2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

86話 「飛ばされた先は」

黒。 上も黒、右も左も黒、下も黒。

そんな空間を、俺はもう10分以上彷徨っていた。

「…落ちてるのか浮いてるのか分かんねぇな」

空間には重力があるのか分からない。

勢いよく空間に飛び出した訳だが、まさかこんな長い間空間を彷徨う事になるとは…

「……ん?」

ふと下を見ると、どこまでも真っ黒の空間に、小さな光があった。
小さな光だが、この真っ黒の空間ではよく目立つ。

俺の身体は、その光にまっすぐ向かっている。

「…もしかして、あれを抜ければ…」

何処かに辿り着くかもしれない。

きっとそうだ。

あの光は、出口なんだ。

「よっしゃ! やっと出られるぜ!」

俺は体勢を変え、頭から光に突っ込んだ。

真っ黒な空間から、今度は真っ白な空間に変わる。

だが真っ白な空間は長くは続かなかった。

真っ白な空間が終わると…

「えっ…」

俺の身体は…

「ちょっ…嘘…だろ…⁉︎」

天空にあった。 

この世界にはもちろん重力がある。

人間は重力に逆らう事は出来ない。

俺の身体は重力に従って物凄い勢いで落下していく。

「うわあああああっ!!」

やばいやばいやばいっ! 

落ちたら死ぬ落ちたら死ぬ…!

「何かないか何か…! 」

考えてる間にも身体はどんどん地面に向かっていく。

下を見ると、森があった。

そして森の奥には大きな山がある。

だがそれは今関係ない。

突風ウィンド! ……魔術使えないんだった…!」

下に手を向けるが意味がなかった。

どんどん地面が近くなる。

近くなったからか、よく見ると、俺が落下する場所付近に2人の男女がいた。

2人の男女は俺に気づいてないらしい。

俺は2人に聞こえるように大声で

「助けてくれえええぇっ!!!」

と叫んだ。

2人の男女はビクッとして辺りを見回している。

俺はまた大声で

「上だ上ぇぇっ!! 助けてくれええっ! 」

すると2人と目が合う。

2人は俺に手を向け、叫ぶ。

「「風龍魔術・ゲイルブラスト!」」

すると、二体の龍のような緑の魔術が、俺の身体を包み込んだ。

そして俺の身体はゆっくりと地面に降りて行く。

「大丈夫かい?」

無事に地面に降りた俺に、赤髪の少年がそう聞いてくる。

よく見るとこの男女、俺と同い年くらいか?

「あぁ、助かった! ありがとな!」

俺は2人に頭を下げる。

そんな俺を見て赤髪の少年は微笑むが、青髪の少女は腕を組み、俺をジッと見ている。

「怪我がないならよかった。 何故君はあんな上空にいたんだい?」

赤髪の少年がそう聞いてくる。

…さて、なんて答えればいいんだ?

素直に「空間から来ました」って言うか?

いや…怪しすぎるだろ…

「あっ、言いたくないなら別にいいよ?」

「…すまん」

すると、ずっと腕を組んでいた青髪の少女が口を開く。

「…ねぇ、あんた、黒龍の民?」

「…はい?」

なんだいきなり。 黒龍ってなんだよ。

「えっ…セレス、どう言う事?」

「こいつの髪、見てみなさい。 黒髪よ黒髪」

黒髪がなんだと言うんだ。

黒龍とか聞いた事ないんだが…

「黒髪がどうかしたのか?」

「龍族の髪は7色。 赤髪、青髪、緑髪、金髪、茶髪、白髪、紫髪よ。 そして」

青髪の少女は右手の甲を俺に見せる。

少女の手の甲には赤い刻印があった。

「この刻印が、龍族の証よ」

「…それが、なんなんだ?」

「あんたには、手に刻印がない。 つまりは龍族ではないの」

……意味が分からないんだが。

「でも、黒龍の民は違う。
黒龍の民は、黒髪で首に刻印があるのよ」

…ん? 首…?

「いや…違うぞ? 俺は黒龍とか知らないし…そもそもここがどこなのかも分からんし…」

「あら、そうなの? なら、その首輪を外して、首を見せてくれるかしら」

「いやっ…実はこの首輪、今は外れないんだよね」

まずいまずい、完全に疑われてる!

「……グリム」

「…うん」

えっ、何2人共姿勢低くして…今にも飛びかかって来そうなんだけど…

「黒龍の民、確保ぉっ!」

「ちょ! 離せ!」

2人が俺に飛びかかって来る。 
俺は地面に倒れ身動きが取れなくなる。

「グリム! 今よ!」

「うん! 拘束バインド!」

魔術により、縄で俺の腕が後ろで縛られる。

もう手を動かす事は出来ない。

「村に連れて行くわよ」

「ま、待ってくれ! 俺は本当に違うんだって! ただの人間なんだ!」

「だったら大人しく首輪を外せばよかったじゃない」

「今は外せないんだよ! この首輪は特殊な物なんだ! 触れば分かるはずだ!」

「嫌よ。 黒龍の物なんて触りたくない、汚れるわ」

マジかよ…! まさかこんな事になるなんて…運悪すぎだろ…

急がなきゃいけないのに!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

腕を縛られたまま歩かされ、少しすると森を抜け、畑が見えて来た。

ここが村なのだろう。

畑仕事をしている人の手の甲を見てみると、2人と同じ刻印があった。

「もうすぐ着くわよ」

「…どこに向かってるんだ? 俺、時間ないんだけど」

畑地帯を抜けると、家が数件見えて来た。

「逃がさないわよ?」

……本当にどうしよう…

村のさらに奥へと進むと、石で作られた大きくて頑丈そうな建物の前に着いた。

赤髪の少年が扉を開け、中に入る。

中は暗めで、扉が何個もあった。
そこで青髪の少女が大きな声で

「お父様! 黒龍の民を捕まえました!」

と叫んだ。

すると、数ある内の1つの扉が開き、青髪の剣を差した大人が出て来た。

「セレス、どう言う事だ?」

「こいつを見てくださいお父様。 黒髪で首を隠しています!」

そう言うと、青髪の男は俺の顔をジッと見る。

「確かに黒髪だ。 そして首輪…なるほどな」

何が「なるほどな」だ。 

黒龍ってなんだよ本当に…

「とりあえず村長に報告しよう。 おいお前」

青髪の男は俺の頭を鷲掴み、睨む。

俺は睨み返し

「なんだよ」

「子供だろうが黒龍の民。 容赦はしないぞ」

「黒龍とか知らねぇよ。 誰だよそいつは」

「とぼけるな。 着いてこい」

青髪の男は俺の頭を掴みながら歩く。

そして男が出て来た部屋に入る。

部屋に入ると、この建物がどんな場所なのか分かった。

窓の少ない暗い部屋、頑丈そうな鉄格子。

ここは、牢屋だ。

男は牢屋の扉を開け、俺を牢屋へ放り込む。

「村長が来るまでここで待っていろ」

男は牢屋の鍵を閉めると、部屋から出て行った。

「………どうしよ…」

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