ヒーローライクヒール

手頃羊

その3・サキュバス

クロノ「んなっ⁉︎」
黒龍が起き上がり、咆哮を上げていた。

マレー「まだ生きてたのか⁉︎」
黒龍がクロノを見て唸る。
どう見ても怒っている。
黒炎を吐こうと口を大きく開ける。

クロノ「おい逃げろ!さすがにもうキツ…」

???「逃げなくても大丈夫よ。」

クロノ「え?」
背後から女性の声がして振り返る。
胸元の、北半球が大きく開いた露出度の高い紫色のドレスを着た女性が立っていた。
背中には紫色の骨しかない羽が生えている。

(誰だ?まさか、この辺に住んでる魔族って…)
地面に手をかざす。

女性「ブランブルバインド。」
指の先から魔力の糸が地面に落ち、地面を伝って黒龍の足元に着く。
そこから大きな茨が現れ、黒龍の体と口を縛り、炎を吐けなくさせる。

(なんだあのデッカい茨は⁉︎)
今度は黒龍の体に手をかざし、何かを掴むように手を握りしめていく。
すると、ドラゴンが体を丸めて苦しんでいく。

女性「ハートブレイク。」
手を完全に握りしめると、黒龍が今度こそ動かなくなり地面に倒れた。

女性「こんなものかしら。」

(やっべぇ…なにこの人強すぎだろ…!)

エル「お、おまえは…!」

女性「全く、あんなのを魔界から連れてくるだなんて…お仕置きが必要かしら?ねぇ、あなた達。」
女性がエルとマレーの2人を見る。

マレー「ひっ!」
立ち上がって逃げ出すが、足に茨が絡みつき倒される。

マレー「うわぁっ‼︎」

エル「うぐぐ…」
女性が2人に近づく。

マレー「待て!違うんだ!わざとじゃないんだよ!事故なんだ!」

女性「安心して。殺したりなんてしないわ。ちょっと、お仕置きするだけだから。」

(助かったけど…なんなんだこの人…)
自分にあてられた笑顔ではないが、何か怖いものを感じた。
女性がクロノの方を見る。

女性「あなたがあいつを弱らせてくれたのかしら?」

(なんだろう…この人の目を直視してはいけない気がする…サキュバスがいるって聞いたけど、だとしたらマジで目を合わせてはいけないんだったっけ…でも目を見ずに話すのは失礼だし…)
妥協として相手の額を見ることにした。

クロノ「そう…ですけど、あなたは?」

女性「自分から名乗るのが普通じゃない?」

クロノ「…カミヅキ・クロノです。」

女性「私はミランダ・ル・スティフィール。サキュバスよ。」

(あぁ、やっぱりだ。ガイアさんが言ってたサキュバスだ。間違いない。)
羽が小さくたたまれ、見えなくなる。

ミランダ「災難だったわね。魔族に攫われるだなんて。」
例の2人の方を見る。

クロノ「まぁ、助かったわけだし…べつに…」

ミランダ「助かったから許すの?結果的に良かったってだけじゃない。黒龍が現れなかったら、今頃商人があなたをいくらで買うか交渉してる頃じゃないかしら。」

クロノ「助かったじゃないですか。」

(なんか…この人と長話したくないな…)
何か嫌な予感を感じる。

ミランダ「自分の事だから大丈夫ってこと?」

クロノ「まぁ…」

ミランダ「他の人の為なら自分のことはいいんだ?」

クロノ「そこまで考えてないですよ。やりたかったからやったことですし。」

ミランダ「ふーん?」

クロノ「人を助けたいって思ったから、助けたんです。せっかく使える力があったんだし…」
ジロジロと見つめられている。

クロノ「…何か?」
何か言いたいことがあるように見える。

(サキュバスって言ってたけど…意外と襲ってこないような人なのか?)

