2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

45話 「光属性、闇属性の条件」

学園長の話が終わり、俺達は教室に戻って来た。

今の時刻は午前10時だ。 学校が終わる時間は午後の3時らしい。

ずっと疑問に思っていたが、この世界に時間の概念があるのは召喚されて来た奴らの仕業かもしれないな。

そんな事を思っていたら、教室の扉が開き、モーナが入ってきた。

「全員いるな。 では早速授業を始める、お前達が今日受ける授業は魔術の基礎だ」

魔術か。

魔術の基礎とは一体どんな事を学ぶのだろうか。

「私は魔術の担当ではない、だからお前達に魔術を教える先生を紹介する。 ザイル先生、お願いします」

モーナがそう言うと、ザイルが教室に入ってきた。

ザイルは教壇に立つと、皆を見回し

「魔術を教えるザイルと言います。 よろしく」

短く自己紹介をした。

そして、モーナは何も言わずに教室を出て行った。

「さて、早速だけど。 魔術の事についてお話しするよ」

ザイルはそう言うと、黒板に火、水、風、雷、土、光、闇と書いた。 

もちろん日本語じゃないが。

「今黒板に書いたのは魔術の属性だ。 そして、この属性には優劣がある」

ザイルは振り返り、俺達を見ながら言った。

「火は風に強く、風は雷に強く、雷は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。 そして、闇は光に強く、光は闇に強い。 これを知っておけば戦いで有利になるよ」

なんか…ゲームみたいだな。

俺が親に内緒でやっていたゲームにもこんな設定は沢山出てきた。

「他にも複合魔術なんかもあるけど、これは今はまだやらなくていいかな」

属性の優劣があるのを知れたのは良かったな。

今まではなりふり構わず色んな魔術を使ってたが、次からはちゃんと考えて使おう。

「じゃあ次は、魔法属性の適正についてだね。 僕達には生まれた時から身体の中に魔力がある。
 魔術とはその体内の魔力を使って使うんだ。
どんな人間でも必ず1つは魔法属性の適正を持ってる。 つまり、魔術を使えない人間はいないって事だね」

まじか、全員が魔術を使えるのか。

って事はソーマもザックも魔術を使えるって事だ。

………そしたらあいつら、強すぎないか…?

「世の中には色々な人がいて、1種類の魔術しか使えない人や、2種類、3種類と、色々な属性の適正を持ってる人がいる。
でもね、1種類しかなくても諦めずに頑張れば、使える属性が増える事もあるんだ」

なるほど…用は努力すれば全ての魔術を使えるようになるかも知れないよって事か。

思った以上に奥が深いな。

「適正についてはこんな感じかな? 次は 光、闇属性の魔術についてだ。
光、闇属性はほかの5属性の魔術とは違って、努力しても使えるようになるのは難しいんだ」

そんなに特殊な魔術なのだろうか、使ってる感じだと他の魔術と変わらないような感じだが…

「言ってしまえば、この2つの属性は本人の気持ちによって使えるか使えないかが決まるんだ」

本人の気持ち…?

クラスメイト達も訳が分からないようで、首を傾げている者が多い。

「まぁ、分からなくても無理はないね。 では、2つ皆に質問したいんだけど、このクラスの中で光属性の魔術を使える人っているかな?」

これは、手を挙げろって事か?

横に座っているセレナは真っ直ぐ手を挙げているので、俺も手を挙げた。

「なるほど、2人だね」

どうやら2組で光属性の魔術を使えるのは俺とセレナだけらしい。

「さて、では2つ目の質問。 このクラスで、闇属性の魔術を使える人はいるかい?」

俺はもう一度手を挙げた。

手を挙げた奴は俺だけだった。

ザイルは俺の顔をジッと見る。

……なんだ? 真剣そうな顔して。

「……うん。 ありがとう、手を下ろしていいよ」

そう言われ、俺は手を下ろした。

それからはフローラに教えてもらった事と対して変わらない内容だった。

まぁ基礎だしな、これからどんどん難しくなっていくんだろう。

「さて、じゃあ今日の授業はここまでにしようか。 今日は初日だしね」

もう終わりなのか。 時計を見るとまだ午前の11時だった。

昼前に終わるって相当早いな。

「明日からは剣術、魔術、武術などの授業が本格的に始まるから、皆頑張ってね。
じゃあ解散!」

ザイルがそう言うと、クラスメイト達はいっせいに立ち上がり、自由に過ごし始めた。

「はーっ! 緊張したね!」

セレナが手を伸ばしながら言った。

まぁ初めての授業だしな。

「ですね、でも色々な事を学べそうです!」

「努力次第で使える魔術が増えるとは知らなかったな。 僕もルージュみたいに色々な魔術を使えるようになれるように頑張るよ」

確かに色々な事を学べそうだ。

だが、光と闇属性の魔術を使えるかどうかは本人の気持ち次第ってどう言う事なんだ…?

「あ、ルージュ君。 ちょっといいかな?」

「はい?」

急にザイルが俺に話しかけてきた。

なんだ? 

