引きこもり姫の恋愛事情~恋愛?そんなことより読書させてください!~
引きこもり虫と風邪
風邪を引きまし……げほげほ!
「まさか二日遠出しただけで夏風邪になるなんて。どんだけ体弱いのよ」
「うるざい……げほっげほっ!」
今日は自分の部屋でお休み中。夏真っ盛りだけどお布団を首までかけられる。
「とにかく今日は絶対安静。書庫も鍵かけたから立ち入り禁止だよ音」
「あい……」
「音ちゃん辛そうだね」
「ゔん……」
何でこいつらは平気なんだ。
「あんたが弱いんだよ」
「心を読むな……」
安静にしてろって言ったんだから一人にしてくれ。ああ辛い。本を読みたい。
? ひんやりとした物がおでこに……気持ちいい。
ぎゅっと掴んでみる。人肌のような感触が。人肌?
「神宮寺ざん?」
「ああごめんね。起こしちゃったか」
いや、それは良いんですけど。何故いる?
「……どうしたんですか?」
「凛音さんが風邪ひいたって月海さんから聞いたから御見舞に来ました。調子はどう?」
「大丈夫……と言いたいけど正直トイレに行くのも辛いです」
神宮寺さんが頭を撫でてくれる。安心感がありますね。
「眠い」
「うん。寝ていいよ」
ではお言葉に甘えまして。すやすや。
僅か数分で彼女は眠りについた。能面顔だけどやっぱり顔は赤くもなるし息もあがっている。
でも引きこもり過ぎる要因もあるだろうな。これからはたまに散歩でもさせようか。
「神宮寺さ~ん?」
「ん? どうしたの月海さん」
「いーえ? 凛音はどうしてるのかなぁと思って」
彼女は初対面の時から僕を利用する気満々だった。
ただそれは今まで媚を売ってきた女どもとは違いとにかく御子柴を発展させたいという願望からだ。
「君は家族思いなのか策略家なのか……」
「どっちでしょうかねぇ?」
敵対したくは無いけどこれだけ裏が見えないと俄に信じられないな。
「大丈夫だよ神宮寺さん。家族を貶めようものなら全員が敵になっちゃうんだから全てを丸めようなんて思ってないよ」
「そう。それならまあ」
神宮寺を丸め込まれたらこっちも被害を受けなければいけないし……
ぎゅっ……
「……凛音さん?」
「……さん。お母さん」
ぎょっとして月海さんの方を見るとしかめ面をして目線をそらした。
「小さい頃は風邪をひくとお母さん……美琴さんが看病してくれてたの。だからどうしても思い出しちゃうんだよ。風邪をひくと正直になるって本当かもね」
凛音さんの目尻には涙が浮かんでいる。
彼女は感情が浮かび上がることは無いと言っていた。でもそれは嘘だ。だって泣いているじゃないか。
苦しそうに喘ぐ彼女の口に少し触れる。
「月海さん。彼女はちゃんと笑えるよ。だから僕は諦めないよ」
「……勝手にしたら良いよ神宮寺さん。それで凛音が幸せになるかは別だけど」
彼女はぶっきらぼうに言い放って出て行った。
分かっているよ。君だって十七年間凛音さんの笑顔が見たかった筈だから。家族が――凛音さんが失った笑顔を取り戻すことが辛いことも。
それでも僕は諦めないよ。僕の好きになった人。僕の婚約者なのだから。
いつもそうだ。お母さんはいつも笑顔すら浮かべられない私を可愛がってくれた。本をたくさん読ませてくれて、風邪の時はずっと一緒にいて手を握ってくれた。