ミランダ「ま、別にいいけど。にしても、サキュバスを前にして怯えないのね。自分に余程自信があるのかしら?」

クロノ「自信っていうか…だってミランダさん、敵ではないでしょ?」
敵意を感じないから怯える対象ではないように思える。

クロノ「敵じゃない人に怯えても…」

ミランダ「あら、サキュバスは人間を襲う種族よ?私があなたを襲わないって証拠はないわよ。」
一歩近づいてくる。

クロノ「でも助けてくれたじゃないですか。」

ミランダ「襲うために助けたかもしれないわよ?」
さらに一歩近づいてくる。

クロノ「でも、襲うつもりならもう襲われてるんじゃ…?」

ミランダ「分からないわよ…?」
さらに一歩近づいてくる。
退こうにも足がなぜか動かない。

クロノ「いやでも…」

ミランダ「でも?」

クロノ「俺の知ってるサキュバスとは違うかもだし…」
サキュバスといえば捕らえた人間の精気を吸い尽くすといったもの。

(この人は優しいから、そんなことは…)

ミランダ「じゃあ…確かめてみる?」

クロノ「へ?」
足元から茨が伸びて両手と両足を縛る。
先ほどから動けなかったのはこの茨が原因だった。

クロノ「ちょっと⁉︎何を⁉︎」

ミランダ「だったら私が知ってるサキュバスを教えてあげる。」
ミランダの手が胸に触れる。
そこから腹、そして腰の方へとだんだん手を下げてくる。

クロノ「あ、知ってます。すごく知ってます。僕の知ってるサキュバスです。もう解放しても大丈夫ですよ?」

ミランダ「あら、遠慮しないでいいのよ?安心して、命までは取らないから…」

(俺の純潔が取られる‼︎)
少し戻ってきた魔力で茨を焼き切る。
ミランダを突き飛ばして距離を置こうとするが、足をまた茨に掴まれ、仰向けに倒される。
そしてまた両手両足を縛られ拘束されてしまう。
もう一度焼き切ろうとするが、燃やそうとして燃えず、金属のように硬い。

ミランダ「もう、危ないじゃない。そんなに逃げなくたって痛いことはいないわよ?それとも、好きな人がいるとか?」

クロノ「い、います!」

ミランダ「…いないんでしょ。」

クロノ「くっ…」
嘘が通じない。

ミランダ「なら大丈夫じゃない。ちょっとくらい良いでしょ?ね?最近全然人間食べてないから久しぶりに味わいたいの…」

(ダメだ…気を強く保たないと支配される…‼︎)

クロノ「精気って、それ吸われたら僕死ぬのでは?」
とにかく時間を稼いで反撃のチャンスを見つける作戦。

ミランダ「別に精気を吸うっていうのはそういう●●●●行為することじゃないのよ?それはまぁ、精気は美味しいから食べたいけど、吸いすぎると死んじゃうし、知り合いに人間を襲うなって、言われてるし?余程好きな人間でもできないとそこまではしないわよ。」

