたい。 会わせてくれ」

「はぁ? さっき会ったじゃない」

「お願いしたい事があるんだ。 頼む!」

俺が2人に頭を下げると、少年は微笑み

「いいよ、ついて来て」

そう言って少年は走り出す。

少年について行くと、他の家よりも大きく、古びた家に着いた。

「ここが村長の家だよ。 多分中にいると思う」

「助かる!」

扉を叩くと、中から「入れ」と声がしたので中に入る。

中に入ると、先程会ったばかりの老人が座っていた。

「おぉ…? さっきの小僧じゃないか、どうかしたのか?」

「お願いがあります。 急なお願いになりますが…戦える人を数名貸していただけないでしょうか?」

村長の眉がピクリと動く。

「…どういう意味じゃ?」

「明日、この近くの森に、魔剣使いが来ます。
魔剣使いはこの村には攻めて来ませんが、そいつの住処には俺の大事な人がいるんです」

「魔剣使い…じゃと…? そいつから、大事な人を取り戻したいと…そういう事か?」

「はい。 なのでどうか…人を貸して下さ…」

「申し訳ないが、それは無理じゃ」

俺の言葉を遮り、村長が言った。

「な…何故ですか?」

「ワシ達に利益がないからじゃ。 まさか無償で命をかけろと?」

……確かに、魔剣使いは強い。 そんな奴と戦うのは危険だ。

……だが

「さっき、俺を牢屋に閉じ込めましたよね? そのお詫びで、助けて下さい」

汚いのは分かっている。 だが仕方がないんだ。

「ふむ…それを言われると断れないのぅ…」

「! なら…!」

「じゃが、どんなに頑張っても明日は無理じゃ。 準備をするまで、最低でも3日は掛かる」

「3日…」

「どうしても明日でなければいけないのか?」

本当は1週間以上の時間がある。

だが…今もカノン達があの屋敷にいると思うと…

「……トバーブルク…そこに、魔剣使いは1週間程滞在するはずです…」

「なるほど、トバーブルクか。 よし、ワシはやる事がある、用事が終わり次第連絡するからの。
 それまでセレス達と行動するといい」

そう言うと、村長は立ち上がり、奥の部屋へと入って行った。

「………」

本当は、明日助けたかった。

明日、ここに来るって分かってるのに…

「くそっ…!」

「落ち着こうよ。 結果的には力を貸してもらえたんでしょう?」

少年にそう言われ、冷静になる。

そうだ。 遅くはなるが、助けに行く事は出来るんだ。

「…あぁ。 ありがとう」

村長の家から出ると、3人で向かい合う。

…この2人には感謝しないとな。
最初は最悪な出会いだったが…いい奴らだ。

「んじゃ、俺は行くよ。 3日後にまた来る」

「え? あんたどこで寝るのよ?」

「森の中で寝るよ。 ついでに修行も出来るし」

「危ないわよ⁉︎ 森には魔獣が居るんだし…結界のおかげで村には入って来ないけど、寝てる時に襲われたら…」

「と言われてもな…」

森で寝るなと言われたら俺はどこで寝ればいいんだ…

「私達の秘密基地に案内するわ! 」

「秘密基地…?」

「着いて来て!」

少女は楽しそうに笑いながら進む。

村を出て少し歩くと、小さな洞窟が見えて来た。

「ここよ!」

洞窟に入ると、まさに「秘密基地!」と言う感じの場所だった。

木のテーブル、木の椅子、ランプ、本棚、毛布にマット。
生活に必要なものが揃っている。

「ここが私達の秘密基地よ!」

「…凄いな、2人で作ったのか?」

そう聞くと、少女は首を横に振り

「まさか! お父様にも手伝ってもらったわ! その時に魔獣除けの結界も貼ってもらったから安心よ!」

……それは秘密基地と呼ぶのか…?

…まぁ、寝床があるのはありがたいな。

「ありがとう。 ありがたく使わせてもらうよ」

「…ねぇセレス、彼も僕達のパーティーに入れないかい?」

「あら奇遇ねグリム! 私もそう考えてたの!」

…? パーティーってなんだ…?

「ねぇあんた! 聖龍連合せいりゅうれんごうに入らない?」

「聖龍連合? なんだそれ」

「だからパーティー名よパーティー名! 私達が強くなったらこのパーティー名で伝説を作るの!」

あー…パーテイーってそう言う事か。

てっきり打ち上げ的なものかと思ったが、どうやらグループ的な意味だったらしい。

「気持ちは嬉しいけど、俺はずっとこの村に居れるわけじゃない。 申し訳ないけど…」

「別に離れてても問題ないわ」

「え?」

「あのね、私はただ仲良しゴッコがしたくてあんたを聖龍連合に誘った訳じゃないの!
パーテイーはいつでも一緒に居なくちゃいけない訳じゃないわ! 
仲間がピンチの時、助け合うのがパーテイーなのよ!」

「お、おぉ…」

「それで⁉︎ 入るの? 入らないの?」

顔を近づけられ、俺はもう断るのはやめた。

「分かった。 俺も聖龍連合に入るよ」

俺がそう言うと、少女と少年はガッツポーズをして

「やったぁ! 3人目のメンバーよ!」

「うん! 良かったねセレス!」

ハイタッチをして喜びを分かち合っている。

ていうか、3人って…今ここに居るのが全員かよ。
3人で「連合」か…… 

「さて、じゃあ……えっと……あんた、名前なんだっけ?」

少女が俺を見て言ってくる。

…あ、確かに名乗ってなかったな。

「俺はルージュ・アルカディアだ。 よろしくな」

「ルージュね! 私はセレス・シンフォニーよ! よろしく!」

「僕はグリム・ヴォルカンだよ。 ルージュ君、よろしくね!」

セレスとグリムか。 
この2人とは仲良く出来そうだ。

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