華ちゃんにはよく「ママを独り占めしないで!」って泣かれてたな。
それなのにお母さんはいなくなってしまった。お通夜の時だけは人のざわめきが……私を罵るような言葉が神経を逆撫でして仕方が無かった。
夢の中でもお母さんは会いに来てくれる。だけど触れない。触ったら泡になって消えてしまう。
でも風邪の時はいてくれる。だからその時は存分に甘えさせてもらう。
「お母さん。お母さん」
お母さんは私を抱きしめて頭を撫でてくれる。声は出てこないけどそれだけで充分なの。
ねえお母さん。お母さんにも見せてあげたかった。
神宮寺さんって言う婚約者を。その人は物好きで私と同じ本の虫でこの性格を好きになってくれた。
可笑しいでしょお母さん? ここは夢の中だから私は笑える筈。ねえお母さん。私、笑えてる? 神宮寺さんの前でも笑えるでしょうか? ねえ……お母さん。
「お母さん……」
手を伸ばしても掴むのは空だけ。目を開けると見慣れた天井。それと心配そうな神宮寺さんの顔。ぼやけて少し見づらい。泣いてたのか私。
「大丈夫ですか凛音さん?」
私の目尻を親指で軽く擦ってくれる。どこか痛いと思っているのかな。
「はい。少し夢を見てまして」
「夢、ですか。それなら安心しました」
あ、やっぱりどこか痛むと思われてたのか。失敬失敬。
「大分熱も下がって来ています。真さんを呼びましょうか? そろそろお腹が空く頃だと」
言われた瞬間グ――とお腹が。
「……呼んできてください。ついでに帰って今のを記憶から消去してくださ……何笑ってんですか喧嘩売ってる?」
「ふ、ふふ……いや、ごめんお腹は正直だなと。ふふふ……」
「正宗兄さんに神宮寺さんにいじめられてるとメールしましょ」
「ああごめんなさい。彼は怖いのでよしてください」
いつの間に意気投合してんだこの人達。
「夕方ですしそろそろ帰ります。お大事に凛音さん」
「ありがとうございます神宮寺さん。また今度」
入れ替わりのようにまこちゃんが入ってきた。おお~まこちゃんそれは玉子がゆですか。
「あ~んしてあげよっか?」
「まこちゃん食べれる」
「華は今日食べさせてって甘えて来たよ?」
「あの子風邪じゃないよね?」
神宮寺さんはくすりと笑ってその場を後にした。
私はお粥を食べてまたぐっすり眠り、次の日は書庫に入り浸り月海とまこちゃんに怒られた。
そうして夏休みは終わりを告げたのだった。
「まさか二日遠出しただけで夏風邪になるなんて。どんだけ体弱いのよ」
「うるざい……げほっげほっ!」
今日は自分の部屋でお休み中。夏真っ盛りだけどお布団を首までかけられる。
「とにかく今日は絶対安静。書庫も鍵かけたから立ち入り禁止だよ音」
「あい……」
「音ちゃん辛そうだね」
「ゔん……」
何でこいつらは平気なんだ。
「あんたが弱いんだよ」
「心を読むな……」
安静にしてろって言ったんだから一人にしてくれ。ああ辛い。本を読みたい。
? ひんやりとした物がおでこに……気持ちいい。
ぎゅっと掴んでみる。人肌のような感触が。人肌?
「神宮寺ざん?」
「ああごめんね。起こしちゃったか」
いや、それは良いんですけど。何故いる?
