2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

75話 「カノンの記憶」

「なるほど、その食堂という場所で食事をするのですね」

「そうそう。 俺はいつも5人で食べてるんだ」

「5人とは、さっきお兄様が話していた方々ですか?」

「あぁ、セレナ、クリス、アリス、フィリアだ。 皆いい奴だぞ。 セレナは俺と同じでドーラ村出身なんだ」

「え? という事は…」

「セレナも今ドーラ村にいるぞ? 今度会わせてやるよ」

セレナも会いたがってたしな。

最初は仲良くなれるか心配だったが、思っていた以上に仲良くなれた。

…そう言えばディノス達はカノンが何故森に居たのか知っているのか?

後で聞いてみよう。

「お兄様のお友達…会ってみたいです」

「絶対仲良くなれると思うぞ」

「はい! ではお兄様、他のお話はないのですか?」

他の話か…もうほとんど話したからな…

「んー…もう剣魔学園の話は無いなー」

「そうですか…残念です」

カノンが下を向く。

な、なんか罪悪感が…

「ルージュ、カノンちゃん。 ご飯が出来たわよ」

扉が叩かれ、フローラにそう言われる。

もう夕飯の時間か、思ってたより長く話してたみたいだな。

「行こうぜ、カノン」

「はい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「どうだルージュ、カノンちゃんとは仲良くなれたか?」

夕飯を食べ終え、カノンがお風呂に入ったのを見計らってか、ディノスとフローラに呼び出された。

ディノス達も心配なんだろう。

「うん。 積極的に話しかけてくるよ」

「そ、そうか…」

「いつものカノンちゃんからは想像出来ないわね…」

一体カノンはいつもどんな感じなんだろうか。

何故カノンは俺にはよく話しかけてくるんだろう。

「…ねぇ、何でカノンが森に居たのか、分からない?」

俺は何故カノンが1人で森に居たのか、その理由を聞く事にした。

流石に本人に聞くのは抵抗があるからな。

だがディノスは

「いや…それがな、覚えてないらしいんだ。 昔の事は何もな」

…何…?

”昔の事は何も覚えてない”…?

「…父さん、それ本当?」

「ん? あぁ、覚えてるのは名前と年齢だけだと言っていた。 記憶喪失というやつだろうな、可哀想に…」

……おかしい。

カノンが昔の事を覚えてないはずがないだろ。

だってさっきカノンはこう言った。

『身を守る為に剣術を練習した』
『剣術は得意』

と、確かにこう言った。

カノンには剣術を練習した記憶があるんだ。

「カノンちゃんに記憶があれば、親探しも簡単なんだけどな…」

そうだろうな、カノンを家まで連れて行けばいいだけなんだから。

「ルージュ、カノンちゃんと仲良くしてやってくれ。 これは年齢の近いルージュにしか出来ないんだ」

「……うん。 分かったよ」

カノンは俺たちに嘘を吐いている…?

だが何故嘘を吐かなければいけないんだ?

記憶喪失なんて嘘を吐いて何の意味がある?

「お風呂上がりました」

そこに、お風呂から上がって顔が赤くなっているカノンがやって来た。

因みに俺はもうお風呂に入った。 

後はディノスとフローラだけだ。

「じゃあ次母さん、入って来るといい」

「そう? じゃあ入ってくるわね」

そう言うとフローラはリビングから出て、風呂へ向かった。

「カノン、なんか飲むか? 熱いだろ?」

「ではお水をお願いします」

「おう」

俺はコップに水を入れてカノンに渡す。

カノンはお礼を言ってから水を飲み干した。

「ありがとうございますお兄様。 お兄様はやっぱり優しいですね」

そう言ってカノンは微笑む。

んー…やっぱり何か無理して笑ってる感じがするんだよなぁ…

「か、カノンちゃん! もう一杯どうだ⁉︎ 冷たいぞ!」

笑ったカノンを見たからか、ディノスがカノンが持っていた空のコップに水を入れた。

必死すぎだろ…

「あ、ありがとうございます。 ディノス様」

だがカノンは苦笑いをして水を飲み干した。

それを見たディノスは見て分かるほど落ち込んでいた。

……ここまで態度が違うんだな…

「あ、お兄様! 今からお兄様のお部屋行ってもいいですか? お話したいです!」

「お、おう。 いいぞ」

「では行きましょう!」

カノンが俺の手を握って部屋の方へ歩き出す。

それをディノスはずっと口を開けて見ていた。

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「ではお兄様、また面白いお話を聞かせて下さい」

部屋に入り、カノンがそう言ってくる。

「…その前に、聞きたい事があるんだ」

「はい? 何でしょう?」

カノンが首を傾げて聞いてくる。

「カノンは、剣術が得意なんだよな?」

「得意ですが…でもそんなに強くはないと思いますよ? あくまで護身用として習っていただけなので」

「何歳くらいの時に剣術を練習したんだ?」

「5歳の時ですね。 父に教えてもらいました」

…やっぱり、カノンには記憶があるんだ。

なら何故記憶が無いと嘘を吐いた…?

「それがどうかしたのですか?」

カノンが記憶喪失などと言わずに本当の事を話せば、簡単にカノンの親を探せるのに…

まさか……家に帰りたく無いのか…?

「いや、ちょっと気になっただけだよ」

だが、何故カノンは俺には本当の事を話したんだ?

俺とディノス達の話が食い違うかもしれないとは考えなかったのか?

「そうですか。 ではお兄様、私、生き物のお話が聞きたいです!」

「生き物?」

「はい! 私、ほとんど外出というものをした事が無くて…だからいつも本を読んでいたんです。 その本にはいろいろな生き物が書いてあったので…」

なるほど。 …と言っても、俺もこの世界の生き物の事はよく知らないんだよなぁ…

あ、そうだ。 別にこの世界の生き物じゃなくてもいいじゃないか。

「いいぞ。 じゃあ、本に絶対に書いてない生き物の話をしてやろう」

「本に書いてない⁉︎ そんな生き物がいるのですか⁉︎」

「あぁ、いっぱいいるぞ。 でもな、その生き物は限られた人しか知ってないんだ」

「では、お兄様はその限られた人の1人なのですか?」

「そうだ。 じゃあまずは…そうだなぁ…犬っていう生き物の話をしよう」

「いぬ…? 聞いた事がないです!」

カノンは目を輝かせながら言う。

「犬はな、ペットとして飼われている事が多いんだ。 とても頭が良くてな、飼い主の言う事をちゃんと聞くんだよ」

「ど、どんな姿をしているのですか⁉︎」

「えーと…四足歩行で、小さくて、色は…まぁ沢山だな」

「お兄様…全然想像出来ません…」

悪いな、説明は苦手なんだ…

かと言って絵も苦手だしなぁ…

「他に特徴はないのですか?」

「あとは、鳴き声が「ワン!」って所だな」

「ワン! ですか? 珍しい鳴き方ですね」

そう言いながらカノンは目を閉じる。

きっと俺の説明を元に犬をイメージしているんだろう。

カノンは外出をした事がほとんどないと言っていたが、複雑な家庭だったのだろうか。
それならば、逃げてしまいたいと思っても仕方がないかもな…

「犬…いつか会ってみたいです!」

「…あぁ、会えるといいな」

よし、カノンが家に帰りたいと思うまで、楽しい事をさせてやろう。

「お兄様は犬を見た事があるんですか?」

「あぁ、何回もあるぞ」

「お兄様凄いです!」

この世界には犬は絶対に居ないだろうなぁ…

いや、もしかしたら犬に似た生き物がいるかもしれない。
もし居たら絶対にカノンに会わせてやろう。

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