2度目の人生を、楽しく生きる

皐月 遊

31話 「守られるという事」


「どんだけ広いんだよこの学校は…」

「進んでる方向は合ってるはずなんだけどね」

今俺達は西棟へ向かっている。

外から見ただけでも分かったが、いざ中を歩くと改めて思う。

この学校広すぎだろ。

「そういえばさ、こんなに歩いても入学者達と全然会わないね」

セレナが俺が気になっていた事を言う。

確かに、ここはゴール直前の場所だ、なのに入学者が見えないのは明らかにおかしい。

グレンの所に倒れていた入学者の数はかなりの数だった。

あいつらは全員不合格だろうが、それを除いても入学者の数が多い事に変わりはない。

この学園の教師は強い、だからほとんどの奴らが教師にやられたか。

もしくは、既にほとんどの奴らがゴールしているかだ。

可能性は同じくらいだ、入学者がどれくらいの実力かは分からない、俺なんかより全然強い奴も居るだろう。

「そうだな、もしかしたら俺達結構早い方なんじゃないか?」

だが、それをセレナ達に話す事はしない。

今は不安になる場合じゃない、自信を持つ事が大事なんだ。

「そうかなぁ…」

「きっとそうだって! あんまり気にしないで行こうぜ」

「うん、分かった!」

セレナは笑顔になり、俺の前をズンズンと歩いていく。

「優しいのね、あなた。 試験が始まってから何時間経ったと思ってるの?」

「フィリアも今はあんまりそういう事考えんなよ、明るく行こうぜ明るく!」

「私はセレナみたいに他人の言葉や考えをすぐに信じられないわ、自分の考えが1番信じられる」

そういったフィリアの言葉には、なんというか……重みがあった。

過去に何かあったのだろうか、まだ10歳だというのに、重度の男嫌いという事と何か関係があるのだろうか。

「そうか、まぁ疑う事が悪い事とは言わねぇよ、時にはそれが役にたつときもあるしな。  でも明るくいる事は大事だぞ?」

俺がフィリアに言うと、フィリアはジッと俺を見つめ、セレナには聞こえず、俺にしか聞こえないような声音で言った。

「それが、あなたみたいに偽物の明るさでも?」

「……………」

言葉が出なかった。

なんだ? こいつは俺の何を知ってるんだ? 

「あなた、無理して子供っぽく振舞っているでしょう」

まさか……フィリアは知ってるのか? 俺が転生者だという事を…

そして、俺の中身が本当は17歳だという事を…

そう考えると、目の前のフィリアが凄く怖く思えてきた。

「お、お前は…一体……」

その言葉は、凄く震えていた。

だが、聞かなければいけない事がある。

”フィリアは俺の正体を知っているのか”、それは聞いておかなくてはいけない。

「男は、皆嘘つきだから、信用なんて出来ないわ」

「………ん?」

「あなたが何故無理して明るく振舞っているかは私は知らないわ、でも、そんな人を信じる事は出来ないし、近寄ろうとも思わないわ」

「そっ、そうか…」

結局、フィリアは俺の正体を知っているわけではなかったらしい。

だが、初対面のフィリアに気づかれたというのは問題だ。

もっと子供らしく振舞わなきゃダメだ。

………こんな事を考えてる時点で、子供っぽくはないんだろうな……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あれから、俺達はひたすら校舎を歩き続けた、走る事も考えたが、トラップが仕掛けられてる可能性がある為、徒歩にした。

セレナが前を歩き、その後ろにフィリア、1番後ろに俺という順番で進んでいる。

もう西棟に入っているので、もうすぐゴールのはずだが……

「あー!」

1番前にいるセレナが、何かに気づいたのか、声を上げた。

「どうした? 何かあったか?」

「うん! 来て来て!」

セレナが手招きをするので、俺とフィリアはセレナの元へ行く、セレナが指差した方角を見てみると……

「あ、あった…」

まだ少し距離はあるが、俺たちの進んでいる方向にある扉には、間違いなく《第一試験会場》と書いてあった。

「もうゴールだよ!」

「やっとか……随分歩いたなぁ」

「早く行こうよ!」

セレナが走り出した為、俺とフィリアも走り出す。

もうすぐそこだ、教室に入ればゴールだから、襲撃はないと考えていいだろう。

走った為、あっという間に《第一試験会場》と書かれた教室の前に来た。

「じゃあ、開けるよ?」

「えぇ、いいわよ」

「やっとゴールか…」

俺達は安心しきっていた。

だから、セレナが勢いよく扉を開けた時に、反応が遅れてしまった。

「まだ終わりじゃないよっ!」

教室の中には1人の男が居た。 

その男は剣を持っており、扉を開けた瞬間にセレナに斬りかかって来た。

「っ! くそっ…!」

俺は何とかセレナとフィリアを突き飛ばした、だが突き飛ばす事に夢中で相手の攻撃を受けとめる手段はなかった。

「ぐあっ!」

無防備の状態で相手の攻撃をくらい、俺は飛ばされて廊下の壁に当たる。

「ルージュ! 大丈夫⁉︎」

セレナとフィリアが俺の元に来る。

セレナの手を借りゆっくりと立ち上がり、前を見る。

そこには剣を片手に持ち、青い髪を持った男が立っていた。

「なんで…ここに着いたら合格のはずだろ」

「うん、君達は合格だよ」

「…は?」

こいつは何を言ってるんだ? 