クロノ「じゃあ僕を襲う意味は…」

ミランダ「あなたを好きになるかもしれないわ。」
つい、サキュバスの目を見てしまう。
その瞬間、体が動かせなくなる。

クロノ「やっば…」

ミランダ「もう時間稼ぎはいいかしら?もう待てないんだけど。」

クロノ「いやいやいやいや、俺大したモン持ってないですよ?」

ミランダ「大きいかどうかなんて私にはいらないわ。精気の味次第。心が強い人ほど、良い味がするの。生きる気力があるの。」
ズボンのベルトを外し始める。

クロノ「ここでやるんですか⁉︎」

ミランダ「外でやる趣味はない?」

クロノ「ないです‼︎こんな平原で脱がされたくないです‼︎いや、どこでも嫌ですけど‼︎」

ミランダ「だったらどこでも一緒でしょ?」

クロノ「そこに思いきり人いますけど⁉︎」

ミランダ「私は別に気にしないけど。」

(あ、もうダメだ…)
その時、ミランダとクロノの顔の間を矢が通り過ぎる。

クロノ「っ‼︎」
矢が飛んできた方向を見ると、レイネデに向かった時と同じ馬車が走ってきていた。
矢を射ったのはアクアだった。

クロノ「ハゼットさん達‼︎」

ミランダ「ハゼット?あなた、ハゼットの知り合い?」

クロノ「一応、あの人のギルドのメンバーです。」

ミランダ「なぁんだ、ギルドかぁ…エリーまでいるじゃない、参ったわね…」
拘束が解かれる。



馬車からハゼットとエリーとアクア、そして知らない少女が降りてくる。
顔色がとても悪く、とても真っ白だ。

ハゼット「大丈夫かクロノ‼︎」

クロノ「はい!ミランダさんが助けてくれました!」

ハゼット「助けて…?」
ミランダを見る。

ハゼット「襲われてるようにしか見えなかったが…」

クロノ「助けてもらった後です…」

ハゼット「…ふむ。」

ミランダ「あなたの部下だって知ってたら襲わなかったわよ。」

ハゼット「俺は人間を襲わない代わりに人間界に住む許可を与えたはずだがな。」

ミランダ「そうだったかしら?」

エリー「うわぁ…黒龍がいますね…」

アクア「ミランダが倒したのかい?よく1人で倒せたね。」

ミランダ「痛めつけたのはクロノよ。あの子がいなかったら私でも勝てなかったわ。」

クロノ「いや、なんか手握ったらドラゴン倒せたじゃないですか。なんか強い魔法なんじゃ?」

ミランダ「ハートブレイクのこと?あれは、自分より弱い相手にしか意味がない魔法なの。あなたが弱らせてくれたからできた魔法だし、普段の黒龍だったら私なんか足元にも及ばないわ。」

(対雑魚戦において最強、って感じか…)

ハゼット「まぁいい。今回は許してやる。」

ミランダ「ありがと。」

ハゼット「それで、あそこに転がっているのは?」
地面に縛られているマレーとエルを見る。

アクア「クロノを攫ってった奴らだ。」

ミランダ「そうよ。後で屋敷に連れ帰ってお仕置きする予定。」

エリー「私も同行して」

ミランダ「却下。」
言い終わる前に即答が返ってくる。

エリー「えー。」

ミランダ「あなたの目的は私でしょう?」
うんざりしたような顔で言う。

エリー「そんなことないですよ、今回は。」

ミランダ「へぇ?どっちにしろダメだけど。」

クロノ「あの2人って仲悪いんですか?」
アクアにこっそり聞く。

アクア「ミランダが一方的にって感じかね。エリーは女に対しては見境ないから。」

クロノ「…そこまでエリーさんってやばいんです?」

アクア「昔は問答無用だったらしいんだけどね、最近はハゼットさんの説得が実ってマシになった。あたしはその時はいなかったから。」

クロノ「へぇ〜。」

ミランダ「それで、どうする?ここからアリアンテまで半日はかかるだろうし、着く頃には夜になっちゃうと思うけど。」

ハゼット「いや、帰るよ。飛ばせばそこまで遅くはならないさ。あまりそいつらに変なことはするなよ。」

ミランダ「さぁ?また今度レオの顔も見せてね。」



帰りの馬車の中。

クロノ「それで、聞きたいんですけど。」

ハゼット「この子のことだろ?」
ハゼットが連れてきていた顔色の悪い少女。

ハゼット「この子はサシュという。」

サシュ「サシュ・カレハです…」
サシュと呼ばれた少女が小さな声で名乗る。
先ほどから目を合わせない。

クロノ「サシュちゃん。」

ハゼット「この子は…ゾンビだ。」

クロノ「ゾンビ…?この子が?」

ハゼット「敵ではない。自我が残っている。」

クロノ「自我が残ってる?はぁ…」

(やばくは…ないのか。)

ハゼット「何か知ってるか?」

クロノ「そういうのがあるネタもある…って程度ですね。どうしてそうなったとかは…全然。」

(昔そんな映画があった気もするな…)

ハゼット「そうか…この子はゾンビとしての性質も兼ね備えている。人間を見ると、その部分が抑えられなくなるんだそうだ。」

サシュ「だから…その…見ないように…」

(だから目を合わせてくれなかったのか。)

クロノ「どういう経緯で会ったんです?」

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