ザイルが話しかけてきた事によって、セレナ達は無言になる。

「ちょっと話したい事があるんだ、すぐ終わるから、来てくれないかな?」

「はい、いいですけど…」

ザイルは真剣な顔で言ってきた。

「ルージュ…?」

「なに? また何か問題起こしたの?」

セレナからは心配され、フィリアにはからかわれた。

問題なんか起こしてない。


起こしてないはずだ。


……起こしてないよな…?

やばい、ちょっと不安になってきたぞ。 なんかやらかしたか?

「大丈夫、お説教じゃないから」

ザイルが笑いながら言ってきた。

…なんだ、びっくりした。

俺は教室を出て、ザイルについて行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここでいいかな」

ザイルはとある教室の前で止まった。

ここは……

「生徒指導室…?」

まじでここ日本なんじゃないの?

てか指導室って…やっぱり説教されんのか?

ザイルは扉を開け、中に入った。

俺も中に入る。

生徒指導室の中は長机が1つあり、その横に椅子が3個ずつ置いてあった。

俺とザイルは向かい合わせに座った。

「さて、今回来てもらったのはね、闇属性の魔術について話しておく事があるんだ」

「闇属性?」

なんで急に闇属性の話を俺にするんだろうか。

別に教室でも良かったんじゃないか?

「単刀直入に聞くよ。 ルージュ君、過去に何か…そうだな、人を恨むような事は無かったかい?」

「はい?」

人を恨む? 急になんだ。

なんで人を恨む事と闇属性が関係あるんだ?

「無い…と思いますけど」

「そうか…」

「あの、これが闇属性の魔術とどう関係があるんですか?」

「さっき授業で言ったけど、光と闇の属性は本人の気持ち次第で使えるようになるか決まるんだ」

俺は黙って頷く。

問題はその続きだ。

「ではその”気持ち”とは何か。 まず、光属性を使える条件は、『純粋な清い心がある事』だ。 
まぁ光属性に適正が無い人は純粋じゃないとは言えないけどね」

純粋な清い心。

それが光属性を使える条件? 

ならば闇属性は……

「対して闇属性は…『汚れた黒い心がある事』…なんだ」

「……なるほど、大体分かりました。 でも、おかしくないですか?」

「そう、おかしいんだ。 君は光、闇どちらも使える。 本来なら絶対にありえない事だ」

黒い心がある時点で純粋な清い心ではない。

矛盾だらけじゃないか。

「でも、俺の母は何も言ってませんでしたよ?」

フローラは俺が闇属性を使える事を知っている。

なのに何も言わなかった。

「それはきっとこの事を知らなかったんだろう」

なるほど…ザイルは教師で、フローラは元魔術師だからな。

知識の差があるのは当然か。

「ルージュ君。 本当に過去に何も無かったのかい? 誰かを恨んだり、何かに絶望したり…」

「そんな事言われても…ずっと楽しく暮らして来ましたから……あっ」

まさか…向こうの世界の事が原因か…?


日本での俺は確かに絶望していた。 

学校の奴らに、教師に、そして何より、両親に……

だがこっちに来てからは恵まれていた。

初めて出来た友達、優しい両親。

「…そういう事か」

「ん? なんだい? 何か分かったのかい?」

向こうの世界では絶望し。 こっちの世界では恵まれて。

光と闇属性の条件をクリアしてるじゃないか。

「はい。 確かに俺は闇属性の条件をクリアしてました」

「………」

ザイルは悲しそうな顔をする。

「あっ、でも今は全然違いますよ⁉︎ 親には優しくされましたし、友人もいますし、満足してますから」

まさか闇属性にこんな条件があったとは思わなかった。

「……そうか。 なら良いんだ。 急に呼び出してごめんね、もう戻って良いよ」

「はい」

ザイルにそう言われ、生徒指導室を出た。

光と闇属性。 最近夢にでるようになった日本での記憶。

一体俺は急にどうしたんだろうか? 

やっと幸せになれたのに、あんな記憶…忘れたいのに。

忘れるな、忘れるなと、俺にそう訴えてくるようだ。

「あっ、ルージュ帰ってきた!」

いつの間にか教室に帰ってきていたらしい。

教室にはセレナ達しか残っていなかった。

「あれ、待っててくれたのか」

「うん! 」

「それで、お話とは何だったのですか?」

「まさか本当にお説教じゃないでしょうね?」

「違うよ。 まぁ……なんだろうな…世間話してたんだよ」

「世間話? わざわざ2人でか?」

流石に無理があったか。

皆が真剣な表情で見てくる。

んー…どうするか。

「あー…今度話すよ」

しっかり言い訳を考えないとな。

余計な心配かけたくないし。

「さて、昼食食いに行こうぜ。 確か食堂があるんだろ?」

各校舎に1つずつ食堂があるらしい。

そこで朝昼夜は昼食を食べる事が出来る。

なんと無料でだ。

「もう腹減ってさ、早く行こうぜ!」

俺は皆の返事も聞かずに歩き出した。

俺の後ろにいる4人が、俺の事を心底心配そうに見ている事に気付かないまま。

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