「……どうしたんですか?」
「凛音さんが風邪ひいたって月海さんから聞いたから御見舞に来ました。調子はどう?」
「大丈夫……と言いたいけど正直トイレに行くのも辛いです」
神宮寺さんが頭を撫でてくれる。安心感がありますね。
「眠い」
「うん。寝ていいよ」
ではお言葉に甘えまして。すやすや。
僅か数分で彼女は眠りについた。能面顔だけどやっぱり顔は赤くもなるし息もあがっている。
でも引きこもり過ぎる要因もあるだろうな。これからはたまに散歩でもさせようか。
「神宮寺さ~ん?」
「ん? どうしたの月海さん」
「いーえ? 凛音はどうしてるのかなぁと思って」
彼女は初対面の時から僕を利用する気満々だった。
ただそれは今まで媚を売ってきた女どもとは違いとにかく御子柴を発展させたいという願望からだ。
「君は家族思いなのか策略家なのか……」
「どっちでしょうかねぇ?」
敵対したくは無いけどこれだけ裏が見えないと俄に信じられないな。
「大丈夫だよ神宮寺さん。家族を貶めようものなら全員が敵になっちゃうんだから全てを丸めようなんて思ってないよ」
「そう。それならまあ」
神宮寺を丸め込まれたらこっちも被害を受けなければいけないし……
ぎゅっ……
「……凛音さん?」
「……さん。お母さん」
ぎょっとして月海さんの方を見るとしかめ面をして目線をそらした。
「小さい頃は風邪をひくとお母さん……美琴さんが看病してくれてたの。だからどうしても思い出しちゃうんだよ。風邪をひくと正直になるって本当かもね」
凛音さんの目尻には涙が浮かんでいる。
彼女は感情が浮かび上がることは無いと言っていた。でもそれは嘘だ。だって泣いているじゃないか。
苦しそうに喘ぐ彼女の口に少し触れる。
「月海さん。彼女はちゃんと笑えるよ。だから僕は諦めないよ」
「……勝手にしたら良いよ神宮寺さん。それで凛音が幸せになるかは別だけど」
彼女はぶっきらぼうに言い放って出て行った。
分かっているよ。君だって十七年間凛音さんの笑顔が見たかった筈だから。家族が――凛音さんが失った笑顔を取り戻すことが辛いことも。
それでも僕は諦めないよ。僕の好きになった人。僕の婚約者なのだから。
いつもそうだ。お母さんはいつも笑顔すら浮かべられない私を可愛がってくれた。本をたくさん読ませてくれて、風邪の時はずっと一緒にいて手を握ってくれた。
華ちゃんにはよく「ママを独り占めしないで!」って泣かれてたな。
それなのにお母さんはいなくなってしまった。お通夜の時だけは人のざわめきが……私を罵るような言葉が神経を逆撫でして仕方が無かった。
夢の中でもお母さんは会いに来てくれる。だけど触れない。触ったら泡になって消えてしまう。
でも風邪の時はいてくれる。だからその時は存分に甘えさせてもらう。
「お母さん。お母さん」
お母さんは私を抱きしめて頭を撫でてくれる。声は出てこないけどそれだけで充分なの。
ねえお母さん。お母さんにも見せてあげたかった。
神宮寺さんって言う婚約者を。その人は物好きで私と同じ本の虫でこの性格を好きになってくれた。
可笑しいでしょお母さん? ここは夢の中だから私は笑える筈。ねえお母さん。私、笑えてる? 神宮寺さんの前でも笑えるでしょうか? ねえ……お母さん。
「お母さん……」
手を伸ばしても掴むのは空だけ。目を開けると見慣れた天井。それと心配そうな神宮寺さんの顔。ぼやけて少し見づらい。泣いてたのか私。
「大丈夫ですか凛音さん?」
私の目尻を親指で軽く擦ってくれる。どこか痛いと思っているのかな。
「はい。少し夢を見てまして」
「夢、ですか。それなら安心しました」
あ、やっぱりどこか痛むと思われてたのか。失敬失敬。
「大分熱も下がって来ています。真さんを呼びましょうか? そろそろお腹が空く頃だと」
言われた瞬間グ――とお腹が。
「……呼んできてください。ついでに帰って今のを記憶から消去してくださ……何笑ってんですか喧嘩売ってる?」
「ふ、ふふ……いや、ごめんお腹は正直だなと。ふふふ……」
「正宗兄さんに神宮寺さんにいじめられてるとメールしましょ」
「ああごめんなさい。彼は怖いのでよしてください」
いつの間に意気投合してんだこの人達。
「夕方ですしそろそろ帰ります。お大事に凛音さん」
「ありがとうございます神宮寺さん。また今度」
入れ替わりのようにまこちゃんが入ってきた。おお~まこちゃんそれは玉子がゆですか。
「あ~んしてあげよっか?」
「まこちゃん食べれる」
「華は今日食べさせてって甘えて来たよ?」
「あの子風邪じゃないよね?」
神宮寺さんはくすりと笑ってその場を後にした。
私はお粥を食べてまたぐっすり眠り、次の日は書庫に入り浸り月海とまこちゃんに怒られた。
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