14話「王都へ」

誕生日パーティーから2日が経ち、剣魔学園の入学式まであと2日となった。

そして今日、俺とセレナはこの村を出て、剣魔学園のある王都へ向かう。

ちなみにこの村の名前は”ドーラ村”という名前らしい。

ドーラ村はドラグラード王国の東側にあり、このドーラ村から王都へ行くには1日かかるらしい。

なので今日出発するのだ。

「おいルージュ！忘れ物は無いな⁉︎ 大丈夫だな⁉︎」

さっきからディノスが何回もこのセリフを言ってくる。

ドーラ村を出るのは今日の夕方、そして今はまだ昼前だ。

なのであんなに焦る必要はないと思うのだが……

「ちゃんと確認したから大丈夫だよ」

「本当か⁉︎ 服とかは王都で買うからいいとして……本当に大丈夫か？向こうで気づいてもこの村にはしばらく戻ってこれないんだぞ？」

「だから大丈……え？」

今、なんて言った？

しばらく戻ってこれないって言ったか？

「しばらく戻ってこれないって…どういう事？」

「ん？ ………あっ⁉︎」

ディノスが驚いた声を出す。

あぁこれは……ダメなやつだ。

ディノスは自分がなにかやらかした事に気づくと、こうやって驚いた声を出す。

「ま、まさか……言ってなかったか？」

このパターンも何回も経験済みだ。

「うん、聞いてないよ」

「まっ、マジか……実はな、剣魔学園は全寮制でな、平民も貴族も皆寮で暮らすのが決まりなんだ」

「ほぉ」

「だから、この村に帰ってこれるのは長い休み……夏休みや冬休みだけだ」

「なるほど」

「……寂しいか？」

ディノスの問いに、もし自分が精神も10歳だったらという事を考えてみる。

10歳の普通の子供が、いきなり親と離れて同い年の友達と暮らせと言われる。

きっと日本とかの子供なら嫌だ嫌だと泣き叫ぶだろう。

だがセレナはどうだ、彼女は剣魔学園に行こうとしている、セレナはもちろん親と離れて寮で暮らすという事も知っているはずだ。

しばらくディノスやフローラと会えないのは寂しいが、永遠に会えなくなるわけじゃない。

なら別に大丈夫だろう。

「いや、大丈夫だよ」

「そ、そうか。良かった…」

ディノスは心底安心した声を出した。

もし俺が「なら剣魔学園には行かない」と言ったらどうしてたのだろう。

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とうとう時刻は夕方になり、そろそろ出発するの時間だ。

エゼルミア家がアルカディア家にやってきた。

王都へは馬車で行くらしい、ドーラ村に３つしかない貴重な馬車だ。

ちなみにセレナは俺と共にディノスと3人で王都へ向かう事になっている。

アレスは行かないのかと聞いてみたら

「本当は俺もついて行きたいけど…俺まで居なくなったらこの村を守る人が居なくなるからね」

と言ってきた。

どうやらこの村はディノスとアレスが守っているらしい。

まぁ2人がいない間に魔物とかが攻めてきたら大変だもんな。

「よしっ！馬車を連れてきたぞ。ルージュ、セレナちゃん！荷物を詰め込め！」

ディノスが馬車を連れて家に来た。

馬車は馬が一頭で引いていくタイプで、1人が馬に乗るらしい。

なのでディノスが馬に乗り、俺とセレナは荷台に乗る事になるだろう。

馬車の荷台は子供2人が乗るには広すぎだった、俺たちの荷物を置いても十分すぎるほどだろう。

「ルージュ！早く荷物を積んじゃおう！」

「あぁ」

セレナは目をキラキラさせて馬車を見ていた。

この世界でも馬車は珍しいんだろうか。

「えっとー……本持った、剣持った、ハンカチ持った、タオル持った、最低限の服も持った……よし！大丈夫そうだな」

俺は荷物の最終確認を済ませ、荷台に荷物を積んだ。

剣はディノスに言われたので、座っててもすぐに取れる場所に置いた。

「よっし！私も大丈夫だよ！」

セレナも荷物を荷台に積み終えた。

