2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

53話 「生物研究部の事情」

「だから、昨日も言った通り、私はよく考えてから…」

「待てセレナ」

俺はセレナの言葉を遮った。

理由は、シルフィの雰囲気が違いすぎるからだ。 さっきまでのふざけた感じだったら俺もすぐお断りしていただろう。

だが、今のシルフィを見たら簡単に断る事は出来ない。

「なぜ俺達を誘うのか聞いてもいいですか?」

「え…? そ、それはもちろん、君達を愛でる為……」

「ふざけてるんなら俺達帰りますよ。 真面目に答えて下さい」

俺がそう言うと、シルフィは左右の2人を見た。

なんだ? 簡単に話せる事じゃないのか?

「…分かったよ。 なら話すね」

シルフィは左右の2人を見て頷いた後、俺を見て話し出した。

「実はね、剣魔学園の部活にはある決まりがあるんだ」

「決まり?」

「うん。 それはね、”部員は最低でも4人いること” なんだ」

「え…? でもシルフィ先輩達は…」

セレナが困惑しながら聞き返す。

そうだ、この生物研究部はシルフィ、ミーナ、ベリーの3人だけ……

「うん、私達は決まりを守れてないんだよ」

「よくそれで今まで部活を続けられましたね」

セレナが苦笑いしながら言う。

だがそれはおかしい、今まで部活を続けられる訳がない。 
この剣魔学園の設備、大きさから考えて、ルールなどはしっかりしているはずだ。

なのに ”部員が足りていない” という分かりやすいルール違反に気づかない事があるのだろうか?


そんな事はありえない。 ならば……

「ここ最近まで、誰かもう1人、この部に居たんですよね?」

俺の言葉にセレナは驚き、シルフィ達はゆっくりと頷いた。

「ルージュ君のいう通りです。 ここ、生物研究部にはつい最近まで、わたくし達以外に1人部員が居たんです」

「でも、そいつは生物研究部を抜けたんだよ。 あたし達を捨ててな」

「ベリー……落ち着いて、ね? もう終わった事でしょ? 」

「ならシルフィはいいのかよ‼︎ このままだと生物研究部は廃部になるんだぞ!」

ベリーを止めようとしたシルフィに、ベリーが怒りを露わにする。

「落ち着いて下さいベリー! 」

「ミーナまで…! お前らこのままで……ぶぁっ⁉︎」

俺はまた怒鳴りそうなベリーの顔に、水球ウォーター・ボールをぶつけた。

「話が進まないので、ちょっと静かにしててもらっていいですか」

やっぱりこの部には4人居たんだ。 そして今のベリーのあの取り乱しようを見るに、卒業生で卒業と共に部員が減ったという事ではない。

なら、4人目の人物はシルフィ達と同級生の可能性が高い。

「お前…! いきなり何すんだよ!」

ベリーが今度は怒りの矛先を俺に向ける。

あれ……落ち着かせようと思ってやったんだけどな…逆効果だったか…?

「ベリー、お願いだから落ち着いて」

ベリーが今にも俺に飛びかかろうとした時、シルフィがベリーの肩を掴み、静かに言った。

するとベリーは、舌打ちをして乱暴に椅子に座った。

「ごめんねルージュ君…」

「い、いえ、大丈夫です」

さて、今のこの気まずい状況で、どうやって4人目の部員の事を聞き出すか……

下手したらまたベリーが怒り出すかもしれん、慎重にいかなければ…

「あ、あの…」

俺の横にいるセレナが、おずおずと右手を上げ、皆セレナを見る。

「あの、4人目の人はなんでこの部から居なくなったんですか?」

……………

セレナさん…もうちょっと空気読もうよ。
なんでこの状況でストレートにそう聞けるの? 怖いものなしか。

そのセレナのストレートさに、シルフィは唖然としてたが、我に帰り……

「う、うん。 そうだね、それを話さないとね…」

言いづらそうに、4人目の部員の事を話し出した。

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ーーシルフィ視点ーー

1ヶ月前まで、この生物研究部には私、ミーナ、ベリーの他に、もう1人部員が居た。

その子の名前はサラ。 紫色の髪をした、私達と同い年でとても優しい女の子。

これまで、生物研究部はこの4人で楽しくやって来た。 4人とも生き物が大好きで、それを調べるためにこの部を作った。

だけど…ある日、いきなりサラの様子が変わった。

「もう、あなた達とは関わりたくない」

いきなり、なんの前触れもなくそう言われた。 前日まではいつも通りだった、なのに、いきなりだった。

もちろん私達は理由を尋ねた。

だけど……

「理由? 理由なんてないよ、単純にあなた達の事が嫌いなだけ。  
シルフィの笑顔も、ミーナのいつも冷静な所も、ベリーの明るさも。 
全部、全部、大嫌いなの。 これまでずっと我慢して来たけど、もう限界」

