ヒーローライクヒール

手頃羊

その4・生きてる人

人間を食べていた少女と遭遇してすぐ後。
エリーを連れて少女が逃げ出した家の奥へと入る。
1つの扉を見つけた。

(他に扉はなし…ということは、ここにいるとしか考えられないな。)
扉を開けようとするが、開けることができない。

(バリケードか。)
扉の向こうで何かが塞いでいる。

(だが、この向こうにいるはずだ。)

ハゼット「おい、あんたは人間か?それとも、外にいる奴らのように人間を食べるやつか?」
怯えさせないように柔らかいトーンで話しかけるが、返事がない。

エリー「ハゼットさん、そのセリフだと逆に怯えさせちゃいますよ。」

ハゼット「む、そうか…」

(だが話はしなければならない。)

ハゼット「せめてあんたが俺たちを傷つけるような存在かだけでも教えてくれ。そうでないなら、俺たちはあんたに危害を加えない。」

少女「…傷つけたくないです。」
小さな声が聞こえる。

少女「でも、生きてる人を見ると…我慢できなくなるんです…」

ハゼット「我慢?」

少女「その人を…食べなきゃって…お腹が減ってるわけでもないのに、食べなきゃいけないって…」

ハゼット「それで、無意識に襲っていたと。」

少女「いいえ…全部覚えてます。」

ハゼット「覚えて?」

少女「襲いたくないって思ってたのに、襲いたいって思って、考えてたことが変わってるところまで、全部覚えてるんです。」
泣きそうな声で言う。

(分かっていて襲ってしまうのか。本当は襲いたくないのに、襲いたいという気持ちに包まれて変わってしまうのか。)

ハゼット「あんたは人間なのか?奴らと同じなのか?」

少女「分からないです…でも、こんな人間いるわけないです。」

(まぁ、そうだろうな。)

ハゼット「…直接会って、話をしたいんだが。」

少女「嫌です!」
少し走るような足音が聞こえる。

少女「もし見ちゃったら、襲ってしまいます!」
声が少し離れたところから来た。

(部屋の隅に逃げた、か。何とかして助けてやりたい。その為にも、直接会いたいんだが…)

ハゼット「仕方ないか。エリー。」

エリー「はい?」

ハゼット「少し、大きな音を出す。入り口を見張っててくれ。」

エリー「え?あ、あぁ〜。強引じゃありません?」

ハゼット「長居していいような場所じゃない。今は急ぐべきだ。」

エリー「分かりました。」
エリーが入り口に戻っていく。

ハゼット「扉から離れていてくれ。今から、この扉を蹴破る。」

少女「え?そんな、やめてください!」

ハゼット「じゃあこの扉を開けてくれ。」

少女「嫌です!あなたも、私を殺すつもりなんですか⁉︎」

(すでに他のやつに殺されかけている、ということか。)

ハゼット「そんなことはしない。」

(と言っても、信じてくれはしないだろう。)

少女「来ないで!」

ハゼット「そうか。だが危ないから扉から離れていろ。」
足に魔力を込めて扉を思い切り蹴破る。
扉は壁の反対側まで吹き飛ばされる。

(さて、襲いかかってくるか?)
部屋に入ると、少女が隅で座り込んでいた。
表情は明らかに怯えている。

ハゼット「強硬手段で悪いな。だが、来て欲しい。」

少女「ダメ…ダメ…」
拒絶の反応を示すが、

(これは俺に当てた拒絶じゃない…自分に言い聞かせている?ということは…)

少女「うぅぅ…ぁぁああああ‼︎」
少女が突然飛びかかってくる。

(やはりか!)
横にステップして避ける。
空振りして隙だらけになった少女を後ろから羽交い締めにする。

少女「があああああ‼︎」
先ほどのか細い声からは想像できないほど、獣のような叫び声をあげて暴れる。

その態勢のまま、数分経つ。
暴れなくなっており、泣き始めた。

少女「うぅ…うぁぁ…」

(自我が戻って来た、ということか?)

ハゼット「もう放していいか?」
泣いたまま頷く。
少女を放すと、その場に座り込んだ。
少女の前にしゃがんで目線を合わせる。

ハゼット「乱暴なことをしてすまなかった。傷つけないようにするつもりだったんだが…」

少女「すみませ…こっちこそ…本当に…」
言葉を詰まらせながら謝る。

ハゼット「俺は大丈夫だ。俺はあんたを絶対に傷つけたりしない。約束する。俺たちについて来てくれないか?」

少女「なんで…」

ハゼット「助ける。まだ方法は見つかっていないが、それを見つける為にも、あんたの協力が必要かもしれない。」

少女「…分かりました。」
少女が泣き止む。

ハゼット「俺はハゼット・ローウェル。一緒にいた女はエリーだ。あんたの名前は?」

少女「サシュ・カレハです。」

ハゼット「サシュか。よし。自分が今どうなっているか、分かるか?」

サシュ「分からないです。でも、外にいる魔獣と同じになっていると思います。」

ハゼット「俺の仲間にこういう現象について詳しい奴がいる。そいつが言うには、これは病気らしい。奴らに噛まれて時間が経つと、奴らと同じになってしまう病気だ。ああなってしまった奴らのことをゾンビという。あんたはどこを噛まれた?」

(見たところ、噛まれた傷は見当たらないが…)

サシュ「噛まれてはないです。けど、そのゾンビって言うのに襲われてた時に助けてくれた人がいて、その人が私を噛もうとしてたゾンビをハンマーで殴った時に、血が口の中に入って飲んでしまって…」

(クロノは体液が体の中に入るとゾンビになると言っていた。噛まれるのではなく、血を飲むと中途半端なゾンビになるということか?)

ハゼット「助けてくれた奴というのは?」

サシュ「そこに…」
玄関の方を指す。

(あぁ、俺が家に入って来た時にサシュが食べていた死体か…)

ハゼット「そうか…」

サシュ「あの人…ゾンビが襲ってくる前も何度か助けてもらって…なのに…」

ハゼット「もういい。自分を責めるんじゃない。俺は玄関の方にいる連れと、他に2人の仲間とこの村の生存者がいないか探しに来たんだ。あんたしか見つかっていないがな。あと一軒、調べていない家がある。そこを調べたら、馬車に戻る。ついて来れるか?」
手を差し出す。

サシュ「え?でも私…」

ハゼット「どうした?歩けないか?」

サシュ「そうじゃなくて…私、もうゾンビになってて…危ないです。」
俯いて離れようとする。

ハゼット「ついて来たいか、来たくないかで言えば?」

サシュ「え?」

ハゼット「あんたがゾンビだろうとゾンビじゃなかろうと、あんたは俺に危害を加えたがるようなやつではない。人を傷つけたがる、悪人ではない。俺たちを襲いたくないんだろう?それで十分だ。危ないとかではなく、あんたを助ける。それに、俺の友人に研究者がいてな。そいつなら、治せるかもしれない。」

サシュ「研究者の…」

ハゼット「どうしたい?」

サシュ「あの…えっと、迷惑をかけてしまうかもしれませんけど…助けてほしいです!」

ハゼット「分かった。助けよう。」

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