これで出発の準備は終わりだ。

馬車の前にはフローラ、アレス、セルミナが立っていた。

フローラは俺を呼び、アレスとセルミナはセレナを呼んだ。

俺たちはそれぞれ呼ばれた方向に歩いていく。

「ルージュ、しばらく母さんと父さんに会えなくなると思うけど…」

「うん」

きっとこれは別れの挨拶的なやつだろう。

「2ヶ月に1回…いや、1ヶ月に1回は母さんと父さんに手紙を書きなさい」

「手紙？」

「えぇ、学校で何があったとか、こんな技を覚えたとか、そんな事でいいから」

「うん、分かったよ」

「じゃあ、母さんからは以上ね！」

「んじゃ、次は俺だな」

フローラからの話が終わり、次はディノスの番だ。

ディノスは自分の腰の剣を指でつつき

「ルージュ、お前はこの5年間、俺に1度も勝てなかったな」

「うっ…」

「だがな、それは決してお前が弱いからじゃない」

弱いからじゃない？どういう事だろう。

この5年間、俺はディノスに勝つ事を目標として、魔術や剣術を頑張ってきた。

だが結局ディノスには勝てなかった、それはただ俺が弱いからでは無いのか？

「お前が俺に勝てないのは、単純に俺とお前の経験の差だ。確かに実力の差もあるだろう。だがな、どれだけ強くなろうが、結局は知識を多く持っている方が有利なんだ」

「知識…」

「あぁ、俺は今まで初級魔法や中級魔法なんざ沢山見てきた、だからその対処法も知っている。
対してお前は俺が使う魔術も、剣の技も知らない事ばかりだ、それが知識の差だよ」

「なるほど」

「だがこれからお前はいろいろな事を学び、いろいろな奴と戦う事になる、すると自然と知ってることが多くなるだろう。」

ディノスは俺の頭を撫でると

「ルージュ、お前は戦いの才能がある。
俺が見た事も無いような戦い方をお前は思いつき、それを実行できる。
そういう人と違う発想ができる奴は、強くなる。」

戦いの才能がある。

そうディノスに言われ、俺は自然に笑っていた。

「でもな、もしこれからルージュがいろいろな奴と戦い、それに勝っても、絶対に調子に乗るな。喜ぶのはいい、だが調子には乗るな」

「……？」

「まぁ…まだ分からないか。
だがいつか、その意味が分かる日が絶対に来る」

ディノスはたまに見せる真剣な表情だった。

まだ俺はディノスが言った言葉の意味は分からないが、ディノスの言った通り、いつかはわかる日が来るのだろう。

「よしっ！んじゃ俺からも終わりだ」

ディノスとフローラからの挨拶が終わった。

セレナの方を見ると、セレナはアレスとセルミナと抱き合っていた、相変わらず仲がいい。

するとセレナが両親に何かを言った後、俺の方に歩いてきた、どうやら向こうも終わったらしい。

「終わったか？」

「うん、ちゃんと話をしてきたよ」

「そうか」

「よし、んじゃそろそろ出発するぞ！」

俺とセレナが話していると、ディノスがそう言った。

ディノスはすでに馬に乗っていた。

俺たちは急いで荷台に乗り込み、俺たちを見ている3人に向かって

「「それじゃあ、行ってきます‼︎」」

と言った。

すると3人は声を揃え

「「「行ってらっしゃい！」」」

と言ってくれた。

その言葉を合図に、ディノスは馬車を動かした。

馬車はゆっくりと進んでいる、今まで暮らした家がどんどん小さくなり、ずっと手を振ってくれていた親たちが見えなくなった。

「ようやくだね」

「あぁ、剣魔学園……いったいどんな奴らが居るんだろうな？」

「んー…やっぱり強い人が多いんじゃないかな」

「そうだろうなー、友達出来るといいな」

「そうだね、友達……出来るかなぁ」

セレナは不安そうな声を出した。

剣魔学園にはどんな奴らがいるのは想像がつかない、仲良くできる奴がいるかも分からない。

だが俺たちは、そこで学んでいくしかないのだ、自分の夢を叶えるために。

馬車はゆっくりと進んでいく、王都へ………剣魔学園へ向かって。