そう言って、サラは部室から出て行った。 それ以来、サラが部室に顔を出す事は無くなった。

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ーールージュ視点ーー

「もちろん、学校でも話しかけたよ? でも、無視されて……話が出来ないんだ…」

……予想以上に重い話だった。

喧嘩別れとかならまだ可能性はあった。 お互いに仲直りすれば良いだけだからな。

でもこれは…サラって人が一方的にシルフィ達を嫌っている、これはどうする事も……

「それでね、今までは先生達にはサラの都合が合わないから部活に来れないだけです。
 って言ってたんだけど…1週間前にそれが嘘だってバレちゃってね…。
あと2週間以内に4人目の部員を見つけないと廃部になっちゃうんだ…」

「なるほど…それで俺達を誘ったんですか」

「本当の事を言わなかったのは…ごめんなさい…。 でも、私達はこの部を無くしたくないの…」

シルフィはそれほど、この部の事が好きなんだろう。

それが無くなろうとしてるんだ、焦らないわけが無い。

「分かりました。 あと1人集まれば良いんですよね?」

「ルージュ…? まさか…」

そのまさかだ、セレナ。 ここでシルフィの誘いを断り、生物研究部が潰れたとしよう。

はっきり言って、俺にはなんの被害もない。

だが、それは他人だった場合だ。 
今俺とシルフィ達は他人じゃない。 ……友達でもないけどな。

知り合いが困ってるのに、見て見ぬフリは出来ない。
 これは初めてセレナ、アリス、クリス、クレアに会った時と同じだ。

助けたいと思ったから、助ける為に全力を尽くす。

「誰かがこの部に入るまでで良いのなら、入部しても良いですよ。 本当の部員ではないですけど」

まずは、サラという人に会わなければ…理由をちゃんと聞き出して、それでも生物研究部に戻らないと言うのなら……

どうしようか……後から考えよう。

「い、いいの?」

「はい、でも新しい部員が入ったらすぐに退部しますからね」

「あ、ありがとう…ありがとうルージュ君…」

シルフィは涙を流しながら、俺に頭を下げ続けた。

「ルージュ君、わたくしからもお礼を…」

「さ、さっきは取り乱して悪かった。 先輩なのにな…あと、ありがとう、助かるよ」

ミーナからも感謝され、ベリーには謝罪された。

入部すると言っただけでこんなに感謝されるとは…

「感謝とかいいですよ。 あ、入部するにはどうすればいいんですか?」

入部するとは言ったが、肝心の入部の仕方が分からない。

面倒臭い方法じゃなければいいが…

するとそれまで泣いていたシルフィが立ち上がり、棚を漁る。

「あ、あった!」

シルフィは、棚から一枚の紙を取り出し、俺に渡して来た。

紙には、「入部届」と大きく書いてあった。

まさか入部の方法まで日本と同じとはな…

「それに名前を書いて、担任の先生に許可を貰えば入部だよ」

「了解です」

「ルージュ君、本当にありがとうね。 今日会ったばかりなのに…いつか、絶対にお礼するから」

「お礼なんていいですよ。……よし、書けた。 んじゃ早速先生に出して来ますね。 行くぞセレナ」

「う、うん!」

俺はそう言うと、カバンを持ってセレナと一緒に部室を出た。

「やっぱりルージュは優しいね〜」

「いや…あんなの断れないだろ…」

「まぁ確かに…ルージュが入らなかったら私が入部してたかも」

「ま、新しい部員が見つかるまでの入部だけどな」

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「ダメだ。 入部は認めん」

「えぇ⁉︎」

俺は職員室に居たモーナに入部届を渡し、許可を貰おうとした。
因みにセレナは廊下で待たせている。

だが、断られた。

「な、なんでですか…?」

「剣魔学園の決まりだからだ。 新入生はテストが終わるまで部活をしてはならんとな」

「ど、どうしてもダメなんですか?」

「あぁ、特別扱いはしないぞ」

でも確かテストは来週だったはずだ。 部活は廃部になるのは2週間後。

十分間に合うじゃないか、焦る必要無かったな。

これ終わったら入部するのが遅れるってシルフィ達に報告しに行かないと。

「それと、もう1つ決まりがある」

まだあるのかよ……

早く報告に行きたいのに。

「来週のテスト。 1つでも赤点があった場合。 補習が終わるまでの入部は認めない」

「…………え?」

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