合格したなら何故俺達を襲う……?

「君達は合格だよ、”第一”試験はね」

………なるほどな、そういうわけか……

確かに、学園長の話は「先着500名を試験合格とします」という話だったが、一度も先着500名を入学を認めるとは言っていない。

「……つまり、あなたを倒すのが第二試験ってわけですか?」

「まぁ、君達はそうだね」

「”君達は”? 」

「うん、この時間は僕を倒すのが第二試験なんだ」

「他の第二試験もあるって事ですか?」

「そうだよ、例えば筆記試験とか、能力テストとかね」

マジかよ、時間によって試験が変わるのか。

筆記試験とか合格できる気がしないぞ。

「まぁ安心してよ、この第二試験を合格すれば、君達はこの学園の生徒だ。 これは本当だよ?」

「そうですか」

最後の最後で戦闘か……

俺は背中の剣を抜き、構える。

俺の右にいるセレナも細剣を構え、俺の左にいるフィリアは片手剣を構える。

「それじゃあ、ここじゃちょっと狭いけど……始めようか」

「そうですね」

「まず自己紹介をしておこう、僕はカインだ」

カインと名乗った男は両手を広げながら言った。

こいつもきっと相当強いんだろう、覚悟して行かないとな。

「俺はルージュです」

「……セレナです」

「フィリアよ」

セレナの機嫌が悪くなっている。

何故かカインをずっと睨んでいる。

「ルージュ君とセレナちゃんとフィリアちゃんだね。 最初に言っておくけど、加減はしないからね」

カインが腰を低くして、今にも走り出そうとしている。

だが動かない所を見ると、カインは俺達が動くまで何もしない気だろう。

「よし、2人共、まずは俺が先に……」

閃光矢ライトニング・アロー‼︎」

「え、セレナ⁉︎」

セレナの行動にフィリアが驚いた声を出す。

俺だってビックリだ、いつものセレナだったらこんな事はしないはずだが……

「おっと…いきなり中級魔法かい」

カインは閃光矢を簡単に避ける。

ザイル程ではないが、躱し方が綺麗だ。

閃光矢を躱したカインはそのままセレナに向かって走り、剣を振り上げる。

「くそっ!」

俺はセレナを守ろうとセレナの前に出ようとしたが……

「私は大丈夫!」

セレナは細剣でカインの剣を防いだ。

俺はその事にビックリして足が止まってしまった。

爆風ブラスト!」

セレナがカインの剣を防いでいる隙に、フィリアが風魔法でカインを飛ばす。

今の威力…中級魔法か?

飛ばされたカインは廊下を転がる。

「ルージュ、戦闘ではもう私の事は守らなくていいから」

「え……」

セレナが真剣な声で言ってきた。

セレナがこんな事を言うのは初めてで、俺は衝撃だった。

「私達は強くなる為に王都に来たんだよ? なのに、守られてばかりじゃ私は強くなれない。 それを、この試験で知ったの、ルージュが居ないと、私は弱いんだって…」

「…………」

「ルージュと違う場所にテレポートさせられて、私は自分の弱さを知った。 
私は誰かに守られてばかりだったの、守られるって事は、下に見られてるって事でしょ? 
そんなの……もう嫌だから」

セレナはそう言うと、立ち上がったカインをジッと見つめた。

確かに、俺はセレナを守る事が多かったと思う、俺はそれはセレナの事を思ってやっていたが、セレナからしたら嫌だったのだろう。

守られるという事は、下に見られてるという事、確かにその通りだと思う。

なぜ今まで俺はその事に気付かなかったんだろう。

カインは剣を構えながら、こっちに走って来ている。

「分かった、もうセレナの事は守らない」

セレナはもう、イジメられていた頃のセレナじゃない。

「うん、ありがとう」

俺はセレナの横に立ち、カインに向かって剣を構える。

「よし…俺とセレナとフィリア、絶対3人でこの試験をクリアしようぜ!」

「うん!」

「言われなくてもそのつもりよ」

俺達は、カインに向かって走り出した。

第二試験が、始まった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品